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『そして思い出となる春 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&ジュード・エアハートka0410)&藤堂研司ka0569)&沢城 葵ka3114)&フレデリク・リンドバーグka2490)&浅黄 小夜ka3062

 とある辺境部族の居留区。夜空の下、広場に人が集まっている。
 輪の中心は移動式キッチンに改造された魔導トラック。
「踊り子風ミネストローネ、おまちどうさま!」
 トラックオーナー藤堂研司(ka0569)が威勢の良い声と共にカウンターに皿を乗せた。
「食べちゃいけないもの?」
「自然の恵みは全部有難く頂くさ」
「自然への感謝は忘れちゃならんですよね」
 研ちゃんキッチン・ザ・居留区、開店というわけではない。
 この部族の若者の結婚式に協力するため村の有識者――まあ、おっちゃん、おばちゃんたちから情報収集中なのである。
 何せ結婚式は土地の風習が強く出る。祝いの場で失礼なことをして台無しにはしたくない。
 当初は酒場で、と思ったのだが酒場が存在しなかった。皆適当に広場に集まり焚火を囲んで飲んでいるらしい。
 式で出す料理のために村人の好みも把握できて一石二鳥だ。
「日持ちする料理は作って持ってきてくれるそうよ。当日も伝統料理は村人がやってくれるって」
 沢城 葵(ka3114)が手際よくクレープ生地にツナや野菜を巻いていく。沢城は仕事の手配や調整も手際が良い。
「儀式関係はプロに任せることにして、こっちはこっちでできることをしましょ」
 プロとは仲間の薬師の事だろう。
「覚える事が沢山だ、とかテンパってたんじゃない?」
 揶揄うような口調。内心安堵したのが伝わったらしい。
「それはともかく、一番の問題はお花よね」
 雪ばかりみてるから色とりどりの花は憧れなの――村の娘達が口々に言っていた。
 ならばせめてもブーケや花冠には生花を使いたいところだが切花は日持ちがしない。
「いっそのこと植木鉢ごと持っていくかなあ」
「それは……悪くないわね。足りない分は……」
 「ほな……」おっとりとした声が加わる。
「つまみ細工とはいきまへんが、綺麗な布でお花を作ったらどうですやろ?」
 浅黄 小夜(ka3062)が使用済みの食器をカウンターに置く。
「村の人たちの手も借りれば数もいけそうね」
 頭の中で算段をつけたのであろう沢城が、酔っぱらいの陽気な歌に拍手を送っているアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)に声を掛けた。
「ちょっと頼みがあるんだけど……」
「了解したヨ」
 間髪入れずサムズアップ。
「内容くらいは確認しなさいよ」
 呆れる沢城に「楽しくなるナラ、僕は大歓迎ダヨ」と茶目っ気のある表情で帽子のつばを軽く持ち上げた。

 ジュード・エアハート(ka0410)が用意したパステルカラーの糖衣で包まれたアーモンドがレースに包まれていく。
 花嫁の実家にて新郎新婦を囲んで引出物の準備をしながらのおしゃべり。
 二人の馴れ初めや思い出に盛り上がるも、花婿の肩身が狭そうだ。
「本番が楽しみですね!」
 フレデリク・リンドバーグ(ka2490)が笑みを含んだ声でジュードに耳打ちする。
「だね。俺も楽しみ」
 隣でアーモンドを数えていた長老の孫娘が首を傾げた。「どうして五つなの?」
 幸福、健康、富……と一粒ずつに意味があるのだとジュードは教える。そもそもアーモンドは沢山実がなるから縁起物なんだよ、と。
 その流れで村の縁起物を聞けば「雨とアメノハナ」。
「あと虹! 見たら幸せになるの」
 見たことある?と少女が身を乗り出す。「あるヨ」答えたのは――
「藤堂氏からの差し入れをドーゾ」
 クレープの皿を手に現れたアルヴィンだ。
「本当に七色なの? 渡れるの?」
 立て続けに質問する少女にアルヴィンは「虹はネ、光でできているんダヨ」と真面目な話から入り始めた。
 好奇心旺盛な少女が興味深そうに聞いている。
「雨と虹か……」
 結婚式で撒く花に村の縁起物を混ぜたかったのだが、アメノハナはともかく残り二つが難問だ。
「小さな飴は――当たると痛いですよね」
 ジュードにクレープを手渡しながらフレデリク。
 んーと天井を仰ぐジュードの目に映ったのはランプの光にきらきらと舞う埃。
「あ。ビーズはどうかな?」
 ベールの刺繍用のビーズを雨に見立てて。きっと陽射しに輝いて綺麗だ。
「キラキラのお天気雨ですね」
 二人でコツンと拳を合わせた。

