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『Closeness 』
ユメリアka7010)&未悠ka3199

 待ち遠しさが勝って玄関で待っていた高瀬 未悠(ka3199)により、応答は非常に早く。ノックにするか、チャイムにするか。ユメリア(ka7010)が手を迷わせ始めたところでドアが開いてしまったのだ。
「おじゃまします……」
「そんな緊張しなくてもいいのに」
 鼓動が早い。胸元を抑えるように進むが、高揚感は一向に収まる気配を見せない。
 中に入ってから、そして扉が閉まってから。未悠の持つ香りがより強く感じられるせいに他ならない。特に気になるのはローズオイル。以前、自分が彼女のイメージだと伝えた香り。
(……まだ、来たばかりですよね)
 来る前から幸せな気持ちを貰っているというのに。今日の自分は、この多幸感の中で平静を保っていられるだろうか?

 靴を脱ぐという案内に驚く。並んでいる他の靴の真似をして揃え直していれば、横の棚の上に小さな包みを見つける。
 まだ微かにカカオの香りが残る包み紙は見覚えがありすぎる。あれだけ迷って、何度もやり直したその紙は折り皺も沢山ついていたが、その皺も模様として可愛らしく仕上がっている。形そのものも当時と違っているので中身は別のものらしい。気になってそっと持ち上げれば軽い感触。中身が擦れたからこそ、その香りが強まって。手ずから調香した鈴蘭と薔薇の香りだと気付けば、それがブーケからポプリとして形を変えたものなのだと、気付けた。
 大切にしてもらっている。私も、私の想いも。
「どうしたの、中で寛いでもらいたいわ?」
 廊下の先、振り返った未悠が首をかしげているので、笑顔で追いかける。
「今、行きます……!」

「紅茶はいくつかあるのだけれど、ユメリアはどれが気になるかしら?」
 好きなものを選んでもらいたいからと、手軽に淹れられるバッグタイプや、缶入り等の種類を問わず、茶葉をひとまとめにしておいてある籠を指し示す。
「そう、ですね……」
 目を閉じて指を迷わせる様子を眺めつつ、ひっそりと予想を立ててみるる。
「これが、きっと未悠さんのおすすめですよね?」
 手渡された缶は未悠の一番のお気に入り。春摘みのダージリンは、どこか故郷を思い起こさせるから。迷ったときはいつも、このお茶なのだ。勿論今日並んだスイーツに一番合うだろうと、そんな自信だってあるからだけれど。
「正解よ! 本当、ユメリアの嗅覚って凄いわね」
 早速とばかりに淹れながら、テーブルの上に並ぶスイーツひとつひとつのおすすめポイントを伝えていくのだ。

 メインは瑞々しいメロンが並ぶタルト。黄色と緑の二種類の果肉でモンドリアンを思わせる柄が描かれている。店主でありパティシエの気紛れで並ぶパズルのような模様は、全く同じ柄が出来上がることがないのが人気の一翼を担っているらしい。ナパージュが光を照り返して輝きステンドグラスのようにも見え、特別感を演出してくれるのが選んだ決め手だ。そのままの美しい見た目も楽しんでもらいたいし……もし残ってしまったとしてもお土産に出来るからと、ワンホールそのままをテーブルの真ん中にスタンバイしておいたのだ。

 手の上に乗るサイズの瓶に詰まったプリンは3種類。プレーンにはカラメルソース。淡い緑はヨモギだけれど抹茶のソース。プレーンよりも淡い、白に近い色は実はジャガイモで、黒蜜が添えられていたりする。瓶の首部分には中身を教えてくれるタグと共にリボンがかかっているので、それだけでもインテリアのように可愛らしい。

 パステルカラーが可愛らしいマカロンは小さめの器に山盛りで。ピンクだけでも苺とサクランボ。ギリギリではあったがサクラもまだ店頭に並んでいた。黄色やオレンジなのはパイナップルやマンゴー。グリーンはキウイにメロンにマスカット、それに梅。其々色味の違いは大差なく。だからこそ味と香りが楽しめる。ユメリアなら、中でも一番に楽しんでもらえるだろうと思っている。

 並ぶのは甘いものだけではなく。スパイスをきかせたクッキーが数種類。ジンジャーは定番だが、チーズと黒胡椒だったり、桜葉の塩漬けだったりと、あえて甘さを避けたものばかり。同じ皿にはオーガニックがうりのポテト&ゴボウチップスが添えられているあたりに拘りを感じさせた。


