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『踊るfanatic(4) 』
水嶋・琴美8036

 闇夜に姿を隠し、人知れずその悪魔は獲物を探している。椅子に腰をかけた人型の悪魔の周囲には、彼の配下の悪魔達から送られてくる映像が瞬いていた。
 偵察に特化した使い魔は、対象にバレる事なく遠距離からの監視を可能とする。その内の一体の使い魔が持ってきた映像が、人型悪魔の興味を引いた。
 距離が遠いせいか、映像は断片的だ。しかし、その景色には常に一人の少女が映っている。
 ミニのプリーツスカートを揺らし、半袖の着物を羽織った少女。彼女はまるで風に愛されているかの如く速さで疾駆し、華麗に戦場を舞いながら敵を鮮やかに倒していた。
 何体もの悪魔や、それを信仰する狂信者を相手にしているというのに、その顔には怯えや恐れはない。ただ、優雅な微笑みを浮かべているだけだ。
 決して余裕を崩す事はなく、悪魔を事もなげに倒して笑う少女。――水嶋・琴美(8036)。
 以前から、悪魔は彼女についての噂を耳にしていた。圧倒的な強さを誇り、数え切れぬ程の悪魔や魑魅魍魎を屠ってきた少女。鮮やかな戦いぶりからして、その少女の正体は彼女で間違いがなさそうだ。
 使い魔の映像が断片的だったのは、距離を取っていなければ彼女に存在が気づかれてしまう事を危惧したのもあるが、単純に彼女の速さに使い魔では追いつく事が出来なかったせいもあるのだろう。
 優秀な悪魔の使い魔の監視すらも、振り切れる程の速さと力を持つくの一。その強さは圧倒的であり、琴美が倒してきた悪魔の数も彼女の実力の高さを物語っている。
 しかし、悪魔の興味を引いたのは、それだけではない。
 揺れる黒く長い髪。黒のスパッツを履いたしなやかな脚。遠目でも分かる程に、その存在を主張する豊満な胸に、芸術品のように完成された美しい身体のライン。
 彼女が駆けるたびに、ロングブーツが心地の良い音を奏でる。グローブ越しに放たれる一撃は重いながらも華麗であり、少女の隙のない動きは殊更に悪魔の事を魅了した。
 ――彼女は強く、それでいて何よりも美しかった。
 だからこそ、悪魔は夢想する。そんな琴美が、無様に破れ、屈服し、自分の物になるその瞬間を。
 無論、夢想だけに終わらせる気はない。必ず彼女を倒してみせる、と悪魔は固く心に誓う。
 悪魔はいつまでも、映像の中の琴美の事を見ていた。憎悪と欲望に満ちた瞳で、ただ一心に彼女の事を。
 まるで、彼女を盲信する狂った信者のような瞳で。いつまでも、いつまでも。

 ◆

 任務を終えた琴美は、自宅へは帰らずに拠点にあるトレーニングルームへと向かっていた。そんな彼女に、同じく鍛錬をしようとしていたらしい仲間が声をかける。最近部隊に入ってきたばかりの相手は、近頃街に強力な悪魔が出現する事が多い事に不安を抱いているようだ。
 確かな実力があり、危険な任務も数々こなしてきた琴美は仲間達からの信頼も厚い。それでいて優しい性格な彼女は、こうやって仲間から任務について相談を受ける事も少なくはなかった。
「安心してください。悪魔は、さして驚異ではありません。どのような悪魔であったとしても、必ず私が倒してみせますから」
 相手を安心させるために、優しげな声音で琴美は告げる。事実、誇張ではなく琴美にとっては悪魔など大した敵ではなかった。今まで数えきれない程の悪魔を倒してきたが、苦戦を強いられた事などただの一度もなかったからだ。
 最近名を馳せている悪魔もいるようだが、琴美にとってはいちいち覚える必要もない存在だった。相手が何者だろうと、琴美のする事は変わらない。自分の持つ戦闘力を駆使して戦場を舞い、ターゲットを倒す。それだけだ。
 そんな琴美の姿は、仲間達にとって羨望の的のようだった。頼りがいがあり、それでいて美しい彼女が戦場を駆ける姿は鮮やかで、じっくりと観賞する機会がない事が惜しいと嘆く声は後を絶たなかった。
 先日、三つの組織を一夜の内にせん滅した事は仲間の間でも話題になっているらしい。その事に関して仲間から褒められた琴美だが、しかし彼女はゆったりと首を横へと振った。
「いえ、この程度で満足していてはいけません。この世にはまだ倒すべき組織がいくつも存在致します。どのような任務がきても完璧にこなせるように、私も更に鍛えねばなりません」
 現状に満足せず向上心を失わない琴美の言葉に、仲間は思わず感嘆のため息を漏らす。すでに他の者では届かぬ高みにいるというのに、琴美が努力を止める事は決してない。
「正義の道に、果てはありませんから」
 そして、少女は更に高みへと向かって歩き始めた。誰も敵わない程の高みへ。全ての悪を打ち倒すために。

 ◆

 そんな琴美の事を、遠くから見ている視線があった。人型悪魔は、配下を再び世界へと放っていた。
 琴美には、常に複数の監視をつけている。悪魔は、彼女を襲う機会を伺っているのだ。
 その視線に、未だ琴美は気付いていない。気付いたとしても、彼女が興味を示す事はないだろう。絶対的な自信を胸に持つ彼女が、悪魔如きを恐れる事はないのだから。
 そんな琴美の自信に満ち溢れた姿が、いっそう人型の悪魔の事を煽る。
 悪魔は夢想する。琴美が敗北する、その瞬間を。誰よりも高みへとのぼったと笑う琴美を、そこから突き落とした時、彼女はいったいどのような顔をするのだろうか。
 笑う悪魔の視線の先で、まだ何も知らない琴美は微笑んでいる。いつものようにトレーニングを始めた少女の事を、しつこくその視線は追い続けるのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
鮮やかに敵を倒す琴美さんと、彼女に興味を持った悪魔の因縁の始まり的なお話。このような感じになりましたが、いかがでしたでしょうか。
お気に召すものになっていましたら、幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、この度はご依頼誠にありがとうございました。最近はスケジュールの都合で窓を開いていない時もあり、申し訳御座いません。
また機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年07月09日

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