▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『殴りネメシスの主義主張 』
アークレディア・クレセントla0542

 依頼がずいぶん早く片づきその報告をした後、ライセンサーの養成校でぶらついていたアークレディア・クレセント(la0542@WT11)が、シャラヴィン・ソウドゥ(lz0009)の後ろ姿を見つけた。

 片手を挙げ声をかけようとしたが、その前にソウドゥは戸を開けて部屋へと消えていく。

 追いかけて部屋の前で見上げてみると、実習室。

「ははーん、講師役か?」

 まだ初陣にも立てない候補生のために、さまざまな講義と実習を開いている養成校ではこうして現役ライセンサーの中で活躍めざましい者に講師を頼むことがある。

 授業と違い受ける受けないは自由であるにも関わらず、いつも超満員。

 候補生の多くは実習好きとも言えるが、第一線で活躍している現役ライセンサーが講師ともなれば、人気もあるはずだ。

 そして本日の実習内容は――

「ネメシスフォースの課題……オレにおあつらえ向きじゃねーか!」

 いまさらでも新たな発見はあるかもしれないと、喜々として何故かガラガラの実習室へと足を踏み入れたのであった――……



 ――入室から5分後。

 片足をぶらぶら床にこすらせながら、長ったらしい理論をたれ流している講師を観察していた。髭の剃り残しがあるとか、そんな無意味な観察だ。

 全く知らない講師のよくわからない理論は、聴いてるようで聴いてない。

 実習と言いながら体を動かすことなく、ただただ講師が理論を語り、皆の前でちょっとした実演を見せる。

 実質、ただ座っていないだけの座学だった。だからガラガラだったのだろう。

(なんで入る前に気づかなかったのか、オレの馬鹿っ! 座学なんてまっぴらごめんだってのに!)

 自分を叱咤しつつ候補生達を眺めていると、死んだ魚の目で上を見上げているだけの候補生が多数いる。いや、むしろ全員か。

 きっと自分と同じタイプなんだなと彼らと共感し、そのまま目を横にずらしてソウドゥを見やると、真剣な眼差しで聴いていた。

 そんなソウドゥを流石だなと、うんうんと頷いて感心している姿が目立ったのか、講師の目に留まったというタイミングで、講師のスマホが鳴り響く。講義というなの実習中だというのにもかかわらず、通話を始めた講師がなにやらまくし立てると乱暴にスマホを切って、失礼な事にアークレディアを指さしてきた。

「顔に覚えのある君! 私は少し席を外すから、実習の続きをしてくれたまえ!」

 まさかのご指名へ何かを言う前に、講師はさっさと行ってしまった。

 いきなり任されてしまったが、暇しているよりかはマシだろうと、仕方なく候補生達の前へと立った。

「あー……続きと言ってもだな、さっきまでどんな話してたか聴いてた人って、いるか?」

 首を横に振る者ばかりだったので、「オレもつまんねー話はさっぱり聴いてねーんだ」と正直に述べると、共感を得た者が小さく笑う。

「ネメシスフォースの立ち回りの基本は、前衛に守られながら後ろから撃つことである。だがそれでも肉薄された時の対応をどうするべきか――というのがさっきまでの話だよ」

 ただ一人聴いていたソウドゥが真面目に答え、真剣な目をアークレディアに向けていた。

 自然とアークレディアは背筋を伸ばし、右手の人差し指を立てた。

「これはオレの個人的なやつだけど、肉薄されたら――あー、うん。説明するよか見せる方が楽だな。ソウドゥ、ちょっといいか?」



 用件を済ませた講師が実習室に向かう最中、大歓声が聞こえた。

 何があったと足早で実習室へと飛び込むと、候補生達が2人1組で近距離で向かい合い、お互い身体へ触らせまいと手を手で払いのけながら触るという、小学生か中学生の遊びのようなことをしていた。

 だが少なくとも、退屈している者は1人とて、いない。

「攻防の隙を縫ってイメージ練り上げろよー! 実戦ではもっと刹那の隙しかねーかんな!」

 アークレディアが葉っぱをかけっると、あわてた数名の候補生がその手にイメージで作り上げた矢を生成し撃たずに振ろうとするも、先にその手を抑え込まれ不発に終わる。

 講師にこれは何をしているのかねと詰め寄られたアークレディアだが、あっけらかんと言い放つ。

「肉薄された時はフォースアローで突き刺すに限るってのが、オレの解だからな。矢ってのは先が尖ってるだろ?

