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『勇敢なる日々 』
エステル・ソルka3983

 カーテンの隙間から陽射しが差し込んでくる。丁度よく瞼へと当たるおかげで、朝の目覚めはそう難しい事ではない。
「みっ! みぃぃっ!」
 穏やかな覚醒まであと少しのところで齎された身体の揺れに、エステル・ソル(ka3983)の眉は顰められた。
「んん〜……スノウさん、まだ時間はあるはずなのです……」
 だから、もう少し眠っていたいと寝返りをきめこんで、スノウへと背を向けるエステル。
「みぃ〜……」
 溜息にしか聞こえない小さな声を最後に揺れが収まる。これでもう少し眠れるはず。
 潜りこんで、ゆっくりと息を吸って、吐いて、また吸って……
「みぃ!」
 ビシッ! と気合の入った声と共に前足で指し示されたのは手元に光る指輪。いつもの淡い輝きとは違い、赤い光が必死なくらい点滅している!
「みみぃっ!」
「あぁぁっ本当ですっ、エマージェンシーコールですっ!」
 この為に急いで起こされたのだと気づいたエステルは、すぐさまパジャマを脱ぎ捨て戦闘服へと着替えていく。
 失態はこの後の働きで取り返そうと決意を固めながら身支度を整えていく。
「行きましょう、スノウさん!」
 声をかけるエステルの腕の中に、スノウが飛びこんでいく。
「みぃ!」

「ええと……そろそろ現場だと思うのですが……」
 探知モードになった指輪が示すとおり、箒に乗って空を駆けたエステルは、ついてきているスノウと共に眼下を見下ろしている。
「マテリアルの籠もる感じ……んん、まだ、歪虚が生まれてないのでしょうか?」
「みぃぃ」
 首を振るスノウに、確かにと頷くエステル。
「そうですよね、だったらあんなにコールが激しいものになる筈がありません!」
 早く見つけないと街が大変なことになってしまうから、内心焦りながらも、鋭く視線を走らせていく。

「みつけました!」
 地下から溢れだす歪虚達。だから発見が遅れてしまったということか。エステルはすぐ傍に広場があることを確認して頷く。
「スノウさん、いきますよ!」
「みっ!」
 箒の上に立ち上がり、踏み込む。乗ったまま降りるより早いと分かっているし、何より落下時間も惜しいのだ!

 指輪がエステルの手から解けるように外れ、鍵の形へと変わる。何もないはずの正面に向けて回せば、マテリアルによって形作られた、純白の扉が現れた。
「さぁ、大切なお仕事が待っているのです!」
 迷いなく扉を開いたエステルが、スノウと共に扉をくぐる。
 鍵はいつの間にか輝く大きな輪へと形を変えていて、エステルの頭上から、まわりながら降りてくる。
 輪の上に飛び移ったスノウが、エステルの周りを巡りながら装備に触れていく。
 帽子の飾りに触れれば、天使の翼が一回り大きく羽ばたいてマテリアルの風を起こす。
 腕を覆う袖をつたうように茨の刺繍が走り、首飾りには薔薇が咲く。
 幾重にも重ねられた花弁のスカートが薔薇と同じ蒼い光を纏う間、花弁の嵐がエステルの姿を隠す。
 スノウがブーツの横に舞い降りたところで、その身体がエステルと同じくらいに大きく膨らんでいく。
 透けるようなシルエットのスノウがエステルの身体に重なれば、エステルの髪が銀を帯びて靡いた。
 地まであと少し。身体を丸めたエステルを護るように周囲を回転していた輪は少しずつ、花弁を集めていて。
 着地のポーズが決まるとき、その両手両足は白銀の毛並みに覆われた、もふもふの猫のようになっていた。
 金が混じる瞳をきらめかせ、歪虚の群に杖を向けるエステル。もっふもふの尻尾がくるりとポーズの最後を締めて。
「街を荒らす悪い子達は、このわたくしに倒されちゃう運命なのにゃ!」
 杖の先で、薔薇が鮮やかに咲き誇る。