 翌早朝、沢城とアルヴィンは村に向かう一行と別れ必要なものを揃えるために街へ。
 出立前、アルヴィンはジュードとフレデリクに「虹も探しテくるヨ」とこそりと伝える。
 「え?」と驚く二人に「内緒ダヨ」とでもいう風に唇の前に立てた人差し指。青い瞳は楽しそうに細められている。
「オールドリッチの人脈使い倒してくるから」
 グリフォンで飛び立つ沢城の背が頼もしい。

 リゼリオは春の終わりを告げる頃だというのに村には雪が残っていた。
 空をまっすぐに矢が昇る。逆方向から蒼い燐光が尾を引いて続く。
 周囲ニ危険ナシ――安全確認をしていたジュードと薬師からの合図。
 村を初めて訪れる藤堂と浅黄は仲間に勧められまずは村を巡る。
「家は人が住まにゃ荒れる、いわんや村をや……だ」
 しかしながら時折仲間が修繕に訪れているためか、思ったよりも荒れていない。
 それでも気になるところはメモに残す。滞在中に何とか出来ればと思ってはいるのだが……。
「あっち直してこちら直さずじゃあなぁ……。差ができちまう。それが禍根に繋がることもあるよなぁ」
 浅黄の細い指がメモの上に乗せられた。
「羊小屋とか共有のものから手をつけるのはどうですやろ?」
「そうだな。皆と相談し……ッショイ!!」
 想像以上に寒い。
 村人たちには簡単な小屋でも作ってサマーキャンプのように楽しんでもらうのもありかと思ったが、やはり大きな家を整備し寝泊まりできるようにしたほうがいいだろう。
 ズズっと藤堂は鼻をすすった。

 リゼリオ、アルヴィンたちの集会所となっているとある家。
 沢城とアルヴィンが大量に積まれた布の仕分け作業をしていた。
 アルヴィンが懇意にしている仕立て屋から仕入れた端切れたち。造花の材料となる。
 造花は村人にも協力してもらう予定で沢城は作り方のメモも書く。
 明日、オールドリッチ家に出入りをしている庭師に頼んだ花の株が届き次第とんぼ返り予定。
「お金はなんとかなるとしてもコネクションは難しいのよね」
 とはいえ沢城は妙に費用が安いと感じていた。
 多分アルヴィンが手を回していてくれたのだろう。村で結婚式を挙げてもらえるだけで十分だと、丁重に辞退された祝儀の代わりに。
 彼が黙っているのならば沢城から言うのも野暮な気がして「本当に助かったわ。ありがとう」とだけ告げた。
「ドウイタシマシテ」
 アルヴィンも何時も通りの笑みで応じる。
「やっぱり家の歴史を感じるわね」
 アルヴィンの実家の伝手を使うことを沢城は躊躇わない。
 ならばオールドリッチ家――アルヴィンのバックグランドに踏み込んでくるのかといえば違う。
 沢城の割り切ったバランス感覚がアルヴィンにとって好ましくもあった。
「それにしても結構浮かれてない?」
「ソウ?」
 首を傾げる。長老から教わった祝いの唄う歌をハミングしていたらしい。
「ンー……初めてだからカナ?」
 貴族としてではなく、アルヴィン個人として係る結婚式が。
「意外と可愛いところがあるのね」
「式を通して皆、何を思うのカナ、とかネ」
 楽しみダネと言えば
「前言撤回……」
 沢城が肩を竦めた。

