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『六月の恋人 』
ユリア・スメラギla0717)&霜月 愁la0034

 グロリアスベースはライセンサーやSALF関係者が数多く暮らす人工島だ。社会生活を営む上で必要な施設は全てそろっている。
 それは冠婚葬祭のための施設も例外ではない。

 六月のある晴れた日。
 グロリアスベースのウェディングホールにて、一組の男女が花婿・花嫁の衣装に身を包んでいる。
 白いタキシードを着ているのは霜月 愁(la0034)。蝶ネクタイと下襟の黒色、そして後ろで束ねられた彼の黒髪が白の美しさをより引き立てている。
 薄桃色のウェディングドレスを着こなしているのはユリア・スメラギ(la0717)。すらっとした筋肉がついている細い肩と二の腕、豊満な胸の上部は、白くきめ細かい肌を露出している。

 並んで長椅子に座っているこの二人は、お互いのことを心から愛している。
 ただし今から結婚式を挙げるわけではない。
 現在は花嫁&花婿モデルのオーディション中で、審査をパスした二人はモデルとして撮影に臨むのだ。

 二人の様子は対照的だった。
 ユリアは余裕を持って落ち着いているのに対し、愁は緊張しており表情も硬い。

「……あたしの花嫁姿、似合う?」

「はい、とてもお似合いです。綺麗ですよ」

「サンキュー。愁君も、王子様みたいで格好いいわよ」

 他の誰でもない愁に褒められたのが嬉しくて、ユリアは頬を上気させた。
 しかし同時に、会話を続けず黙りこんでしまった愁のことを気にかける。

「あたし、この季節は花嫁モデルのお仕事を受けるのよ」

 そうなんですねと返した愁に、ユリアはウィンクを投げる。

「このホールはモデル未経験でも問題ないわ。恋人生活をもっと楽しむ上での社会勉強だと思って、ね♪」

 愁は硬い笑みを浮かべ、頷いた。

(……愁君、やっぱり緊張しているのね)

 ユリアは考えを巡らす。
 彼にとってはこれがモデル初体験だ。撮影はもうすぐ始まる。緊張するなと言う方が酷だろう。
 ペアとして共にモデルのオーディションを受けることを快諾してくれた恋人のために、緊張を解いてあげたい。

「愁君」

 名を呼ばれた彼が返事をする前に、ユリアは愁を抱擁した。
 彼の背中に腕を回し、優しく抱き寄せる。

 薔薇の香りが愁の鼻腔をくすぐった。
 ユリアがいつもつけている香水の匂いだ。

 愛する人からのハグ。そして恋い慕う人の香り。
 愁はこわばっていた体の力が自然と抜けていくのを感じた。
 モデルとしてきちんと役に立てるか、ユリアに迷惑をかけないか不安に満ちていた彼の心が落ち着いていく。

 愁が顔を上げると、ユリアは慈母のように優しい顔をしていた。
 目が合う。
 愁の脳内を占めるものが、未来への憂いから今ここにいる恋人の存在へと変わっていく。

 相手のことで心が満ちていったのはユリアも同じ。
 恋人と至近距離で見つめ合うことで、彼女の愛が膨らんでいく。
 目を閉じながら顔を近付けようと――。

「ユリアさん、愁さん、お待たせしました」

 撮影スタッフの元気な声が飛んできて、ユリアは動きを止めた。
 今から撮影だと再び体を硬くした愁をぎゅっと抱きしめてから、体を離す。

「よ、よろしくお願いします」

 スタッフに返事をし、愁は長椅子から立ち上がった。
 ユリアがキスをしようとしていたことには気付いていないようだ。

 ユリアは少し残念に思うも、気持ちを切り替えた。

(永遠の誓いは、本物の挙式で……ね)

 差し出された愁の手を取ってユリアも立ち、二人で仲良く撮影現場へ歩を進めた。



 飾り立てられた結婚式場で、ユリアと愁の撮影が始まる。
 カメラマンからの指示を聞き、求められているポーズを取る。

 モデルを職業としているユリアはカメラを向けられることにも慣れたもの。
 花嫁の幸せそうな微笑みを浮かべ、写真に収まっていく。

 カメラマンに褒められると、ユリアは自信に満ちた様子で妖艶に笑った。

「受けたビジネスは完璧にこなす。モデルとしてのプライドよ」

 その隣にいる愁は、自分が恋人のビジネスを台無しにしないかと緊張している。

「じ、邪魔にならないように頑張りますね!」

 花婿のこわばりに苦笑いしたカメラマンは、愁に肩の力を抜くように指示した。



 撮影は続く。

 これまで数多くの撮影をこなしてきたユリアにとっても、今日の仕事は特別だ。
 大好きな愁と一緒に撮影できる機会なのだから。

 これまでも花嫁モデルとして仕事をしたことはあった。
 花婿姿の男性モデルとそろって写真に写ることに対して、去年までは何も感じなかった。

 しかし、今のユリアには愛する人がいる。
 花嫁のモデルをするなら、花婿役は愁以外考えられない。たとえ仕事でも。ユリアはそう思った。

 だから、モデル未経験でも応募できる仕事をピックアップし、愁を誘ってここまで来たのだ。

 花嫁モデルとして、花婿姿の恋人の隣に立つ。
 ユリアの胸はずっと高鳴っていた。

(本当に愁君と結婚したみたいで、胸がドキドキする……)