 挨拶の声 のせるのは信頼と願いの欠片
 笑顔の色 道標を目指して鮮やかに描く
 甘く香る 温もりに包まれて道を定めて
 輝く翼は対になって夢の先をはばたくから


「その……手土産、と言っていいのかわからないのですけれど」
 抱えていたリュートとは別に、ユメリアが持ち込んでいた小さな鞄。そこから取り出されるのは薔薇の刻印が入った香水瓶。スプレータイプのそれを未悠がほんの少し手首に纏わせれば、まだ色褪せることなく記憶に残る、むしろ毎日のように楽しんでいる、いつかのブーケの香り。
「まだ残っていたの?」
 あの日に全て使い切ったのだと思っていた未悠の疑問に、そうではないと首を振るユメリア。
「確かに配る分は全て使い切りましたけど……未悠さんの分は、それとは別に調香したものですから」
「あら、そうだったの?」
 特別扱いに照れを感じながらも微笑む未悠は、もう一度瓶を眺める。
「なるほど。鈴蘭とは別の香りもある気がしていたけれど。……私のイメージだって言ってくれた、薔薇で合っていたのね」
「玄関のポプリを見て、渡す勇気が出ました。贈ろうとは思っていたのですが、タイミングを見つけられなくて」
 今日も密かに持ってきていたのだという。
「無駄にならずに済みました」
 言いながらも本心は違う。未悠自身と、未悠の幸せを想って調香したものだから、香水そのものを愛でる自信がユメリアには十分にあった。実際、あの日にもらった鈴蘭の香水瓶の中に、ほんの少し取り分けて、自分用に残してあったりするのだから。
(もし、もう一度同じ香りを作る必要があった時。その資料にもなりますし)
 そんな建前だって、しっかり用意してある。
「そんなことないわ! 私の為の香りなんでしょう? 嬉しい以外あるわけがないのに……ありがとう、ユメリア」

 リュートの弾き方講座も交えて、いくばくか。
「あっ……申し訳ないです。昼食用で何か、買ってくればよかったですよね」
 気が利かずに申し訳ありませんと頭を下げようとするユメリアに、慌てるのは未悠である。
「そこは私が気にするところだからいいのよ!? むしろごめんなさい……軽食としても楽しめるようにって用意したけれど、やっぱり物足りなかったかしら」
 午前中からスイーツ充を予定していたので、朝食は軽く済ませてきて欲しいと伝えていた未悠。おしゃべりも音楽も挟みつつ、楽しく食べる。だからこそ塩気のあるものも並べて、ランチの分まで充分な量を用意したつもりだったのだけれど。
「いえ、そんなことは。でも……その、未悠さんのお部屋ですし……」
「ユメリア?」
「……お願いしても?」
「? 私に出来ることなら、なんだってするわよ?」
「それじゃあ……私、未悠さんの手料理が食べたいです」
「えっ!?」
「むしろ、手料理を期待していたと言いますか」
「!?」
「……やっぱり、駄目でしたか」
「そんなことはないわよ!? ……本当に、食べたいのね?」
「はい、出来るなら、フルコースでいただきたいです!」
「……わ、わかったわ、女に二言はないわよね!」

 台所に立つ未悠の後姿を見ながら、どうしても笑みが抑えきれなくて。両手で頬を抑えながら、落ち着かなければと深く息を吸いこむユメリア。
(わ、我儘を言ってしまいました……!)
 この時間が幸せ過ぎて、調子に乗ってしまったのかもしれない。今なら、何を言っても叶えてもらえそうで。
 未悠の香り、未悠の声、未悠の笑顔。
 時折触れる温もりまで感じたら……足りなくなってしまった。
 五感全てで、未悠という幸せを受けとめたくなってしまった。
 未悠の腕は知っている。
(でも、未悠さんが作った、それだけで素敵になるんです)
 むしろそれこそが最高の調味料なのだと知っている。
「……楽しみです」

 楽し気に腕を揮う様子を見るに、我が儘はそうとられなかったのかもしれないと、思い直して。
「何か、お手伝いすることはありませんか?」
「ユメリアは今日、お客さんなのだもの、好きに寛いでていいのよ?」
「待つのも嫌いではないのですが……でしたら」
 こくり。ひとつ息を飲む間に、もう一つの願い事を告げる勇気をひねり出す。
「邪魔にならないようにしますから……近くで、見ていてもいいですか?」
 貴女が私の為を想ってしてくれる全てを、出来る限り全て記憶したいから。


