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『【任説】魔法少女ぐろりあす☆どらいぶ 』
la1158)&灰空 散華la2998)&ファラーシャla3300

 魔法少女。
 それは人類の希望。奇跡の権化。会いに行けないアイドル。人生を狂わせる爆弾。

 魔法少女。
 大体は10代前半の少女が変身するが、近年稀におっさんや少年やおばさゲフンお姉さまが変身したりする魔窟。

 魔法少女。
 彼女たちは今も、人知れず世界の脅威と戦っている。
 ――――かもしれない。



「ボクと契約して魔法少女になっぶぺら?!」

 突然目の前に現れた謎の生物を反射的に腹パンしてしまった。ネズミとウサギと鳥を合わせて2で割ったような姿をして浮遊する謎生命体を。身の危険を感じて半ば反射的に。
 ヤバい、何か変な病気持ってたらどうしよう。拳を振り抜いた姿勢のままそんなことを思って、ファラーシャ(la3300)は軽く眉根を寄せた。

「チュピピ!! いきなり何するチュピか!!」
「わっ、しゃべった!?」
「さっきも喋ってたチュピよ?!」

 結構かなり強い力でブン殴ったつもりだったのだが、謎生命体はあっさり無傷で復活してきてまた驚く。なんかチュピチュピ言ってるし、危ない生命体かもしれない。

「その目、ボクのこと疑ってるチュピ? 心外チュピ、ボクはただキミに魔法少女をやってもらいたいだけチュピ」
「まほう……? なんですかそれ」
「チュピピ?! 魔法少女を知らないチュピ!? 魔法少女とは、可憐な美少女が巨悪と戦って世界を守る素敵で無敵な存在チュピ!! キミもボクと契約して魔法少女やってほしいチュピ!!」
「……ごめんなさい、宗教の勧誘はちょっと……」
「宗教じゃないチュピよ?!!?」

 チュピチュピうるさい謎生物は、ものすごくショックを受けた顔で叫んだ。ファラーシャはよくわからないので早く帰りたいと思った。

「チュピピ……今時魔法少女知らない子がいるとは……。むう、こうなったら、現役の魔法少女先輩に会って話を聞くチュピ。キミが本契約してくれるまでは仮契約で様子を見るチュピ」
「仮契約とかあるんですね……」
「時代はクリーンでホワイトな企業形態チュピ。雇用は双方が納得してからなされるべきチュピよ」
「企業……? 雇用……?」

 謎生物が何を言っているかわからない。もしかして自分は今ヘッドハンティングを受けているのだろうか。だとしたらとんでもなくやべぇ企業なのではなかろうか。ファラーシャは訝しんだ。

「というか、ボクなんで急に殴られたチュピ?」
「あっごめんなさい、急に目の前に現れたからびっくりしてしまって」
「びっくりでノータイムパンチかますチュピ?! それにしては殺気が混じってたチュピよ!?」
「クセで……」
「クセで殺気放つとかどこの暗殺者チュピ?!?」

 チュピチュピ鳴くヤツが全力で解せぬ顔をしているが、急に目の前に現れた不審物に対する措置としては適切ではないかとファラーシャは思う。急に目の前にボールが飛んできたら、誰だって避けるかはたき落とすかを試みるだろう。

「ちゅぴぃ、なんか納得いかないチュピけど、尺がもったいないからとりあえず移動するチュピよ! チュチュチュチュ、マジカル☆ドライブ〜!!」
「わっ?!」

 チュピ野郎が毛皮に覆われた腕を一振りした瞬間、ファラーシャの全身が光に包まれ、お約束のアレを経てあれよあれよと言う間にフリフリガーリーなファンシーファッションに身を包んでいた。問答無用にもほどがある。訴えたら勝てるのではなかろうか。
 が、残念ながらファラーシャが抗議の声を上げようとした時には、足元に光る幾何学的紋様が発生し、何やら回転しながら浮かび上がってくるところだった。

