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『魂の欠片 』
夜城 黒塚aa4625)&エクトルaa4625hero001

 ――俺が英雄エクトル(aa4625hero001@WTZEROHERO)との出会いは、運び屋の仕事中、従魔の襲撃に遭った時だ――



 走る、走る、とにかく走る。息を切らせ、肺が痛もうが心臓が張り裂けんばかりに動こうが、夜城 黒塚(aa4625`WTZERO)は走り続けていた。

「くっそ、あいつら無事に逃げれただろうなぁ!? 無事じゃねえなら、ただじゃおかねえぞ!」

 だいぶ前に廃墟と化した街までたどり着き、今にも崩れそうなビルを見上げる。

 もともと緩んでいたネクタイを外し右手に巻くと、跳んで瓦礫に右手で掴まり体を引き上げると、左手でその上の窓枠に手をかけた。ネクタイを巻いてる右手と違い、生身の左手に細かなガラス片が刺さるが、気にしてはいられない。

 左で体を引き上げ、足で右手を置いていた瓦礫を蹴ると、窓枠に右手も添えて一気に室内へと体を放り込んだ。

 勢い余って床を転がり、一転二転、そして体を大の字にしてようやく止まる。

 呼吸を整えようにも、なかなか収まらない。

 だが整えてる暇はないと、手足を引きずるようにして何とか立ち上がった。

 せっかくのスーツもボロボロ、トレードマークのネクタイもだいぶずたぼろで、サングラスも左のレンズが半分ほど欠けて落ちてしまった。

 だがここまでしたのだ。逃げ切れててもいいはず。

「どうよ」

 息も絶え絶えに窓から下を覗くと、巨大なサソリのような従魔は下をうろついていた。

「へ、ざまぁねえ――」

 と口にしかけたところ、従魔は重力を無視して壁に脚を突き刺しながら歩くように登ってきた。

「馬鹿野郎かよ!?」

 慌てて廊下へと飛び出すと、部屋から破壊音。そして部屋の扉を壁ごとぶち破って、狭い廊下の壁も天井も薄氷を砕くかのごとくお構いなしに、逃げる黒塚を追いかけ回す。

 階段は崩落しているが、明かり取りの窓の桟を蹴って上の階の床にまで手を伸ばし体を引き上げ、廊下を走り抜ける。その後をやはり従魔は難なく追いかけてきた。

 造りからここがホテルだと判断して、廊下の突き当たりのドアを蹴破り、非常階段で下へ――と思ったが、螺旋状の非常階段はもはや支柱しか残っていなかった。

 支柱を伝って下へ行くか、上へ行くか、そんな判断の暇もなく後ろから迫り来る従魔。

 黒塚に迷う暇はない。

 ドアの桟にぶら下がり、逆上がりするような形で支柱を足で駆け上がって跳ぶ。上のドアが瓦礫で埋まっていたらアウトだったが、ドアを蹴破り上の階に足を滑り込ませると手を離し、上半身を跳ね上げた。

