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『知らないはずのものガタリ 』
ルナ・レンフィールドka1565

 ――ルナ・レンフィールド(ka1565)さんの印象は?

 確かリアルブルーの言葉で、月という意味ですよね。なのにファイル名に『月薫る音(アロマブルー)』とは……本名をご存じなかったとしか思えません。
 ハンターの皆さんの名前を呼ばなかったと聞いています。研究者ってそういうところ、頓着しないものなのでしょうか。
 脱線してしまいました。情報によると、直接的な接点は本当に少なかったらしく……資料は、しっかりあるのですけども。
 その最初の映像資料が夜想曲『蒼月光』の部分ですね。珍しくコメントも入ってます。太陽のあの嫌になるほど眩しい光に比べれば適度な明かりだ、と……どういう事でしょうか?
 この意味は解りませんが……折角ですから、贅沢に一曲分観賞させていただきましょうか。

『映像A』
 陽射しの差し込む森の中ではあるものの、地上から放たれる月光が静かな夜を演出していく。
 しかしそれは始めだけ。硬く丈夫に、そして細さを主張するヒールが樹木の幹や根を、時には朽ちた葉のクッションさえも相方にして、リズムを刻んでいく。
 ステージの具合を確かめるように、許される範囲を探り、仲間の立ち位置との兼ね合いを見極め、ルナは自身の舞う場所を定めていく。
 右手に纏う燐光から零れ行く音符の大半はルナの瞳の色と同じ淡い紫の輝きを持っている。メロディを形作るように流れるそれらに寄り添うのは、赤と金の音符による和音と、青と若草の音符による和音。気持ち後者の和音が多いだろうか。
 今も、そしてこの後も続くステップは足場の悪さを感じさせず、それだけでも演奏になっているけれど。
「想うは月夜の光、願うは静謐……♪」
 今も広がり続けている蒼の光が舞台を満たし、ルナの歌が始まる。
「空の影を抱いて、星と共に祈りを……♪」
 蜘蛛の姿を持つ敵影は六、それらに相対する仲間達を少しでも多く舞台へとあげなければとルナは前を目指す。木々の隙間を縫う様に、ステップは絶やさないままで。
「灯すは月夜の主、臨むは騒擾……♪」
 空を仰ぐように世界樹の名を持つ杖が振るわれる。気紛れだった音符達は、今はルナの歌が紡ぐ音程を忠実に再現しながら流れていく。
 枝に内包されたマテリアルが森との調和を求めているように、舞台の主役であるルナが儀式を執り行う鍵であるかのように。
「夜の帳を越えて、先を支え守りを……♪」
 舞台にあがった仲間へと、ルナの紡ぐ音符達が優しい月の灯りを運び、包み込んでいく。
「奏でましょう。ノックターン『ブルームーンライト』」

 それにしてもルナさんは胆力がありますね。
 別の映像資料なのですが、動けない隙を狙われたものがありまして。普通、足がすくんでも仕方ないですよね?
 覚醒者だから、ハンターだから対応できるのが当たり前と考える方もいるかもしれませんが、ルナさんは後衛職でしたよね。
 近接戦闘を得意とする前衛タイプの型ならともかく。尊敬できることですよ。


