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『帳の向こうにまみえるは 』
蜜鈴=カメーリア・ルージュka4009)&白藤ka3768)&ミアka7035

 朱色何色命咲かせて
 彼岸花揺堺目がけて
 紅色何色炎揺らいで
 放淡光蝶浮舞めぐり
 緋色何色道先しめし
 鳥居護守扉向こうへ

 丑三つ時奥屋敷まで


 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)の名で届けられた文に書かれているのは唄か、詩か。
「どっちにしても、蜜鈴がうたうなら綺麗やん」
 呼び出された白藤(ka3768)が改めて文字を追えば、ミア(ka7035)もにこにこと頷いて。白藤の視線と同じように猫の尻尾が揺れている。
「それで蜜鈴ちゃん、肝試しってことでいいニャス?」
 そわそわと、けれどうきうきと。声も瞳も、好奇心にあふれている。
「そう……じゃな。これが地図じゃ」
 取り出された紙はこの場にとてもよく似合っている。新しく用意したものではあり得ない、掘り出されたのだと示しているように縁が欠け朽ちた色をしていた。
「なんや、やけに凝ってるな……?」
 加工による演出だろうと考えて眺める白藤と。
「呼ばれてるってことニャスね!」
 真贋に問わず期待を膨らませるミアという差はあるけれど、どちらも蜜鈴の説明を素直に待っていた。


 命灯して真暗隠して
 廃し道々足先見えず
 赤の尖晶双つ抱いて
 廃し洞堂風泣き呼名
 屋敷宝物黒の瑪瑙と
 廃し境郷在処何処か

 視入り魅入るは……


●紅日々は、いつか

 鴉の視点から周囲へと視線を巡らせる。相棒がいるのだ、夜目が効くから問題ないだろうと鳥居の向こうへ視線を向けたが、なぜかあまり見通せない。
 別に暗闇が怖いわけではない。実際に燭台の装飾は細部まで見ることが出来ている。調教師としての技術に習熟していることを幸いだと思っていた矢先にこれだ。
「まあ、結界の類やと思えば……蜜鈴なら出来るやん」
 本当に、仕込みにここまでやるとは流石の一言だ。
「ルールは守らな」
 手早く火をつけて鳥居をくぐる白藤の足取りは軽い。揺らめく炎に照らしだされていくかのように、廃村が見渡せるようになる。
「……炎も今は、怖いないな」

 これはあくまでも蝋燭の仄かな炎。けれどそれさえも恐ろしかった時期が確かに存在している。
 押しだされて、追い立てられて、言われた通りに息を止めて。震えそうに、すぐにでも力の入らなくなりそうになる足を懸命に動かして、前だけを見て。
 ひとり、外に出たかつての白藤は。知らない誰かの温もりを感じて始めて振り向いてしまった。
 振り返るなと言われていた。けれど安堵から忘れていた。
 熱くて眩しくて痛いほどのそれを思いきり見てしまった白藤はその時、ほんの小さな種火でも命は奪えると思い知らされた。
 咄嗟に背を押してくれたのは兄だった。
 大きな音を止めてくれたのは父だった。
 優しい声で示してくれたのは母だった。
 彼等を飲み込んだのは生まれ育った家。
 助けを呼ぶ声は嗚咽に飲まれ、崩れ落ちて響かない。救助の手は白藤にしか届かなかった。
 外に出るまでの全てを思い出しながら、家族の笑顔は記憶にしか存在しないと分かっていた。
 かつての家の成れの果てにそっくりな廃屋、その前を横切りながら進む。
(技術が違うても、燃えたら同じなんは道理か)
 気紛れに立ち止まるのは、かつての自分が座り込んだ場所。

 恐ろしいものとして刷り込まれていても、活用できなければ生きていけない。
 小さな火の粉でも、炎の形をしているだけで身をすくませる白藤に察したのだろうか、言わずとも同僚達は助けてくれた。
(気付くには時間かかってるけどな)
 それとなく、火が目に入らないようにしていたと気付いたのは野外演習、皆で火を囲んだその時だ。
 知らぬ間に震えなくなっていた。信頼できる皆が居るからか、暖を取る火をただ温かいものだと感じていた。
 少しずつ思い出が増えていく。恐ろしかった火は、少しずつ白藤の胸を温めるやさしいものにもなっていく。
 時に胸を焦がすほどの熱は、過去とは違う意味で苦しみを伴うけれど。
 あの日もらったランタンの灯火は白藤にとって、今も心の大切な場所にしまわれているほどで。
「……ちゃあんと、救いは待っとる」
 灯火がつくりだす自身の影に、そう声を落とした。

