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『残酷な祝福をあなたに。 』
メアリ・ロイドka6633

「──頼み事というのはその相手に適任かどうかを十分に考慮の上で行うべきと思いますが」
 メアリ・ロイド(ka6633)の話を聞くなり、高瀬 康太(kz0274)は冷ややかに言った。
「適任かと思いましたけど。康太さんは格好いいですし、軍人ですから姿勢も良いです」
「……。もう少し真面目に考えてください。こんな無愛想な人間にモデルが務まりますか。愛想笑いなんて僕は全く出来ませんよ」
 さらりと言うメアリに康太は溜め息を深くして答えた。
 つまりはそういう話だった。初めはメアリが単独で受けた依頼だったが、急遽男性役の都合が付かなくなった為誰か知り合いは居ないかと。
 それで何故自分がモデルなど──しかも、ウェディング広告モデル、だと?
 ……おかしな話だとは思ったのだ。先日の蓄音石のデータを消すから目の前で確認してくれ、と言われて呼び出され、そのまま連れてこられた場所。何故わざわざこんな場所まで、と案内されたその喫茶店からは教会が見えた。
「報酬きちんと康太さんにも支払われますし……後でケーキ奢りますから」
「報酬の問題ではありません」
 金の稼ぎようなら他にあるし、甘味は好物でもそれでなんでも言うことを聞くほど目がない訳ではない。
「僕がやる必要性が無いことを苦痛を我慢してやらされる義理はありません。もっとそつなくこなせるだろう他の人間を当たってくださ……」
「……」
 言いかけて、康太だけではなく互いに何となく沈黙が生まれた。モデル仕事がそつなくこなせそうな共通の男性の知り合い。
 言われてみれば思い出す顔はあったが、しかし。
「……なんか聞いたところによると先日の戦いで重体ですとか」
 悼ましそうに視線を伏せてポツリというメアリに、康太は思いっきり顔をしかめた。
「別に……他にも居るでしょうっ……!」
 同じ顔を思い浮かべたのが色んな意味で癪だったのか苛立たしげに康太は更に言う。
 メアリは一応という風に、うーんと何人か試しに考えてみて。
「……仏頂面が駄目ならあの人もどっこいですし……あの人はどうせ忙しいでしょうし……流石に恋人が居る方にはこんなこと頼めませんし……」
 暫く、それなりに真面目に考えた素振りをして。
「やっぱり、他に頼めそうな人もいません」
 はっきりそう言われると、康太は一度奥歯を噛み締めて沈黙した。伏せた顔から睨み付けるようにメアリを見て、ふとそこで、ずっと気付いてはいたが言い出しそびれていたそれに視線が止まる。
 メアリは訝しげにその視線に反応して、そして、「ああ」と気が付いて、
「ただの気分転換です、別にまだ失恋はしてませんから」
 そうして、短くなった髪を軽く指で後ろに流しながらそう言った。
 ……失恋で髪を切る。良くある謂れだと確かにそれを少し意識はしていた。諦めたか気でも変わったならそれはそれでホッとすると。だがそんな安直な話ではなかったらしい──良くある、謂れ?
 ふとそこで康太にもう一つ、思い出すものがあった。
 ……。
 それは。
 そうなるなら。
「わかりました。いいですよ」
「え?」
 そうして、急にあっさりと康太はそう答えた。
 メアリはまた目を瞬かせる。
 なんで彼は不意に反応を変えてきたのか──あんまり、いい予感がするものでは無かったが。
 ただ、どんな意味だろうとめげる性格のメアリではない。妙なことを考えているならぶち破るだけだ。そんな心配よりこの好機を逃さない方が大事だと、彼女はそう判断して、気が変わらないうちにと立ち上がるのだった。