 輝かしい未来見据えて 可憐な橙の鳥と空を仰ごう
 幸福の欠片が見えたら 美しい花弁を目印にして
 優しき白い雲が 示す道を辿れば
 儚き紫 幻の青 隠された蜜が香るから


 鮮やかな星空が皿の上に表現されている。その中でも特別輝く星は三種類。
 葉野菜を食べやすい大きさに刻みソースで合えた緑。慣れ親しんだ薬草達に近い香りが広がる以上に口の中に広がる芳醇なえぐ味。丁寧に切られているため個別に判断は難しいが、生食に向かない葉が大きな割合を占めているらしい。よく噛めば白ネギの葉の青い部分も含まれている。ソースに使われた蜂蜜は勢いを殺してくれない。
 製菓売り場で見かけるプチタルト台に詰め込まれたのはカレー粉和えの大根おろし。水分を絞ってベチャットした口当たりは回避されているが、やりすぎてボソボソしたのだろうか、タルタルソースで粘性を与えて、それでも足りなかったのか小麦粉も加わったらしい、なぜわかるかというと、今、咀嚼中にダマを発見してしまったからだ。
 スパイシーな香りが鼻腔に適度な刺激を与えてくれるポテトサラダボールは、とにかくどこまでも赤い。トマトの香りはしないので、この色はすべてタバスコ由来。わずかに旨味を感じさせるポテチ由来コンソメの香り。だがそれは焼け石に水。
 抜き型を駆使して盛りつけられている人参や胡瓜、玉葱は全て水に晒すなどの下処理がない、生。素材の香りをお楽しみください。

 どう考えてもポタージュとガスパチョのレシピがカオスマリアージュしているスープから感じる素材の香りを上げていくと、まずは濃厚な生クリーム。新鮮な南瓜と人参(生)、香ばしいジャガイモと茄子(焼)、多すぎるニンニクと玉葱(茹)……ミキサーで混ざった後の色を表現する方法をユメリアは知らない。ちなみに裏ごしや味見後の調味はされていないので、喉ごしはまったくよくなかったりする。

 過剰すぎるハーブソルトの後にウェルダンを通り越し表面が炭化したステーキは、黒い部分を丁寧にそぎ落としてから盛り付けられたのだが、食感はハードの一言。しかし香りは悪くなかった。切り分けてからそのひときれを嚥下するまでの時間が最低でも5分かかることを除けば、比較的胃にやさしかったのかもしれない。

「無理して食べなくてもいいのよ?」
「心配しないで大丈夫です。私、食べるのが嬉しいんですよ」
 元から未悠の腕は知っているのだ。頼んだのはユメリアで、どんな仕上がりだろうと楽しんで食べられると自負がある。
「作った責任があるのだから、私も食べるわ」
「それを言うなら、頼んだ責任というのが、私にだってあります」
「……ユメリアぁ……!」
「でも、そうですね。少しだけ量が多いので。お手伝いをお願いしてもいいですか?」
「ええ! それじゃ」
「あーん♪」
「んむっ」
 差し出したのは小さく切ったステーキ。咀嚼時間が長いので、ユメリアは他の料理にゆっくりと向き合える。

「……おなかいっぱいです……ふぁ……」
 差し込む午後の穏やかな日差しも、瞼をどんどん重くする。
「夕食なんてもう入らないわね」
 未悠の呟きを聞きながら、ゆっくりとラグの上に身を横たえていく。
(確かに……休みやすくて、過ごしやすくて……)
 優しい薔薇の香りが近づいてきて、笑みが深まる。
「ユメリア? ……私も、眠くなってきたわね」
 大好きな声。柔らかな響きだけはわかるけれど、もう意味までは捉えられない。
(……おやすみなさい)
 すぐ隣の温もりにすり寄るようにして、ユメリアは夢の世界へと旅立っていった。


 大好きの言葉を 笑顔に籠めて
「あそびにいこうっ!」
 楽しい時間が待ってる

 大好きの言葉と 手を差し出せば
「いつだっていっしょだよ」
 笑顔も繋がって溢れるよ

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ka7010/ユメリア/女/20歳/聖奏導士/夢の中でも貴女が居れば、未来も】
【ka3199/高瀬 未悠/女/21歳/征霊闘士/昔から、傍に居たような安心感】

二輪が揃えば桃色に、その瞬間は言葉通りに思い出として刻まれる筈。
教えて、諳んじて、夢に見る。三曲の欠片は、記憶を彩るための要素でもあります。
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2019年06月24日

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