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『しっとりしっぽり 』
cloverla0874)& ハドレー・ヴァインロートla2191

「うえええーー」

 clover(la0874)はなんとも情けない声を上げながら、ハドレー・ヴァインロート(la2191)の部屋に上がり込んでいた。
 彼はズブ濡れだった。お出かけしていたら急な雨に降られてしまってこのザマだ。緊急避難的にハドレーの家に逃げ込んだのだ。

「おっさーん! おっさーん! いないのか……いないのか?」

 そう言ってクローバーは辺りを見渡すが、部屋主のハドレーはいない。仕事だろうか。まあしょうがない。しょうがないから一応は「シャワー借りるぞー」とだけ言って、クローバーはビショビショと濡れた足跡を残しながらお風呂場へ向かったのであった。



「ふぃー……疲れたー、っと」

 ぐっと伸びをしながらハドレーが戻って来たのは、そこからほどなくしてだった。
 仕事からの休憩だ。「だはぁ」なんて年齢の滲む溜息を吐きながら、彼は肩を回したり首を回したり。さてコーヒーでも飲むかな、と思い立ち、しかし――立ち止まる。

「なんじゃこりゃ」

 足跡がある。濡れた足跡だ。それは点々と風呂場へ向かっていて――

「あ。おっさんおかえりー」

 風呂場からガラッと出てきたクローバーとご対面。

「……」
「……」

 束の間の沈黙。
 もくもくと開けっ放しのシャワールームから水蒸気。

「……何やってんだお前」
「シャワーだけど」
「見たら分かるけど、いや、なんだ……何て言えばいいんだ」
「おっさんタオル」
「おっさんはタオルじゃありません! ていうか……まぁァアーーた着替えも用意せずにシャワー浴びっぱなしか!」
「だってぇ! 雨が急に降ってきたんだもん! 仕方なくね? 雨はクロ君の所為じゃありませんン〜〜〜気象操作ができるハイパーロボットならナイトメアなんかチョチョイのチョイだし」
「そうじゃなくてェ! 論点をすり替えるな! も〜〜小さい子供じゃないんだから!」
「そうだぞ!! ジェントルメンだぞ!」
「ジェントルメンでもないからね! ジェントルメンは……そんなビチョ濡れのままお部屋をウロウロしないッ」
「自由形なんだよぉ!」
「そんな水泳の競技名みたいな! あーも〜〜床に転々と水溜りできてるし……ていうかシャワールームも閉めて! 湿気! この季節はただでさえ湿気きついんだから!」

 言いながら、ハドレーは手近にあった衣装ケースからバスタオルを引っ掴んで取り出した。憤然マン。

「まず身体ちゃんと拭きなさい!」
「いいよ! おっさんが俺のことを捕まえられたらなーっ!」
「ぬゎんでそうなるーッッ」
「だって、追いかけられたら逃げるしか?」


 鬼ごっこバトル、ファイッ!

 お部屋の中を風呂上りの水も滴るイイ男のまま逃げ回るクローバー。
 バスタオルを手に「こらーっ」と追いかけ回すハドレー。
 どったんばったん大騒ぎである。

「こらー! クロおま……ハァハァ……こらー! 何故逃げる!? 全力移動使うなー! ライセンサー能力の無駄遣いするなー! そんな面倒な反射要らないからねー!」
「勝てばよかろうなのだ、勝てばなー!」

 ライセンサーの身体能力を無駄に活かして、ヒュンヒュンヒュンと狭い部屋を縦横無尽に駆け回るクローバー。
 42歳のハドレーにこんなアグレッシブはきつい。ゼェハァと息を弾ませている。
 対するクローバーはというと、まるで疲れた様子もなく、キャッキャキャッキャとはしゃいでいるのだ。完全に遊んでいる。ハドレーは遊ばれている。

「ぐぬぬ……ハァハァ……この……この〜〜〜!!」

 もう部屋をぐるぐる何週しただろうか。いい加減に目が回って来た。
 一方でクロも飽きて来たのか段々逃げ回る速さが落ちてきているような。
 よし、ならば今度こそ捕獲だ。これで決める。ハドレーは手にしたタオルに想像力をこめた。

「くらえーっ」

 ヤケッパチになってきたハドレーの移動攻撃! タオルばさー! タオルで閉ざす白!

