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『神魔の裁き』
白鳥・瑞科8402


 新開発の素材である、と技術部の人々は言っていた。銃撃、斬撃、打撃、それら全てを防いでくれるらしい。
 その新素材のアンダーウェアに、まずは両脚を通す。むっちりと活力漲る左右の太股から、いささか育ち過ぎの白桃にも似た美尻へと、それを引きずり上げてゆく。
 着心地は、今までのものと変わらない。白鳥瑞科(8402)は、そう感じた。胸が少し窮屈かも知れない、とも。
 豊麗な胸の膨らみを、ぴっちりとした耐衝撃アンダーウェアに押し込んでゆく。
 その上から、特殊軽金属のコルセットを装着する。美しく引き締まった胴をさらにスリムに締め上げ、たわわな肉感の塊である胸を下から支え上げる形となった。
「なかなか……お休みが、取れませんわね。まったく」
 ぼやきながら瑞科は、ふわりと修道服をまとった。
 出撃である。
 本日は、何事もなければ休日となるはずであった。
 仕方がない、と瑞科は思う。悪しき者たちは、こちらの都合を考慮しながら悪事を働いているわけではないのだ。
「だからね、私も貴方がたの御都合など考慮いたしませんわよ」
 艶やかな髪をヴェールで覆いながら、瑞科は言った。この場にいない、これから出会う、これから戦う相手に向かってだ。
「……命乞いを聞くつもりも、なくてよ」


