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『輝きに満ちたアフタヌーン 』
ファルス・ティレイラ3733

 魔法薬屋に、上機嫌な様子の少女の鼻歌が響く。ファルス・ティレイラ(3733)は時計を見て時間を確認すると、笑みを深めた。
 今日は友人のSHIZUKU(NPCA004)とティーパーティをする予定なのだ。最近評判の美味しいお菓子も買ってくると言っていたし、話したい事もたくさんある。年頃の少女が二人揃えば、話題が尽きる事はないだろう。
(楽しみだなぁ)
 にこにことしながら、ティレイラはSHIZUKUの到着を待つ。約束している時間までには、まだ少し余裕があった。
 それまでに店の雑務を済ませておく事に決め、ティレイラは手始めに品物の整理をし始める。窓から見る外の天気は晴れ晴れとしていて、まるでティレイラの今の気持ちを現しているかのようだった。

 ◆

 不意に、店の奥で何かが光った事に気付き、ティレイラは作業の手を止める。
「なんだろう、今の光……?」
 師匠の魔法薬屋には、弟子のティレイラでさえ効果を知らない不思議な魔法道具や薬がたくさん置かれている。今の光も、その内の一つだろうか。奇妙な光は、少女の好奇心を刺激した。
 まるで誘われるように、ティレイラは光ったものの方へと足を向ける。
「あったあった。これかな? わぁ、綺麗……!」
 倉庫として使用している小部屋の奥、高い棚の上に目的のものはあった。中身が見えるその透明な箱の中には、金箔のようなものがたくさん詰まっている。先程見た光は、この金箔が店の明かりを反射したものだったのだろう。もっと近くで見てみようと、ティレイラは背伸びをしその平たい箱を手に取った。
 遠目で見ても美しかったその輝きは、近くで見るとますますティレイラの事を夢中にさせる。少女は思わずそのきらめきに負けないくらいに瞳を輝かせ、箱の中身に見入ってしまった。
(見てるだけでも、凄く楽しいなぁ。なんだか心がわくわくしてきちゃう。師匠に頼んだら、少し分けてもらえたりしないかな?)
 自分と同じくらい好奇心旺盛な友人に、お茶会の後で見せてあげるのも良いかもしれない。そんな事を考え笑みを浮かべたティレイラの耳を、不意に聞き覚えのある声がくすぐった。
「ティレイラちゃーん!」
 名を呼ぶその声に、ティレイラの意識が現実へと引き戻される。時計の針は、いつの間にか約束の時間を示していた。どうやら、金箔を見入るのに夢中になりすぎてしまっていたようだ。
「待ってて! 今行く〜!」
 慌ててティレイラはSHIZUKUへと返事をしながら、背伸びをし箱を元の場所へと戻そうとする。
 しかし、意識が客人の方へと向いてしまったのがいけなかったのだろうか。箱はするりと抜け出すかのようにティレイラの手から滑り落ち、床へと落下してしまった。一面に、キラキラと輝く金箔の海が出来てしまう。
「わわっ!? やっちゃった〜! 師匠に怒られちゃうよ。早く戻しとかないと……って、え?」
 箱から飛び出してしまったものを回収しようと、最も近くにあった銅箔をティレイラが掴んだ瞬間、彼女の背筋をざわりと何か嫌なものが触れた。それは言ってしまえば、悪寒というものだったのだろう。彼女の感じた嫌な予感は、すぐに現実のものとなりティレイラの日常を侵す。
「え、やだ、何これ……何なの!?」
 触れた瞬間、銅箔は彼女の肌に吸い付くように張り付いてしまった。慌ててティレイラはもう片方の手で銅箔を剥がそうとするが、上手くいかない。
 箱の中身は、どうやら何らかの魔法……否、この場合は呪いと言った方が正しいのか、そういった類の術がかけられたものが詰められていたようだ。
 触れた箇所から徐々に、自分の身体が銅になっていってしまっている事にティレイラは気付く。気付いてしまう。先程まで輝いていた少女の瞳は、一瞬にして絶望の色へと染まった。
「嘘でしょ!? やだ、剥がれてよっ!」
 焦りが強まるのに比例し、剥がそうと手に込める力も強まるが、しかしがむしゃらにティレイラが藻掻いてもその銅箔は剥がれてはくれない。
 呪いが、ティレイラという少女の全てを余す事なく包み込もうと彼女の肌を伝う。包み込んだものを保護する特性も持っているこの銅箔に、ティレイラのあがきは通用しなかった。
「や、だ……動け、ないっ……!?」
 彼女の身体はとうとう全て銅箔に囚われ、ついには動く事すら出来なくなってしまった。
 本来なら、楽しい時間になるはずだったティータイム。けれど、それは全て輝く銅箔によって塗りつぶされてしまう。
 店内に、何かが倒れるような音が響く。それは完全に銅像と化してしまったティレイラが倒れた音だったのだが、今の彼女には起き上がるどころか悲鳴をあげる事すら叶わないのであった。

