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『世界は脆く揺るぎなく 』
ユキナ・ディールスla1795)&ユキヤ・ディールスla3442

 ユキナ・ディールス(la1795)は双子の兄であるユキヤ・ディールス(la3442)と通りを歩いていた。深夜と明け方の真ん中、まだ薄暗い中を街灯の光が二人とその足元、それから来た道と行き先を淡く照らしている。頼りない月明かりを背にしているならばいざ知らず、この時間帯なら別に無くてもそれほど困りはしないけれど。きっと必要な誰かがいるのだろうと漠然と思う。
 双子のきょうだいがいると言えば、大抵の人間はへぇと関心して何か不思議なエピソードがないかと訊いてきた。例えば遠く離れていても相手の気持ちが分かるとか、片割れが怪我をした時に自分も同じ痛みを感じるとか。想像力を戦う為の力へと変える技術があっても、双子という生まれた時点で決定付けられた環境が人に神秘性を抱かせるのか。ユキナにはよく解らない。ただ、側にいて声を聴き、顔を見ていると自ずと理解出来ることは確かにあった。完全に同一視はしていない、けれど、まるで手に取るように伝わる。双子といっても男と女なのだから、過ごした年数と相性とがそうさせるのかもしれなかった。
 髪を撫でて頬を擽る程度だった風が一瞬強く吹いて、ユキナは髪を手で押さえて緩く目を細めた。普通の風と潮風の境界線は果たしてどこにあるのだろうか。そもそも“一つ”の風はどれくらいの距離を駆け抜けるのだろう。ふと湧き上がった疑問はユキヤの視線を感じて、隣を歩く彼の方へ顔を向けたら溶けた。
「今日は少し早い……かな」
「……そう、だね」
 答えながら視線だけ上向ける。二人でこうして散歩に出掛けるのはいつの頃からか日課のようになっていた。だから日が短くなるのも長くなるのも当たり前のことと受け止められる。今日は確かに少しだけ、家を出るのが早かった。何時に行こうと事前に打ち合わせるわけではないので、こういう日は時々ある。ライセンサーになった今は別々に仕事をして生活リズムが合わなくなるのも珍しくないけれど、この習慣が自然消滅することはなかった。いつもの様にいつもの場所へ。いつ始めたのか、何故始まったのか――それは最早当人にも判らないし、さして重要でもない。
 ちょっとした散歩という表現が的確だろう時間と距離で辿り着いたのは砂浜だった。靴底と噛み合って鳴る音で白砂を感じ取りながら、海に向かい二人歩みを進める。波は穏やかに寄せては返して、時期と時間帯から人の気配もまるでない。静かな海、そう表現するのが相応しいくらいに。勿論振り返れば海岸沿いに道路が通っていて、少ないものの行き交う車があるし、明かりのついた家もある。業種によっては既に仕事を始めていても可笑しくない。それがまた逆に、兄と二人きりのここと向こう側を明確に線引きしているようにも思えた。人はいるのにそうと認識出来ない。世界が終わる瞬間を見ることが出来たなら、きっとこんな感じ。人がいなくなろうが生み出したものは残り、脆く朽ち果てる日を待つのだろう。
 波が辿り着くぎりぎりのところに爪先を置き、ユキナはしゃがむと爪で引っ掻くように海水に触れた。少し冷たいのが伝わる。もしも海上にナイトメアが現れて泳ぎながら戦えと言われたなら我慢は出来そうだけれど、流石に自主的に入ろうとは思わない。足首の所まで濡れる程度ならもしかしたら心地いいかもしれない、と昨日まで思いつかなかった発想に、無表情の下で好奇心が首をもたげた。淡々としていると時々言われる。稀にそれ以上も。そして決まって別の誰かが怒っていいと眦を吊り上げて言うのだ。言葉の意味は判る。しかしユキナにその情動が沸きあがることはなくて。
 ユキヤの足はユキナより少しだけ前にあって、アウターソールまで海水が染みているのが分かる。顔を上げればユキヤは静かに水平線を見つめていた。いつも通りの柔和な微笑みを湛えて、人当たりはいい、けれど何を考えているのか分からない――そんな風に言われる眼差しを彼方へと注ぐ。
 例えばそれは水中に、あるいは空中に混じって消えてしまうのではないか、と思うような儚さだ。あるいは透明感とでもいうのだろうか。無色で白にも黒にも染まらずにまるで空気のように目先にいる。ユキナはユキヤを越えて頭上を仰いだ。
「……ユキヤは空の青と海の青……どっちが、好き?」
 唐突な問いかけ。ユキヤがこちらを見たのを何となく感じる。沈黙はほんの数秒ばかり。
「空と海……その間。かな」
 それを耳にして、ユキナは目線を少し下げる。ユキヤが見ていた水平線はまだ薄暗くて、その境界はくっきりと浮かび上がっていた。真夜中のように墨を吐いたような黒さではないものの、入ったら二度とは戻れなさそうな深さを感じる。空は太陽が昇る瞬間を今か今かと待ちわびている色だ。
「空は高く、海は深く……どちらも遠過ぎるから……本当はどちらも好きじゃないかも、ね」
 質問に対し意図から微妙に外れた解答が返ってくるのはいつものこと。ユキナは緩やかに瞬きをした。目を閉じた時に思い浮かんだのは元々自分より高い位置にある瞳がより高みを向いている姿だった。
「……ユキヤは何時も、空をよく見てるけど」
 そう呟けばユキヤはうん、そうだねと相槌を打って、
「空には手が届きそうだけど、海は深過ぎて、何も見えない。底が在るしね」
 と言う。言葉通りに伸ばした手はされども空を掴めなかった。掴むような力強さではなく、握った拳が丸くなる。笑みがほんの少し深くなって、僅かな笑窪に影が差した。空は延長線上に宇宙が有って無限に広がり海は限りがある。似て非なるもの。
「空の上にも宇宙とか有るけど、色は無いから」
 時に同じものを連想するのは、双子だからというより同じものを見聞きしてきたから。
 色という言葉を耳にして鮮烈な黒がユキナの脳裏によぎった。内側に降り積もるだけで外側に零れることのない何かを刺激する人。色というものについてユキヤと三人で語らった記憶がある。どれだけ考えてもまだ好きな色は見つからない。静寂が訪れる間にも刻一刻と空と海はその色を変える。
 本当に、空と海に違いは在るだろうか? 空と海のボーダーは? どちらも遠いなら、固有の色が無いならそれは同じといえるのではと思う。――それとも。
(……例えば、私がユキヤとは異なり、異ならない様に)
 思考を巡らせるユキナの髪を海風が攫う。

