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『砂糖がけの時間 』
周太郎・A・ペンドラゴンla0062)&カペラla0637

 ある日、周太郎・A・ペンドラゴン(la0062)はカペラ(la0637)の部屋の前にいた。

 手には苺がたくさん入った器がある。

(カペラ、食うかな)

 そんなことを思いながら、部屋をノックするが……返事がない。

 この時間は部屋にいると言っていたし、また本を読んでいるかゲームをしているのだろうと推測し、それならばテーブルの上に置いておこうと中に入る。

 すると、鏡の前で変顔をしている彼女がいた。

「……何やってんだ?」

「あ、周太郎」

 少し驚いたような声を上げて、パッと顔から手を離すカペラ。

「……もしかして、入っちゃまずかったか?」

「いや、大丈夫……うん、全然大丈夫」

 見てはいけないものを見たような気がして周太郎がそう言うと、カペラは首を横に振る。

 が、その顔には恥ずかしいものを見られてしまった、と書かれている。

(うーん、でも大丈夫って言ってるしな……)

「一緒に食べんか? もらったんだ」

 周太郎は部屋を出るべきか少し悩んだが、ここで出ていくのもそれはそれで気まずい気がして話を逸らすことにした。

  ***

「何やってたか聞いてもいいか? さっきの」

 カペラが入れたアイスティーを飲みながら周太郎は尋ねる。

「……笑顔の練習」

「笑顔?」

 予想外の答えにキョトンとする周太郎に、カペラは頷いて言葉を続ける。

「バイト先のお客さんから、笑顔がぎこちないって言われることが前々からあってね。バイトにも慣れてきたし最近は言われてなかったからもう大丈夫かなって思ってたんだけど、今日また言われて……。確かに、笑ったりするの苦手だし、ネットで調べたら口角を上げる練習をすると笑顔が綺麗になるって書いてあったから、さ」

「あぁ、そう言うことか」

 周太郎は恥ずかしそうに視線を逸らすカペラの頭に手を伸ばし、そのまま頭を撫でた。

(こいつ、割とそう言うところ気にするもんな)

 マイペースで物事に動じない彼女だが、意外とそう言うところを気にするきらいがあることに周太郎は知っている。

 今やっているスーパーのアルバイトも、敬語が上手く話せるように始めたのだと話してくれたことがあるし、自分の口調が雑だからと知り合って間もない相手には頑張って丁寧に話しているのだという話も本人から聞いている。

「俺は、そんなに笑顔苦手だとは思わんけどな。俺といる時はよく笑ってるし」

「そう?」

 気持ちよさそうに細められていた目が、ぱっちりと開いて周太郎を見つめた。

「ああ」

「そっかぁ……。あ、苺いただきます。……ん、美味しい」

 カペラの雰囲気が安堵に包まれる。

「ほら、今だって笑ってるし」

「え?」

 真っ赤に熟した苺を頬張るカペラの表情は確かに綻んでいる様に周太郎には見えた。

「……全然意識してなかった」

 そう言いながら自分の頬をむにっと引っ張るカペラ。

(どんな時に笑ってるか分かればバイトでも活かせるかも)

「あ、ねぇねぇ、どんな時に笑ってる? 私」

 カペラの質問に周太郎はしばらく考え口を開く。

「そうだな……ゲームしてる時とか、本読んでる時に笑ってることもあるし、今みたいにうまいもん食ってる時もそうだろ。後は普通に話しててもよく笑ってんな」

「……聞いといてあれだけど、よく見てるね」

 こんなにすらすら出てくるとは思わなかった、とカペラは言う。

「そうか? 普通だろ?」

「かなぁ? あ、別に嫌ってわけじゃないんだよ。ただ、そんなに見られてるのかって思っただけで……」

 自分の言い回しが誤解を招きやすいと自覚しているのか、さっと弁解するカペラに周太郎は分かっていると頷いた。

 そもそも悪い意味で捉えたわけではなかった周太郎だが、彼女なりに気を使ってくれたのかと思うと内心嬉しくなる。

「……あ、練乳あったんだ。周太郎も使うでしょ? 持ってくるね」

 照れたのか、頬を少し染めながら少し慌てる様に冷蔵庫に取りにいったカペラは程なくして練乳とスティックシュガーを持ってきた。

「砂糖もおいしいんだよ」

 そう言うカペラだったが、それよりも周太郎には気になることがあった。

「そういうのは、皿とか容器が必要なんじゃないか?」

 そう、カペラは練乳のチューブとスティックシュガーだけを持ってきたのだ。

「えー、もうわかったよ。持ってくる」

 面倒そうな彼女の声に周太郎は苦笑する。

「いや、いいならいいけど」

「何それ。どっち?」

 そう言って笑うカペラに表情の固さは微塵も感じない。

(やっぱり笑えてるじゃねーか)

 そんなことを思いながら周太郎は器用に練乳を苺にかけるとそのまま口の中へ放り込む。

「ん、そのままでもいいけど、これも悪くねぇな……食べるか?」

 次に練乳をかけた苺はカペラの前へ。

「ん」

 嬉しそうにしながら、苺を半分だけ齧るカペラだったが、唇に触れた練乳が苺から零れ落ちそうなのを察知してもう一口食べ進める。

「あっ、おめん」

 結果、指まで咥える形になった彼女はそのまま上目遣いで詫びの言葉を口にする。

(こういうの好きな男は好きなんだろうな)

 そう思う周太郎もこういうシチュエーションやプレイが嫌いな方ではない。

「構わんが、外ではやらない方がいいぞ」

 あまりに無防備なその振る舞いは、余計なトラブルが寄ってきそうだ、と周太郎は思う。

「こんなことするの周太郎の前だけだよ」

 やだなぁ、と笑うカペラの表情からはやはり固さは見られない。

「私も食べよっと。っとと」

 そう言いながら、カペラも練乳をかけた苺を口の中へ運ぶが、欲張ってかけすぎたのか、口元に練乳が付いてしまっている。

「ほら、ついてるぞ」

「あ」

 指で周太郎が拭ってやると、その指をパクリとカペラが咥えた。

「あっちにあるだろ? それともこういうの好きなのか?」

2度目ともなるとそう言う嗜好があるのではないかと思ってしまう。

しかも今度は意図的であるように感じる。

「ううん。この間のお返し」

 特に驚くでもなく練乳のチューブの方へ視線を向ける周太郎に、カペラはそう言ってにししと笑う。

(『この間』っていつだ?)

