▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『蕾を咲かせる最適な手段 』
レオーネ・ティラトーレka7249

 小さく鼻歌が響いている。
「よしっ、飛距離は十分」
 零れる呟き、その声量もとても小さいものだ。確実に、着実に、レオーネ・ティラトーレ(ka7249)は作業を続けている。
 手にしているのは竹筒製の水鉄砲なのだが、これが妙に数が多い。比較的手に入りやすく数が揃えやすかった素材というのが一番の理由である。これがリアルブルーだったならもっと丈夫な素材を選んだだろうと思うけれど。
「後は、これを順番に……ってな」
 手前からホルダーに装着していく。筒に区別はつけていない。どうせ連射する際は手元を見る余裕なんてないからだ。

 月と星だけが、レオーネを照らしている。
 夜闇に紛れられるよう、色の濃い服に身を包んだレオーネ。大きめの帽子も深くかぶって、その明るい色の髪もしっかりと隠していた。
 屋根の上を見上げる者なんてそうそういる筈がない。人目がない事が分かっているし、まだ時間に余裕がある。自身の気配をしっかりと殺しながら、隣家に続く道を見据えている。
 最も、今のレオーネの思考を占めるのは大切な家族のこと。見据える先、道の向こう。この家をレオーネ達に貸してくれている大家の本宅はそこにあるのだ。
「……我が家のプリンチペッサ達へ不埒とは、本当にいい度胸だ」
 怯えていた妹達の顔が浮かぶ。気丈に振る舞おうとしてもその身はやはり震えていた。家族を養う立場であるレオーネは日中、オフィスの仕事に出かけていて不在なのが当たり前だ。
 留守を預かる彼女達が買い物に出た時に見かけ、尾行されたのだろうか? 訪れた男は理不尽な要求をしてきたらしい。
 相手は一人、妹達は三人。断ったことで引きはしたが、何度も振り返り厭らしい笑みを浮かべていたという。それも妹達があれほど怯えるくらいに。また、何かしらの策を講じるだろうことは容易に想像が出来ていた。
(大家が快く受け入れてくれて助かった)
 今、妹達は本宅に泊めてもらっている。妹達が落ち着くまで居てくれていいと言ってくれるほどにいい大家だ。今の部屋に妹達を迎え入れた時、もっと間取りの広い家もあると申し出てくれたくらいなのだから。更には妹達の不安が紛れるようにと同行させたペガサスとユグディラのことも受け入れてくれている。皆の預かり賃は、二体による本宅警備アルバイトで等価相殺だ、なんて……とても親身になってくれているため、レオーネは頭があがりそうにない。
(早々に決着をつけて、礼の品も考えないといけないな?)
 大家への配慮もそうだけれど。大切な大切な妹達が怯える生活が長引くなんて、レオーネが耐えられそうにない。

(ッ!)
 密やか、なんてお世辞にも言えない足音に、レオーネの口元が深い笑みに変わっていく。
 泊まりの支度を整えた妹達を送り出した時から、レオーネの口元は笑みを浮かべていた。
 流石に妹達を怯えさせるわけにはいかず、その時は目を細めてやり過ごしていた。しかし一人になってからはずっと、レオーネの青の瞳は冷気を湛えたままだ。
 次第に話し声が近づいてくる。隣家までは十分な距離があり叫んでもそう届かないだろう距離だと侮っているのだろう。形ばかり潜められた声は簡単に聞き取れる。
 ご丁寧に明かりをもってくれている。こんな遅い時間に居住区を出歩く者が居るはずもないと考えるのは素人だ。
(ああ……我が家のプリンチペッサ達は、あんな阿呆に怯えているというんだな)
 唇が歪む。レオーネよりは若いのだろう男を中心として、数名の男達が付き従っている。その数を正確に数える気も起きない。元より見逃す気は更々ないので些細な事だからだ。
 予想する必要も何もなく、男達はレオーネが容易に見下ろせる場所へとたどり着く。つまり、家の前だ。
 中は若い女三人だけだとか、腕のひとつでも掴んでしまえばこっちのものだとか。聞くだけで耳が腐りそうだ。
 何より力任せの作戦に反吐が出そうになる。
(屑だな。多少離れているとはいえ、同じ空気を吸うのも馬鹿らしい)
 少しだけ息を吸いこんで。
(有効利用、訓練の的になって貰えばいいわけだ)
 これはもう決定事項。待つのは終わりだと口を開いた。