 風がユキナの髪を揺らそうとも波は穏やかに押し寄せて引いてと、それを幾度も繰り返す。海が海である限り永遠に続く流れ。
 ユキヤとユキナ――二人は違う存在。けれど一緒の存在でもある。片割れの足りないものをもう一人が持ち、他人には伝わらない想いを理解し受け止められる。二卵性双生児だから違う筈なのに、まるで元々は一つだったものが二つに分かたれたかのようだ。
 二人の境界は一体何という言葉で表せるだろう。境界、ボーダーライン……自分とユキナの境界は、確実に在る。二人共、何時までも一緒ということは無いだろう。ユキヤ自身も何時までも一緒に居たいとも思っていない。それは揺らがない二人の距離。閉じた輪の中に留まり続ける未来はなく、いつかは必ず別の道を歩いていくのだとユキナも察しているに違いなかった。意識の外かもしれないけれど。
「最近ユキナは、色に凝ってるね」
「……そうかな……自分では解らないけれど……」
 自ら言った色という単語を拾って今度はユキヤからユキナへ話を振る。平坦な表情は変わらず、ただほんの少し目元から頬にかけてうっすら色付いた気がした。思い出すのは妹の友人だ。一人で行った散歩で妹が見つけ、そうして触れたのは言葉以上の何かだった。もしかしたら、運命と呼ぶのかもしれない。
 同じ場所に立ち、言葉を交わし、同じ方向を見つめていても見える景色は違っているのだろう。それは単純に色覚の差という意味でなく、心で感じ取るものだ。人間の能力なんて案外大雑把なもので、気の持ちようで幾らでもその形を変える。空を見て誰かが美しいと言い、別の誰かが醜いと言うように。
「……好きな色はまだ見つかっていない?」
 問えば、ユキナはこくりと頷いてみせた。目を閉じて僅かに首を傾げる仕草。開くと少しの間こちらを見返して、そして再び海の先へと注がれた。ユキヤは一分一秒とて世界に同じ色はないと感じる。ユキナはどうだろう。自分と彼女が見る景色には一体どれほどの違いがあるのか。違っていようがいまいが今のところ二人の関係性が変わるというわけではないけれど。
「……色のことを考えると……ユキヤのことも思い出す」
「僕のことも?」
「……ユキヤは青空の色。でも、雪雲みたいな鉛色……」
 そうと短く返せばうんとユキナも小さく言う。雨雲に覆われている時ほど暗く澱んだ雰囲気ではないが入道雲が盛り上がるような澄み渡る青空とはまた違っている。ユキヤはそんなイメージを頭の片隅に思い描く。自身の経験に基づいて想像するより、何も考えずにユキナのことを考えた方が正解に近付ける気もした。
 あ、と声が零れ落ちる。ユキナと同様に正面へと向き直っていた為ユキヤもそれを見逃さなかった。
 一瞬だけ空と海とが交わる。昇る太陽の橙が水面に反射し、絵の具を零したかのようにその色を溶け込ませ。水平線という名の境界、近くて遠い、人智を超えた二つの存在の定義が揺らぐ。綺麗な朝焼け。陽が昇りきるまでの時間は意識して見たことがない人が思うよりもずっと短い。曖昧になったのは目を離したら消えてしまう瞬間で、オレンジ色が広がりを見せるにつれ空と海は再び遠ざかる。別々であることの方が、当たり前のように。
「……空と海……この朝焼けの中では、少しだけ色が混じってる気がする……」
 太陽の光が低みにある雲と細やかな波に陰影を描いている。砂浜からの景色には人工物は見えない。勿論船のシルエットもない。ユキヤとユキナの足元に迫る水にさえ、淡く空の色が投影される。さざ波の音に紛れるような細い声で、独り言のように呟くのが聞こえた。
「不思議な、色……」
 ずっとしゃがみ込んでいた為だろう、若干ぎこちない動きで立ち上がったユキナの顔を見下ろせば、彼女の瞳の黒い角膜の上に太陽と空と海の色を乗せていた。光と闇に静と動。相反する印象が共存する様はまさに生そのものだ。ユキナには絶対に見えない光景を今自分だけが目の当たりにしている。浮かんだ想いは直ぐ何処かへ溶けるけれど。もしかしたら、砂を掬うように指の隙間から零れ落ちた分はユキナの手のひらの上に降り積もっているのかもしれない。
 不動を連想させる赤が好きだ。ユキナはユキヤのことを雪雲の色と表現する。本来は透明で目の前にある別の何かを透かしているだけだとするならば、それは果たして本当に在るといえるのだろうか。胸に手を当てて考えてみても解らない。
「そう……不思議だ」
 見える世界、鏡を通さなければ見えない自分、全てが。人の手に余るほどの存在で。
 今日も陽が昇る。きっと今日も良い天気で“自分という誰か”を責める様に陽は輝き、空は高過ぎてこの手には届かない――そして今日もまた見上げるだけ。

