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『愛しい貴方たちへ 』
硴間 真架la0798

「はい、じゃあまた明日」

 硴間 真架(la0798)は自室に入ると傍らにあった大好きなくまとおさるのぬいぐるみを抱きしめ窓の外へ視線を投げた。

 空には月が綺麗に輝いている。

「こういうのを幸せって言うんでしょうけど……」

 結婚を間近に控えたというのに真架の表情は少しだけ暗い。

 結婚が嫌ということでは決してない。

 むしろ、その逆。

 大好きな彼と結婚できることはとても嬉しい。

 でも――。

「元気でしょうか……」

 気になるのは元居た世界にいる両親たちの事。

 異世界にいる両親は結婚式に参列してもらうことは出来ない。

 勿論そんなことは当たり前だ。

 だが、本音を言えば見て欲しかった。

「あの時、ああ言ったのは後悔してないですけど……」

 真架がこの世界にやってきたのは偶然ではない。

 異世界に興味を持った彼女は両親を説得し、自らこの世界に降り立ったのだ。

 元々、穏やかな世界に生まれ育った彼女にとって戦闘は好ましいものではないが、それでも守れる力があるならと剣を取り戦う日々。

 何度もくじけそうになったことはあった。

 心が折れそうになったこともあった。

 でも、彼がいつも寄り添ってくれたからここまでやってこれた。

 そんな彼との結婚だからこそ、両親にも祝福してほしかったというのが本音だ。

「今までとは違うんです」

 真架にとって彼は人生初めての彼というわけではない。

 元の世界にいた時に数人の男性と交際したことがある。

 だが、その目に素敵だと映っていた彼らは付き合ってみると、イメージしていたのと何か違ったり、相性がよくなかったりで上手くいくことはなかった。

「そう思うでしょう?」

 腕の中のぬいぐるみたちは答えない。

 だが、その無言は肯定の無言の様に真架には感じられた。

 別に彼らが悪かったわけではない。

 多分だが、彼らは彼らなりに精いっぱいの愛をくれていた。

「あのね、前の彼氏はそんなに好きじゃなかったんじゃないかなって最近思うんです」

 真架はぬいぐるみに語りかける。

 その時は好きだと思った。

 この人とずっと一緒にいたいとも思った。

 でも、今の恋人と付き合ってから気が付いたのだ。

 本当に好きになるということがどういうことなのかを。

 それは、今までの恋人に対する思いとは全く質が違うものだった。

 彼が笑っていれば嬉しくなって笑ってしまうし、悲しそうにしていれば心配になって自分も悲しくなってしまう。

 そんなことは今までの恋人ではなかったことだ。

 会う度に、嫌なことは全部吹き飛んで、心から楽しくて、嬉しくて――。

 今だって、その指に触れて、胸に抱きしめられる度に心臓が跳ね上がるほどドキドキする。

 そんな事も今までの恋人とはなかった。

 今までの恋愛が何だったんだろうと思う程に、今の恋人は今までとは違うのだ。

「だから、余計に見てほしいなって思うんですけど……」

 元の世界に戻る方法が分からない今、それは叶わない。

 ぬいぐるみから視線を外し、月へ視線を向ける。

 元居た世界でも月は綺麗に輝いていた。

 両親も月や星を見上げて自分のことを思ってくれているだろうか。

「せめて紹介だけでもしたかったです」

 言っても仕方のないこと。

 そんなことは分かっている。

 でも、どんなに頭で理解できていてもそんな気持ちはぬぐえない。

 小さい頃からの思い出が脳裏によみがえる。

 その中の両親はいつも優しく微笑んでいた。

 きっとこの結婚も喜んでくれるだろう。

 そんな2人が想像できるからこそ、何かの形で両親への感謝とこの喜びを伝えられたらいいのに――。

「そんなの無理に決まってますよね」

 そう呟いた時、カタリと背中の方で音がした。

 振り返ると、テーブルに置いてあったクマとサルのついたキーホルダーが床に落ちていた。

「?」

 どうしたのだろうと拾いに行くと、一緒に落ちたのだろうキーホルダーの側にペンが転がっている。

『何時か伝える時のために今の気持ちを手紙にしておいたらどうかな?』

 大好きなくまさんとおさるさんがそう提案してくれたように思えて、ペンを手に棚からレターセットを取り出した。

 この世界の結婚式では、両親への手紙を新婦が読むというシーンがあるとウェディングプランナーが言っていたのを思い出したのだ。

「そうですね、その手がありました。ありがとうございます」

 大好きなくまさんとおさるさんにお礼を言うと、真架はペンを走らせた。

  ***

「出来ました」

 数枚にも渡る手紙を封筒に入れ可愛らしいシールで留めると、なくさないように、忘れないように、いつでも気が付くところへしまった。

「これで、いつ帰っても大丈夫ですね」

 少しだけ晴れた心でくまさんとおさるさんのぬいぐるみを抱きしめなおすと2体とも笑っているような気がした。

「そうですね。きっとちょっとだけ……そう、マリッジブルーっていうのだったんだと思います」

心配かけました、と2体の頭を撫で、真架は月を見上げる。

「私、きっと……ううん、絶対幸せになりますね」

その呟きが空に届いたのか幸せを祈るように流れ星が流れていった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la0798 / 硴間 真架 / 女性 / 20歳 / 思いをペンに込めて 】
イベントノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年07月05日

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