 花嫁姿に整えられたメアリは間違いなく美しかった。レースのあしらわれたマーメイドドレスは大きく肩口を見せる大胆なデザインだが、決して下品ではない。レースからドレスのデザインへと至るグラデーションはメアリの肌とのコントラストを一層映えさせた。髪も美しくセットアップされ、ヴェールや小物で着飾られた彼女は康太に静かに歩み寄るとはにかんだ笑みを浮かべた。それは正に幸せな花嫁そのもので。
 一方康太はと言えば。
「あの、もう少し笑顔とか作れますか」
「無理です。僕はあくまで緊急の代理ですので、そう言った職能は持ち合わせません」
 困ったように言うカメラマンの前で、康太はばっさりと切り捨てるように言った。
 これでも仕事なのだから……と思うかもしれないが、これが康太なりに真面目にやっている形ではあった。出来ないものは出来ないとはっきり言う。半端な、バレバレな作り笑いをするよりは自然な巣の表情の方がマシじゃないですか、というのが彼の言い分だった。
 ……仕事でも、作りでも、意地でもメアリには笑顔を見せない気なんじゃないか、というのも感じられなくもないが。
 だが結果としてはプロデューサーがそれならばとそちらが相応のプロ根性を見せることで早く片が付くことになった。
 硬い、だが真剣な表情で立つ康太。その横で、微かに見せ始めた、というような、やはりどこか慣れない者による笑顔のメアリ。要はそれが『そうとしか撮れなかった』ではなく、『敢えてそういう表情をさせた』というストーリーを添えてやればいいのだ。
 ──ようやく素直になり始めた二人の、結婚から始まる幸福。
 そんなキャッチコピーと共に添えられた二人の写真は、カメラマンの腕前もあって輝きと祝福に満ちたものに見えて、成程見る者にこれはこれでと、二人のこれまでとこれからを色々と想像させる出来栄えではあった。
 なんだかんだで終始、こちらは間違いなく心から真面目に取り組んでいたメアリは、試し刷りのその画像を見て満足げにまた微笑む。
「きちんとした服装似合いますよね。ええっと……格好いいってやつです」
 僅かに言い淀むのは、褒めようとして照れたからだった。傍目にそれは、いじらしい態度というものだった。微笑ましいような。
「男性の正装など誰でも概ねこんなものでしょう。軍服と大差あるとも思いません」
 康太の反応はやはり硬かった。この話になってから、ずっと硬い。
「ウェディングドレス、着る機会もないと思っていましたが、着るなら好きな人に見てもらいたかったんです」
「……。女性の服装の良し悪しなど尚の事、僕にコメントを求められても困ります」
「──……。別に褒めてもらおうとかそんなんじゃねえよただ嬉しいってことを伝えたかっただけだ」
 少し沈黙を挟んでから、メアリは答えた。
 ずっと。やはり康太は、ドレス姿のメアリに何らかの反応を示すことは無かった。
 実際のところ、康太には分からない。彼女のそんな姿を見て、喜べばいいのか……絶望すればいいのか。
 行き詰まることが確定の己の身にこんなものを見せられてどうすればいいのか。彼女との関係は、康太からすればすでに詰んでいるのだ。
 生真面目一辺倒の彼にとって恋愛とは結婚の前提として有る物であり、つまり責任を取るという事と同義だった。
 責任。
 そんなものが義務として既にあるのであれば、どうとるのが正しいのか。
 思い出を重ねることは残酷ではないのか。……それとも、また次を願えるための標となりうるだろうか。
 ちらりと横目に見る。
 ──ウェディングドレス。

(知ってますか? 貴女の故郷では知りませんが。僕の国は、婚前にそれを着ると婚期が遅れるという謂れがあります)

 遅れる。
 決して、逃すでは無く。
 ……それが真実となるならば、遅くなっても、いずれ貴女はそれを着るのだろう。それはもう居なくなる僕とでは無く。

 ふと思い浮かんだのは、そんな残酷な祝福。









━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注有難うございます。
なんか本編が色々大変なあれやそれやは置いていて……んー、こっちの彼も結局討伐ルートに入ったと考えるとこんな感じになるんですよね。
どうにも私は自然に、恋愛モードになると「相手を幸せにできるか」から考えるらしく、本文中にありました通り、彼の立場からするとちょっと、詰んでます。
そんなわけで、正直私自身としてはもうどうしたらいいか分からないのですが、とりあえず本人の望みのままに勝手に動かしてみてこうなりました。
これどうしたらいいの? って言われますと、「私に言われても本当わかんない」というのが実なんですけど……あのー、どうしましょうか。いやどうするかはお任せしますけど。

ところであいつの重体をネタにするのはどうなのか、と思ったんですが、なんか余りにもタイミングよく逃げ道塞がれてんな、と思ったら面白くなってしまってつい……。
一瞬急遽男性の代役必要になったのそのせいじゃないだろうなとかも思いましたが、この手の仕事に穴開ける依頼の受け方するアイツじゃないというかそうなったらエリクシール吸ってでも頑張りそうな気がしたので多分違いますね。余談でした。
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2019年07月02日

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