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『◆夜に舞うサキュバスは銀弾と踊る 』
高野 信実la3173

「おい、またか……これで何件目だ」
「……わかりません」

 二人の男性が暗い路地裏に立っていた。そこは岩手県のとある場所。
 彼らは青い制服から警官である事がわかる。
 男性二人の視線の先には干からびたミイラの様な死体が転がっていた。衣服は身に着けておらず、裸の男性のミイラである。
 そう、ここ岩手県のとある場所では男性連続不審死事件が起きていたのであった。

「くっそ……これ以上被害を増やすわけにはいかんな……彼らに連絡を。本部の読み通り、俺達で相手できる問題じゃないようだ」
「彼ら……わかりましたっSALFに連絡します!」

 SALF。
 それは昨今頻発する異形の怪物『ナイトメア』による事件を専門に解決する特殊機関である。
 ある種の能力者達によるその組織は通常兵器が歯が立たないナイトメア相手に目覚ましい活躍を挙げていた。
 その為、一般の警察などでは対応のできない事態が発生した場合、SALFへの連絡が許されている。

 ――翌日。
 岩手県警にある一人の男の姿があった。
 それはかつてこの県警に身を置いていた高野 信実(la3173)である。
 少年の様な容姿をしているが彼はれっきとした45歳の中年。過去のナイトメアによる負傷の影響で若い姿となっていた。

「あっ、警部補! こんにちわぁ、今日はおつかいですかぁ?」
「からかうんじゃないっ。ちゃんとSALFの任務でここに来たんだ。遊びに来たわけじゃ――」
「あの、警部補、お菓子ありますけど……食べます?」
「食うっ! へへ、戦の前の腹ごしらえってな」

 うみゃい棒などのお菓子を貰い、頬張りながら笑顔を振りまいている彼の元へ一人の若い警官がやってきた。

「警部補っ、対象と疑わしき人物が店に入ったとの連絡を受けました、一緒に来ていただけますか」
「元、元だよ。今の俺には県警の捜査権とかないんだ。長期休職中の身でね」
「そ、それでも……私達の様な新米からすればあなたは尊敬に値する警官であることは変わりありません。どうか、警部補とそのまま呼ばせてください」
「……わかったよ、じゃあ行こうか」

 食べきれなかったお菓子を袋に詰め、高野は県警を後にした。
 現場に向かう車中で大体のあらましを聞いた高野は自身の装備を確認する。
 イマジナリードライブは正常に稼働しているようだった。
 これが故障でもしてしまえば対ナイトメア戦で大きく劣るばかりか討伐すら困難となってしまうからだ。

「ここです、警部補」
「わかった。君はここで万が一の為に張っていてくれ。俺は対象を」
「わかりました、中には私服警官が待機しています。協力して事に当たってください。では、どうかお気をつけて警部補」

 高野はナイトクラブである店内へと入る。
 店内を軽く見渡すと私服姿とはいえ、警官らしき人物が数人程目に入る。彼らとお互いにアイコンタクトをし、高野は彼らが示す対象へと目を向ける。
 その対象は背の低い長い黒髪の女性で顔立ちは幼い印象を受けた。だが布地の少ない衣服に包まれたその体は男が放っておかない程に艶めかしい。
 机の下に隠れ監視を開始して数分、対象の女性は一人の男性客を誘うと別室へと消えていく。その尻にはサキュバス種特有の尻尾が見える。

「対象をサキュバス種と断定、これから踏み込むぞ、ついてきてくれっ!」

 耳に装備した連絡用の小型インカムを通じ、素早く連絡を取ると私服警官数人と高野はサキュバスと思われる女性が消えた別室へと踏み込んだ。
 鍵のかかった扉の鍵部分を射撃して破壊、そのまま扉を蹴り開けて踏み込む。

