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『不思議に輝く虹彩箔 』
ファルス・ティレイラ3733

 梅雨の中休み、青空が広がる午後。
 師匠の営む魔法薬屋の一室で、ファルス・ティレイラ(3733)が洗い立てのテーブルクロスを勢いよく広げ、丸テーブルの上にそれを敷いていた。
 親友のSHIZUKU(NPCA004)が、この後お菓子を持って遊びに来てくれることになっているのだ。
 お茶会と称した女子会は、ティレイラとSHIZUKUのマイブームでもあった。それだけ二人の気が合っているのだろう。
「えへへ、今日のお花は特別! お姉さまが直々に買ってきてくれた綺麗なプリザーブドフラワー。ガーベラとピンクの薔薇がきれいだなぁ……」
 そんな独り言を言いながら、ティレイラはテーブルの真ん中にアレンジブーケを置いた。お茶会を盛り立てる役者でもある花は、いつも違うものを用意するように師匠からも言われている。
「……あ、そうだ。新しいシュガーポットもあるんだった。どこに仕舞ってたかなぁ」
 テーブルの上に一通りをそろえた後、彼女はそう言いつつ戸棚へと踵を返した。そして上を見上げるとクッキー缶のストックとその隣に見慣れない箱があり、思わず彼女はそれに手を伸ばした。
「なんだろ……ここにはお菓子と他のティーセットの箱しか置いてなかったはず」
 そう言いながら、手にした真四角の化粧箱を目線へと下ろすティレイラ。蓋の上には『虹彩箔』と印刷された文字のシールが貼ってある。
 おそるおそるそれを開けてみると、中身は折り紙サイズの箔の紙が四種類ほど綺麗に収められていた。
「わぁ……これ、金箔、とかいうやつだよね……何に使うんだろ……金と銅と、これはマーブルっぽい緑色とオレンジ色……綺麗だなぁ」
 箱の中で輝くそれらに、ティレイラは一瞬にして魅了された。一見、普通の箔紙だが、珍しい色合いもあるためか、不思議と惹きつけられるものがあった。
 ――来客を知らせるチャイムが鳴った。SHIZUKUの来訪を知らせる音であった。
「こんにちは〜!」
 直後、そんな元気な声が響いてくる。
「あわわ……SHIZUKUちゃん来ちゃった……はーい、今いくよ〜!!」
 ティレイラは慌てて箱の蓋を締めて、元の位置にそれを戻そうと棚の上に持ち上げた。振り返りつつの行動であったため、箱の角が棚の端に当たってしまい、そこでバランスが崩れてしまう。
「あ、やば……っ」
 箱はティレイラの手を滑り落ち、そのまま床へと落ちてしまった。締めていたはずの蓋が弾みで開いてしまい、中身の箔紙があたりに散らばる。
「あわわ……大変だ……」
 そう言いながら、ティレイラは慌ててしゃがみ込み、辺りに散らばった箔紙をかき集め始めた。
「おーい、ティレちゃん〜大丈夫〜?」
 玄関からそんな声が飛んでくる。SHIZUKUにも箱を落としてしまった音が伝わったのか、心配そうな声音だ。
「ご、ごめんSHIZUKUちゃん! もうちょっと待ってて〜!」
 紙を拾いつつ、情けない声をSHIZUKUに向かって投げる。か弱そうな質の箔紙を、なるべく皴にならないように寄せ集めて、揃えながら箱の中に収めていく。
「お姉さまの新しいアイテムなんだろうけど、本当に何に使うつもりで買ったんだろ……っと、あんなところまで行っちゃってる……」
 半分は愚痴のような言葉をぶつぶつと言いながら、ティレイラは遠くに飛んで行ってしまったらしい銅の紙へと手を伸ばした。
 中指の腹が、とん、と僅かな音を立てて銅箔の紙に触れる。
 ピリ、と指先が僅かに痺れたような気がした。
「……あ、……」
 ティレイラは一瞬だけ、その場で瞠目する。同時に、まずいと焦りを悟ったが、反応が遅れた。
 指先に触れた銅箔の紙が、彼女の手のひらに張り付くようにして吸い付いてきたのだ。
「こ、これ……やっぱり魔法道具……っ」
