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『神罰と同義(3) 』
白鳥・瑞科8402

 通信機が音を発したのは、白鳥・瑞科(8402)が悪魔をせん滅し終えたのとほぼ同時だった。
 通信の相手は、瑞科の上司である神父だ。普段は任務の邪魔になるから、と瑞科は彼に任務中には緊急事態でない限りはかけてこないようにと伝えている。
 そんな彼から通信があったという事は、何かトラブルが起こったという事だ。瑞科を頼らざるを得ない、何かが。
「あら、神父様。いかがいたしまして?」
 しかし、まるで瑞科は最初からそれが分かっていたかのように、余裕を崩す事なく落ち着いた声で応えてみせた。その顔には、先程悪魔を叩きのめした高揚感に満ちた微笑みを携えたままだ。
 通信機の向こうにいる神父の口が、まず最初に紡いだのは謝罪の言葉だった。言いにくそうに、神父は先程街の調査を行っていた部下から聞いた話を口にする。
 何でも、今まさに別の場所で悪魔達が集会を開き、より上位の悪魔を召喚する儀式を行っているという情報が入ったのだという。悪魔が現れた場所は、この場所だけではなかったのだ。
 だが、その情報すらも瑞科を動揺させる事は叶わない。彼女はその唇で美しい弧を描き、穏やかな声音で当然のように囁くのだった。
「ご安心くださいませ。そんな事だろうとは、思っていましたのよ」
 メッセージを読んだ瞬間から、悪魔達が何か罠が仕掛けているだろうという事には気付いていた。瑞科は瞬時に相手が仕掛けてきそうな罠を推測し、可能性の高そうなものを脳内でリストアップしていたのだ。
「あのメッセージは恐らく陽動ですわ。わたくしをこの場所へ誘い込んでいる内に、別の場所で儀式を行う予定だったのでしょう。悪魔の考えそうな、卑怯な手段ですわね」
 わざわざ「教会」へと挑発的なメッセージを送ってきた割には、現場にいた悪魔の数は想定よりも少なかった。その時点で、恐らく本命は別の場所なのだろうと瑞科は確信し、悪魔を嬲る時間を楽しみたいという欲を抑え相手を瞬時に倒す事に決めたのであった。
「それ程、敵はわたくしを恐れたという事ですわ」
 ふふ、と得意げに聖女は笑みを浮かべる。瑞科は今まで数え切れぬ程の魑魅魍魎を倒してきている。悪魔達もその噂を聞き、ただ儀式を行っても瑞科に妨害されてしまうだろうと恐れたのだろう。
 瑞科を儀式の間だけ引き付けるという作戦は、悪魔にしては妙案だとは思う。しかし、他のシスターならまだしも、瑞科にはそんな作戦など通用しない。
「彼等はわたくしの強さを見誤りましたわ。あの程度の悪魔が、わたくしを相手にして稼げる時間なんて数秒もありませんもの」
 通信を終えた後、瑞科は悪魔達が儀式を行う現場へと向かうつもりだ。彼等の作戦は失敗に終わった。否、瑞科がいる「教会」を敵に回した時点で、悪魔達の計画はとうに破綻していたのだろう。
 美しい聖女の足元には、彼女には不釣り合いな戦場の跡が転がっている。倒れ伏した悪魔を見下ろす、空を溶かしたような澄んだ青色の瞳には、蔑むような色が浮かんでいた。

 ◆

 ひらりと、プリーツスカートが揺れる。そこから伸びた長い足が、挨拶代わりに一体の悪魔を蹴り飛ばした。
 後ろから襲いかかってきた別の悪魔を、振り返る事なく振るわれた杖がなぎ倒す。
 儀式中の悪魔達の元に突然現れた聖女は、鮮やかな動きで戦場を舞い始めた。
 現れた、というより、降り立ったといった方が正しいかもしれない。朽ちかけた建物の天窓から、文字通り聖女は降りてきたのだ。その見た目の美しさも相まって、まるで天使のように。
 翼の代わりにマントを揺らして華麗に着地した彼女は、そして目にも留まらぬ速さで近くにいた悪魔を屠ってみせた。
 儀式を突然邪魔された悪魔達は、戸惑いながらも反撃しようとする。だが、それもやはり彼女には軽々と避けられてしまった。
「先程の戦いはすぐに終わらせる必要がありましたから、さっさと倒さなくてはいかなくて少し退屈でしたの。あなた達の事は、先程の悪魔達の分まで十分可愛がってあげますわ」
 笑みと共に、彼女はそう告げる。言葉と共に、聖女はまた一体の悪魔へと杖を振るった。
 下賤な悪魔達に与える慈悲は存在しない。瑞科の振るった一撃が、また容赦なく悪魔の身体へと叩き込まれ、悪しき魂を無へと返すのだった。
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年07月22日

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