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『心ときめくドレスを前に 』
七種 戒la2588)&アズラ・サートla3282

「あーーもう、どうして今日に限ってーーー!」

 目に涙をうっすら浮かべながら七種 戒(la2588)はバンッとシフト表が挟まれたクリップボードを机に勢いよく置いた。

 事の起こりは5分前。

 彼女の勤務する総合スーパー【GB】の6月イベント用の写真撮影まで1時間と迫ったところだった。

『すみません、モデルが急病で行けなくなりまして……はい、他のモデルも都合がつかず……はい、本当に申し訳ございません』

 派遣会社からそう電話を受けた戒は何も言えなくなっていた。

 このぎりぎりになって電話してくるな、とも思ったが、この時間まで代わりを探してくれていたのだろうかと思うと強くも出られない。

「わかりました。モデルさんにはお大事にとお伝えください」

 何とかそれだけ言って電話を切ると慌ててシフト表を見たが、今日に限って男性ばかり。

 今、戒が求めているのは女性だ。

「こんなシフト組んだの誰よーーーー!! 私だったわーー!!!」

 恨みの矛先をどこにも向けられないままどうするべきか頭を回す。

 モデルのキャンセルは、相手の過失。

 だが、抑えてあるスタジオをドタキャンすればキャンセル料を支払わなくてはならなくなる。

 その上、今日を逃せばイベント用広告の印刷に間に合わない。

 かと言って、女性のバイトに休みの日に急遽出てきてもらうのも悪い。

「誰かいないの……?」

 ぐすんと鼻をすすりながらも残っている仕事をきっちりこなしに戻る戒であった。

  ***

 その頃、アズラ・サート(la3282)は、同じスーパーに買い物に来ていた。

 グロリアスベース随一の品ぞろえを誇るこのスーパーはアズラの母国トルコで売られている食材も多くあるのだ。

「ありがとうござい……ちょっと。この後暇ですか?」

 店員の女性、戒に手をぎゅっと握られたのは、レジで会計を済ませ帰ろうとした丁度その時だった。

「What? ―― Hmm,――ハイ」

 急なことに戸惑いながら頷くと戒の目に涙がジワリと浮かぶ。

「じゃ、じゃあちょっと来てくれないかしら? もちろんお礼はするから」

「Hmm? ――What happened?」

「あっ、えっと……シャルウィー、フォト?でいいのかしら?」

「シャシン? ――OK」

 今にも泣きだしそうな、というか半泣きの彼女の様子とフォトという言葉に、1枚くらいならと頷くと

「OK? やったーー!! はっ?! もうこんな時間。じゃあ、レッツゴー!」

「Where,イク、デスカ?」

 戒は、混乱するアズラの手を取ったまま急いでスタジオへと向かった。

  ***

(どうしてこうなったんだろう?)

 あれよあれよという間にアズラはウェディングドレスを着てカメラの前に立っていた。

「いいじゃない!! すっごい似合う!」

「Thank you――」

 テンション高めに身振り手振りで素敵だと伝えてくる戒にも戸惑いながらも微笑み返し、アズラはドレスに触れてみる。

 薄い半透明の布を何枚も重ねたプリンセスラインのドレスは上質な素材を使用しているのか羽のように軽く、手触りもよい。

 裾には胸元と同じ銀糸の刺繍が施され、ところどころ光を反射して煌めいている。

 エレガントな印象の中に可愛らしさがある素敵なドレスだ。

「髪型はどういうのがいいかしら」

 スタイリストと楽しそうにはしゃぐ戒に先程までの世界の終わりかの様な悲壮感はない。

(よかった)

 アズラが内心ほっとしている間にも彼女は着飾られていく。

「じゃあ、これで1枚取りましょ」

 下の方へ垂れさがるオーバル型のブーケを持ち、スカート部分と同じ素材で作られたマリアベールを被るとカメラマンがシャッターを押す。

「ブーケに顔埋めてみて。きゃーー! アズラちゃん素敵!! そのままこっち向いてぇ!!!」

 自分もヘアセットをしてもらいながら戒が黄色い声援を飛ばす。

「じゃあ、アズラちゃん。次はこっちに立って」

 花嫁姿に変わった戒に手招かれ指定された場所に立つアズラ。

 その前に戒は向かい合うように立つ。

「戒、サン――トテモ、Beautiful――デス」

 戒のドレスはアズラとは違い、昔ながらの純白という言葉が似合うドレスだった。

 腰あたりにベルトの様につけられたパステルブルーのリボンと肩を隠すようなレースの袖が彼女のスタイルの良さを際立たせている。

 ふわりと広がるスカートラインは同じはずなのに形がどこか違うような気がして、その事を尋ねるとスタイリストが、Aラインドレスなのだと教えてくれた。

 ベールはないが、あげた髪に花で作られたバックカチューシャが戒の乙女らしさを演出している。

「そう?アズラちゃんにそう言ってもらえるのはとっても嬉しいわ。ありがとう」

 ばちこーんとウィンクしてから戒は慌ててスマホの翻訳機能で自分の気持ちを英語に直す。

 時間がなかったのでスタジオに入ってから説明しようと思ったのだが、アズラはそこまで英語が得意という訳ではなかったし、戒は自分の予想以上に英語が出来なかった。

「そうだわ。翻訳機能がスマホにあったはず」

 世の中というのは便利なもので翻訳機は戒の意図をほとんど完璧にアズラに伝えてくれた。

「じゃあ、今度は2人で向き合って撮りましょうか」

 丸いラウンド型のブーケを持った戒と見つめ合ってまた1枚。

(同じドレス、同じポーズでどうしてそんなにたくさん撮るのだろう)

