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『夢へのいっぽ! 』
てくたんla1065

●慈母の胸に抱かれて

 ……。……、──。

「起きなさい」

 愛しい子よ、と。声が呼び掛けた。

 距離感の掴めない透明な闇の中、数多の星屑に抱かれて将来てくたん(la1065)になるべきモノが眠っていた。尾を引いて流れる流星雨は銀糸の輝きで空を染め、天幕をライトアップする。それは、いつの日か新しい世界を造る存在への、母からの慈愛の雫であった。

 気が付けば、一面の蒼の中にいた。ここは、どこだろう? 身体を洗う水が寄せては返す。どこまでも続く、蒼・青・アオ。とても広く、無限に続くような空間に、白く勢いよく立ち上る綿菓子のようなふわふわ。世界は限りなく広がっていて、色彩が、音が、そして匂いが。全ての情報が身体を包み込んで、この世界に自分が存在しているということを感じさせてくれた。

(ここが……)

 僕の、世界になるのかな。

 どこかで、優しい声が聞こえた気がした。この世界ではないどこかで、きっと、誰かが。

 見ていてね。きっと、僕が、ここで。貴女に貰ったものを次へ引き継げるような。そんな大きな、立派な僕になって見せるから。


●シーサイド・フラワー

(まずは)

 この星に合った「形」にならなくっちゃ。どんなのがいいかな? みんなに怖がられずに、仲良くできるような感じじゃないと。周りには……色とりどりの丸いものがいっぱい。赤・青・緑。大きさも大きいのから小さいのまでたくさんある。たまに「何か」がやってきて、それを持っていく。これがいいかな? みんなが持っていくものなら、きっと大切にしてもらえるよね。よし、これに決めた! 意識がふわふわと漂って、渦となって固まっていく。少しずつ、思い描いた通りに形を成していく。それは、たっぷりと空気を含んで張りつめた光沢のある表面をしていて。期待をはらんでもっともっと、大きくならないと。

 周囲から聞こえる音から、僕の形は「ボール」と言うものらしいと知った。そう、僕はボールだよ。みんな、僕を手に取って、新しいところへ連れて行って!

 楽しげな声と共に、身体が持ちあげられる。少しべとつく風が身体を撫ぜる。どこに連れて行ってくれるんだろう。ふわふわと、僕は運ばれるままに身を任せていく。わくわくする期待に、心持ちも弾むような気がした。

『それじゃ、いくよ〜』

 僕を運んで行った何かは、また別の何かと一緒にいるようだった。

『よーし、こい!』

 また別の声が聞こえた。それと共に、ふわっと身体が浮き上がる。なんだろう、何が起こるんだろう?

『えいっ!!』

 掛け声と共に、ぼすんと僕の身体は勢いよく平手打ちされた。痛い! どうしてこんなひどい事をするの? 楽しい事をするんじゃなかったの? 叩きつけられた勢いのままに僕は飛んでいく。その向こうには、また別の何かが。今度は蹴られてしまった。僕が何をしたっていうの? どうしてキミたちは笑っているの?

 叩かれたり、蹴られたり。どうもこの形は失敗みたいだ。ぐるぐると回る視界のなかでそんなことを考えていると、ぴゅうと風が吹いて僕の身体は大きく飛ばされる。

『あ〜あ、飛んでっちゃったよ』

 声が遠ざかっていく。少し名残惜しい気もしたけど、痛いのはもうまっぴらだよ。次はもうちょっと別の形がいいな。


●浪漫堂

 飛んで行った先はまたにぎやかな場所だった。固く、ひんやりとした石の感触。さっきも見た「何か」が、たくさん行きかっている。透明な壁の向こうに、大小さまざまな形が並んでいた。

(ここなら、僕にぴったりの形も見つかるかな?)

 さっきの失敗を胸に、僕はころころと転がる。今度は失敗しないぞ!