「こんな時間に我が家に何か用か」
 充分に届く距離だ、大声は要らなかった。
 誰何の声と共に灯りが向けられ、レオーネの瞳が煌めく。偶然に吹いた突風が、帽子を飛ばし金の髪が明らかになる。
(どうして女と間違われるのか。声を聞いただろう?)
 妹達は皆レオーネに似ている。男達には最初、姉妹に見えたのかもしれない。
 男達の態度が緩んだ。優男など自分達の敵ではないと、随分と甘く見られている。
 極めつけは主犯格の男だ。何をどう考えたのかは知らないが、レオーネをオッサン扱いし始めた。崇高なハーレム道とやらまで勝手に語り始める。
「この俺の目の前で、あれほど可愛い我が家のプリンチペッサ達を、あろうことか侍らせる、と……?」
 レオーネは。男達を撃退すると決めたその時からずっと。笑みを浮かべていた。目だけは彼等を睨みつけているが……口元はずっと、笑みを形作っている。
「「「ギャハハハハ!」」」
 勝手に盛り上がる男達には、歪み過ぎた口元が引きつっているかのように、怯えているかのように見えたのだろう。自分達が有利だからと油断して、勝手に決めつけていた。
 彼等が黙るまで待っている必要はない。隙は突くためにあるのだから。
 彼等の目的がはっきりするまではと耐えていたレオーネの怒りが今、解き放たれる。
「「「!?」」」
 状況証拠は充分に揃って居た、けれど決定的な言葉を手に入れなければ、後に差し障ると耐えていた。
 録音データという物的証拠を手に入れたレオーネは遠慮なく、水鉄砲を連射していく。
 まずは口元。少量であっても勢いが鋭ければ、充分に攻撃力がある。的確に喉の奥へと撃ちこまれ、強引に飲まされる男達。
「「「ギャァアアア!?」」」
 怒りでマテリアルが強く作用しているのか、本当のところはわからない。水の勢いは本来レオーネが想定したよりも強かった。
「まだ余裕か?」
 警戒した男達が口を覆い護ったため、次の連射は目を狙っている。避けようと構えるほどに目は見開いている。
 対するレオーネの声は楽しげだが、目は笑っていない。
「「「!?!?!?」」」
「そろそろ護りも無理だと思うぜ?」
 三度目は鼻だ。喉と目の痛みに混乱する男達は無防備になっている。
「そっちから当たりに来るとはな!」
「「「〜〜〜!」」」
 顔面全てが痛いらしい、悲鳴にもなりきらず、のたうち回る男達。
「ああ、当て放題だな」
 狙う意味もないとばかりに、レオーネが地上に降り立った。筒はまだ残っている。
「俺としたことが、言い忘れてたぜ」
 聞こえていないのを分かっていながらも、凄みの効いた低い声が男達の耳元に、落ちる。
「兄の俺が居るのに、お前ら、いい度胸だな?」
 仕上げだと、一人ずつ丁寧にぶちまけていく。
 あがった悲鳴は全て、闇夜の中へと消えていった。

「フンフフン〜♪」
 掃除を終えたレオーネは今、心からの笑顔と共にボウルの中身をかき混ぜている。
 ドライフルーツやジャムをたっぷり使った生地は次々に焼かれ、家じゅうに甘い香りが満ちていた。
 刺激的な香りを上書きするために。恐怖を笑顔に塗りかえるために。
「もうすぐ我が家のプリンチペッサ達が帰ってきてしまう。少し急ぐとしようぜ♪」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ka7249/レオーネ・ティラトーレ/男/28歳/猟撃影士/瞳の奥に隠しきる】

元気をなくした花や、咲くのをためらっていた蕾に必要なのは、安心できる環境と、水と栄養、そして愛情。
新しい環境に馴染むための障害だと思えば、これから先の踏み台として有効利用できた……のかもしれません?
シングルノベル この商品を注文する
石田まきば クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年07月23日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.