 だから接近戦で凶器として使っても問題ねーなと」

 講師が口をあんぐりと開け、何か言いたそうにしている。それはアークレディアもわかったらしく「何だよ」と促すと、ソウドゥが口を挟んだ。

「普通であれば防御なり回避で攻撃をやり過ごした後、仲間に間へと割り込んでもらい距離を再びとれ、というやり方を教えてやって欲しかったんじゃないかな。

 ボクもネメシスフォースに限らず、後衛というのはそういうものだと思っていたけど……キミは白兵戦に拘るんだね」

「ああ……まあオレの場合、座学とか本とか苦手でよ、スキルの適正だとか理論がどうとか考えるより、殴った方がずっとはえーし。

 オレ達の武器は想像力だろ? 想像力に伴いさえすればどんなやり方も力になる。遠距離スキルだから遠距離のみだ、なんて制限はねーんじゃねーかな」

 それにソウドゥはなるほどと言うが、講師は苦い顔をしたままである。

「んじゃ、オレの役目は果たしたんで、後は任せるぜ」

 代理を返上し、候補生達に惜しまれつつもアークレディアは実習室を後にした。

 するとすぐ後ろをソウドゥが追いかけてきて、横に並ぶ。

「……座学や本は苦手で、考えるのが苦手だから殴る方が早い、みたいな言い方をしてたけど、キミ、考えるのが苦手ってわけじゃないよね。考えた末にそのスタイルなわけだから。

 さっきのは、本音じゃないね」

 言われ、「見透かされてるー!」と茶化した雰囲気を作るが、意外とソウドゥは真剣なままだった。

 だから、本音で語るしかない。

「オレ達の力――イメージと耳障りの良い言葉を使ってるけどよ、結局は空想とか、魔法とか、そんなふわっとしたもんだろ。そんなふわっとしたもんで、しかも手から離れ独立したそれでぶっ壊すのって、無責任じゃねえか?

 自分は手を下していないとか、不条理で目の前のものが勝手に壊れたとか、言い放題だろ」

「だから間接的直接手段を用いて、自分がその言い訳に逃げないようにしている、と」

「まあ、な。

 今は化け物相手でオレ達が正義側だからこそ、たまたま看過されてるだけで、いつかそれが許されない世界になった時、無責任なやり方してたら弱いオレはその逃げに縋りつきたくなるだろうからさ」

「自分の責任から逃げたくなるのは、弱いからじゃないよ。それが普通なんだ。

 むしろその逃げ道が使えないようにしたのは、強い人のような気がする――臆病なだけでさ」

 臆病。それにアークレディアは否定も肯定もしないが、口をへの字に結ぶ。

「臆病かもしれない。けど、キミは強い。ボクと並ぶほどに。だからその道は正しかったんだと思うよ」

 その強さで有名なソウドゥに強いと認められ、その道を肯定された。ただそれだけの事なのに、気分は跳ね上がる。

「今回、ボクも学んだよ。遠距離を使える者が遠距離しかできないと考えるのは捨て去るべきだってね。ありがとう」

「いいって事よ! 今日は相手してくれて、楽しかったぜ! またやろうな!」



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。
もう少し偶発イベントである部分を伸ばしたくはありましたが、このような感じとしてみましたが、いかがだったでしょうか。
今後は打診のあった時のみ窓開けをする形になりますが、またご縁がありましたらよろしくお願いします。
シングルノベル この商品を注文する
楠原 日野 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年06月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.