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『神罰と同義(4) 』
白鳥・瑞科8402

 とある廃墟の中で、悪魔達は儀式を行っていた。より上位の悪魔を召喚するための儀式を。
 彼等を邪魔するであろう「教会」の注意は、別の悪魔が引きつけている。懸念もなくなり、彼等の計画は完璧に遂行される。……はずだった。
 白鳥・瑞科(8402)が、儀式の最中にその姿を現すまでは。
 瑞科は駆け、鮮やかに杖を振るい、次々に悪魔を倒していく。本来なら陽動部隊が引きつけているはずだ、と一体の悪魔が思わず叫ぶが、その疑問の答えなど瑞科がここに現れた時点で分かっていた。
 悪魔達の作戦は――。
「――あなた達の作戦は失敗いたしましたわ」
 残酷な真実を、瑞科の唇は事もなげに紡いでみせた。微笑みを浮かべた瑞科は、その真実を更に残酷なものへと変えるように、どこか楽しげに語り始める。強者にしか許されていない余裕を持った態度で彼女が告げたのは、悪魔達にとっては死の宣告に等しい言葉だ。
「わたくし、あなた達の仕掛けた罠が何なのか、ある程度見当がついていましたのよ。わたくしをおびき寄せる事が目的なのではないかしら、と」
 陽動の可能性が高い事に早い段階から気付いていた瑞科には、メッセージに記されていた場所には向かわずに直接ここへと訪れるという選択肢もあったのだ。この場所の位置も、瑞科ならすぐに調べ上げる事が出来ただろう。
 しかし、彼女はそうしなかった。
「わたくしは、わざわざ罠の仕掛けられているであろう場所へと向かいましたわ……何故だか分かりまして?」
 その問いかけに、答えを返す者はいない。彼等の答えなど最初から期待していなかったのか、天使のような微笑みを浮かべながら彼女は気にもとめずに話を続ける。
「予想を確信に変えたかったのもありますけれど、それ以上に……倒す必要があったからですわ。そちらにいるはずの悪魔も。だって、全ての悪魔を倒すのが、わたくしの任務ですもの」
 彼女の胸に妥協の文字はない。今回の任務は、悪魔のせん滅だ。最初に宣言した通り、ただの一体も瑞科は逃す気がなかった。
 だから、全ての悪魔を倒すために、あえて瑞科は罠の仕掛けられている場所へと向かったのだ。そこにも恐らく、自分の倒すべきターゲット……悪魔が待っているに違いなかったから。
「さぁ、穢れた悪しき魂に、裁きを与えてさしあげますわ。わたくしに倒されたい者から、前へと出てくださいまし!」
 再び、瑞科は武器を構える。彼等の罰に相応しい裁きを与えるために杖を振るう。
 神罰の代わりとばかりに放たれた電撃が、また一体の悪魔の命を喰らうのだった。

 ◆

 戦いの結果を示すかのように、その場にはただ一人瑞科だけが立っている。ロングブーツが床を叩く心地の良い音を響かせながら、聖女はまだ生き残っている悪魔の方へと足を向けた。
 悪魔は最後の力を振り絞るように、瑞科へと懇願する。全ては仕えている大悪魔のためにした事であり自分には悪意はないのだと嘯き、どうか命だけは見逃してくれ、と足掻いてみせる。
 しかし、それを聞く義理が瑞科にあるはずなどはない。むしろ、みっともなく喚き、仲間すら売るその声は人を不快な気持ちにさせた。下劣な悪魔にはプライドも仲間意識もないのか、と呆れ果ててしまう。
 そもそも、瑞科と会話をする事が許されていると思っている時点で、思い上がりも甚だしい。瑞科と悪魔では、あまりにも住んでいる世界……立っている高みが違うのだ。
「そろそろ、終わりにいたしますわ。思っていたよりも手応えもありませんし、あなた達相手にこれ以上時間を使うのはもったいないですものね」
 これ以上戦いを続けても、準備運動にすらなりそうにないと察し、彼女は最後の悪魔へと向かい容赦なく杖を振るうのだった。

 一人残った瑞科は、最後の悪魔が塵となり消えていくのを確認した後に、納得したように呟く。
「大悪魔……やはり、そうでしたのね。メッセージを送ってきたり、わたくしの事を警戒していたりと、彼等は少し「教会」について知りすぎておりましたわ。我々「教会」の情報は、たかが悪魔に手に入れる事が出来るものでもありませんのに」
「教会」は、秘密組織である。神秘のベールで包まれている「教会」の情報を、あの程度の力しかない悪魔が手に入れられるとは思えない。
 つまり、「教会」の情報を悪魔達に流している者が存在するのだ。大悪魔は、すでに「教会」へと潜り込んでいる。――スパイとして。

 ◆

 とある屋敷の地下に身を隠しながら、一人の少女が何やら困惑した様子で誰かに連絡を入れている。
 だが、通信機の向こうにいるはずの彼女の配下からは、何の反応もない。
 舌打ちと共に、少女は乱暴に通信を切った。しかし、通信機は数秒経たずに通信を受信した事を告げ鳴り響き始める。
 最初、少女はそれが先程連絡が取れなかった配下からのものだと思い、その頬を僅かに緩めた。しかし、違う。通信の向こうから聞こえてきたのは、凛とした澄んだ声……その声だけでも発している人物が美しいのだという事が分かる程に、聞いていて心地の良い女性の声であった。
「やはり、あなたでしたのね」
 驚き目を見開いた少女の背後に、何者かの足音が響く。聞き覚えのある、ロングブーツが地を叩く音だ。
 少女が振り返った先で、同じく通信機を耳に当てている女……白鳥・瑞科は微笑んでいた。
「最初から、あなたの事は怪しいと思っていましたのよ。――さん」
 瑞科の声が、少女の名前をなぞった。それは、少女が彼女の組織に身を潜めている間にだけ名乗っている仮の名前だ。
「あなたは、悪魔のスパイでしたのね」
 視線の先で顔を歪めている少女の姿に、瑞科は見覚えがあった。
 以前、悪魔を倒せずに困っていた時に助けてあげた少女だ。最近組織に入ったばかりの新人シスターは、瑞科へと尊敬の眼差しを向けていたのが嘘のように、憎々しげな瞳で瑞科の方を睨んでいた。
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年07月22日

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