「岩手県警だっ! 大人しく――」

 そこまで言った段階で高野は咄嗟に前方へ滑り込むように飛び込んだ。直後、彼の背後で私服警官達の悲鳴が聞こえる。

「ぎゃぁぁあああ!」
「う、うあわぁぁあ!」

 彼らは扉から飛び出す様に放たれた鋭い斬撃で身を切り裂かれ、その場に倒れこんでいた。
 飛び込んでいなければ高野も無事では済まなかっただろう。
 素早く立ち上がりながら高野はサキュバスの上段から振り下ろされる爪撃をスピラルバックラーで受け止める。
 渦を巻いた様な表面の文様が彼女の鋭い爪を受け流し、その威力を殺す。
 彼女の腕を弾く様にバックラーを振り抜いた高野は素早くリボルバーA2を構え、トリガーを引いた。
 発砲音が響くがサキュバスには命中せず、簡単に躱されてしまう。

「あはは、ねぇそんな物騒な物はしまって……楽しみましょうよォ?」
「く、あぁっ!」

 発砲の反動で腕が跳ね上がった隙を狙われ、至近距離まで接近された高野はサキュバスに抱き着かれてしまう。
 だがそれは抱き着きという生易しいものではなかった。ベアハッグの体勢でぎりぎりと締め上げられる高野はたまらず、リボルバーを地面へと落とす。
 その様子ににやりと笑ったサキュバスは自身の衣服をはだけ、するすると脱ぎながら高野を壁に押し付ける。

「ふふ、あはは……緊張しないでぇ? すっごく、すっごく……堪らない体験になるわよぉ?」
「がっ、あ……く、あぁ……っ」

 甘いサキュバスの香りと目の前に広がる豊満な彼女の胸。そして高野の衣服を引き裂きながら彼に加えられるサキュバスの手による悩ましい刺激。
 その刺激に腰回りをびくっと跳ねさせるとサキュバスが楽しそうに笑う。それは勝利を確信したかのような笑みであった。

「いいわよぉ、そうそう素直に、ねェ? あら……このネックレスは邪魔ねぇ」

 びりびりに服を裂かれ、胸元まで素肌が露わとなった彼の首に光るのは失くさない様にとネックレスに通した妻との結婚指輪であった。
 それに手を伸ばされた瞬間、彼は正気を取り戻し足に隠す様に装備されていたビーストネイルナイフを抜き、サキュバスの無警戒に伸ばされた手を切り裂く。
 緑色の湾曲した刃により深々と手を切り裂かれたサキュバスは飛びのく様に後方へ跳躍する。
 その隙を伸ばさず、傍に落ちていたリボルバーを手に取ると射撃体勢で木製のグリップをしっかり握り、銀色の銃口を高野はサキュバスへと向けた。
 青琥珀色の瞳で見据えトリガーを引く。

「いけぇぇぇぇーーーッ!」

 発砲音。
 真直ぐに飛んだ弾丸は完全に不意を突かれたサキュバスの眉間に命中し、そのまま衝撃で彼女を後ろへ弾き飛ばす。
 そのまま前傾姿勢でサキュバスに突っ込んだ高野は警察仕込みの柔道技で彼女を組み敷いて完全に無力化させた。
 恨みがましい眼で睨み、サキュバスは獣の様に牙を見せている。

「このぉぉ、どうして、男なのに……私の、色香が――」
「こう見えても妻帯者なんでね……悪いがこれも仕事だ、安らかに逝ってくれ」

 空いている片手でごりっとリボルバーの銃口をサキュバスに当てると至近距離から高野は発砲した。
 次の瞬間にはサキュバスは断末魔と共に霧散し、影も形もなく消え去ったのである。
 倒れている私服警官達が手当てを受け、誰一人死傷していないのを確認すると、高野はほっと一息ついた。
 その時、彼の携帯が鳴る。

「はい、高野です……今終わったよ。うん、朝飯を用意しておいてくれるかな。あ、それと……ありがとう。え、何がって……まあ、日頃の感謝――――かな」

 一つの事件が終わり、今日も夜が明ける。
 朝焼けに照らされながら高野達は無事、帰路につくのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございますっ、ウケッキです。
サキュバス型のナイトメアが相手という事でアブナク、素早く暴れまわってもらいました。
装備類や所持品、行動などなど色々私の書きたい所を詰め込み過ぎてしまった感がありましたが
楽しんでいただけたら幸いです。
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グロリアスドライヴ
2019年06月14日

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