 掃除を終えた部屋でジュードとフレデリクはチュール、オーガンジー、シフォン……布を広げていく。
 どれも花嫁のベール用にジュードが商人としての伝手を使い手に入れた上等な布だ。
 ジュードからの精一杯の祝いの気持ち。
「どれも素敵だなぁ」
 ジュードの前だとフレデリクは時々素の言葉遣いになる。
 その気安さが嬉しいからジュードは敢えて何も言わず「でしょ!」と得意気に胸を張った。
「ベールはふんわりしたものよりストレートなラインが出るほうが似合うと思うんだけど」
 どれがいいかな、と一枚ずつ手に取る。
「折角ならガウンの綺麗な臙脂が映える素材がいいですよね」
 布の質によって光沢や透け感も違う。そのあたりも拘りたいと、フレデリク。
 二人と沢城は当日花嫁の準備も手伝うために先に花嫁衣裳を見ていた。
 そして選んだ一枚。
「きっと綺麗だろうなー」
「花嫁さんには世界で一等綺麗になってもらわないと」
 ジュードは選んだ布を翻した。

 結婚式では祖霊花の群生地から村の広場までご先祖様たちへの道標として蝋燭で灯りの道を作るらしい。
 浅黄は硝子の風除けを一つ取り上げる。
 緊張した面持ちで細い筆を持ちアメノハナを描く。
 一筆、一筆、心を込めて。
 半分ほど終えたところで、兎や人参と言った可愛らしい絵が描かれた風よけをみつけた。
 これ大丈夫やろうか……。
「村の子供たちにも描いて貰ったんだ。好きなものを描いても大丈夫だから」
 通りかかった青年が器を手に動きを止めた浅黄に何事か察したらしく教えてくれた。
「ほなお言葉に甘えて……」
 小夜はスマートな猫と空を見上げている猫のシルエットを一つだけ描いて紛れ込ませる。

 例えばテントを張った際、雨が流れ込まないように溝を作る……野外生活の基本。
 泥濘に足を取られブーツを汚した藤堂は仲間と協力し会場となる広場の雪かきをしたのち、雪どけ水が堪らないよう排水溝に取り掛かった。
 折角の晴れ着が汚れるのはよろしくない。
 スコップを動かしていると街から帰ってきたアルヴィンがやって来た。
 アルヴィンの隣にはフレデリク。二人ともニコニコ笑顔。
「藤堂氏、一つ提案があるのダケド」
 アルヴィンが結婚式仕様となったグリフォンのキャリアーと藤堂の魔導トラックを交互にみる。
「あー、確かに。屋台仕様のままってわけにもいかないよな」
 アルヴィンの意図を察した藤堂が「じゃあお願いします」と言うや否や「お任せサレタヨ!」とアルヴィンとフレデリクが虹色に塗り分けられたローラーを取り出す。
 取り外しの利かない部分はそのままで、と言うタイミングを逸した藤堂に代わって「はい、ストップ!」二人の前に立ちふさがったのは沢城だ。
「トラックは借り物なんだから好き勝手しないの」
 ペイントしていいのはこっち、と幌用の帆布と車体はレースや造花で飾りつけ、と二人に渡す。
 トラックは無事危機を回避した。

 日が落ちてからもやることは沢山ある。
 花嫁のための付け爪を仕上げていた沢城は
「あら、浮かない顔ね」
 作りかけの造花を前に溜息を吐く村の少女に話しかける。
「休憩にしましょう。お茶とジュードさんが持ってきてくれたちょっと良い焼き菓子も持ってきますね」
 アメノハナの造花を作っていたフレデリクがキッチンへと姿を消してから少女は徐に口を開いた。
「……私、酷い女なの。薬局のアメノハナが咲かなければ良いって思ってしまうの」
 突然の告白に沢城は落ち着いた声で「どうしてそう思うの?」と問う。
「だって……花が咲かなかったらこうして来てくれるでしょ。でも花が咲いたらもう来てくれないかもしれない」
 この数日少女があの青年と距離を置いていた理由を沢城は納得した。
 いくつか言葉を交わしてから一つだけ。
「素直に自分の気持ちを伝えてみたらどうかしら」
 誰か一人に肩入れはしない。でも沢城は恋する乙女の味方だ。

