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『赤い瞳のうつすもの 』
フェーヤ・ニクスla3240

 彼女の赤い瞳には、どこか秘密めいた色がある。
 フェーヤ・ニクス(la3240)。
 お人形めいた風貌だが、どこかアンバランスで、それが彼女を不思議な印象――と言わしめている原因にしているのかもしれない。服装もおよそ少女らしくないぶかぶかのファー付きジャケットをいつも身に纏っており、声を発することがない。いつも意思表示は携帯端末の機械が発する音声だ。
 そう言ってみると、本当に『どこかちぐはぐなお人形さん』という印象をぬぐいきれない彼女であるが、彼女は意外な一面も持っている。
 それは、いつもお腹をすかせており、食べ物をくれるような人には素直になついたりする――というところだ。
 SALFに登録したときも、思えば一人でぼんやりしていたところを食べ物をあげるから、と言う理由でついてくるように言われ、放浪者と言うことで保護されたのが実情だ。
 そんなわけだから、ぽやんとしているとき――結構そういうことが多いのが現実なのだが――に考えているのが、
(ああ、お腹いっぱいご飯が食べたい……)
 だったりする。これはこれで、結構ギャップがあって可愛らしいのだが、どちらかというと無口な性分なため、案外気づかれていないのが実情だ。
 
 
 ――そんなある日のことだ。
 ふらりと街を歩いていたフェーヤは、ある張り紙に目を留めた。
 『あなたも挑戦しませんか、団子大食いコンテスト!』
 そんな文章が、大きく紙の上で踊っている。
 どうやら近くの和菓子屋が、ちょっとした宣伝をかねてそういう企画をするらしい。優勝者には、その和菓子屋の商品券をもらえると書いてある。
(団子大食いコンテスト……大食いってことは、たくさん食べられる……?)
 普段あまり表情を動かすことのないフェーヤの口元が、小さな弧を描いた。
 
 そして当日。
 フェーヤは件の大食いコンテストに参加するため、ふらりと会場である町中の広場に現れた。夏も近い日にファージャケットを纏い、包帯で片目を覆っているその姿はずいぶんと目立つものだが、必要事項を紙に記入し、放浪者だと伝えるとそれで納得された。
 放浪者というのは元々この世界の住人ではない。
 だからこそ、この世界の常識と異なる常識が彼らには存在する。ちょっとずれていたとしても、『放浪者』という出自であれば、それは納得されてしまうのだ。
 参加者はいかにも大食漢と言わんばかりの見目のものが多い。その中で、小柄な少女、しかもどこかちぐはぐな印象を受けるフェーヤの姿はずいぶんと異質なのだろう。周りからざわざわと、好奇の瞳で見つめられる。
 そのくらいは慣れているから、彼女も気にしない。
 しかし、目の前に団子が置かれ、大食いコンテストが始まったとき、彼女の存在感はひときわ光を増した。
 何しろ、食べる食べる。いつも空腹だったと言うこともあって、するするとお腹に団子が収められていく。まるでマジックか何かを見せられているかのようだ。
 マイペースながらも、絶えることなく食べるづけていけば……やがてそれは間違えようのない結果として反映される。彼女の前にあった大量の団子は少しずつ、しかし確実に姿を消し、最初こそハイペースで食べていたフードファイターたちをしのぐことになるのだ。
 やがて彼女の目の前の更にあった大量の団子が消え失せた。
 それは、他の誰よりも――早かった。
 
 優勝の証の賞状と副賞の商品券を受け取り、フェーヤはぺこりと頭を下げる。
 実のところこれでもまだ腹八分目のような気もしているのだが、それはあえて口にすることではあるまい。逆に驚かれてしまうだろうから。
「いい食べっぷりだったねえお嬢ちゃん。いつでも遊びにおいで、また美味しいお菓子をごちそうしてあげるから」
 団子を用意してくれた和菓子屋の店主がそういってにかっと笑えば、フェーヤも珍しく目を細めて微笑んだ。彼女は食べ物をくれた人に、懐くことが多いのだ。きっとこの和菓子屋の店主にも、そういう意味の好意を抱いたのだろう。
 そしてふっと空に目を移す。彼女の頭の中を、懐かしい声がよぎる。
 ――お前はそうやって食べているときは、幸せそうに見えるぞ。
 それはかつて、彼女の仲間だった人の声。
 かつて懐いていた人の声。
 ……そして今はいない人の声。
(ああ、)
 フェーヤは赤い瞳を空に向けたまま、思う。
(私は、きちんと食べている。生きているよ……)
 その声は届かなくても。
 彼女には、大切な言葉なのだ。
 
 
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

今回はご発注ありがとうございました。
おまかせと言うことで、どんなものにしようか悩みましたが、パーソナリティを表現しやすい性質の部分を切り取らせてもらいました。
如何でしたでしょうか。
元の世界に思いをはせることもあるかなと、最後の一節をほんのり入れさせていただきました。
もし機会ありましたら、またよろしくお願いいたします。
では改めて、今回はありがとうございました。
おまかせノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年06月18日

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