 記憶を遡るが全く思い出せないままの周太郎であった。

  ***

「カペラ、お前笑わなきゃとか考えてるから固くなるんじゃないか?」

「ん?どういうこと?」

 砂糖苺の味をアイスティーでリセットしながらカペラが首をかしげる。

「今もお前めちゃくちゃ笑ってるし、固くないからさ。笑わなきゃって意識するから逆に固くなるんじゃねーかなって話」

「あー、どうなんだろ。確かに意識すると逆に上手く出来なくなるって話は聞くしなぁ。でも、まさかそれで上手く出来なくなる程不器用じゃないよ。流石に」

「じゃあ、今笑ってみ?」

「え? 何それ」

 突然の要求に一瞬キョトンとなった後、カペラは声を出して笑いだす。

「いいから」

「えー、こんな感じ?」

 そう言って作られた笑顔は、さっきまでとは笑っていたとは思えない位固い。

「おーい、固くなってるぞ」

「え、嘘?」

 カペラの声に、周太郎はこくりと頷く。

「無理に笑わなくてもいいんじゃないのか?」

「えー、でも仕事だし、接客業だし……笑わないわけにはいかないじゃん?」

 確かに、どんな店であっても従業員が笑顔で迎えてくれた方が気持ちがいい。

 それは事実だ。

「いいんじゃないのか? 別に仏頂面でつまんなそうに仕事してるわけじゃないだろ」

 だが、明らかに固い作り笑顔よりは普通にしていた方が好感が持てるとも周太郎は思っている。

「お前、一人が笑えないだけで店が潰れるわけじゃないんだし、気にしすぎるのもどうかと思うぞ」

「確かにそうだけど、それでいいのかなぁ」

 眉間にしわを寄せて考え始めるカペラの頭をポンポンとやって

「俺はそう思うよ」

 従う必要はない、とばかりに周太郎は言った。

「んー、分かった。ちょっとそれでやってみる」

 無理に笑顔を作らなくていい方が楽なのは事実。

 それで、クレームになったり、いろいろ言われなければその方がずっといい。

 カペラはそう思った。

「仕事だからって頑張りすぎることはねーんだ。気楽にやれよ?」

「あーあ、周太郎が養ってくれればバイト辞められてすごく楽なんだけどなー」

 わざとらしく周太郎に抱きついてカペラは大きな独り言を言う。

「ん、構わんぞ」

 周太郎の家は古くから続く貴族の家だ。一緒に住んでいる女性全員を養っても余りある財力は持っている。

 そして、周太郎はそこの跡取り。

 実家からの仕送りでもカペラ一人くらいは養えてしまうのだ。

「……言うと思った。そう言うところ本当気を付けた方がいいと思うよ」

 望み通りの答えが返ってきたというのに、呆れたような態度のカペラに周太郎は首をかしげる。

「周太郎って、お願いされたら大抵『いいよ』って言うんだもん。相手は選ばないと変な女につかまるよ?」

「どういうことだ?」

 カペラにどう見えているかはわからないが、周太郎だって誰彼構わずそうしているわけではない。

 ちゃんと相手を見極めて、それに足る人間だと判断してから言っているつもりだ。

(何言ってんだ?)

 周太郎の謎は深まっていくばかり。

「そんなに言ってるか?」

「ホテル以外であんまり見たことないけど、ホテルの中では結構言ってるから、外でも言ってるイメージはある」

(……よく見てんな)

「まあ、カペラがそう言うなら少し気を付けてみるかね」

 さっき言われた台詞をそのまま返したい気持ちになったが、口からは違う言葉を出す周太郎。

 心から心配してくれていることは伝わってくる。

 それを茶化すような真似はしたくなかったのだ。

「うん、そうして。はい、ご褒美の苺」

 カペラが柔らかく笑いながら差し出したそれを指で受け取り、口の中へ放り込む。

「周太郎はそのまま齧ったりしないんだね」

「俺がやっても誰も得しないだろ」

 そう返す周太郎に、

「そんなことないよ」

とカペラは微笑む。

「そうか? ほら、カペラも」

 今度は砂糖を振りかけた苺を彼女の目の前に出すと、今度は一口でぱくりと指ごと食べられた。

「なんか、餌付けされてるみたい」

「いや、俺も、そう思ったけども。もう少し色気のある言い方出来んのか?」

 カペラの言いぐさに周太郎は吹き出し笑い出す。

「笑わなくてもいいじゃん。じゃあ、一緒に考えてよ」

(こういうゆるい感じの時間が好きなんだよな)

 言葉とは裏腹に柔らかい笑顔を向けるカペラにそんなことを思いながら周太郎は笑うのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la0062 / 周太郎・A・ペンドラゴン / 男性 / 26歳(外見) / その手は甘く 】

【 la0637 / カペラ / 女性 / 15歳(外見) / 不器用少女 】
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年06月05日

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