 髪を従魔の尻尾が掠める。

 だが外に飛び出た従魔は支柱に激突し、支柱を折りながら下へと落下していく。

「今度こそ、どうだ!?」

 落下した従魔を凝視する黒塚。だがその脚が動き始めたのを察知すると、すぐに起きあがって廊下を疾走する。

 こんな追いかけっこが屋上まで続き、屋上にまでたどり着いた黒塚は、さすがに軽い絶望を感じた。

 跳び移れるだけの距離に建物もなく、下へ死なずに降りれそうなルートもない。時間があればどうにか降りる事はできるだろうが、そんな時間ももちろん、ない。

 出入り口を破壊して屋上に現れた従魔。

 せめてギリギリまで離れようと、風が吹いただけで落ちてしまいそうなほど不安定な隅っこにまで逃げた。

 遠くまでよく見える風景――黒塚は目を見張った。

「あいつら、俺のことはほっとけって……!」

 積み荷を積んだものは遙か遠くまで逃げているが、2人ほどがなぜかこっちへ走ってきている。

 それは、黒塚自身のせいとも言えた。

 作ったつもりはなかったのに、捨ておけないほどに良好な関係性が、できてしまっていたのだ。

 黒塚は再び、従魔へと視線を戻す。その目には覚悟ができあがっていた。魂を燃やし尽くす、覚悟を。

「こいよ……」

 下がれない角をさらに下がる。もはやつま先と角しか接点がない。

 つっこんでくる従魔。汗を垂らしながら覚悟を決めた黒塚。その前脚が黒塚を捉える、と言うその瞬間、黒塚は全力で後ろに跳んでいた。

 もはや、風しか感じない。

 だが従魔もまた、同じように空を舞っている。

 やがてくる浮遊感――ここが己の終着点か、そう思った時だった。奇跡が起きたのは。



 ――それまで僕は意思もなく、たゆたうだけの存在だった。彼の強く優しい魂に触れるまでは――

 何かがあって、何もない。そんな空間に薄い意識だけが漂っていた。

 その意識は意思と呼べるモノは持たず、ただただ、断片的な意識が広がっている。

 だが黒塚という男の存在を、その強き魂を感じた時、たゆたっていたモノは意思を持ち、集まり、者へ成ろうとしていた。

 かつての世界で円卓の騎士の一人として、英雄と称えられた者。強く気高く、不屈の者。もっとも強かった頃の形を成そうとして、集まっていた。

 そして彼に語りかける。

 ――汝、信念において己を欺かん事を誓うか。さすれば力を貸し、戦うための力を与えよう。

 ――わけわからねえ事言われても、わけわかんねぇ。どうせ俺はもう助かんねえし。けど助かるってんなら、誓うさ。なんだってな。

 短い誓いだが、契約は契約。成立すれば契約は力を持ち、その魂に触れることを許される。

 なんだろう、これは。暖かく強くもあるのに、孤独と孤高で埋め尽くされた魂。あまりにも理不尽で、触れているだけで悲しくなる。

 彼の魂を癒したい。彼を支えたい。そう思わせるほどの魂。

 でもこのままじゃダメだ。この姿じゃダメだ。最盛期の姿では彼の力にはなれても、彼を本当の意味で支えることはできない。

 ならどうするか。

 絶対的な力はいらない。寄り添えるだけの力さえあればいい。寄り添える姿であればいい。

 それなら――



 ――そして『俺は』『僕は』出会った――

 落下する黒塚の体は光に包まれ、音が大気を震えるさせる。

 そしてそこに現れたのは白銀の髪に不屈の紅を垂れさせた、白銀の鎧に身を包む騎士。

 剣を抜き放ち、従魔の尻尾を軽く左手で払いのけると、畏怖するだけしかできなかった従魔をあっさりと一刀両断に伏す。

 従魔の死骸が先に地面へとたたきつけられ、もうもうと舞う砂煙の中へ、白銀の騎士は膝を曲げ、静かに降り立った。

 人の身では助かる確率よりも助からない確率の方が高い高さから落下したにも拘わらず、ブランコから飛び降りた程度の感覚で、無傷だ。

 立ち上がる騎士――光と共に、大小2つに分かれた。

 大きい方は、黒塚に。黒塚のヘソあたりの高さまでしかない光は、銀髪で線の細い少年へと変わった。

 向かい合わせの2人。微笑む少年に黒塚は憮然とした。
 向かい合わせの2人。微笑みながらも初めて黒塚の顔を見上げた。

(天使のよう、とはこんな存在を言うのか)
(顔はちょっと怖いかも……)

 柄にもなく、黒塚はそんな事を反射的に思ってしまった。
 そんな風にちょっとだけ少年は思った。

 だからなのか。
 だけど。

(俺はこの子を大事にしたくなる)
(僕はすぐにこの人を大好きになる)

 それがエクトルとの出会いだった。
 それがクロとの出会いだった。



 ――エクトルは俺を――

 一緒に暮らすようになって、それほど時間が経ったわけでもない。それなのにエクトルは存分に俺へ甘え、懐いた。

(こんな俺をどうして……?)

