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『戦艦みなも? 』
海原・みなも1252

●ゴミ拾い
 海原・みなも(1252)は遠い親戚らしい人魚からマリアナ海溝のゴミ拾いを依頼されていた。
 海の底のゴミを拾うことで、海の生物が誤って飲食するのを少しでも避ける手伝いができる。
 さて、現地に到着すると、ゴミ拾いをしているグループと合流した。そのヒトたちがゴミ拾い用の道具を貸してくれる。
「水の中だと、ビニール袋を持って拾えないんですよね……」
 籠か何か不思議な素材の袋を借りる。そのまま、燃やしたりできそうな素材だ。
「海溝のゴミ……ゴミ……拾っても拾っても集まるんですね」
 ゴミを拾っているヒトがいてもこれだけ集まるということは、それほど多くのゴミが海にあると言うことにつながる。
「道のゴミ拾いと同じですね」
 たとえば、歩道のゴミがない所も、近所の人が拾っていたり、啓発活動をしっかりしているはずだ。地道な運動が必要なのだ。
「つまり、この海溝のゴミ拾いは最低限のことであり、根本をどうにかしないと減らないのですね」
 みなもは難しいことだと考えつつ、今は目の前のゴミを拾うことに力を注ぐ。
 色々付着して何かに変容しているプラゴミから、何かの生物ではと思われる物体までふよふよ、ゴロゴロしている。
「はっ!? こ、これは……異界のどこかにいそうですよね」
 みなもの独り言を意訳するなら「この世のものではない」である。動かなければおそるおそるトングでつまんで、ゴミ袋に入れるだけだ。
 見たくないモノだって存在するが、興味引かれる物もある。
「これは……何でしょうか?」
 藻が生えている筒状の物。
 その周りには魚がたくさんいた。ゴミ拾いするヒトが来ると慌てて逃げている。
 逃げるさまを見ていると、可愛らしいと微笑ましく感じるとともに、食事の邪魔をして悪いという気持ちにもなる。ゴミ拾いのためだから仕方がない。
 さて、筒状の物は大砲のように見える。
「これは拾います?」
「むーりー」
 遠い親戚がにゅっとみなもの後ろから現れた。
「きゃああ」
「驚いたー」
 遠い親戚は驚いたみなもに驚いた。
 別の場所にいたがみなもが来ていると耳にしてやってきたという。
「えと、拾う対象ではないと言うことですが」
「うん、大きいからー」
「これはなんでしょうか?」
 みなもの質問に対して親戚は何かポーズを取る。
「よく、わからないですけど……」
「つまりー、戦艦ごっこをして遊ぶんだよー」
「はい?」
 みなもの足元にあるものは、いつの時代かに沈没した戦艦らしかった。

