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『IO2からの依頼・1 』
水嶋・琴美8036
 
 水嶋・琴美(8036)は深夜、闇に溶け込むような黒いロングコートに身を包み、黒い長髪も黒い帽子の中にまとめて入れていた。
 いつもと違う服装だが、動きはくノ一らしい足取りで夜道を進む。
 向かうは海岸倉庫。潮風で錆びた外壁の倉庫がズラッと並ぶ中、琴美は指定された番号の倉庫の扉に手をかける。
(はあ……。どう考えても、厄介な任務ですよね)
 心の中で大きなため息を吐きながら、琴美はギギギッ……と耳障りな音を響かせる扉を開けた。
 倉庫の中には大小様々なサイズの木箱が数多く置いてあり、開けた扉から月明かりを受けた埃が舞い上がるのが眼に映る。
 琴美は扉を閉めると、真っ暗な倉庫の中に足を踏み入れた。
「自衛隊特務統合機動課の水嶋・琴美です。時間通りに来ました」
 声を上げると、身近で空気が揺れ動いたのを感じる。
 自分の首元めがけて、眼に見えない何かが突きつけられる感じがした。
「っ!?」
 咄嗟にコートの内ポケットの中に手を入れて、握り締めたクナイをソレに向ける。
「二人とも、そこまでだ」
 冷静な男の言葉で、琴美と何者かはピタッと動きを止めた。
 それと同時に蛍光灯がパパパッとついて、倉庫内が明るく眩しくなる。
「試すような真似をして悪かったな。機動課のお嬢さん」
 声がした方に視線を向けると、こちらに歩いて来る一人の男の姿が琴美の目に映った。
「随分と手厚い歓迎の仕方ですね。これがIO2エージェントの挨拶のやり方なんですか?」
「相手の実力をはかり、依頼をするだけさ」
 黒いコートに黒いサングラスをかけた男は、口元だけ笑みを浮かべる。
「んで、未だに眼に映らないそいつが……」
「同じくIO2エージェントよ」
 少女の声がしたかと思うと、『何者か』は姿を現す。
 背負った鞘に剣をしまう自分よりも若いエージェントを見て、琴美は眉を寄せる。
(こんなに若い女の子がIO2エージェントだなんて……。胸が痛みますね)
「驚かないんだな。姿を突然現したのに」
「『ヴィルトカッツェ』という名前がすぐに思い浮かびましたので」
「ああ、なるほど」
 若干14歳にして裏の世界では知らない者などいないほど、少女の活躍は凄まじかった。
 琴美は自衛隊特務統合機動課の一人として、少女のことを知っていたのだ。
「さて、どうやら私は合格なようですので、お話を進めてくださいませんか?」
「ああ、いいぜ。その前に、タバコを吸っていいか? おまえさんが来るまで我慢しろって言われててな」
「まあ構いませんが」
 近くに木箱がたくさんあるにも関わらず、男は平然とタバコを吸い始めた。
「フーッ……、ああ美味い。最近、暗い話題が多かったもんで、タバコが美味く感じなかったんだよな」
「それでわざわざ私を指名した理由は何ですか?」
「実はウチの組織内で問題が起きた。その解決方法を巡って、エージェント達が意見分かれを起こしている。機動課のお嬢さんには、俺側の助っ人になってほしい。コレが依頼内容だ」
 IO2内の問題と聞いて、ますます琴美の眉間のシワが濃くなる。
「……もっと詳しく話してくださいませんか?」
「ああ、良いとも。問題が起こったのは一週間前、呪物が古美術品として見つかった。すぐにウチの組織は動き、回収&処理を行う予定だったんだが……」
「その呪物に触れたエージェントの一人が、意識を乗っ取られてしまったのよ。どうやら呪物には触れた人間の精神を汚染する作用があったみたいでね。それが分かったのは、事が起きてしまった後だった」
 二人は語るが、IO2内ではその時、かなり混乱が起きただろうことは簡単に想像することができた。
「呪物は手のひらサイズの小さな壺だ。陶器でできていて、蓋には封印の札らしいモノが貼られていたんだが……」
「そのエージェントは波長が合ってしまったのか、その札を自ら破いて蓋を開けてしまったのよ。そしたら中から邪妖精が飛び出てきたの」
「邪妖精っ!? 壺に邪妖精が封印されていたんですか?」
 琴美が声を上げるのも、仕方のない事。
 邪妖精といえば、普通は召喚師によって姿を現すものだからだ。
「偶然できた呪物なのか、あるいはどこかの愚か者が作り出したのかまでは分からない。現在分かっていることは、蓋を開けてしまったエージェントは心ここにあらず状態で、この都内をウロウロしていることだけだ。邪妖精の幻覚のせいでな」
「我々IO2にとって、とんでもない非常事態なんだけどね。事件の対処方法について、意見が分かれているの」
「それで私が指名されたんですか。でもどういう意見が出ているんですか?」
「一つは俺が提案しているもので、エージェントを見つけたら問題の邪妖精と壺を破壊して、エージェントは助ける」
「けれど超常能力者に恨みを持っている者達の中には、問答無用でエージェントごと始末すると言っている人もいるのよ」
「ああ……、なるほど。そういうことでしたか」
 元々IO2は超常現象を取り締まっている組織で、その中には超常能力者が犯罪を起こした場合、始末する者がいる。
 超常能力者を憎んでいるエージェントは、超常能力者が事件を起こせば意気揚々と殺しに行くほどだ。
「だが俺は問題のエージェントは封印の札の力が弱まったせいで、邪妖精の幻覚にかかってしまったんじゃないかと思っている。その考えに賛同してくれる者もいれば、反対する者もいる」
「私達が動くと、邪魔をするヤツらが出てくるわ。本来なら足の引っ張り合いなんて、組織の掟に背くんだけどね」
 IO2の二人は少々疲れた表情で、軽くため息を吐く。
「だからお嬢さんを呼んだんだ。隠密活動と戦闘能力を持つおまえさんなら、問題のエージェントをコッソリと探し出して、上手くすれば壺と邪妖精を始末してくれるんじゃないかってな」
「――そうでしたか。では問題のエージェントはどうします?」
「私達に連絡して。すぐに駆け付けるから」
 そう言って少女は二件分の電話番号を書いたメモを差し出す。
「壺と邪妖精を始末したなら、そいつの処分も変わってくるだろう」
「くノ一のあなたなら、邪妖精ごときに引けは取らないと思うしね。よろしくお願いするわ」
「了解しました」
(やっぱり厄介な任務でしたね……)
 心でため息を吐きながら、琴美は萌からメモを受け取った。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 このたびはご依頼をしていただきまして、まことにありがとうございます(ぺこり)。
 三部作の中のまずは第一部、はじまりの章になります。
 今後の展開を、お楽しみください。


東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年07月19日

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