 そう言いながら、空いている手で箔を剥がそうとする。だが、急速に広がっていくそれは、ティレイラの手には負えない代物――強力な魔力を帯びていて、どうにもならなかった。
「うぅ……SHIZUKUちゃんに……待っててもらってるのに、これはまずいよぉ……」
 しゃがみの体制から前に腕を伸ばしていた事もあり、今は四つ這い状態でそんな言葉を零すティレイラ。手のひらに張り付いた銅箔は瞬く間に彼女の腕へと広がり、それが肩まで到達したころには、満足に身動きが取れない状況になっていた。
 全部の箔自体がそうであったかは定かではないが、物体が触れると反応を起こ6し、そのもの自体を箔で包み込んでしまう。そういった『魔法』であったのだろう。効力的なものを言えば、防御を行うシールド的なものに近いのかもしれない。
「だ、ダメかも……お姉さまぁ、SHIZUKUちゃん……」
 ティレイラの体をあっという間に包み込んでしまった銅箔は、彼女の髪の先までそれを広げたところで、一瞬強い魔力を発した。箔自体の本来の魔力発動のタイミングであったのかもしれない。
 直後、ティレイラは身動きが取れなってしまった。
(うう、動けなくなっちゃった……意識はそのままでいられるみたいだけど、これ絶対外には声出せないよね……)
 内側からそんなことを思案するも、ティレイラにはもうどうすることもできない。
 少女の銅像と化してしまったそれは、ブロンズ特有の輝きを発してきらりと窓からの太陽の光を反射していた。
 それから、数分後の事。
「ティレちゃん……? 入るよ……?」
 SHIZUKUが恐る恐るドアを開けた。玄関で待たされたままであったが、物音がした後何の反応もなくなってしまったことに、不安になってしまったようだ。
 コン、とドアの向こうで何かがぶつかる音がした。それに慌てて目をやると、見覚えのない銅像がその場に転がっている状態であった。
「うわぁ……これ、ティレちゃん……?」
 SHIZUKUは銅像が何であって誰であるのか、すぐに理解できたようであった。こうしたパターンに遭遇する機会が多いためなのか、慣れの部類になるのかもしれない。
(SHIZUKUちゃん、私だってわかってくれた……! だけどやっぱり、声は伝わらないよね……)
 SHIZUKUからしてみれば、正体を知れどもただの銅像だ。色々と彼女に訴えてみるも、やはり声などは届かないようであった。
「まーた、お師匠さんへ連絡案件だねぇ……ちょっと写真撮らせてもらおうっと」
 SHIZUKUは困り顔になりつつも、そんなことを言いながらスマートフォンを取り出し、直後に数回のシャッター音が響く。師匠への連絡用と、彼女自身の趣味を兼ねた一枚といったところか。
「……しかし、ティレちゃんは銅像とかになるとすっごい綺麗だなぁ。芸術ってこういうことを言うんだろうなぁ」
 SHIZUKUはそんな独り言を言いながら、右手を伸ばしてきた。そして銅像となってしまったティレイラの体に触れて、数回撫でる。
「ううーん、この感触……不思議だなぁ」
(SHIZUKUちゃんって、けっこうお姉さまと感覚が似てるのかも……ああ、うぅ……なんだかムズムズするよぉ……)
 触られている感触がなんとなくわかってしまうのか、ティレイラはそんな声を上げていた。しかしその響きは、目の前のSHIZUKUには届かない。
 その後も、ティレイラの師匠が戻ってくるまでの間、SHIZUKUはその少女の銅像の鑑賞を続けているのだった。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 いつもありがとうございます。
 この後はちゃんと元に戻って、無事にお茶会が出来ますように、なんて事を考えてしまいます。
 少しでも楽しんで頂けますと幸いです。
 また機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年06月24日

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