 アルヴィンは見回りと称して夜の散歩に繰り出す。
 ランプも点けずに月明りの下、適当にふらふらと。
 建物に灯された明り。
 途切れ途切れに聞こえてくる音楽。

 藤堂のトラックに向かう浅黄。

 花嫁のベールに刺繍を施すジュードのいる家のドアをノックする薬師の背中。

 楽師たちが練習している家屋を外から見守っていた青年――はその妹に気付かれた。

 遠目に見える灯りはとても美しい。
 まるで彼らが向けてくれる感情のきらめきのように。
 しかし自分は決してその灯りの中に入ることができない。
 こうして外側にいる者だから。
 繋がることはできない。その輪には入れない。
 それを寂しいとも悲しいとも思っていない。
 ただ事実として受け入れている――それだけ。
 でも外側にいても――いや外側にいるからこそ彼らの想いが心地よく、見守っていたいと思う。
「結婚式か……」
 零れる小さな笑み。
 楽しい時間になりますように――人知れず祈る。

 ひょいと浅黄がトラックを覗き込むと藤堂が腕を組んで唸っていた。
「生クリームと果物を沢山使って……」
 ウェディングケーキのアイディア出し。生の果物は贅沢品なのだとか。
 浅黄に気付いた様子はない。その真摯な眼差しに視線が奪われてしまう。
 クリムゾンウエストにただ一人放り出され心細かった自分は彼にどれほど元気づけられたか。

 あと……

 不意に浮かぶ。

 あとどれくらいこうしていられますのやろ……

 せめてもこの時間は……。
 暫くして藤堂が浅黄に気付く。
 何時から、と問う声に「今来たところどす」と浅黄はトラックへと上がった。
「リアルブルーの料理も入れはるんどすな」
「沢城さんにも手伝ってもらってね」
 メニュー表には村、クリムゾンウエスト、リアルブルー様々な料理。限りある材料の中で皆の思い出になるような式がしたい、とあれこれ試行錯誤したのだろう。
「よし休憩にするか」
 藤堂は手早く簡易コンロに火を起こし、二人分のお茶を淹れてくれた。

 部屋に籠ってジュードはベールに刺繍を施していく。
 アメノハナを中心に新郎新婦の家に伝わる印を一針ずつ進めていく。
 印は我が子たちの幸せを願った祝福なのだという。
 日常使うだけあって一つ、一つはそれほど難しくはないのだが数が多い。
「ぅあ〜……肩がバッキバキだ」
 首を回せばあってはいけない音が響く。
 布を丸め人の頭に見立てたものにヴェールを被せて出来を確認する。
 ドレープを描く艶めいた白は光を受けて淡く光る。そこに同色で施した刺繍の陰影が浮かぶ。
「うん、上出来、上出来」
 よしあと一頑張り、と響くノック。
「お花づくりはどうしたの?」
 さぼっちゃだめじゃない、言葉と裏腹、笑顔でノックの主を招き入れた。

 結婚式、当日。
 朝早く始まる式に合わせ、準備は夜明け前から。
 ハンターたちのグリフォンを使い帰郷した村人たちも揃い、久しぶりに村に活気が戻ってくる。
 胸元で切替えた白のワンピースに襟元や袖口には村伝統の刺繍を施した臙脂のガウン――この日のために自身とその親族の女性が心を込めて作った衣裳をまとい花嫁が鏡の前に座る。
「いよいよですねっ」
 寝不足の疲れを感じさせない元気な声のフレデリクは引出物にアメノハナの造花を挿し籠に並べていく。
「本当、間に合って良かったー」
 魔導アイロンでベールの皺を伸ばしているジュードは欠伸を一つかみ殺した。
「少しだけ上向いて……。そのままキープしてね」
 紅を筆で何色か混ぜて色を作ると、沢城は花嫁の唇に色を乗せていく。
「はい、完成。とても綺麗よ」
 鏡に映る花嫁に沢城は笑いかける。
「ベールもオッケー!」
 できるだけ髪や衣装に触れないようにベールを花嫁に被せ形を整え、最後に花冠を乗せた。
「おめでとうございます」
 纏う空気から幸せそうだ、とジュードは心の底から祝いの言葉を述べる。
 式へ向かうため椅子から立つ花嫁に普段ならごく自然に手を差し伸べてエスコートするジュードは花嫁の両親にお願いする。
 この日、花嫁の手を取っていい男性は花婿だけだ。

