▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『かもねぎかも! 』
la3453

 近所のおしゃれ系な人たちが憩う裏に、ちょっと住むところに困っている人たちなんかもいたりする、郊外のどでかい公園。
 その真ん中あたりの池には結構な勢いでアヒルボートが行き交っていて、追い散らされた水鳥たちが騒がしく抗議の声を上げていた。
 グアーギャーガ「クワァアアアアアアかもおおおおおお!!」ーゲギャグァガガー!!
 そして、大騒ぎする同胞を置き去り、ぷりぷりお尻を振りながら陸へ上がったものは……
「なにかもあのアヒル! 池は鴨たちの住処かも!」
 ……鴨(la3453)だった。
 ややこしいけど、どこからどう見ても丸々しい鴨の名前が、鴨。ついでに語尾も「かも」だからさらにややこしい。
 おい、大丈夫か? ケガなんかしてねぇだろうな? 心配して声をかけてくれるホームレスのおじさん。ただ、その右手には萎びた長ネギが握られていて。
「ネギ捨てるかも! そいつは悪魔の誘惑かもよ!!」
 我に返った顔でネギを捨てるおじさん。いや、悪い悪い! 同じ公園に住んでる仲間だもんな!
「そんなこと言って左手で拾いなおしてるかも!?」
 鴨肉は脂が乗っててこってりおいしいからぁ! ネギ束を金棒よろしく肩に担いだおばさんがじりっと鴨へにじり寄り。
 冬までは……我慢できねぇ。じいさんは両手に装備したネギをひゅんひゅん振りながら鴨へ跳ぶ。
「鴨はお鍋の中でお亡くなりになってる場合じゃないかも!」
 すごい勢いでばたばた逃げ回る鴨。丸いくせに速い!

 鴨は別の世界から来た放浪者というか、放浪鳥である。
 どうして放浪してしまったのかと訊かれたら、「鴨の高貴なる翼が、いつの間にか鴨をこの世界へ舞い降り立たせたかも」と渋く応えるだけ。うん、つまりはなにもわかってないわけだ。
 でも。わからなくてもお腹は空くし、お金なんて持ってるはずがないから、お腹が空いたら自分で探さなくちゃいけない。そんなわけで、水鳥の同胞と家なしの仲間たちに迎えられ、公園へ居着いたわけだが。
 ある日、公園に不法大量廃棄された野菜があった。そう、長ネギだね。それを手にした途端、仲間たちは変わってしまったのだ。鴨のことを別世界から来た愉快な仲間としてじゃなく、ぷりっと丸々しい超おいしそうな食材として付け狙うように――
「全部鴨の隠しきれないエレガントな魅力が悪いかもおおおおお!!」
 高貴とはとても言えないばたつきっぷりで緊急離脱を決める鴨だった。

 探せ! ネギがダメになっちまう前に! なんて声をかけ合いながら、人々は鴨の探索をあきらめない。
 そんな危険な公園の片隅、鴨は息を殺して身を潜めている。
 逃げ出すわけにはいかないのだ。なぜなら鴨は、卵をあたためなきゃいけなかったから。
 いや、鴨が生んだわけじゃない。そもそも鴨の性別は不明だし。
 ある日、餌探しの途中で見つけた卵。鴨は雑食なので、茹でて食べることもできたけど、なにやら愛着を感じて持ち帰ってしまったのだ。
 ママでもパパでもないかもけど、待ってるからかもね。
 やさしく語りかければ、ついに。卵の内でもぞもぞしていたものが殻を突き上げてヒビを入れ、這い出してきた。
「こんばんは赤ちゃんかぎゃああああああああも!」
 出逢った瞬間、鴨のお尻にかぶりついたワニの赤ちゃん。どんなに小さくても捕食者、本能に突き動かされるまま、目の前のおいしそうな肉に飛びついたのだ。
 鴨の絶叫を聞きつけた人々が口々に、こっちだ! と言いつつ迫り来る。
「見つかったかも!」
 ぶっちんとお尻からワニを引き剥がし、先頭のおじさんの顔へ投げつけた鴨は、八方から振り下ろされ、投げつけられるネギをブロックしつつ、今度こそ公園から逃げ出した。
 野生の掟は厳しいかも! 高貴な鴨にはやっぱり意識高い都会がお似合いかも!