●戦艦ごっこ?
 戦艦ごっこについて、遠い親戚が実演する。まず、人間を横にした程度の、戦艦ぽいものとなった。
「可愛いです。私もやってみます」
 元の姿に戻った遠い親戚は、みなもの言葉にうなずいた。
 まずは、みなもにとって戦艦についての知識が不十分だった。それを補わないとならない。
 足もとにある戦艦の一部に触ってみる。まず分かったのはその大きさや重厚さだ。
「これが大砲なんですよね……砲身がこうだと、出される物ってこんなサイズ?」
 手で幅をとる。それは自分の頭と比べると分かりやすいかもしれないと気づいた。
「甲板はここですね?」
 甲板に立つと、周囲を見渡した。
 岩場だと思っていたのが実は戦艦の壁や何かをつけるための柱だと分かった。
「す、すごい大きさです」
 現実で戦艦を見ることはまれでも、海に行けば大きな船は見られるし、テレビなどで貨物船なども見られる。
 それをもとに考えれば戦艦の大きさも実感しやすい。
「これが海に浮かんで……」
 ゴミとなってしまっているがいろいろな船の人生がここに詰まっているのだろうと考えた。拾ってじっくり観察したい気になる。
 みなもの内面であり、夢の世界である異空間ともいえる場所【深遠図書海】。この船艦を拾ったため、そこに流れ着く。【深遠図書海】はみなもの所有物が所蔵される場所だから、拾ったら所有物になり保存されたのだ。
 それにより、この戦艦の情報も流れ込んでくる。
「いろいろなことがあったんですね……」
 現物だけでなく、全長何メートルと情報が加わることでより一層大きさやその能力を実感することができる。
 船の来歴などにしみじみするのではなく、自身の持つ能力を使って模倣する遊びの途中である。
「……模倣するんですよね? 化けたり、幻影でもいいのですね? 人間サイズでなく、等身大も面白いでしょうか? それを化ける……模倣する……それにはどうすればいいのか……」
 みなもはどうするか考えた。みなもの前に戦艦の影が浮かんだが後、重なる。【水面に映る影】でみなもは戦艦になった。
「お、おおおう」
 遠い親戚がどよめいた。一人だけどどよめきを表現していた。
 そのどよめきを聞くと、戦艦みなもは何かのやる気に満ちる。装甲が新品のように輝いた。
 先ほど見つけた砲身はこの戦艦の主な物だろう。そこから弾を発射するとカッコいいだろう。
 砲身を動かし、発射する方向を定める。ゴミ拾いをしているヒトや遠い親戚を巻き込まないための配慮だ。
 グググと砲身の角度を変える。
 砲弾は水から生成される。その中から何か生み出そうにも、水から硬質な物を作るならば、温度を下げるのが手っ取り場合だろう。それをするにはいくつか手順があり、簡単ではない。
 水に接触することが前提条件である。それならば、水でそれらしく似せて、別のところで発射のイメージ作る必要があった。
 弾をセットする。
 そして、発射した。
 ボボボボボ……水の弾が、水の中を勢いよく飛んでいく。
「おおー」
 遠い親戚が歓声を上げる。
 空気は比較的手に入りやすかったため、弾は水で、吹き飛ばす形にしたのだ。さすがに接触が薄れていくと消えていく。
 やはり、難しいとしても凍らせる方がそれらしく見えるかもしれない。
 改良版でみなもは第二弾の攻撃をしようとした。
「こらー、危ないだろう!」
 半魚人系のヒトが大きな声で注意をしてきた。
 みなもの憑依は途切れ、元に戻った。
 遠い親戚は逃げようとしたが、みなもと一緒に叱られることになった。
 叱られたのは、本物ぽくなればなるほど危険が増すため、周囲を見てみろという内容だった。
「無事で何より―」
「はい……調子に乗ってしまいました」
 説教から解放されたが、遠い親戚はすでにあらゆるものを水に流したようだった。
「難しいですね……」
「うーん、あの水の弾なら危なくないよー?」
 水圧があるとはいえ、あれで鉄に穴が開くということはない勢いのはずだ。まあ、ぶつかると痛いとか流されることはありうるが。
「空気を使わず、噴射も水で描けばよいのでしょうか?」
「それは、違う技術だよー。切り絵と動画技能かなー」
「……接触する水の糸……つまり切り絵? その上、動画……つまりアニメーション……なるほど! 非常に高度な技術ですね」
 技術の在り方がどこか違う。
 みなもと遠い親戚は自然と笑う。
「みーちゃん、かっこよかったよ! でもね、潜水艦だよね」
 遠い親戚がツッコミを入れた。
「確かにそうですね。今度は水上でやらないといけませんね」
「そんなことしたら『戦艦××、海に浮かぶ! 錆もなく、新品同様の姿のなぞ』って見出しがつくよー」
「具体的ですね」
 しかし、その通りだと気づいてみなもは笑う。
 遠い親戚と話をしながら、ゴミ拾いを再開するのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 発注ありがとうございました。
 沈没している戦艦から人魚の子どもがどんな遊びをするのか……と考えた結果「戦艦ごっこ」が生まれました。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年06月04日

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