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『束の間の雨と、 』
レイオンaa4200hero001)&春月aa4200

「うわぁ」
 そんな声が漏れた。
「いたそう」
 とても素直な感想が。
「走って帰る……うん、ちょっと厳しいかな!」
 その声は、凄まじい雨音に掻き消される。

 ダンスの練習を終えた春月(aa4200)は、微妙な鏡が置かれたこれまた微妙なサイズの部屋を出て帰路につこうとしていた。
 ……のだが、いつの間にか空から雫が溢れ始め。いや、これは雫がとか言っていられるレベルじゃない。『バケツをひっくり返したような』という表現が似合うそれである。
「天気予報で雨って言ってたのかな? 傘なんて持ってきてないや」
 小雨なら走って帰ってしまうかもしれないが、この雨は痛そうだ。絶対痛いに決まってる。
 走って帰ることを早々に諦めた春月は、くるりと体を方向転換させて。今出てきたばかりのビルへ入り、エントランスの自動販売機へと向かう。
 ここには2台の自動販売機が存在している。1台は普通のもの、もう1台は酷く安いもの。但し後者は聞いたこともないブランドの飲み物しか入っていない上に、何が出てくるかわからない。
 もはや運試しゲームと化している自販機の前に立ち、春月はお金を入れてボタンを押す。
 ──ガコン!
 飲み物が落ちてくる音。さあ何が出たかと出してみれば、上の階に負けず劣らずの微妙なドリンクであった。
「ジュースだ! ……これって冷やして飲むやつ?」
 冷やしてこそ美味しいドリンクは、悲しいことに常温でやってきた。そもそもこの自販機、常温か温かい物しか出ないのである。
「よし、帰ってから冷やそう! それでもう1本買おう!」
 ──ガコン!
 再びボタンを押した春月。出てきたドリンクは温かく、さあこれはなんだとボトルに巻かれたラベルを見て。
「これは……白湯!」
 温かい水だった。春月はそれを持ってソファへ向かう。
「今日はマシなものが多かったなぁ。雨のおかげだったりして!」
 何せ、いつもはおかしいくらいに苦いコーヒーが出てきたり、何故か温めた炭酸水が出てきたりするのだ。どう考えたって持ち帰れば美味しく飲めるジュースと白湯は"当たり"である。
 春月は白湯をひと口飲んで、ふと入口の方を見遣る。
 少し遠くなった雨は、それでもしっかりと地面に打ち付けているようで。つまるところ、まだまだ止む気配はない。
(どうしようかな、練習場に戻る?)
 けれど、ひと度ダンスの練習に戻ればそれに熱中してしまうだろう。雨上がりにも気付かず、場合によってはまた降り出しても気付かない。
「まあいっか! ここでのんびりしたいよう」
 自販機から出たものがどう考えても美味しくなさそうだったならばレイオン(aa4200hero001)に押し付け──いやいやあげるつもりだったが、今回はちゃんとした飲み物が出たのだ。自分で飲もう。
 白湯をひと口飲めば、ほぅと小さく吐息が漏れる。雨も降っていて少し肌寒い。早く帰れたら良いのに、と春月が外の方を見ると。
「うん?」
 この雨の中を誰かが歩いているようだ。
「……うん?」
 なんだか見たことのある影だ。
「……んんん……?」
 というか見たことのある傘だ。こちらへ向かってきている。
 その傘の主はビルの前で止まり、屋根下へ入るとその傘を外側へと傾けた。
「あ、いた」
「レイオンだ!」
 春月はぴょんと飛び上がるように立ち上がる。レイオンは自らが差していた傘を閉じ、「持ってきたよ」というように腕へ掛けていたもう1本の傘を軽く持ち上げた。
「わぁ、ありがとう! 流石に走って帰れなさそうだったんだよね。これで帰れるよー」
 良かった、と受け取って笑顔を見せる春月。彼女の様子に、しかしレイオンは曖昧な笑みを浮かべて。
「持ってきたはいいんだけれど……雨、もう止みそうなんだ」
「えっ?」
 思わずレイオンの肩越しに外を見てみれば、先ほどまでの勢いはどこへやら。すっかり雨が上がって、とまでは言えないが、先ほどと比べたら天と地の差である。
「これなら傘を差さなくても帰れそうだね! あ、レイオン見て! あそこ!」
「うん?」
 まだ降ってはいるのだし、持ってきたのだから傘は是非使ってほしい──そう言おうとしたレイオンは、空を指差す春月に視線を滑らせた。少し離れた、雲の切れ間。よく目を凝らしてみるとそこには虹がかかっているようだった。
「あの虹のとこまで行けるかな! レイオン、踊りながらあそこまで行こう!」
「踊りながらは危ないよ」
「だいじょーぶっ、それにマグロダンスのコツは絶対に止まらないことだよ!」
 ほら行こう──春月は外へと駆け出した。

 レイオンはその姿を束の間見つめて、くるりと振り返った春月が「早く!」と手を大きく振る姿に思わず苦笑を浮かべる。
「……ちょっと止まっているくらいの落ち着きがあってもいいと思うんだけど」
 無理か。雨の間はむしろ止まっていた方なのだろうから。
 レイオンは閉じた傘を手に、春月の方へと歩き出していった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 お世話になっております。お2人のおまかせノベル、お届けいたします。
 自販機は私もダイスを振らせて頂きました。出目によってノベルの内容も違っていたかもしれません。お気に召していただければ幸いです。
 もし気になる点などございましたら、お気軽にお問い合わせください。
 この度はご発注、ありがとうございました!
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2019年06月20日

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