 ――名付けの意味を教えてください。

 大半は、先ほど見ていた映像資料によるものだと思うのですが。情報整理も兼ねて、改めて纏めてみましょう。
 繰り返しますが『月音(ブルー)』は先のオリジナルスキルからでしょう。あれを聞いて他の名を付ける理由はないと思います。何より分かりやすいですからね。
 それと情報整理中にひとつ気になったことがあります。鴉型の歪虚に正面から襲われた際、そう胆力があるって話をした件ですが……あの時のルナさん、別の何かに反応したように見えたのですよね。
 あくまでも記録映像ではありますが、同じ時間で複数のアングルから撮影されているので、照合が可能なのです。それで判明したのですが、あの場に居た皆さん、ルナさん個人への声かけはしていないんです。全員への合図はありましたが、それとはタイミングも違ったんですよ。
 それからは祭司長を繰り返し検証も重ねましたが……結局は消去法でした。音も形もなく透明の何かがあったとしか考えられなくて。『風』と言う結論になったのです。本当に僅かな服のはためきくらいしか、こじつけることが出来なかったんですよ。
 その風という切欠を逃さずに状況を『乗り』こなしたのですから、本当に胆力のある方ですよね。
『馨る(アロマ)』についてはもっと強引にこじつけさせていただきます。これは本当に理由の欠片も見つからなくて。観察者にも詩に関する素養があった、と考えました。聞けば吟遊詩人のお身内がいるそうですし。短い言葉に様々に意味を籠めるというのは、試作や芸事の技術だと思いませんか?
 そうそう、見所のある映像と言えばもう一つありますので、お出ししますね。

『映像B』

「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利♪」
 荒野に刻み込むリズムは、本来であれば大量な機械の脚が起こす騒音によって遮られてしまいそうなほど小さなものだったはずである。
 減少した敵影を前にルナが齎すのはメリハリのあるステップと、力強い手拍子。音楽家だからこそ熟知している、楽器としての身体と力を最大限駆使した音量。
「願いの声も熱を力を持ち、未来を開かん♪」
 歌声が舞台の空気を震わせる。気付けば手には杖があり、護り手の得物へと赤い光が向かっていく。
 光は次第に揺らぎをもち、熱を持ち、炎となる。
「望まれし英雄の叫び、共に立つは戦友♪」
 もう一度生み出された赤い光は、また別の仲間へと向かっている。
 炎を先導する音符は皆、強く赤味を帯びた紫。ルナの近くで赤を、炎を示す存在が増える度、ステップも、歌も、より力強く響く。零れだす光さえも燃え盛るように。ルナの右手に灯る燐光もまた、輝きを増していく。
「希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん♪」
 足元から溢れ出す赤の光は、ルナの歌声に呼応するように濃密に練り上がるマテリアルの証。
 舞台へと引き上げられた蜘蛛達の親玉は僅かにその走行を緩ませる。断ち切られた脚が炎の刃の前に、消えていく。
「奏で謳いましょう。ラプソディー『クリムゾン サーガ』!」
 謳われる通り、近い未来、最期を示されながら。

 そういえば、護り手らしき方も映っていますよね。それこそ『風(ブルー)』なんて印象の方。これは楽しい話題の予感でしょうか?


 ――餞別にも意味があるんですか?

 完全なる私の推測……である以前に、どうもルナさんとは直接会話をしたことがないと聞いているのですよね。なので信憑性は限りなく低いと思ってくださいね。
 ルナさんはご自身の立ち位置を補助役として最重要視していたように見えます。でもどうして直接的な関わりのなかった筈の観察者と対峙する仕事を請けたのか……そんな疑問が生まれてしまいまして。
 これは考えるまでもなく護り手の方の存在が関係しているのではないかと!
 直接お話伺いたいところなのですが、生憎止められてしまいました。残念です。
 わかる範囲で挙げさせてもらうなら、やっぱり瞳に籠もる熱でしょうか、目力と呼ぶ方もいるかもしれません。
 特に護り手の方に向けられる時が一番素敵なのですよ。歌系スキルの舞も非常に楽しそうなのですが、やはり違いますよね!
『機掴み、風に添う』……これは観察者も察していたのではないかと思うのです。だって考えるほどにぴったりではありませんか。
 それにしても詩的な表現ですよね。気紛れな気質でもあったのかもしれませんよ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ka1565/ルナ・レンフィールド/女/20歳/奏魔術師/観察対象はデバイスから目を逸らす】

虚空へと消えた、今ではもう手に入らない記憶媒体……の、中身。
見知らぬ誰かにも察せられる女子力とは。
おまかせノベル -
石田まきば クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年07月02日

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