 悪魔。
 この少女を、人間たちは、そう呼ぶだろう。
 美しい事は美しい。その不敵な美貌、引き締まった身体に、すらりと伸びた四肢。着用しているのは際どいレオタードで、いくらか浅い胸の谷間もスリムな太股も露わである。
 その豊かな黒髪を掻き分けて生えた角は、ぐるりとねじ曲がり渦を巻いている。しなやかな背中からは3対6枚の翼が広がり、複雑な羽ばたきで少女を空中にとどめている。
 市街地の上空。
 ゆったりと浮揚滞空しながら、悪魔の少女はニヤリと微笑んだ。
 マッハ3で空を切り裂き、こちらに向かって来るものがある。
 いくつもの、空対空ミサイルであった。
「愚かな……!」
 悪魔の少女は、細腕を振るった。
 光が、空中にばらまかれていた。
 魔力で組成された、光の弾丸。無数のそれらが、襲い来るミサイルたちを薙ぎ払う。
 市街地の上空で、凄まじい爆発が起こった。
 巨大な花火のようでもある爆炎を切り裂いて、光が伸びる。
 悪魔の少女の鋭利な指先から、魔力の閃光が迸っていた。
 レーザー状に射出されたそれが、ミサイルの発射源である戦闘機を直撃・破壊する。
「脆い……人間どもの力など所詮、こんなものか」
 敗者への興味を失った少女が、そのまま眼下の市街地を見下ろす。睨む。
「おぞましいもので地上を埋め尽くしおって……! 全て、破壊してくれるぞ」
 光の弾幕を、地上に向かってぶちまけようとした、その時。
「『虚無の境界』製の、粗悪な混ざり物ではない……純粋な悪魔族の方、ですわね」
 何者かが話しかけてきた。空中でだ。
「何とも、お珍しい……殺処分するのが惜しく思えてしまいますわ」
「貴様……人間か?」
 1人の、若く美しい修道女。目に見えぬ足場に立つかの如く、空中に佇んでいる。肩にまとった純白のケープを、天使の翼の如く風に舞わせながら。
 重力を制御しているのだろう。これほど見事な飛翔浮遊が出来る者、魔界にもそうはいない。
 すらりと長剣を抜き、眼前に立てながら、その修道女は名乗った。
「武装審問官、白鳥瑞科……お相手願いますわ、悪魔族の方」
「面白い。まずは貴様の血飛沫を派手に咲かせて、人間どもの最期の日を祝ってやるとしよう」
 悪魔の少女は、光の弾幕を投げつけた。
 白鳥瑞科の身体が、激しく揺らいだ。直撃を喰らって痛がり苦しんでいる、わけではないようだった。
 豊かな胸が、修道服を振りちぎってしまいそうなほど激しく揺れる。力強くくびれた胴が捻転し、瑞々しく膨らみ締まった太股が跳ね上がる。
 魅惑的に躍動する全ての部分を、悪魔の光弾がかすめて飛んだ。それは、超高速の回避の舞いであった。
 ロングブーツを穿いた美脚で、空中の見えざる足場に着地しながら、白鳥瑞科は祈りを呟く。
「主は、我が道を示したまえり……」
「それはなぁ、破滅の道だ!」
 悪魔の少女は、牙を剥いて叫んだ。
 いくつもの魔法陣が周囲に生じ、浮かんだ。
「貴様らが主だの神だのと呼び崇める者が、人間どもを一体どう導いてきたのか知らぬわけではあるまい!」
 それら魔法陣が、爆炎を噴射した。
 噴火にも似た爆炎の奔流が、白鳥瑞科の躍動する肢体を激しくかすめる。紙一重の回避。
 そこへ悪魔の少女は、鋭い人差し指を向けた。
「神に導かれたる人間どもを、我ら悪魔が裁くのだ。地上を埋め尽くす汚らしいもの、我らが全て破壊する。人間どもの屍を肥やしに、やがて花が咲き乱れるだろう。地上はなぁ、エデンよりも美しい楽園となるのだよ人間どもがいなければ!」
 指先から、魔力の閃光が迸る。
 それが、白鳥瑞科の残像を切り裂いた。
「何……ッ!」
 本物の瑞科は、すでに眼前にいる。
「まさしく……地に堕ちたる明けの明星ルシファー、そのものの思い上がりと傲慢ですわねっ」
 言葉と共に、長剣が一閃する。
 悪魔の少女はフワリと後退し、その斬撃をかわした。
 直後。武装審問官の修道服が高速で捲れ上がり、むっちりと形良い太股が露わになった。
 そして悪魔の少女の全身に、無数のナイフが突き刺さっていた。
 太股に巻かれたベルトから、白鳥瑞科がナイフを引き抜いて投射したのだ。
「貴女がたが何かなさる必要もなく……愚かな人類には、いずれ神の罰が下るでしょう」
 長手袋をまとう優美な両手で、瑞科が長剣を構え直す。
 その刀身がバリバリッ! と電光を帯びる。
「神の罰ならぱ、お受けいたしますわ。悪魔の裁きなら……こちらから、こう! 喰らわせて差し上げましてよ!」
 電光の斬撃が、悪魔の少女を灼き斬っていた。
「武装審問官など……ふふっ。悪魔の方々と同じような存在ですもの」


 叩き斬られた悪魔の肉体が、電光に灼かれながら消えてゆく。
 声だけが、残った。
「わかった……人間など、いつでも滅ぼせる。殺し尽くせる。その前に白鳥瑞科、貴様をいずれ殺す! 悪魔は、獲物を逃がしはしない……また、会おうぞ……」
 空中に佇みながら瑞科は、消えゆく敵を見送った。
「……いつでも、おいでなさいな。遊んで差し上げますわよ」
 両の細腕で、瑞科は己の全身を抱いた。
 ひりつくような快感が、肌に残っている。凄まじい破壊力の弾幕が、閃光が、身体じゅうをかすめた。その余韻だ。
 一撃でも喰らえば、命はなかった。
 新開発素材の戦闘服も、充分な強靱さを発揮してくれた。そうでなければ瑞科は今頃、全裸である。
「お休みを1日、潰しただけの価値はありましてよ……なかなか楽しい戦いでしたわ」
 もっと恐るべき力を持った悪魔が、いくらでもいるに違いない、と瑞科は思った。
「次は、ね……出来れば、お仲間を連れていらっしゃいな」
東京怪談ノベル(シングル) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年07月05日

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