「へぁっ?!」

 慌てても現状は変わらない。
 ファラーシャはワケが分からないうちに、その場から移転させられたのだった。



「チュピピ、スナオー!」
「ん? ああ、妖精じゃないか。どうしたんだい?」
「ほわ」
「うん? そちらは……もしかして新人さんかな?」

 やってきたのはどこかのお宅。リビングらしきそこでは、侃(la1158)がお茶を飲みながら読書していた。明らかに不法侵入をかましてしまったファラーシャは気が気ではない。

「あ、あの、ごめんなさい私、その……!!」
「ああ、落ち着いて。大丈夫、わかってるよ、そこの妖精がまたやらかしたんだね?」
「ちゅぴ?!」

 どこか慣れと諦念を含んだ笑顔でそう言って、侃はチュピチュピうるさい妖精をキュッと握った。妖精はジタバタもがいていた。とても元気。

「ようせい……」
「そう、妖精。その様子だと何も教えられてないんだね? 怠慢だよ妖精、キミの過失だ」
「ぐぇっ」

 妖精がつぶれた。南無。
 ここでようやく、ファラーシャは辺りを見渡す余裕が出てきた。侃の態度が一貫して穏やかであったのもさいわいしたのだろう。落ち着いた雰囲気の居間をなんとなく眺めて、妖精を笑顔で握りつぶしている侃を見て、ふと記憶の琴線が震える。

「あ……あの、もしかして、スナオさん、でしょうか……?」
「え? 僕を知ってるの?」
「はい! あの、私、カフェでお手伝いをしていて……」
「カフェ……、ああ! アルバイトの店員さん!! なんだ、ファラーシャさんだったのか! 格好が違うから気付かなかったよ」
「チュピ? 二人は知り合いチュピか?」
「まぁね。僕は彼女がアルバイトしているカフェの常連なのだよ」
「チュピピ!! なら話は早いチュピ!!」

 侃の手から逃れた妖精が何やら喜んでいるが、二人の表情は微妙だ。妖精だけがテンション高く喜んでいる。

「まぁ待ちなよ」
「ぴぎゅぇっ?!」
「話をするなら、役者が揃ってから、だ。散華を呼んでくるから待ちなよ」
「サンゲ……?」
「うん」

 首を傾げたファラーシャに、侃は元気に妖精をわし掴んだまま、薄眼を開いて綺麗な笑顔を浮かべた。

「こいつが拾ってきて僕に押し付けた、もう一人の魔法少女、だよ」



「だれだ」
「こ、こんにちは。ファラーシャです」
「ふぁーしゃ。われは、さんげだ」
「サンゲさん?」
「さんげ、だ」

 もちもちとお菓子を頬張りながら現れたのは、灰空 散華(la2998)。瞳が髪の毛に隠れていて表情が読み取りづらいが、態度から見て受け入れてはもらえたらしい。片手を突き出しているのは、もしかして握手のためだろうか。
 恐る恐る手を握ると、ご満悦げにブンブン振られた。正解らしい。

「チュピ!! サンゲも揃ったなら早速話を進めるチュピ!!」
「すなお。これたべて、いい?」
「うーん、僕的にはたべてくれていいんだけど、お腹壊しちゃうかもだから我慢しようね」
「ざんねん」
「そこ、サラッとボクを食べようとしないでほしいチュピ」

 妖精が猫みたいに毛を逆立ててフシャーと威嚇しているが、侃と散華はまるで意に介さない。ファラーシャはアウェイみを感じて肩身が狭い。

「まぁいいチュピ。よーく聞くチュピよ? 魔法少女とは、不思議なパワーで変身した可憐な美少女が、素敵に無敵に颯爽と敵を倒して世界を守る存在チュピ。ボクたちが戦うのは、ナイトメアってやつチュピ。みんなの『夢』をたべちゃうわるーい存在チュピ!」