 アメノハナに結婚を伝え、新しい家族の印を族長から貰う。そして広場で宴会。
 木々の合間から人の気配がする。祖霊花に報告を終えた新郎新婦が戻ってきた。
 フレデリクとジュードは視線を送り合う。
 二人が姿を現したタイミングで片手に下げた籠から花びらを掴み空に向かって投げた。
 仲間が二人のために作った曲を奏で、花びらに混じったビーズがキラキラと雨のように降り注ぐ。
 ジュードはケープに後ろが長いデザインのスカート、頭にはアメノハナのヘッドドレス、フレデリクはショート丈のジャケットにバルーンシルエットのふわりとしたパンツ、ジュードと同じアメノハナを飾った小さなシルクハット。
 アメノハナを意識したお日様色の衣装で春の精に扮し、村人が作る道を花を巻きながら二人を先導していく。
 いつでも手伝いに行けるようにと後方に待機していた浅黄に「ああ見えて花嫁は気が強いんだぞ」とか村人が気さくに話かけてくる。
 気づいたら右も左も知らない人だらけ。緊張のあまり頷き返すのが精一杯の浅黄を村の子供たちが最前列へと引っ張っていった。
「お兄はん?」
「見違えただろ?」
 二っと藤堂が笑う。子供たちに頼んで連れて来てもらったらしい。
 タキシードに額を晒したオールバック、という普段と違う出で立ちで見違えた。
「よう似合ってはります」
「ありがとうな」
 沢城に格好良くしてくれと頼んだんだ、と少しばかり照れた様子。
 新郎新婦が二人の前へ差し掛かる。
「お幸せに!!」
 二人の声が重なる。藤堂が両手でたくさんの花びらを投げる。
 この時ばかりは緊張も忘れて浅黄も笑顔で花びらを空へと舞わせた。

 広場に漂う美味しそうな匂いに誰かが盛大に腹を鳴らす。
「ごちそうは逃げやしないよ」
 長老の言葉に村人が笑う。
 新郎新婦が自分たちの希望で外の世界の風習を取り入れたことを話した。
 元より長老から話があったのであろう異議を申し立てる者はいない。
 寧ろ今から何が起きるのかと興味津々な眼差しがリングを持って現れたフレデリクに向けられる。
 二人の指で輝く揃いの指輪にあがる歓声。
 ベリーや桃を花びらのようにあしらったケーキに新郎新婦がナイフに二人で手を添えて入刀する。
 初めての共同作業です――リアルブルーでよく聞くフレーズが藤堂の頭の中に流れた。
 皆楽しそうに笑って。新郎新婦の門出を祝う。
 いつか俺も。脳内に浮かんだのは白無垢の……。
「やっぱり和装?」
 心を読まれた、だと?!驚く藤堂に「書いてあるもの」と沢城が顔を指さす。
「カレーがなくなりそうどす」
 そんなやり取りを知ってか知らずか小夜が小走りでやってくる。
 当初リアルブルー組には「結婚式にカレー?」と驚かれたのだが、村で育てた羊のひき肉を入れたカレーは村人たちが作る麺麭とも相性が良く人気を博し、宴会が始まりあっという間に消えていった。
「裏に材料があるから、切るのは頼んだ」
「はい」
 淡い浅葱色のワンピースドレスを翻し浅黄がヒールで走り始める。
 揺れるレースの薄紫のストールがまるでウェディングベールみたいだ、と先ほどの続きのようなことを考えていた藤堂は沢城に肘で押された。
「あの量の下拵えを一人でやらせる気なの?」
「俺は大鍋を洗わないと……」
 晴れ着でカレーの鍋は洗わせられないだろ、と。
「そっちは私がやっておくから」
 沢城に背を押されるように浅黄を追いかけていく。
「まぁ……」
 沢城は広場を見渡す。踊りの輪に加わるジュードと薬師、演奏する少女を見守る青年……。
「なるようにしかならないわよね。こういうことは……」
 苦笑交じりの声。
 外野がどうこう言ったところで決めるのは本人達だ。

