▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『女神虜囚 』
スノーフィア・スターフィルド8909

 スノーフィア・スターフィルド(8909)が何気なく『幻想英雄戦記4』を起動させ、スタートボタンを押した次の瞬間。
 彼女は無意味なメーターがつけられた銀灰の壁の前に立っていた。
 振り向けば、まったく同じ壁を継ぎ合わせて造りあげた通路があって、スノーフィアはすぐに確信する。
 ここは『4』のエントランス、ですね。
 自分の姿を見下ろせば、体のラインが丸わかりなボディスーツ1枚きり。これは4の初期装備(防御力0)であり、ナビゲーターに初期職を告げることで最低限の専用装備が与えられるのだ。
 うーん、いつぞやのスライムさんのいたずらでしょうか?
 小首を傾げつつ、とりあえずは通路を進む。すると奥には広場があり、いかにもSF的なフロントデスクが置かれていて。
「お名前を登録してください」
 サイボーグの受付嬢が促してきた。
 これにはスノーフィア自身の名前を登録する。PCをカンストまで鍛え上げたセーブデータがロードされないか期待したのだが、それはないようだ。
 意図がわかりません。いったい誰が、なんのために私をゲーム世界へ?
 経験がないわけではないからうろたえはしないが、仮にも“女神”を陥れるだけの力を持つ相手の意が見えないのは怖い。善意ではありえないまでも、完全な悪意でさえなければなにかしら打開はできるはず。
「職業の登録をお願いします」
 戦闘に巻き込まれる可能性を考えれば、SF的なアタッチメント装備の多いガイノイド一択なわけだが。
 やっぱり、ありませんか。
 ガイノイドは上級職扱いなので、基本職で一定レベルに達する必要がある。そしてそれを目ざすとすれば、機械兵器の扱いに長けたエンジニアが最適。
「エンジニアですね。では、こちらの装備を支給します」
 そうして与えられた装備を手早く装備して、気づいた。
「なんですかこれっ!?」
 エンジニアの初期装備は地味なツナギだったはずなのに。なぜか超セクシータイプなベリーダンス衣装だった。
 ちなみにこちら、有志による同人パッチの衣装なわけだが、スノーフィアが豊麗タイプのキャラじゃなくてよかった。本人としては思うよりなかった。
 広場から出てみようともしてみたのだが、【依頼を受けてください】のエラーメッセージが連呼され、踏み出すことはできなくて。
 とにかく、正攻法でゲームを進めるしかないようです。この騒ぎを仕掛けた犯人捜しをするためにも。


 スノーフィアの立場を考慮し、ヒロイン役はあえてパーティに迎えないソロプレイでゲームを進めていく。
 彼女が備えているはずの【職能】は発動せず、そしてモンスターたちには意志が存在しないため、【言霊】すらも通じない。
 そして衣装だ。上半身はやたら自由なのに、スカートが長いばかりでなくふわふわ脚にまとわりついて、うまく動けないのだ。そんなリアリティを追求するより、もっとほかにあるだろうに。
 それでも頭に叩き込んだ攻略法を武器に経験値を蓄え、なんとか次の装備を得られるレベルにまでなったわけだが。
「ベリーダンスの次が、サンバですか!?」
 サンバ用のタンガ――いわゆるビキニ――を示されて、スノーフィアは震えるよりなかった。
 飾りが派手なのはともかく、胸の先と下腹部のIゾーンをかろうじて隠す以外はただの紐。そう、紐なんである。
 これも同人パッチ衣装なわけだが、冑代わりのゴージャスなカベッサを渡されたところで、「やりましたよー!」と盛り上がれるはずもない。

 それでもスノーフィアががんばった。
 サンバ調の戦闘BGMを聞きながら、コステロ――背中に装備する羽飾り――からビームを発射。ちなみにサンバステップを踏まないと起動しないので、うろ覚えの踊りをとにかく演じつつだ。
 いったい私っ! なにをやらされてるんでしょうねー!?