『これ可愛い、素敵!』

 小さな「何か」が、大きな「何か」に呼びかけている。ぐいぐいと身体を引っ張って、ずいぶんと壁の向こうのものを欲しがってるみたいだ。僕もあれくらい熱心に、大切にしてもらえたらいいなぁ。あれになろうかな。何ていうんだろう、あれ?

『この、置物でいいんですか? 陶器で出来てるから、割れないように気を付けてくださいね』

 壁の向こうから出てきた声が、そんなことを言っていた。そうか、これは「置物」っていうんだ。じゃあ僕も置物のマネをしよう! ぐにぐにっと柔らかい身体の表面を伸ばして、大きく二つの突起を上に伸ばす。下にはちょっと控えめにまた二つ、ちょこんと出っ張りを付けて。おっと……バランスが悪くて倒れちゃいそう。後ろにぐいーっと重心を持っていくようにくるくると身体を巻いて。よし、これで僕も「置物」になれたぞ!

『……こんなの、ウチの店にあったかな? まあいいや。とりあえず中に入れておかないと』

 さっきの声が頭の上で聞こえた。よいしょ、と掛け声とともに、また身体が持ちあげられる。ギィ……ときしむ音とともに、薄暗い壁の向こうへ僕は運ばれていく。壁の中はひんやりとしていて、薄暗い。さわさわと空気が流れていて、少し煙ったような、木の香りのような変わったにおいがする。

『ここでいいかな』

 トン、と。僕は丁寧に地面に置かれた。ここなら落ち着けるかな。もっともっと勉強しないと。


●てくたん

(次には……言葉がいるね)

 やっぱり周りに受け身になってるだけじゃダメだよね。さっきみたいにひどい目に遭わないためにも、自分のことは自分で出来ないと。都合のいい事に、ここは色々な刺激があって楽しいところだった。壁の棚には、煤けた機械が掛っていて、ガーガーとうなりを上げている。ここにいる「何か」は、時たま機械を手に取ってあれこれと触っていた。その度に、機械はガリガリと大きな音を立てたり、これまでと違った声を上げたり。不思議だなあ、アレ。

『…んでや…なんでやね…ん…』『もう…ええわ』

 どっと笑い声が聞こえる。これを真似したら、僕……ちゃうわ、うちも笑てもらえるんやろか。それならええんやけど。

「あー……あー」

 試しに声を出してみる。何や、意外に簡単やな。この調子ならけっこう上手いコトいけるんちゃうか。目の前に立った「何か」に喋りかけてみよか。

「ニイさん元気しとる? 何してるん」

 うちが喋りかけたら、「ニイさん」目ん玉パチクリさせてから弾けたように笑いよったわ。ええ感じちゃうん、コレ?

 店の奥から出てきた「店主」さんは口をあんぐり開けてびっくりしとった。そりゃあそうやな、うち、喋れると思ってなかったもんな。いろいろ良くしてくれておおきに。残念だけど、うちにはやる事たくさんあるんや。ほなら、さいなら〜♪

 扉に飛びつくようにノブをひねり、外へ出る。キラキラと陽の光が通りを照らしている。ここは商店街っていうんやな。まだまだ勉強しなきゃいけないこと、ようさんあるわ。

 てくてく、と歩き出す。せや、名前……決めな。

「──てくたん、でええか」

 すんなりと腑に落ちる感覚。そう、うちはてくたん。てくてくてくたんや! マザーに引けを取らないような……そう、キングてくたんになるんがうちの目標!

「ほな、いこかー」

 足取りは軽く。心は弾んで。うちは一歩を踏み出した。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

この度はノベルご発注いただき、どうもありがとうございました。PCさまがこの世界へ降り立つ、その経緯を筆に乗せさせていただくのはとても楽しい作業でした。語り口調や風体が特徴的なてくたんさまですから、きっとこれからの経験も一風変わったものになるのでしょう。

グロリアスベースからてくたんさまのご活躍を今後も楽しみにしております。
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グロリアスドライヴ
2019年07月19日

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