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『魂を送る者 』
リューリ・ハルマka0502

「燕太郎さん、セトさん、オーロラさん。こんにちは! お花持ってきたよ!」
 辺境の地にある開拓地ホープ。そこの片隅に新たに建てられた墓標に、リューリ・ハルマ(ka0502)は笑顔を向ける。
「ごめんね。皆も一緒に来られれば良かったんだけど。大事な依頼があるんだって。今日は私だけだけど我慢してね」
 声をかけながら、墓標に供えられた花を手入れするリューリ。
 萎れた花だけ取り除き、水を替えて……自分が持ってきた花と食材をそこに添える。
「これ、私が焼いたクッキーだよ。これはお友達から託されたツナサンド。あ、今お茶も出すね」
 水筒から、コップに紅茶を注ぐ彼女。それも墓前に置くと、そっと手を合わせて頭を垂れる。

 ……これは、辺境に転移し、犠牲となったリアルブルーの人達の為の墓標だ。
 歪虚から親友を守り、志半ばで散って行ったセトという男も。
 転移した先で歪虚に見初められ、怠惰王の名を冠するまでになった少女も。
 ――大切な少女と親友を守れず、死してなお『守ろう』として狂い果てた男も。
 皆、ここで、静かに眠っている。

「燕太郎さん、そっちはどう? セトさんとお酒飲めた? 今日は私も一緒にお茶会させてね」
 墓標に声をかけ続けるリューリ。
 紅茶を一口飲んで、ほっと溜息をつく。

 ――最近の彼女は、暇が出来るとこうしてここに足を運ぶようになっていた。
 お墓の前で泣きたい訳ではない。別段後悔をしている訳でもない。
 ……あまり理解はされないだろうが、彼女としてはお友達に会いに来ているような感覚だった。
 だから1人でも話したいことを話すし、やりたいことをやる。
 リューリはじっと墓標を見つめると、徐に口を開いた。
「そういえば、燕太郎さん。あの時はありがとね」
 ――あの時、とは。怠惰王の力を吸収し、ニガヨモギの影響を受け『終末の獣』と化した彼と戦った時の話だ。
 リューリが思わず『やめて』と叫んだ。
 その時、微かに聞こえた自分を呼ぶ声。
 ……その刹那。獣の振り下ろされた腕が止まったのだ。
 ――何故、そうなったのかは本人に聞かなければ分からない。
 聞きたくても、彼はもう消えてしまった。

 それでも……リューリが思う。
 理性も感情も喪ったはずの彼が、微かに残した『ヒト』の部分。
 それが、ああさせたのではないか。
 あの人は死ぬまで努力して、死んでからも努力して……その果てに得たのは守る力ではなく、何もかもを破壊する為の力だった。
 二律背反に苦しみ続けた挙句――その手には、憎悪と悔恨しか残らなかった。
 そんな哀れな彼が、消えゆく時は『ヒト』としての感情を思い出していたと……そう思いたい。

「燕太郎さんの事は絶対忘れてあげないんだからね、何なら語り継いじゃうもんね! すごく強くて優しい人がいたって……。向こう200年は語ってあげるから、覚悟してよね」

 ――お前は本当にしつこい女だな。どうしてそこまでして俺に構う?

 そこにいないはずの男の声が聞こえたような気がして、リューリはにっこりと微笑む。
「そうだよ。私は燕太郎さんが好きだし、諦めが悪いんだから。……もっと早く会えてたら良かったって思うくらいには」
 そう。多分自分は。
 歪虚であるあの人を『人間として』好きだったのだろう、と思う。
 深い意味はない。恋愛感情を抱くほど深い関わりもなかった。だって敵だったし。
 それでも。あの人が歪虚にならず、精霊と契約をしていたら、さぞや勤勉で優秀なハンターになっていただろうし……何より、きっと良いお友達になれていただろう。
 ――不謹慎だけれど、彼が消えた時には、もう苦しまなくて済むと安堵もしたが……同時に悲しかった。
 ……そんなことを考えてしまうくらいには、あの人を大事に思って――追い続けた3年間だった。
 そんなことを今更考えても仕方ないのは分かっている。
 だからせめて……彼や、彼の大事な人達の眠りが、穏やかなものであるといい。

 ハンターズソサエティは先日投票の結果、邪神ファナティックブラッドへの徹底抗戦を選択した。
 ……正直、良かったと思う。
 邪神の中で同じ記憶を永遠に繰り返すということは……あの人の憎悪、悔恨を何度も繰り返すということだ。
 あの苦しみを、何度も味わうなんてあまりにもあんまりだ。
 彼や、彼の愛した者達が安心して眠れるようにする為にも、やはり邪神はぐーぱんちしないといけないと思う。
 うん。絶対そうだ。
 自分だけでは力不足だから、親友たちにも手伝って貰おう。
「……そうだ。ヴェルナーさんにお願いしてホープに月待猫の出張店舗を置かせて貰おうかなあ。そしたら毎日ここに来られるもんね」
 にっこりと笑うリューリ。彼女の胸元で鈍い光を放つドックタグをそっと握り締める。
「私の寿命が尽きるまで、何度だってここに来るからね。……だから、寂しくないよ」
 呟くリューリ。
 ハンター業務と喫茶月待猫の店主に加え、墓守という仕事が増えそうだったけれど。
 一生をかけるに値すると。そう思う。
「さて、そうと決まったら皆に相談しないとね。勝手に出張店舗増やしたら叱られちゃうし」
 善は急げと立ち上がる彼女。水筒をしまうと、墓標を振り返る。
「……また来るからね」
 そっと声をかけるリューリ。墓標が応えることはないけれど……纏う空気が、何となく優しくなったような気がした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お世話になっております。猫又です。

お届けまでお時間頂戴してしまい、申し訳ありませんでした。
リューリちゃんのノベル、いかがでしたでしょうか。幻想のエピローグノベルのその後を掘り下げる感じで認めてみました。
ifの話になりますが。青木がハンターとなっていたら、リューリちゃんと恋愛フラグを立てていたのかなと思っておりました。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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ファナティックブラッド
2019年06月25日

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