 というわけで、やってきました大都会。
 高い意識を輝かせ(自称)、堂々と降り立った鴨だったのだが。
 ポロッポゥ!! ポポポウ!! 縄張りを侵す鴨へ鳩のみなさんが猛々しく襲いかかり、クチバシでつつきまわす。
「クワァアアアアアアア!! 都会の掟も厳しいかもおおおおおお!!」
 こっちに来るアル! ミーが助けるアルよ!
 と。唐突に緊急回避する鳩たちの向こうから、中華包丁を振り回しながら覆面料理人が乱入してきた!
「包丁が危なくて近づけないかも!」
 料理人はぴたっと動きを止めて。大丈夫、ミーの包丁はよく切れるアルよ?
「思いっきり鴨のこといただいちゃう気かもねええええええ!!」
 ネギの臭いがするエスト! エシャロットの匂いで塗り替えるエストおおおおお!
「わかりにくいけどフランスシェフかもねっ!?」
 競技用自転車――自転車競技はフランス発祥スポーツ――を駆って突っ込んできたコックが、肉切り包丁を突き出して……料理人の包丁にガッキと受け止められた。
 ミーの邪魔するなアルよ! ジビエはミーのものエスト! なぜ一人称がエセ英語なのかは不明だが、互いの調理術を駆使した醜くも激しい戦いが始まる。
 ポポポポゥ!! 今のうちとばかり逃げ散る鳩たちに混ざり、鴨もお尻をぷりつかせて全力移動。
 ネギのにおい染みついてむせるかも……って、とにかく生き抜かなくちゃかもよ!

 カラスと戦って負け、ネズミと戦って負け、料理人とは戦わずして負け、それでもなんとか都会という場の恩恵をいただきつつ鴨は生きる。
 そんな中、仮の宿としたビルの屋上から鴨は見たのだ。
 とある駅ビルのマルチビジョンに映しだされた、ライセンサー募集広告を。
 SALFは人も、人ならぬ知性体も、別世界からの放浪者も受け容れる。そのための条件はふたつ。侵略者と戦う意志を持ち、そのための武器に適合できる者であること……それだけだ。
 鴨は放浪者で、勇気と知性あふれる貴き存在(自称)。
 そう、世界のみんなから寄せられるべきは尊敬の目であって、食欲の目じゃありえない。
「ヒーローに、なるかも」
 まん丸な目をぱちぱちするごとに意志の炎を滾らせて、鴨は羽を大きく拡げた。
 面接の前に水浴びをしなくては。それは鴨にとってタフでインポッシブルなミッションになるだろうが、ネギといっしょにいただかれない明日のため、なんとしても果たしてみせる。


「鴨の鴨かも! ライセンサーになりたいかも!」
 SALFの受付前、ここへ来るまでにたくさんの修羅場をくぐり抜けてきたとは思えないのんきな顔の鴨が、ぐいっと胸を張って告げる。
 ふたり並んだ受付嬢は互いの顔を見合わせ、次いで鴨を見下ろして。
 確認させていただきたいのですが、EXIS――侵略者と戦う武器はどのように使うおつもりでしょうか?
「クワ?」
 鴨は鴨なので、高貴なる翼こそあれど手はない。
 武器というからには手で持つことを想定しているんだろうし、それはまあ、訊かれるだろうが、しかし。
「心配いらないかも」
 丸々しい体を左ななめ45度に傾げ、鴨は自分的には最高に渋いポーズを決めて。
「なんだかいい方法、考えてもらうかも!」
 それはもう華麗な丸投げをかましてみせたんだった。

 とりあえず実施された試験で、鴨は一部食堂関係者の祈りを見事に裏切って適合者であることを証明した。
 果たして、今日このときからライセンサーとなった鴨。これからもいろいろ、いや、主にネギとの戦いは続くだろう。なにせ本日、食堂で出された夕食メニューは葱鮪だったし。
「それでも鴨は負けないかも!」
 こうして、いつかヒーローになるかもしれない鴨の最初のひと羽ばたきは為されたのだ。
シングルノベル この商品を注文する
電気石八生 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年07月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.