 さて。
 ソファーに3人が座り、その目の前にあるテーブルの上に妖精が陣取り、意気揚々と語り出した。

「それ、おいしい、のか?」
「何でもかんでも食欲に変換しちゃダメチュピよ、サンゲ。食べれるかどうかはわかんないチュピけど」
「そうか」
「なんで瞳を輝かせてるチュピ?! 食べちゃだめチュピ!! 魔法少女が敵を食べるとか絵面的に大問題チュピ!!!!」

 散華が俄然わくわくし始めた。侃はただニコニコと笑っている。ファラーシャは自分たちを見て「少、女……?」と首を傾げている。

「あの、スナオさんたちはその、敵と戦ったことはあるのですか?」
「スナオでいいよ。僕たちもまだないんだ。なんたって1週間前に魔法少女とやらになったばかりだからね」
「1週間?!」
「散華はもっと前からやってたみたいだけど」
「そうなんですか!?」
「みたいだよ?」
「?」

 急に注目されて首を傾げる散華。今はクッキーを食べている。かわいい。

「こんなに小さな子を戦わせるなんて……!!」
「うん、まぁ、普通はそういう反応になるよね」
「肉体の強化はある程度身体が育ってからやらないと意味がないのに!!」
「うん??」

 ファラーシャの発言に引っかかるものを覚えたが、言語化できずにただ首を傾げる侃。急に抱きすくめられた散華は我構わずとチョコレートを食べていた。

「ちゅぴぃ、なんて協調性のない魔法少女たちチュピ……こんなんで敵を倒せるチュピか?」
「君にだけは言われたくないな」
「ぐえっ」

 侃が妖精を握りつぶすのはもはや恒例事項と化していた。自業自得である。

 と、そんなこんな戯れていた3人と一匹だったが、和やかな雰囲気は突如として霧散した。
 妖精からけたたましいアラームが鳴り響いたのである。

「わっ?!」
「チュピィ!! ナイトメアが現れたチュピ!! 君たち、早く現場に急行するチュピ!!!」

 妖精が何事か喚いているが、少女(?)たちは困惑するしかない。

「行けったって、僕たち、場所なんて分からないんだけど」

 侃が困惑顔で首を傾げれば、妖精は一瞬「あっやべっ」みたいな顔をして、直後何食わぬ顔で胸を張った。
 怪しすぎる。

「だ、大丈夫チュピ!! ボクが現場までお届けするチュピ!! チュチュチュチュ、マジカル☆ドライブ〜!!」

 問答無用とはまさにこのこと。
 妖精が謎の呪文を唱えたら、3人の足元に魔法陣的サムシングが現れ、あっという間に視界が光に包まれた。

「ちょっ、これはあんまりじゃないかな!?」

 光の向こうで侃の焦ったような声がする。
 徐々に視界が晴れてゆき、閉じていた目を開いた先にあったのは、見慣れない緑地であった。
 どこだここ。そんなことを思いながらファラーシャが視界を巡らせると。

「ほ、ほわー!! スナオさんもサンゲさんもかわいい!!!」
「そ、そうかい?」
「??」

 そこにいたのは、キラキラしてキュートでスウィーティーな衣装に身を包んだ侃と散華であった。
 そう、魔法少女である。

「わぁぁぁ、スナオさん、前髪上げてるのもかっこかわいいですね!!」
「ほんと? うれしいなぁ」
「ふぁら、ふぁらしゃ、われは?」
「サンゲさんもかわいいですよ! うんうん、メカクレはいい文化です!」
「めか??」

 はしゃぐファラーシャ。
 フリルたっぷりの衣装に気恥ずかしさを隠せない様子の侃。
 服についた大きなリボンを不思議そうに引っ張る散華。
 キャキャうふふと女子トークが始まった。

「ちょちょちょ、待つチュピ!! 女子トークしてる場合じゃないチュピ!!」

 それに待ったをかけたのはくだんの妖精である。

「敵!! 敵を倒すチュピよ!! そこにいるやつ!!!」

 指(?)さしたのは、何やらめあめあしたエフェクトがかかった、ロボットと人形を組み合わせた様相のナニカ。人よりずっと大きい2頭身のそいつは、その場にいた人に襲いかかっては青紫のエフェクトで包み、昏倒させていく。昏倒した人は苦悶の表情を浮かべており、どうやら悪夢を見ているらしい。