「うわーっ」

 頭からタオルを被せられて、視界が真っ白になるクローバー。
 ようやっと捕まえた、とハドレーは安堵する、が。
 部屋は濡れたままのクローバーが駆け回ったのだ。つまりどうなっているかというと、床があっちこっち濡れまくっていて。
 ハドレーは、その濡れた床にツルッと足を滑らせてしまうのだ。

「うわ、ッ!?」

 ――どたん。

 転倒の音だ。
 それもとびきりドハデに転んだ。

「あいててて…… あっ。クロ君、大丈夫!?」
「お、おう……」

 端的に説明しよう。
 ハドレーがクローバーを押し倒した感じだ。

「頭とか打ってない? 平気?」

 そう心配するハドレーだが、ハッと気付く。
 風呂上りでしっとりした少年を押し倒している42歳という構図に。

「……」
「……」

 沈黙再び。
 時計の針のカチコチという音がじれったい。
 窓の外は雨である。

 気まずい。
 というかお互いに思考停止だ。

 クローバーは風呂上りで言わずもがな。華奢な少年の素体のまま。危うい色気がそこにあった。
 ハドレーも走り回ったことで息が弾んで、肌も少し上記している。男の色気がそこにあった。

「え……まさかクロ君、おっさんと一線を越えちゃう展開? イケナイ関係に突入ですか?」

 クローバーが口元をひきつらせて呟いた。
 それにハドレーは我に返って、パッと彼から飛び退くと、傍に落ちていたタオルを今度こそ少年に投げつけるのだ。

「ば……バカ言ってないで早く体拭いて服を着る!」
「……うん、わかった」

 ハドレーにはお世話になってるし、いい加減に拒否もできない。ていうかできる空気じゃない。
 なんとなーく気まずくて、クローバーはハドレーに背を向けて、ごそごそ……とタオルで濡れた体を抜いた。いつの間にか(そしてハドレーが無言で)傍に服も用意されていた。二人の間柄は極めて親密だ。だからここにもよくクローバーは出入りするため、彼の着替えをハドレーが律義に用意しているのだ。

「……なにかあったかいの飲む?」
「ココアで……」

 そう、親密なのに、今はそこはかとなーく、余所余所しいというかソワソワしているような空気である。
 ハドレーの言葉にボソッと答えたクローバーは、変な気持ちをどうにかするかのようにガシガシガシッと頭を拭く。

(……ヤバイ、なんだコレ……なんか一瞬ヤバかった……えー……いや、ナイナイ! ないって! むーーっ!)

 一方でハドレーも、なんとなーくクローバーを直視できなくて、ていうか今は視界に入れるのも変な気持ちで、ココアをそそくさーっと準備して。「ここ置いとくからね」とやっぱりそそくさーっと言って、何かしていないとなんとかなっちゃいそうで、濡れた床を拭き始めるのだ。

(別にやましいことはないな……? 事故だもんな……?)

 ハドレーは自分にそう言い聞かせる。
 だというのに、なんだろう、この答えの出ないようなモヤモヤぐるぐるした感情は。
 せっせと床拭きに精を出しているというのに、意識の端にちらつくのは、床に押し倒された華奢な体だ。しなやかで、でも少年らしさの確かにある四肢、――

(いやいやいやいやいやいやいやいや)

 ハドレーはぶぶぶぶぶっと頭を振った。無駄に床をゴシゴシする手に力を込めた。そういえばここはクローバーが倒れていた場所……いやいやいやいや。
 そして気付くのが沈黙だ。この沈黙がいけないのか!? この……この、なんだ! どうずればよいのだ!

「お、おっさんもコーヒー飲む!? あっコーヒーの淹れ方よくわかんね! 牛乳飲む!? 飲むよね! 俺用意してあげるからッ!」

 沈黙を破るのはやっぱりクローバーなのだ。気まずい雰囲気に用意されたココアを一気飲みしてしまったクローバーは、空気をどうにかするかのようにヤケッパチめいた大声で言うと、勢いよく冷蔵庫を開けた。

「あ! うん! 牛乳! 俺、牛乳大好きだから!」

 ハドレーも普段の冷静さが失われている。勢いよく元気よく返事をする。「よっしゃ任せろ」とクローバーは牛乳パックを取り出し、それが新品だったので、「まあクロ君にまかせなさい」と無駄に独り言を量産しながら、グググッと力を込めて、

「フンッ!」

 ぶっしゃー。

 見事にパックを引きちぎるクローバー。
 飛び散る牛乳。白いやつ。牛乳が顔にビシャーっとなるクローバー。

 ――そして世界が止まった。

「……」
「……」

 ハドレーはスッと目を逸らした。
 クローバーは遠い目をした。

「「……牛乳買ってくるッッ!!!」」

 二人は同時にそう提案して、お互いにツッコむ余裕もなくて、傘も持たずに二人で外に飛び出しましたとさ。仲良しかな?



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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clover(la0874)/男/17歳/ヴァルキュリア
ハドレー・ヴァインロート(la2191)/男/42歳/人間
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2019年07月02日

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