 ◆

 約束の時間が間違っていない事を今一度確かめ、SHIZUKUは不思議そうに首を傾げる。
「さっき凄い音がしたけど、何だったんだろう? ティレイラちゃーん? 大丈夫ー?」
 返事がない事を訝しんだSHIZUKUは、声をかけながら店の奥へと進んで行った。SHIZUKUの瞳に信じられない光景が飛び込んできたのは、奥にあった部屋の扉を開けた瞬間だ。
「ティレイラちゃん!?」
 その部屋には、驚いたような表情の少女の銅像が倒れていた。等身大の少女の形をしたその像の顔には、見覚えがある。
 それはSHIZUKUがお茶をしようと約束していたはずの友人、ティレイラに他ならなかった。
「ティレイラちゃん、どうしてこんな姿に……」
 恐る恐る、と言った様子でSHIZUKUは変わり果てた姿のティレイラへと触れる。いつもの彼女とは違う、冷たい無機質な温度が指先から伝わってくる。
 何らかのトラブルに巻き込まれたであろうティレイラを心配するように、彼女の肌をSHIZUKUが撫でた。どうしてこんな姿に、と今一度少女の唇が紡ぐ。
「こんな姿……興味深すぎるよ!」
 しかし、SHIZUKUの表情は次の瞬間には歓喜に満ちたものになっていた。
 オカルトを愛する彼女にとって、雰囲気のある魔法薬屋で一人銅像とかしてしまった少女の存在は、ひどく興味深いものに映るのだろう。撫でていた手も、いつの間にか遠慮のない手付きへと変わっている。
「ティレイラちゃんには悪いけど、でもこんなオカルトな状況、我慢出来ないよっ! せっかくの機会だもん、たっぷり研究させてもらうね! ティレイラちゃん!」
(なんでそうなるの!? 早く助けてよ、SHIZUKU〜!)
 ティレイラは心の中で叫ぶが、もちろんその嘆きの声がSHIZUKUに届く事はない。たとえ唇が自由に動いていたとしても、SHIZUKUはティレイラに触れ観察する事を止める事はなかっただろう。
 お茶会は中止になってしまったが、SHIZUKUにとってはこの時間が輝かしいものである事には変わりがなかった。否、お茶会よりも、ずっと素敵な時間なのかもしれない。
「キラキラして、凄い綺麗だよ! ティレイラちゃん!」
 銅箔に囚われた輝くティレイラを見つめるSHIZUKUの瞳もまた、好奇心に満ち楽しげに輝いているのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました! ライターのしまだです。
ティレイラさんの散々なティータイム、このようなお話になりましたがいかがでしたでしょうか。お楽しみいただけましたら幸いです。
何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、ご依頼誠にありがとうございました。また機会がありましたら、よろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年06月05日

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