 ユキヤは好きじゃないかもと言うけれど、ユキナは好きなんだろうと思っている。空と海の間、それは先程見たあの一瞬を指しているのか。ふと、この習慣がどういうきっかけで始まったのか急に気になりだした。もしもユキヤから誘ってくれたんだったとしたら、それはとても嬉しいこと。そしてユキナがずっと探している気がする大切なモノに繋がっているような、漠然としてひどく覚束ない予感がした。ユキヤと同じものを見ていると確証は持てずとも信じたい。もしいつか全く異なるものになってしまったとしても繋がりを信じられるなら怖くない。
 うっすら見えていた筈の星は太陽の光に隠されて見えなくなり、夜明けと呼べる時は過ぎ去る。子供の頃に見上げた星はとても綺麗で純然としていた。大人に足を踏み入れた今は色々なことを考える。物の色と人の色、仕事を通して触れる誰かの人生。様々な想いが生まれては消え、人と出会っては通り過ぎ。この先もまた同じことの繰り返しなのだろう。夜と朝のグラデーションが朝に塗り替えられていく。
 今日も陽が昇る。けれど、“絶対”は無い。そう、明日も必ず陽が昇るとは限らないように。

 世界は脆く、揺るぎなくここに在る。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
物凄く不思議で独特な空気感を上手く表現出来ていればいいのですが。
個人的にはこういう内容がとても好きなので楽しみながら書いていました。
ユキヤさんの心情をどこまで描くか、というのもかなり悩みましたが
無いわけではないので思ったり感じたりはするけど他人事に近い、
といったニュアンスにしてみたつもりです。
二人の考え方や将来についての認識の相違なども
もしも解釈が違っていたら申し訳ないです。
今回は本当にありがとうございました!
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2019年06月21日

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