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『『彼女の望み――彼の願い』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 穴場の温泉宿に湯治に訪れていた、アレスディア・ヴォルフリート(8879)とディラ・ビラジス(NPC5500)。
 入浴を終えて、二間続きの大きな部屋に戻ってきたアレスディアを、ディラは窓際に誘いペアリングを贈った。
 そして、エンゲージリングも贈りたい、一緒に選びに行かないかと言う彼に、アレスディアは自らの望みを語った。
 いつか、教育を受けられない子ども達に勉強を――生きる手段を教えて生きていきたいと思っていること。それは、誰かと添い遂げ、家庭を築くという多くの人が思い描く幸せな生き方と違う生き方であること。
 そんな自分でいいのかと、彼女は彼に問いかけた。
 そんなアレスディアがいい、彼はそう答えて彼女にキスをして。
「愛してる。アレスと共に、理想(ゆめ)を追いたい」
 と、身体全体で、包み込むようにディラはアレスディアを抱きしめた。
 熱く、切ない息がアレスディアに降り注ぎ、暖かな温もりと愛情の中、アレスディアはそっと目を閉じた。

 ……このまま、身を委ねてしまいたい。
(まだだ。私はまだ、ディラの想いに答えていない)
 押し寄せる衝動を、アレスディアはぐっと抑えつける。
「ディラ……指輪は、いらない……もっと、ほしいものが、あるから……」
 逞しいディラの身体に腕を回して、彼の胸に顔を埋めた。
「ディラはいつも、『傍にいる限り』と言う……戦う以上絶対がないことは、わかっている。戦いじゃなくても、人の身である以上いつか、死に別れる身だとはわかっているけど……」
 互いにその意思を持たずとも、別の命を持っている自分達に死という別れは必ず訪れる……。
 ふと、脳裏に浮かぶ別れの時。心に押し寄せる不安の波。ディラに回したアレスディアの腕に力がこもる。
「かつては、言えなかった……でも今は、わかっていても、敢えて言う……」
 ゆっくりと顔を上げて、アレスディアはディラを見詰めた。
「私は、ディラにずっと傍にいてほしい……」
 アレスディアは家族を失い、家族同然の人達を失っていた。
 誰かを護り、命を使い果たすことを望んでいた。
 家族を持つ未来なんて、微塵も考えもしなかった。
 だから、誰かにこの言葉を言う日が来るとは思いもしなかった。
「家族、として……」
 だけれど、この気持ちを言葉にするなら、これ以上の言葉は、ない。
「ディラ……愛している」
 すこし背伸びをして、目を閉じて、アレスディアはディラと唇を重ねた。
「アレスが、そう思っている……なら、俺はずっと傍にいる」
 再び、彼の厚い胸の中に、アレスディアは顔を埋めていた。
 熱い息と声が、耳に、首筋に落ちてくる。
「これからは、互いが抱える問題は、2人の問題だ。どんな場所にもついていくし、ついて……こい」
 身動きできないほど強く、抱きしめられていた。
 ああ、と肯定の言葉を返す。
 ディラと家族になる。自分の唯一の存在に、そして彼の唯一の存在になる――その喜びと彼への想いに、アレスディアの鼓動が高鳴り体が火照っていく。
 ディラの唇が、アレスディアの首筋に落ちた。
 彼の手が、浴衣の衿を払い肩へと落す。
 露になった傷跡に、ディラは深く口付けた。

 *   *   *

 家族として、ずっと傍にいてほしい……。
 彼女のその言葉に、震えを覚えるほどディラは強い喜びの衝動を受けていた。
 物心ついた時には、1人だった。ディラは家族を知らない。愛されたことも愛したこともなかった。アレスディアに会い、教えられるまでは。
 異性に対しても、欲情以外の感情は抱くことはなかった。だけれど、彼女に対しては違う。
 欲しくてたまらなくても、彼女の気持ちを優先にできていた。一時的なものではなく、長く、傍にいることを望んでいるから……。
「アレスが、そう思っている……」
 続いて出そうになる『限り』という言葉を、ディラは飲み込み、ずっと傍にいると続けた。
「これからは、互いが抱える問題は、2人の問題だ。どんな場所にもついていくし、ついて……こい」
 ついてきてほしいという言葉を飲み込み、ついてこいと言い切った。
 アレスディアは彼の言葉に、頷いてくれた。
 頭に血が上る。身体がカッと熱くなる。
 もう、止められない……。
 アレスディアの首筋に、キスをした。そして、深い傷跡の残る肩に。
 ずっと、ずっとこうしたかった。
 この身体、この傷ももう、自分の一部だ――。


 *   *   *

「ディラ……ディラ……」
 彼の名を呼び、身を委ね抱きしめていた。
「俺は、ずっと……アレスの傍にいる」
 熱い息が絡み合い、互いの鼓動を感じあう。
 苦しい程の感情が2人に押し寄せ、より深く激しく互いを求めていく。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

ライターの川岸満里亜です。
ご依頼ありがとうございました。感慨深いです……。
文章化できていない部分につきましては、ご想像にお任せいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年07月04日

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