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『ライラックと募る想い 』
フェリシテla3287)&ニム・ロココla1985


 それは5月某日の、麗らかに晴れたある日のこと──。

「ニムさん、こちらです」
 慣れた様子でフェリシテ(la3287)は園内を誘う。ニム・ロココ(la1985)は色鮮やかに咲き誇る花々をどこかぼんやりと眺めながら、説明板へと視線を向け、またフェリシテの言葉に耳を傾けていた。
(どれも見たことあるようなないような、って感じですね〜……)
 直に見たことがあったのか、本やテレビなどのメディアを介して知ったのか──或いは、似たような花を見かけたのか。それは定かでないけれど、確かなのはこの植物園には膨大な種類の植物が在るということで。
(フェリシテさんは、いつもこんな環境で過ごしていたのですね)
 先月付き合い始めたばかりのニムとフェリシテにとって、まだ互いの事は手探りで。けれどこうやって少しずつ知っていけたら良いとも思う。

 ここはアメリカ某所にある植物園。フェリシテが約3年、ライセンサーとなるまで稼働していた──働いていた場所である。離れていた時間は決して短くはないけれど、さりとて驚くほど長いというほどでもなく。フェリシテにとって、案内を苦とするようなこともないようだった。
「ここには5月に花が咲く植物を集めているんです」
 花々へ目を向けるニムを見ながら、フェリシテは手でそちらを示す。そこに咲き乱れるは鮮やかな春の花。1つずつ説明する彼女の言葉を、声を聞いていたニムはある花を見て足を──今も止まりそうなくらい十分ゆっくりだったけれど──止めた。フェリシテも同じように足を止めて、その花を見る。
「ライラックですよね〜。あれは私もわかりますよ〜♪」
 ね? と微笑みを浮かべるニム。分かって当然だ、あれは『きっかけの花』なのだから。
「逆さにすると、大まかなフジの花の形に似ている……ですよね〜?」
 フェリシテに問えば、彼女も笑みを浮かべて頷いてみせる。そしてライラックへと向けられた視線がつと細められた。
「……フェリシテがニムさんに告白する際、力を貸してもらったのもライラックでしたね」
 この花を選んだ理由は花言葉にあった。ライラック、あるいは白いそれには友情や青春にまつろう言葉がつけられている。けれど唯一、紫のライラックには『恋の芽生え』『初恋』といった甘酸っぱい言葉がついているのだ。
 フェリシテに恋情を芽生えさせたのはニム。だからこれは初恋で、それを伝えたいと切り花を持ってニムの家を訪れた。それよりも前から彼の家は訪れていたはずなのに、その日はやけに緊張して。
(あの時も言いましたが……)
 フェリシテにとって、ニムが自身をどう思っているのか分からなかった。彼からも予想していなかったと照れられた。だからきっと──気持ちは、言わねば伝わらない。
 ニムさん、とフェリシテが声をかければ、ライラックへ向けられていた紫の双眸が自身へと向けられる。フェリシテは束の間瞑目して、そして目を開けるとニムを真っすぐに見つめた。
「フェリシテは今、告白したときよりもずっと、ニムさんが好きです」

 彼女の言葉にニムは思わず視線を向けた。返される言葉も視線も真剣で、真っすぐで。懸命に想いを伝えようとしているそれに笑みが浮かぶ。
 家で菓子を共に食べ、依頼について話をしたり。神社へのお参りへ誘われたり。他にも沢山の思い出があるけれど──嗚呼、フェリシテへの想いは変わらない。
「勿論、私もですよ〜。そうそう、この後は事務員の方へ挨拶に向かわなければ〜」
 その言葉にフェリシテが目を瞬かせ、頬を赤く染める。
 ここは植物園で、フェリシテは元々植物たちの世話をするために創られた存在である。そしてフェリシテは植物園の職員に世話になっていて──つまるところ、ここは実家のようなもの。
 恋人が実家へ挨拶に来たのだと思えば、顔を赤くせずにいられようか。勿論、彼と共にいられることを幸せだと心から感じているのだ、実家への挨拶に否やはない。ただ、期待と緊張が溢れてしまいそうなだけで。
 実際にはもう溢れているのかもしれないが──そんな彼女の様子に、ニムはくすくすと微笑んだ。しかしふと、その首が傾げられる。
(……英語、大丈夫でしょうか〜?)
 アメリカへ渡る前、ふと思ったのだ。私は英語を話せただろうか、と。結論、話せなかった。挨拶のため、英語の練習は重ねたがどうしても不安は残る。きっとたどたどしくなってしまうだろう。
(相手に伝われば良いのですが〜……)
 言葉に壁があったとしても、フェリシテに対する気持ちは本物だ。出来るだけ自分の言葉で、フェリシテの世話になった人へと伝えたい。
「では……行きましょうか」
 ようやく落ち着いたフェリシテがニムを再び誘う。道の両側に咲く花を説明しながら、その足が向く先は2人で挨拶をするために。
(この気持ちは、自信を持って伝えられます)
 彼と──ニムといることは、とても安心できて、心地よくて。心の底から、幸せで。その気持ちと、これからも一緒にいたいという気持ちを伝えたい。
 不意に隣を歩いていた2人の手がぶつかる。軽く触れたと言っても良い程度のそれに2人は同時に顔を見合わせて、手元を見下ろすとどちらからともなくその手は繋がれる。
 そして再び視線を合わせると──ふふ、と同時に笑みを漏らした。

 のんびりと歩いていれば、広い敷地の向こうに建物が見えてくる。
「あそこですよ」
 フェリシテが示せば、ニムは頷いて。ふと、その視線はフェリシテへと向けられた。
「フェリシテさん」
「はい」
 振り向く視線はほとんど同じ高さで。だから、そんなに大きな声でなくても言葉を伝えられる。
「必ず、幸せにしたいと思います。……、」
 言葉を続けようとして、一瞬言葉を詰まらせたニム。フェリシテが1つ瞬きをした。
 これから会う、彼女の家族とも言うべき存在──植物園の事務員には『大変好ましいと思う相手』と形容しても良いだろう。けれど、フェリシテがニムにくれた言葉はそれと異なるものだったから。
 だから同じものを、言の葉に乗せる。

 ──フェリシテさんが好きです、と。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 初めまして。フェリシテさんとニムさんのお話をお届け致します。
 期限ギリギリまでお待ちいただき申し訳ございませんでした……! もう7月ですね。
 きっとお2人なら植物園の方々も祝福される事だろう、と思いつつ書かせて頂きました。お気に召して頂けたら幸いです。
 気になる点などございましたら、お気軽にお問い合わせください。
 この度はご発注、ありがとうございました!
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2019年07月22日

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