「簡単には当てさせてあげないのにゃっ!」
 スノウの持つ猫本来の身軽さを手に入れたエステルが、歪虚達を翻弄していく。幸いにも遠距離攻撃を持った者が居ないため、近くの歪虚に気を配ればできないという事はない。
 駆けぬけながら最低限の動きをもって躱していくエステルは、小さなバランスの変化にも尻尾を利用して敏感に対応していく。
 一体が爪を振りかざしたことに気付けば、別の一体を蹴り倒して身代わりに。
 挟みこまれれば、棒高跳びの要領で宙へと跳び上がる。
 上空で待っていた箒がエステルを拾い、体勢を整えるための時間をつくるために一定の高さを維持しながら空を駆ける。
「戦えない皆さんは、広場から避難してほしいのにゃ!」
 周囲への警告を発するが、あまり人々の動きまで追う余裕はない。流石に群の数が多いのだ。
「余裕のある方は、怪我した方のお手伝いをお願いにゃぁ……っ!」
 あまり長い間地上から離れると、歪虚達は無関係な人達へと向かってしまう。
 再び降りてくるエステルに噛みつこうと大きな口を開けた一体には、地を突く側の杖、その先端を突き刺した。

「ここが一番の決め時なのにゃ……っ?」
 縦横無尽に動き回った結果は上々。歪虚達を十分に引き付けたと思う。取りこぼしていたとしても、それは後から片付ければいいことではあるのだが。
 逃げきれていない、巻きこまれた人々の息遣いもまた捉えている。風を読む翼が、周囲の音を集めてきてくれているのだ。
 出来ればもう少し敵を集めたかったけれど、これ以上引き伸ばしたら手遅れになる可能性もあった。
 高く、高く。一度目は地を蹴って。二度目は箒を蹴って。エステルは宙へ跳び上がる。
 杖の先端、薔薇の花柄に留まっていた指輪がまた解けて、鍵になる。
「忌敵には罰を、同朋には庇護を……正しき裁きを指し示せ! レメゲトンにゃっ!」
 上空に向けて捻れば、大きな大きな真円の穴が天に開く。
 舞い降りてくる、無数の花弁。
 降り注ぐ花弁は皆、エステルの持つ杖の先で咲く蒼薔薇と同じ色をしている。淡く蒼く輝く花弁と、濃く蒼く鋭い花弁。
 棘のように鋭さを持つ花弁は歪虚達に降り注ぎ、傷を負わせマテリアルの淀みを破壊していく。
 羽のように輝き舞う花弁は寄り添いあって蕾となり、怪我をした者達のもとで癒しを与えほころんでいく。

『ピピピッ♪ ピピピッ♪』
 幻想的な光景の中を異質過ぎる機械音が駆け抜ける。
「はわぁっ、変身可能な時間に制限ってあったのにゃっ!?」
 歪虚達の残数を確かめなければいけないはずのエステルが慌てだし、不安定なマテリアルのせいか、視界がぐらぐら、足元ふらふら……
『ピピピピピピピピッ♪』
「待ってほしいのにゃっ、まだ歪虚は残っていて、ここでわたくしが戦わないと街が……ッ! にゃぁぁぁあっ!」

 ……Zzz

「街が……食い止めないと、辺境にまで広がったら、駄目なの……にゃ……」
『ピピピッ♪ ピピピッ♪』
「みぃっ!」
 ゆさゆさ、ぺちぺち。
『ピピピピピピピピッ♪』
 ぷにぷにゆさゆさもふっ!
「スノウさん、止めないでほしいのにゃ……え、スノウさん!?」
 ガバッ!?
「み゛!?」
 ころっころころ……
「えっあっ待っ」
 しゅたっ!
「みぃ♪」
 ベッドから転がり落ちそうになった愛猫の下に滑り込まねばと構えたエステルだが、上手に着地したスノウは目覚ましの音が消えたおかげでご機嫌に尻尾を振っている。
「あぁ、そうでした……猫さんなのですよね」
 焦らなければいけないような、急かされているような気がしたのだ。
 覚えていないけれど、夢だったのだろうか?
「んん、ちょっと……すっきりしないのですが……スノウさん、おはようございます」
「みぃ〜♪」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ka3983/エステル・ソル/女/12歳/魔獣術師/全ては天が知っているのにゃ!】

「わたくしは奇跡を呼び出し夢へと運ぶ、魔法娘娘アクアローズ!」
パートナーはあくまでも補佐役ですが、万能タイプに至るための必須要素なのです。
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2019年07月08日

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