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『傭兵たるもの 』
バリトンka5112

「おぬしら! 腕立て伏せ50回! 始め!!」
「ハイッ!」
 バリトン(ka5112)の威勢の良い声に応え、一斉に地面に手をつく若者達。
 その様子を、彼は鋭い目線で眺めて――。

 バリトンは数か月前から、傭兵団に請われ臨時教員を勤めている。
 彼自身、優秀な傭兵であり、若い頃から半世紀に渡って戦場に身を置き続けてきた。
 もう十分戦ったと、10年程前に一度引退したが……何だかんだこうして、結局前線に立っている。
 ――日々の自分が食べるだけの狩猟をし、時々来訪する元部下や弟子達を迎える穏やかな生活。
 それは存外悪くはなかった。
 だが、どうしても守りたいものが出来た為に、再び戦場へと舞い戻った。
 臨時教員を引き受けたのは、ここの傭兵団の団長に以前世話になったからと……あとは、自分の趣味を兼ねてだ。

 そんなことを考えつつ、自分自身も大地に手をつくバリトン。
 親指1つで身体を支えると、悠々と腕立て伏せを始める。
 彼は齢80を越えているが、未だ衰えを知らず。
 広い背中は堅い筋肉に覆われ、動く度に小さな山が隆起する。
 身体を支える腕から二の腕にかけてはとても太く、盛り上がる筋がはち切れんばかりだ。
 そして身体を覆う服の動きから、その下に確かな筋肉があることが推察できる。
 戦う為についた、無駄のない身体。
 その動きを見ていた若者達から、感嘆のため息が漏れる。
「よし、おぬしら。腕立ては終わったか? では次に……」
「バリトン教官! その前に自分、一つ質問したいのですが宜しいですか?」
「何じゃ。申してみよ」
 ビシッと背筋を伸ばした若者に頷き返すバリトン。彼は仄かに上気した様子で、教官を見つめる。
「バリトン教官は以前、『その剣は鉄骨を叩き折り、その拳は巨岩を砕く』と謳われたそうですが、それは事実でありますか?」
「……そのような話、誰から聞いたんじゃ?」
「はっ。祖母から聞きました! 豪腕のドワーフと殴り合いを演じた事があるとも伺ったことがあります。どうしたらそのように強くなれるのでしょう?」
「自分達も教官の若かりし頃の武勇伝、お伺いしたいです!」
 キラキラと目を輝かせる若い傭兵達。バリトンはふぅ、とため息をついた。
「何じゃおぬしら。揃いも揃って……。残念じゃが、その話はもう覚えておるものがおらぬ」
 きっぱりと断じたバリトン。
 ――若い傭兵が祖母に聞いて来た話を覚えている者がいない、というのは嘘ではない。
 それを目撃した者は、全員涅槃を渡り既に墓の下だ。
 確かに若い頃、腕っぷしが強いことを褒められたことがあったかもしれないが……周囲が大袈裟に騒ぎ立てただけだと、バリトンは思っている。
 そもそも事実だったとしても、そんな話わざわざ語って聞かす程のものではない。
 老兵の反応に明らかに落胆する若者達。
 ……自慢話は好きではないが、若者達の興味を摘んでしまうのも如何なものかと思う。
 ちょっと考えたバリトンは、徐に口を開く。
「わしの過去の話は出来ぬが……そうじゃな。力とはなんたるか、という話をしてやろう。それでよいか」
「はい! お願いします!!」
 バリトンの言葉に再び目に光宿らせ、背筋を伸ばす若者達。
 萎れていたと思ったらもうこれだ。現金なものだ……と内心微笑ましく思いつつ、バリトンは咳ばらいをした。
「……良いか、おぬしら。『力』というものが何たるか、考えたことはあるか?」
「『力』ですか……? それは、敵を排除したり、戦ったりするのに必要なもの、ですよね」
「うむ。そうじゃな。『力』は目的を達成する為の手段じゃ。単なる道具でしかない」
 考え込む若者に、頷いて見せるバリトン。
 孫娘達にも、以前語って聞かせたことがある。
 『力』とは目的を達成する、あるいは選択肢を増やす為の手段だ。
 『力』自体には本来意志が無い。使う者に付随するだけ――。
「力は使いようじゃ。良いようにも悪いようにも使える。そして、力を持てば使いたくなるのが道理というもの」
 目を閉じるバリトン。その眉間の皺に、深い苦悩を感じて、若い傭兵達は教官を見つめる。
 ――人より長生きをしたせいか、弟子や部下というものを沢山得た。
 教えられることは教えたし、実際行動でも示して見せた。
 それでも……力を手にしたことで、それに溺れ、身を持ち崩した者達を知っている。
 教えた以上、後は本人次第と理解はしている。
 それでも――彼らを救ってやれたのではないかと、時々思うことがある。
 ……未来ある若者に、あんな思いをさせない為にも。
 目の前にいる彼らにも、きちんと示してやらねばならない。
 それは持ち手次第、使い方次第で変わる。意思なき力はただの暴力でしかないのだ、と。
「その力で何を成し、何を守るのか……傭兵たるもの、それを常に考えよ。破壊の限りを尽くすのは歪虚でもできる。我らは世界と生命の守り手であれ」
「イエッサー! 教官殿!」
「うむ。良い返事じゃ! ……それでは訓練を再開する! 総員配置につけ!」
 バリトンの号令に、散会している若者達。
 ――この傭兵団にいる者達は、気の良い者達ばかりだ。
 自分の教えが。ひとひらでもいい。彼らの役に立つといい。
 ――ただただ戦って、戦い尽くした自分の人生に、意味があったと思える。

 ニヤリと笑うバリトン。
 彼の野太い号令が、傭兵団の訓練施設に響いた。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。猫又です。

お届けまでお時間頂戴してしまい、申し訳ありませんでした。
バリトンさんのノベル、いかがでしたでしょうか。バリトンさんの設定を掘り下げる感じで認めてみました。
というか筋肉の描写がしたっかんです。したかったんですよ(言い訳)。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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ファナティックブラッド
2019年06月24日

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