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『雨音と静寂 』
マオ・キムリックaa3951)&レイルースaa3951hero001


 しと、しと、と。

「今日も雨……」
 部屋の窓から外を見つめるマオ・キムリック(aa3951)の尻尾がゆらりゆらりと揺れて、時折へなりと下がる。
 退屈をしているのか、それとも雨に気分が落ち込んでいるのか。その後ろ姿を見ていたレイルース(aa3951hero001)は「マオ、」と小さく呼びかけた。猫耳がぴこりと揺れて、金の瞳が彼を見つめる。
「何? レイくん」
「マオは、雨は苦手?」
 そんなレイルースの問いにマオはかくりと首を傾げて。その視線は再び窓の外へ。
 雨の線が無数に世界を縦断していく。地面を見れば大きな水溜りができて、そこに幾つもの波紋が広がっていた。
 けれど風はないようで、窓へ雨が叩きつけられる音はしない。耳を澄ませれば、窓越しにしとしとさあさあと静かな音が聞こえてきて──。
「……苦手ではない、かな?」
 静かな音は、唯々優しげで。この音に包まれたなら、思わず眠ってしまうかもしれない。
 でも、とマオはレイルースを振り返って告げる。
「やっぱり晴れている方が好きだよ。雨の中だと、ずっと外にはいられないでしょ?」
 晴れていないと、マオが好きな場所──それは森林公園だとか、そういった場所だろう──緑の多い、自然の中には居続けられない。雨音自体は心地よいけれど、雨で冷えてしまったり空気がジメジメしていたりするから。
「だから晴れて欲しいなって思うけど……しばらく雨なんだよね」
 へなん、とマオの耳が垂れる。昨日も一昨日も、その前の日も雨。今日も雨ならこの先3日も雨が続く予報である。レイルースだって晴れ間が見たいと思うくらいだ。
 だが、ここまでくると予報も早々覆るものでもないだろう。
 小さな溜息がマオから1つ漏れる。──が、彼女は「そうだ!」とすぐに声を上げた。レイルースの視線が彼女へと向く。
「……マオ?」
「レイくん、てるてる坊主作ろう! 窓の上に沢山吊るしてみようよ!」
 ね! と言うが早いか窓から離れるマオ。ティッシュ箱とペンと、輪ゴムやら紐やらリボンやらの結べるものを集めてテーブルへ置く。
(一体、幾つ作るつもりなんだろう……)
 やけに多い紐系の材料。先程マオが覗いていた窓ならば、材料はこの3分の1程度で足りるはずなのだが──とレイルースは物言いたげな視線をマオへ送る。それを知ってか知らずか、マオは「ほら、レイくんも!」とペンを握らせた。


 暫し、無言の時間。部屋の中にはティッシュを引き出し、丸める小さな音だけが響く。
「……そろそろいいんじゃない?」
「え?」
 無心で作っていたマオが顔を上げると、レイルースがほらと横を指し示して。そちらを見ると完成したてるてる坊主がこんもりと山のようになっていた。
「こんなに作ってたんだ……」
「マオ、すごく集中してたからね」
 決して器用とは言えぬマオだが、数を作れば慣れるもの。最初に作ったてるてる坊主と最後のそれは大分出来栄えが変わっている。
 レイルースの飾ろうか、という言葉にマオは元気に頷いた。彼女が最初に選んだのは黄色のリボンで首元を飾ったてるてる坊主。マオが作った記憶はないから、きっとこれはレイルースが作ったものだろう。
 手渡すと長身な彼が、空いているカーテンフックへてるてる坊主を引っ掛ける。揺れたそれは緩やかに回って、にっこりお顔も一緒にくるりと。
 ソラさんがカーテンレールへ降りて部屋を見下ろす中、2人は着々とてるてる坊主を飾っていく。

「かけるところ、もうなくなったよ」
「えっ? まだいっぱいあるんだけど、どうしよう……」
「……同じフックに2つ目を引っ掛ける、とか?」

「あ! これ可愛い♪」
「ん……ああ、ネコの?」
「うん! レイくん、あとで作り方教えて!」

 ──なんて言いながら、あっという間に窓上はてるてる坊主でいっぱいになって。
 けれども作りすぎて余ったてるてる坊主を前に、これをどうしたものかと2人は顔を見合わせた。ソラさんもレイルースの肩へと降りてその視線へ混ざる。
「何かに入れて取っておく?」
「でも、窓に飾ってるのもあるよ?」
「そうだよね……どうしよう」
 首を傾げるマオ。ゆらり、ゆらりと尻尾が揺らされる。その視線は徐に別の窓へと向けられた。今てるてる坊主で飾り立てたそれよりはひと回り程小さいが、飾れなくはない。レイルースを見遣ると彼はマオへ小さく頷いてみせた。
「全部飾れるかな?」
「わからないけど……やってみようか」
「うん!」
 再びてるてる坊主を手に取る2人。今度の窓は小さめだから、その分垂らす糸に長短をつけて高さを出す。
「レイくん、向こうの窓でも同じようにやったら、もっと沢山吊るせないかな?」
「んー……出来るとは思うけど、流石に吊るし過ぎじゃない? 今だって、ほら」
 再び既にてるてる坊主の吊るされた窓を見れば──その上1辺には、もうぎゅうぎゅうであると言って良いくらいにてるてる坊主が吊るされていた。
「外から見たら、ちょっと怖いかもよ」
「えぇっ!? そ、それは嫌だなぁ……」
 大人しく今の窓に集中するマオ。窓の上1辺が白で埋め尽くされたころ──やはりぎゅうぎゅう詰めな気がするが──丁度、テーブルに積まれていたてるてる坊主も品切れとなる。
「レイくん、お疲れさま」
「うん。マオもね」
 椅子に座ってほぅ、と息をついた2人は吊るされた沢山のてるてる坊主を眺めた。ここまでの量となると流石に全てが外向きと上手くはいかず、幾つかのてるてる坊主はこちらへ笑顔だったり、仏頂面を見せたりしている。
 これであとは、雨が止むのを待つのみ──。
「──あれ?」
「……マオ?」
 不意にマオが立ち上がる。呼びかけたレイルースに目もくれず玄関へ駆けて行った彼女の背を唖然と見ていれば「レイくん来て!」とむしろ呼ばれて。
「マオ、どうしたの……」
「見て! 雨、上がってるよ!」
 玄関扉を開け放った先。湿った空気を余所に、少しずつ雲の切れ間が現れていた。いつの間にか上がっていたようだが、果たしてそれはてるてる坊主を作っている間か、それとも飾っている間か。どちらかはわからないけれど。
「マオ、見て。あそこ」
「……あっ!」

 ──雲に紛れるように、淡い虹が2人を見下ろしていた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 いつもお世話になっております。お2人のおまかせノベルをお届けします。
 この度は遅くなってしまい、申し訳ございませんでした。
 そろそろ梅雨時、雨が降っていたらお2人はこんな感じで過ごすかな? と考えつつ書かせて頂きました。お気に召しましたら幸いです。
 リテイク等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
 この度はご発注、ありがとうございました!
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2019年06月05日

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