 その後も衣装を悪い意味でバージョンアップし、ついには貝殻3枚が支給されるに至りつつ、スノーフィアは上級職への転職可能レベルに至った。至ったのに。
「見たこともない職業しかありませんけど……!」
 上級職として挙げられていたものは、ストリッパー(装備を脱ぐごとに強くなる)とニンジャ(装備を減らすごとに強くなる)とセクシー女優(そもそも装備が存在しない)と秘境民(セクシー女優と同じ)。
 そして、スノーフィアの横では同じようにおののいている人々がいて……
 彼らと情報を交換する中で、同じようにゲーム内へ囚われた人がいること。そしてその全員が『英雄幻想戦記』マニアであることが知れた。
 その後、とりあえずネタ話で盛り上がりはしたが、だめだ。なにひとつ問題解決に繋がる情報は得られず、しかも全員がそこそこ以上のコミュ障で団体行動も実現せず、なんとなく解散するよりなくて。
 さすがに【言霊】は試せませんものね。それにコミュ障の気持ちは誰よりも知っていますから。

 その後もなんとかひとり旅を続けたスノーフィアだったが、能力値よりもなによりも、敵が強くなるにつれ貝殻3枚での「守るべき戦い」もまた激化し、おかげで苦戦を強いられることに。
 ああもう、女神の力が使えたら!
 内股で地面へ転がり、圧縮蒸気で弾をばらまくスチームガトリング砲を撃ち放つ。実は彼女の際どいところを隠している貝殻、超攻撃力を備えたビームカッターになるのだが、飛ばしてしまうと丸出しになってしまうので断固拒否。
 ――と。獣タイプの敵がスノーフィアへ跳びかかる。
 スチームの圧はまだ上がりきっておらず、ゆえに弾幕で押し返すことは不可能だ。手持ちの武器で対処が可能なのは、3枚のカッターのみ。
 え、これはまさか、やるしかない状況ですか!?
 ゲーム世界で死亡した場合、どうなるものかがわからない。本当にロストしてしまう危険もありえるのだ。
 で。飛ばすとしたら右? 左? それとも、下? 3枚同時なら確実に難を逃れられると知りながら、それでも迷ってしまったのは乙女心ってやつのせいで……顎はすでに回避不可能な眼前にまで迫っていた。
 と、そのとき。
『姉さん、そこは悩んでるとこじゃねぇだろ』
 それはスノーフィアが一度も使用したことのないボイスチャットで伝えられた、最近聞き慣れつつある男の声。
 思い至った瞬間、スノーフィアの体は自動で敵の攻撃を回避、ようやくチャージを終えたガトリングで獣を引き裂いた。
 そして。

「おつかれさまだぜ」
 スノーフィアの部屋のモニタから振り返りざま、コントローラーを投げ渡してきた草間・武彦(NPCA001)が苦笑し、目を逸らした。
「どうして、ここに?」
「依頼を受けて事件追っかけてるうち、姉さんが巻き込まれてんのがわかってな。そっちでどんだけ時間経ってるか知らねぇが、こっちじゃもう2週間経ってんだぜ」
 本職である探偵業のほうで、武彦はスノーフィアまで行き着いたということらしいが……それにしても一介の探偵が、こんな妖しげな事態を目にして動じていなさすぎないか?
「ま、この東京じゃ、そういうことも起きるもんさ」
 スノーフィアと目線を合わせず、武彦は肩をすくめてみせて。
「それよか事件も解決したことだし、一杯どうだい? 姉さんの部屋ってのも落ち着かねぇし、居酒屋にでも行ってさ」
 うなずいた拍子、スノーフィアは気づく。自分が貝殻3枚状態であることに。
 武彦の行動は、彼女の疑問をはぐらかすためでなく、普通に紳士的振る舞いだったのだ。
「すぐ着替えますから!」
 あわてて奥の部屋へ駆け込んで、なんとかそれだけ絞り出したスノーフィアだった。
東京怪談ノベル(シングル) -
電気石八生 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年07月04日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.