 怪訝に思い、戸惑いは隠せない。

 だが戸惑いながらもその無償の愛に心地よさを覚え、これまではただ立ち止まることを恐れ、やるせなさも苦しさも引きずりながら生きてきたはずなのに、立ち止まる事を覚えた。いや、立ち止まってもいいのだという事に気づかされた。

 誰にも言わず、常に心の奥底でくすぶり続けていたものを、エクトルは全てを認め、受け入れてくれている。

 凍りついていた心が解きほぐされていくのを、俺は感じていた。



 ――クロは僕を――

 見た目の怖さ通りに口調も怖かった。

 でもぶっきらぼうな言葉の節々に彼本来の優しさを垣間見た。いや、垣間見たと言うより、よくよく聞けばその言葉全てが優しい。

 ただただ、不器用なだけだと、すぐに気づいた。

 思った通りで、少し笑っちゃった。

 だから初めて見た時の確信通り、大好きになった。だから僕は存分にクロへ甘えた。そしてそれをクロは全て受け止めてくれた。

 そんなクロが少し誇らしくなっていた。こんなに優しいんだと自慢したくもなった。

 でも言わない。

 もっと甘えたいから、みんなには知らせない。

 言えることは、僕がクロを大好きで、そしてクロもきっと僕を大好きでいてくれる、という事だけだ。

 でもいつかはみんな、気づいてくれる。クロが優しくて、温かい人だって事を。

 だから。

 だから、次元の狭間に落ちるのは、僕だけでいい。

 クロも、クロの子供達も落ちる必要はない。だって、僕がクロに出会えただけでも奇跡なんだ。僕とクロは本来、出会えるはずもなかったんだ。

 今までがほんの少しおかしかったというだけで、それが正常に戻るだけなんだ。

 だから。

 だから、悲しまないで欲しい。会えて、今まで一緒にいれて、よかったと思って欲しい。

 何処にいても、クロの幸せを願っている。

 ただ。

「ただ、僕がクロを大好きだと、それだけを覚えていてくれたら、それでいい――」



 ――ぽっかりと穴が空き――

 全てが終わった。戦いの日々も徐々に終わりを告げていた。あとは死ぬまでひたすら幸せであればいい、ただそれだけだった。

 だが不意に『その日』が訪れた。

 次元の裂け目に、俺や子供達が落ちそうになった時、エクトルが助けてくれた。そしてエクトルは独り、異界の狭間へと消えていった。

 その喪失感は昔想像していたよりも遙かに重く、大きかった。もはや、半身を失ったと言ってもいいほどだった。

 心にぽっかり穴が空くとは、まさしくこの事かと痛感する。

 二度と会えない? 馬鹿な。

 そんな馬鹿なことがあっていいはずがない。半身がなくなって生きていけるほど、人間は――いや、俺は強くない。

 必ず、捜し出す。

 どれほどの年月が掛かるか、わからない。死ぬ前に会えるか、わからない。むしろ会えない可能性の方が高いだろう。

 それでも諦めない。

 出会ってからのこれまでに、エクトルがずっといた。ずっといたからこそ、今を得られた。

 もしもその間を幸せと呼ぶのであれば、エクトルを欠いては呼べないという事だ。

 だから。

「俺はおまえを見つけだす。必ずだ――」



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お待たせいたしまして、申し訳ありません。
ようやくの完成ですがご希望要素に添える事ができているでしょうか?
少し普段と違った書き方もしてみましたので、楽しんでいただけたらと思います。
今後は打診のみの窓開けとなりますが、ご縁がありましたらまた、よろしくお願いします。
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2019年06月12日

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