 撮影の合間、横目で愁を見やる。
 いつもとは違う、白いタキシードを着た恋人。
 やや緊張しているようだが、その顔立ちも凜々しく見えた。

(いつかお仕事ではなく、本物の結婚式を……)

 新郎と新婦として永遠の愛を誓い合う自分達を想像する。
 ユリアの心底幸せそうな表情を、カメラマンは逃さず撮影した。



 撮影も終盤。

 緊張が解けたわけではないが、愁も多少は慣れてきた。
 小休止を取りながら、彼はユリアを盗み見る。
 綺麗だ、と改めて思った。

 心身共に美しく強い人。そんな女性が自分を選んでくれた。
 今日も、花婿モデルとして隣に立つ相手に自分を望んでくれた。
 自分なんかがユリアに釣り合うのか不安になることもあるが、愁はユリアが大好きだ。ユリアも自分を愛してくれていると確信している。
 だから、撮影中もしっかりとユリアの隣にい続けることができた。

(……本当の結婚式も、こんな感じなのでしょうか)

 愁はここで新郎として自分が立つことを考えてみたが、上手くイメージできない。
 愛を誓うとき、自分は何を思うか。それが分からなかった。

(……ちょっとまだ、想像できないですね)

 ただ、分かることも一つあった。愁は小さく微笑み、最後の撮影に臨む。



 長いようで短い撮影も終了。
 衣装を返却し自分の衣服に着替え終えた二人は、休憩室で合流した。

「どう撮影されたか見てみない?」

 スタッフから借りたタブレット端末に、ユリアは一番素敵だと感じた写真を表示させる。
 テラスで、美しく装飾された柱と青空を背景に撮った写真。
 花嫁姿のユリアはブーケを手に幸せそうな笑みを浮かべており、花婿姿の愁はその横に凜と立っている。

「愁君とあたしの美男美女カップルなら、広告効果バッチリね」

「ここのモデルとして選んでもらえたのですから、役に立つといいですね」

 必ず良い広告になるとユリアは自信満々だ。
 撮影を終えて緊張が解けた愁も微笑んだ。

「この写真、現像してくれるよう頼んでおいたから。二人だけのポートフォリオにこれも加えましょ」

 ユリアの手際の良さに愁は感心する。彼女がプロのモデルであることを実感した。



 ウォーターサーバーで紙コップに汲んだミネラルウォーターを飲んで、喉を潤す。
 少し待っていると、ユリアが依頼した写真がアルバムサイズに現像されて届けられた。

 二人きりの休憩室。
 ユリアは柔らかな笑みを浮かべ、愁と目を合わせた。

「ライセンサーの任務も大切だけど……恋人関係も、さらに発展させたいわ」

「はい」と愁は真っ直ぐに答える。「戦いも激しくなると思いますが……これから夏ですし、楽しいこともいっぱいですね」

「夏は海に温泉にお祭りに……イベント目白押しよね」

 夏のイベントを二人で楽しもう。
 言葉にせずとも恋人達の思いは通じ合い、微笑み合う。

 ユリアはふと受け取ったばかりの写真に目を落とした。
 花嫁・花婿姿の自分達を見て、思いを馳せる。

「あたしや愁君のパパとママも、結婚式を経験して……家庭を作った」

 ユリアは写真を見ながら、本当はどこか別の何かを見ている。
 そう愁は感じて、何となく背筋を伸ばす。

「愁君は……新しい家庭、欲しい? あたしは……欲しいわ。結婚は女の憧れだし……」

「……家庭も、新しい家族も。僕にとっては、まだまだ先の話だな、とは思います」

「……そっか」

 慎重に紡がれた愁の返答を聞き、ユリアはそっと目を伏せた。

「でも、モデルの仕事をして分かったこともあります」

 一旦言葉を句切り、顔を上げたユリアと視線を合わせ、愁は自分の気付きを伝える。

「僕が結婚式を挙げるとき、相手はユリアさん以外にあり得ないです」

 ユリアの頬が赤く染まる。愁も顔を赤くしていて、二人はしばらく赤面したまま黙って見つめ合った。

「それに……」と、ユリアが静寂を破る。「可愛い赤ちゃんの顔も見てみたいしね」

 愁の顔が真っ赤になる。
 それを見てユリアは妖艶に微笑んだ。

「うふふっ……♪ 一緒に帰りましょ」

「は、はい」

 先に立ち上がったユリアが愁に手を伸ばす。
 手を繋ぎ、二人はのんびりと帰路に就いた。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 ジューンブライド。
 今年の六月はまだ結婚するには早かったようですが、今後ともお二人が仲睦まじく時を過ごして行かれることを願っております。
イベントノベル(パーティ) -
錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年07月29日

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