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『サムライになろう! 』
シセ・カジュla2517

 空は、今日も高く青い。
 シセ・カジュ(la2517)は、口元に咥えた高楊枝を甘噛みしながら、ぼんやりと草っ原に寝転び、そんな青空を見つめていた。
 シセはヴァルキュリアだ。
 元々はごく普通のアンドロイドで、自我を備えていなかった。それが何の因果か自我を備えることとなり、いまはライセンサーとして活動をしている。
 自我を備えたと言うことは個性を持ったということとも似ている。シセがシセとして目覚め、手に入れた個性は、『サムライへの強い憧れ』だった。
 サムライというのは、無論十七世紀から十九世紀頃に日本に存在していた武士――侍のことである。と言ってもいまの日本にそれは存在しておらず、しかしそのエキセントリックさから、二十世紀から主に欧米諸国に根強いファンがいた――言ってみればシセはその流れを汲む、強いサムライマニアなのだ。
 そのシセだが、今日はライセンサーとしての仕事もなく、のんびりと平和を謳歌している。と、そこにふわりと強い風が吹き付け、シセの顔に――シセは女性寄りの姿形をしているが、アンドロイドと言うこともあって明確な性別はない――一枚の紙切れがひらりと舞い落ちてきた。
「……む、なんだ……?」
 シセは首をかしげながら紙切れを顔からはなし、それをまじまじと見る。そして、
「な、なんだと!?」
 思わず大きな声を上げてしまった。と言うのも、その紙切れはとあるテーマパークの広告であり、そこには、
『みんなで遊ぼう! 一日侍姿でタイムスリップ!』
 ――そう、でかでかと書かれていたからである。
 
 ***
 
 そしてその次の休日。
「とうとう来たのだな……!」
 予想通りというか、シセの姿はそのテーマパークにあった。そのテーマパークは江戸時代の日本をテーマとしたそれなりに歴史のある場所で、江戸時代の街並みを再現した作りになっている。ただ、歴史があると言うことはつまりそこそこ老朽化も進んでおり、所々に古びた印象を受けた。
 しかしシセにしてみれば、このほうがむしろサムライのいた街並みっぽくてよい、となる。胸をわくわくさせながら、まずは『越後屋』と書かれたのれんをくぐる。ここはいわゆる貸衣装を扱っているのだ。
 そしてああだこうだと数十分。シセは時代劇でも有名な隻眼の剣士をイメージした服装で、テーマパークの中にいよいよ繰り出した。
 いま腰に差しているのは、ごく一般的な模造刀だ。しかし拵えなどは凝っているし、何より大小二本差しで歩けるのはいやでも胸が高なる。時代劇の、しかもやや偏った知識が多いところはあるが、それでもやはりこういうところで楽しむのならばやはり形からはいるのが楽しい。
 貸衣装も本格的だ。それもそのはず、このテーマパークでは時折時代劇などの撮影も行われているのだから。また、テーマパークの従業員は基本的に江戸時代の服装を身につけており、雰囲気満点。
 そこを剣士スタイルで歩くシセは、すっかり満面の笑みを浮かべている。
 こんな場所があるというだけでもわくわくするのだから、もっとわくわくできることが待っているに違いない。テーマパーク自体は平日と言うこともあって人も多くないし、一人でも満喫することができそうだ。
 と、小腹が空いていることを思い出した。何かないかと周囲を見やると、茶屋らしき店がのれんを下げている。店の前には赤い布を敷いた縁台が置かれていて、いかにも『峠の茶屋』っぽい。
(こういうところで、よく時代劇の主人公は団子を食べたりしているな)
 そんなことを思い出したシセは早速その店に行くと、みたらし団子を頼んだ。しばらくして運ばれてきたのは、団子と茶碗に入った抹茶だ。そんな心配りをもにくいと思いながら、気がついたら食べ尽くしていた。抹茶を飲み干すと、その苦みが口の中の甘さを洗ってくれるようだ。
 腹もふくれ、満足のいく気分で茶屋をあとにする。今日、これから目にする出来事にいっそう期待しながら。
 
 ***
 
 ……帰り道。シセはうとうととまどろみながら、電車に乗っていた。
 ニンジャの巧みな動きに見惚れ、サムライたちの殺陣も見、当時の娯楽であった見世物小屋を再現した建物も体験した。写真に収めたりと言うことはあえてしなかった。カメラは当時の日本には不釣り合いな代物だからと、彼女は持ち歩かなかったのである
 しかしどれもこれも、彼女の心をくすぐるのに十分な代物で、結果、心地よい疲れに包まれている。瞼の裏で、今日起きた出来事が反芻される。
(楽しい一日だった、な……)
 きっと今夜は、いい夢が見られそうだ。
 そんなことをそっと思いながら、帰路につくのであった。
 
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
今回はご発注ありがとうございました。遅くなりましたがお届けいたします。
時代劇などの古き良き時代の侍が好きというキャラクターさんとお見受けしましたので、折角ならそれを体験してもらいたいなと思い、こういった作品になりましたが、お気に召してくださると幸いです。
こういうテーマパークはじっさいに国内にいくつかありますが、ロマンを感じますので。
では、改めて今回はありがとうございました。
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グロリアスドライヴ
2019年06月27日

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