 ナイトメア。なるほど、名前通りの敵であるらしい。

「さぁ、魔法少女ぐろりあす☆どらいぶたちよ!! ナイトメアをやっつけるチュピ!!」
「なんだいその珍妙なネーミングは」

 キメ顔の妖精に、侃のツッコミが突き刺さる。
 が、まぁ、異常事態には違いない。

「つまりあいつをぶっ飛ばせばいいんですね?」
「ファラーシャさん?」

 フンス、と意気込んで両拳を握るファラーシャに、侃が不思議そうに首を傾げた。
 彼女の衣装はどことなく聖職者のような神聖さを感じさせるデザインとなっている。その彼女が、戦意高く拳を握っているのだ。違和感も感じよう。
 そして、その違和感は数秒とたたず確信へと変わる。

「任せてください、そういうのは得意なんです!!」

 タッタと軽く飛び跳ねて、ファラーシャは周囲の制止も間に合わないような速度でナイトメアへと肉薄した。

「ファラーシャさん?!」

 侃が慌てて後を追うが、あまりに初速が速すぎて追いつけない。

「くっ!! 妖精! 何か策はないのかい!?」
「チュピ?! す、スナオは今魔法少女だから魔法が使えるはずチュピ!!」
「魔法?! なんだいそれは!! ええい仕方がない、これでもしファラーシャさんに何かあったら焼き鳥にしてやるからね!!」
「ヂュッ??!?」

 言うなり、両手を銃を構えるように組んだ侃。
 侃の意思と呼応するように、両手が光り輝いた。

「成敗!!」
「いっけぇ!!」

 ファラーシャと侃の声が重なる。
 初めにマジカルパワーの乗った拳が、次に光の奔流が、2頭身のナイトメアへと容赦なく突き刺さる!!

「PYAAAAAAAA!!」

 拳に上空へと飛ばされたナイトメアは、光の奔流を避けることもできず、悲鳴をあげて光に焼かれる。
 唖然とするファラーシャと侃。ぷすぷすと煙を吐いて倒れるナイトメア。
 そこに近づく影か一つ。

「……おいしそう」

 今までおとなしくおやつを食べていた散華である。
 ギザ歯をチラ見せして舌舐めずり。どう見ても、食べる気満々である。

「さっ、サンゲ!! 待つチュピ!!」

 妖精の制止は、一歩間に合わなかった。

 生命に祈りを。食材に感謝を。ご飯を食べるのは尊い行為。
 散華は丁寧に両手を合わせて祈りを捧げると、魔法少女にふさわしく、可愛らしくにっこりと微笑んで。

「いただきます」

 ペロリ。
 黒焦げのナイトメアは、まるで吸い込まれるように散華のお腹の中に消えてしまった。

「ん、おいしかた」

 ぽん、とお腹を満足げにひと撫でする。
 あとは忘れず、食後の感謝を。

「ごちそさま、でした!」

 パン! と柏手を一つ。
 満足満腹、満面の笑みである。





「けふ」

 一つ吐き出した満足げなため息が、急速に温度を失って暗闇に溶けていった。

「ん?」

 あたたかな温度が、やわらかな満足感が、とけるような心地よさが遠のいて、しんと静まった夜の闇が急速にその形を成してゆく。
 違和感に目を開ければ、周囲は夜の帳に覆われていて、さっきまで感じていた魔法の光はどこにもない。
 襲ってくる現実感について行けず、散華はおもむろにその身を起こした。

 キョロ、キョロと周囲を見渡す。いつものねぐらだ。眠る前と寸分違わない、散華が夜を過ごす場所。
 しばらくねどこの上でぼーっとして、散華はふっと理解した。

「……ゆめか」

 つぶやきは、誰にも聞かれずに夜の闇へと溶けて消えた。
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2019年06月10日

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