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『危険な調査依頼 』
ファルス・ティレイラ3733

 親友であるSHIZUKU(NPCA004)から、郊外のとある小屋へ調査に向かいたいと同行の誘いがあった。
 それを受けたファルス・ティレイラ(3733)は、別件の配達を終えたら行くと彼女に伝えて、素早く配達を済ませてきた。
「あれ、SHIZUKUちゃんいないや……待たせちゃったのかな」
 待ち合わせ場所は、目的地の少し手前にあるバス停だった。
 人気は無く、物寂しい場所でもある。
「あ、スマホにメッセージ来てる……」
『ティレちゃんごめん。先に確認してくるよ! すぐ近くにある空き家だから』
「SHIZUKUちゃんらしいなぁ……えーと、あれだよね。小屋というよりは、なんだろ……学校、みたいな……」
 スマートフォンに送られたメッセージを見ながら、ティレイラはそんな独り言を続けた。そして顔を上げてきょろりと辺りを見回し、それらしい建物を確認する。
 物置小屋のようなものを想像していたが、実際は少々違った。広い空き地の奥に木造平屋があり、壊れかけた引き戸が開けられたままだ。やはりSHIZUKUが先行しているのだろうと思い、一歩を踏み入れる。
「……やっぱりちょっと、不気味かも……」
 扉の先は、理科室のような雰囲気の空間であった。奥に部屋もあるらしく、扉もある。
 長く放置されていたらしいこの場所は、何かの研究所であったのかもしれない、と彼女は思った。
「SHIZUKUちゃん……? いるんだよね?」
 空間に向かって声をかけるが、返事は無い。
 妙に静まり返っている空間を、ティレイラはゆっくりと進んだ。
「!」
 数秒後、奥の部屋らしき場所から何かが割れる音が聞こえて、慌てて顔を上げて駆けだした。
「SHIZUKUちゃん、大丈夫……!?」
 建付けの悪い扉を無理にこじ開けて、その先をのぞき込む。
 だがそこにも、友人の姿は無かった。
 そしてティレイラは、自分の足元でガラスが割れたような音を聞いて、下を向く。
「瓶……の、欠片……?」
 何かを踏んでしまった感触があった。割れた音はその際に生じたもので、視線の先にあるのは茶色の薬品瓶の欠片だ。
 それを足先のみで確認していると、また物音がした。
「!」
 若干の恐怖心を抱えながらも、ティレイラは顔を上げた。
 すると、大きなテーブルの向こうに人影が浮かぶようにして現れ、彼女は目を見張った。
「し、SHIZUKUちゃん……!」
 それはやはり、SHIZUKUであった。
 ティレイラはまた慌てるようにして駆け出し、途中で転びそうになりつつも前に進み、SHIZUKUに近寄った。
「SHIZUKUちゃん?」
 呼びかけてみても、返事は無い。
 気配から感じてもそうだろうと思っていたティレイラは、立ち尽くした形でいるSHIZUKUの前に回り込み、瞠目した。
 僅かに魔力を感じたからだ。
 よく見れば、足元には複数の瓶が転がっていた。割れているものもあり、中身が零れ出ている。
 先ほどの音は彼女が落としてしまった物なのかもしれない、と思っていると、そのSHIZUKUがティレイラに向かって倒れこんできた。
「わ、わっ……!」
 慌ててティレイラは両腕を差し出し、SHIZUKUを抱き留める。そこに柔らかな感触はなく、硬い衝撃が訪れてティレイラ自身もバランスを失い、倒れてしまう。
 その際、近くで瓶が割れた気がした。自分たちが倒れたことにより、転がっている薬品瓶を割ってしまったのだろうとティレイラは思った。
「いたた……。SHIZUKUちゃん、やっぱり硬化しちゃってる……これ、なんの魔法だろう」
 抱き留めた友人は、姿勢を変えずにそのままであった。つまりは何らかの魔法反応により、体が硬化しているのだ。この場の薬品瓶を確かめていたのだろうが、その際に中身が零れてしまったという所だろうか。
 どうしようか、と思っているところに、窓からの日差しが降り注いできた。
 それを全身で浴びたティレイラは、一瞬だけ呆けてしまい、思考が数秒遅れてしまう。
「……、あれっ、なんか……」
 姿勢を満足に起こせないままで、ティレイラはそんな声を上げた。
 自分の足――膝のあたりが濡れているような気がする。そう思った時には、遅かった。
「え、……これ、光で反応しちゃうやつかも……!?」
 光に体が包まれる中、動かなくなっていく自分の体。足に触れただろう薬品らしきものが全身へと広がり、固まっていく。
「う……どうし、よ……」
 緩やかに意識が遠のいていく。太陽の暖かい光のせいなのか、薬品のせいなのかは分からなかった。
 そしてティレイラはSHIZUKUを抱き留めた形のまま、静かに硬化してしまうのだった。

 それから、数時間が過ぎた。
 すっかり日は暮れて、辺りは真っ暗だ。
「……っ、あ、あれ……?」
「うーん、ティレちゃん……?」
 二人同時に、びくりと体が震えた。そして互いにそんな声を出し、顔を見合わせる。
「あたし、どうしたんだっけ……」
「……うわ、真っ暗だね……危ないし、ここから出よう。私の空間転移の魔法で部屋まで戻るね」
「あ、うん。そうだね、お願いするよっ!」
 普段はあまり使うことのない魔法を、ティレイラはこの時ばかりはためらいもなく使った。
 そして二人はその場から姿を消し、数秒後には、ティレイラの自室へと戻ってくることが出来た。
 丸い形のカーペットの上に、二人は重なるようにしてどすんと落ちてくる。
「……ご、ごめん、ちょっと着地、失敗……」
「いや、大丈夫……っていうかティレちゃん、めちゃくちゃ疲れてない……!?」
「……この魔法、すっごい力使うんだ……だから、あんまり、使えなくて……まずは、電気付けるね……」
 ふらつきながらも立ち上がったティレイラは、ゆるりと上げた腕で部屋の明かりをつけた。
 SHIZUKUもティレイラもそこでようやく、自分の体の調子を確かめる。
「うん……これ、レジン液……?」
「あ、なんかそれっぽいね……レジンって、光に反応するんだっけ?」
 アクセサリー作りなどで、一時的に流行ったことがある。そういう経緯から、二人とも良く知っている。
 未だに体に付着したままの液体を確かめつつ、ティレイラもSHIZUKUもそんな会話を交わした。
 そして直後、表情が固まる。
「で、でもあれって確か、UVライトだよね……?」
「う、うん……でも、これは魔力があるみたいで……もしかしたら、ただの光でも、反応しちゃうかも……」
「ティレちゃん、電気消そう!」
 SHIZUKUがそう言った時には、遅かった。
 ティレイラが慌てて腕をスイッチへと伸ばしたその時、二人は同時に体の動きを止めた。
「えぇ、冗談でしょ……?」
「う、うそぉ……っ」
 二人はその場で、青ざめた。そしてつい先ほど解放されたばかりの体がこわばり始めて、自分たちはこの液体のせいで小屋に放置されていた事を思い出す。
「ど、どうなっちゃうの、あたしたち……」
「か、解除魔法……お姉さま、に……」
 SHIZUKUとティレイラは、そんな言葉を最後にそのまま再び硬化してしまった。
 その後、ティレイラの師たる女性がこの件に気が付くまで、彼女たちはこの場で動けずにいるのだった。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 いつもありがとうございます。
 少しでも楽しんで頂けますと幸いです。

 また機会がごさいましたら、よろしくお願いします。
 
東京怪談ノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年07月25日

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