 次第に辺りが暗くなっていく。
 櫓に火が灯され春を迎える祭りが始まった。
 長老が薬師を従え祭壇へと上がる。
 また村で祭りができるなんて……泣く村人の姿。
 祈りが終わり、再び喧騒に包まれた広場でフレデリクはアルヴィンの姿を探した。
 襟や袖の返しに刺繍の入った燕尾のジャケット、襟付きベスト、ドレスシャツにアスコットタイ。皺ひとつないスラックスにピッカピカに磨かれた革靴――いかにも帝国貴族といった出で立ち。
 シルクハットには村の男たちの帽子と揃いの羽飾りをつけてるとはいえ、目立つからすぐに見つかる。
「アルヴィンさーーん」
 フレデリクがアルヴィンへと駆け寄っていく。
「ブーケトスだって。見に行こう」
 ご機嫌な様子でアルヴィンの腕を引っ張った。
「リンリンは参加しナイのカイ?」
「俺は結婚する気はないから」
 見学!ときっぱり。
 しかし無欲の勝利というべきか花嫁の肩が強かったのかブーケはフレデリクの腕の中に落ちてきた。
「じゃあ、皆さんで分けましょう!」
 周囲のプレッシャーをものともしない笑顔で言い切ると、ブーケをばらし「はいどうぞ!」と希望者に一輪ずつ配る。
 最後の一本は特別。リボンを結んでジュードに渡した。
「お幸せにー!!」
 少し驚いたジュードだが酔っ払ったフレデリクのことは十分承知。だから同じようなテンションで「ありがとーー!!」と返してくれる。

 ジュードの背後で微妙な表情を浮かべている薬師。
 困惑――いや気恥ずかしさカナ。
 彼らだけではない仲間うちでも結婚式を見て思うところがある者たちがいるだろう。
 あちこちで歓声が挙がる。軽く目を伏せ、耳を傾ける。
 幸せそうな、楽しそうな音で溢れている。
 そっと差し出した掌に柔らかい煌めきが降り注いでくるようだ。
 交わることはないが、もっとそれを見てイたいカナ、と目を細める。
「ただいまーっ」
 戻ってきたフレデリクに「幸せノお裾分けは終わっタ?」と水のグラスを差し出した。
「お裾分けになったらいいなぁ。そうだ、虹って?」
「ふっふふー。サア、ご覧アレ!!」
 両手を広げたアルヴィンの背後に広がる空――

 ヒュルルル……

 風を切る音。
 空を渡る七色の箒星が瞬いて……。

「虹だ!!」

 誰かの声。
 広場にかかる大きな光の虹。

「皆、幸せになぁれー!!」
 叫んだフレデリクに続いて村人たちが「今日はありがとう!ハンターたちに乾杯」と盃をかざした。

 ノックに沢城はドアを振り返る。
「宴会はもう終わり?」
「おしゃべりタイム中」
 手伝うよ、ジュードはお茶とお菓子を置いて沢城の向かいに座る。
 沢城を真似て籠の中にある花びらを薄紙の上に並べ、本に挟んでいく。
 フラワーシャワーに使った花びらを押し花にしているのだ。
 アメノハナの押し花と合わせて栞にし今日の思い出に参加した村人にも、居留区に残った村人にも配るために。
 暫くして音楽を奏でていた少女たち、そして浅黄も手伝いに来てくれた。
 恋する乙女たちが集えば必然的に話題は一つ。
「まるで修学旅行の夜みたいだわ」
 聞き役に徹していた沢城が笑う。
 こんな時間も含めて良い思い出になるように――沢城は花弁を挟み終えた本を閉じた。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃
━┛━┛━┛━┛
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)
ジュード・エアハート(ka0410)
藤堂研司(ka0569)
沢城 葵(ka3114)
フレデリク・リンドバーグ(ka2490)
浅黄 小夜(ka3062)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼ありがとうございます、桐崎です。

お祭りと結婚式のお話お届けいたします。
文化祭の準備のような皆でワイワイしてる感じを目指しました。
しかし書きたいことが沢山ありすぎて少々欲張ってしまったような。

気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。
それでは失礼させて頂きます(礼)。
イベントノベル(パーティ) -
桐崎ふみお クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年07月29日

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