 何度もたかれるフラッシュにそんなことを思った時もあったが、ウェディングドレスを着るには若すぎるアズラはこの貴重な経験を楽しむことにした。

 それに、目の前でこんなにも楽しそうに、嬉しそうにしている戒を見ていると自然と自分も楽しくなってくる。

(まあ、いいか)

「次はカラードレスにしましょ? アズラちゃんは何色が好き?」

 大人っぽいマーメイドライン、すっきりとしたスレンダーライン、他にも色々なドレスを着た後、戒はそう言ってカラードレスの前にアズラを連れて行った。

 色とりどりのカラードレスを前にアズラの目がある一色に向かった。

「ん? アズラちゃん赤が好きなの?」

「Red――Auspicious color――デス」

「ん? ……あぁ、縁起がいい色なのね。じゃあ最初は赤を着ましょ」

 戒の目も赤いドレスへと注がれる。

「あ、深紅じゃないけどこれなんてどうかしら」

 戒が見せたのは裾の長いドレス。

 本人が言うように深紅ではないが、裾に向かって降るように薔薇が描かれ裾に向かって赤から薄いピンクへのグラデーションが美しい。

 ところどころで布が薔薇の形に形作られ、腰のところにある深紅のリボンも相まって可愛らしさとエレガントさが丁度良い感じに同居している。

「色々ドレス着てみて思ったんだけど、アズラちゃんはエレガントなのと可愛いのが似合うと思ったのよ。これなら両方あるから絶対似合うわ!えっと……」

 力説してから戒は少し考える。

「ベリーナイス……で伝わるかしら」

 翻訳ソフトを通せば意図は通じるが、自分の声でも伝えたいと戒は自分の中から語彙を絞り出す。


「Thank you.トテモ――nice,デス」

 そう言いながらアズラは1着のドレスを取り出すと戒の方へあてる。

「これ? 似合うかしら?」

 驚いた様子で首をかしげる戒にアズラは何度も頷く。

「そう……?」

 戒が戸惑うのも無理はない。

 あてがわれたのはミニ丈の可愛らしいドレス。

 パステル調のオレンジ色の上衣に白とオレンジのバラのコサージュが大輪の花を咲かせ、スカートには可愛らしいレースと小花が散りばめられている。

 しかもスカートは見る角度によって色が違って見える様に上衣と同じオレンジ色でグラデーションになっている。

 おとぎ話に出てくる妖精の様なドレスだ。

「これはちょっと可愛すぎるんじゃないかしら????」

「looks great――デス」

「……そう?アズラちゃんがそう言うなら着てみようかしら」

 確信するように頷くアズラに戒は少し考え頷いた。

「やーん。すごい良いじゃない!!こういうの結婚雑誌とかで見たことあるわーーー!!!!」

 撮影された写真をチェックしながら何度も頷きつつはしゃぐ戒に我ながらグッジョブだったとアズラは思う。

 片側でゆるく三つ編みにした髪にそれぞれのドレスにある花を散りばめた髪型もアズラの提案だ。

「アズラちゃんは何着ても似合うから選び甲斐があるわ」

 楽しそうに次のドレスを選びながら戒が笑いかける。

「戒サン、モ――デス」

 アズラはそう言って笑い返すのだった。

  ***

「今日は本当に助かったわ。ありがとね」

 謝礼のお金とスーパーの割引券が入った封筒を渡しながら戒は改めてお礼を言う。

 遅くても夕方には終わる予定だった撮影会だったが、終わってみればとっぷり日が暮れてしまっている。

「帰り道大丈夫?もしあれならうちの男に送らせるけど」

 予想よりかなり遅くなってしまったことを気にする戒に大丈夫だとアズラは伝える。

「今日撮った写真は出来上がったらお家まで送るわね」

 ばちこーんとウィンクする戒にお礼を言ってアズラは星空の下を歩き出す。

(今日は楽しかったなぁ)

 自分が本当に着るのはきっともっと先の事だろうけれど、写真が出来たら両親にも見せようとアズラは思う。

 きっと喜んでくれるだろう。

 帰ったら今日の思い出を絵にしよう、そう思うアズラの歩調は少し弾んでいた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la2588 / 七種 戒 / 女性 / 24歳 / 純粋な乙女 】

【 la3282 / アズラ・サート / 女性 / 13歳 / 清楚な乙女 】
イベントノベル(パーティ) -
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グロリアスドライヴ
2019年06月04日

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