 小さな灯火が照らす先は赤く翻る蝶。誘われるままに歩いた先で、白藤の手は尖晶石に触れる。
 ざぁと風に音が乗り、懐かしい、嗅ぎ慣れていた藤花の気配。
 微かに、愛称を。しろと、そう呼ばれた。
 見回しても、視線の先を舞うのはたった一羽の蝶。次はあちらと、少しずつ道の先へ向かっていく。
 意思を持ったようにしか見れないその動きに素直についていく。
(なんでうちは……蝶を追っとるんやろか……)
 首を傾げることはできる。けれど足は止まらない。
(いやでもあの先にあるはずや)
 探している何か。その確信がどこから来るのかも分からないというのに足取りはしっかりと屋敷の中へ。
 まだ残っている廊下を駆ける軽い足音。兄を呼ぶ舌足らずな声は聞き覚えがあるようで、首を傾げたまま足音の先へと視線を向ける。
 影はない。壁もない。戸だってあるわけがない。
 先と同じ青年らしき声が優しく響く。その声に似た、けれど低い声もしろと、呼んで。
 駆け足が止まった後に続くのは、愛し気に甘く響く女性の、しろちゃんと呼ぶ声。
 歩みを止めていないはずの白藤の足音はなぜか耳に入らない。
 気付けば最奥。黒瑪瑙が静かに鎮座している。
 蝶が一回り黒瑪瑙の上を舞い、白藤が手を伸ばして。
「ッ!」
 触れた手に衝撃。慌てて開けば尖晶石に走る罅……三本。
 息を止めていたわけでもないのに、急に鼓動が早くなった。
 頭の中に聞こえていた聲は消えて、声が出せるようになって。
「……怖っ!? はよ帰ろ!」
 踵を返した白藤は足を速めた。待ってくれている人の元へ。その想いをあえて強く抱いて。
(うちは、まだ)
 振り返らずに、鳥居へ。

●朱うごう場所は、いつも

「5分って結構長いニャスね」
 早く出発したくて仕方ないミアの尻尾は忙しなく揺れている。
 彼岸花、それが初めに認識できた言葉だった。それだけでよかった。
 今はもう戻れない場所を思い起こさせる、そんな場所があるかもしれないと思えば期待は高まる。
 暗がりは怖くない。日中と同じように過ごすくらい訳もない。
 お化けのような触れられないものは怖くない。一番怖いのは別のものだと知っている。
 そのかわり、ミアが怖いのは……
 やっと時間が来たからと、駆け出していく。蝋燭の火が別に消えても構わないと思っているミアは、ルールだからというだけで燭台を持っていた。
「……しーちゃん、もう見えないニャス」
 中に入れば、自分ならすぐ見つけられると思っていた。気配も感じられないと理解して、ミアは少し肩を落とす。
 けれど。
 鳥居の色で更に高まっていた期待が、ここで満たされる。
「彼岸花……」
 花畑、そう呼べるほど無数に咲く朱い花がミアの灯火によって鮮やかさを増していく。暗闇の中に赤く浮かび上がる様子は、夜闇に慣れたミアの目にはより鮮明に感じられる。
 子供の頃過ごした場所は彼岸花の咲く道の先に鳥居があって。村の中でも特別なその場所で、双子の兄と一緒に遊んだ時間が蘇ったようで。
 独りぼっち、その想いはいつのまにか、どこかに消え去っていた。

 白地に青の向日葵柄の浴衣を幼いミアは好んで着ていた。
 兄が、ミアによく似合うと言ってくれた向日葵。ミアの笑顔が太陽のようで大好きだと言って微笑んでくれる兄の言葉はミアをより活発な少女へと導いていた。
 陽の高い時間は当たり前。暗くなる前の陽が眠入りはじめる時間帯。夕方になってもミアは変わらず遊び続けていられた。それは真っ暗になっても構わないミアだからこそなのかもしれないけれど。
 夕陽が、ミアの橙の帯をより朱く染めている。灯りの少ない中でミアの淡い色の髪は眩しく目立っていたけれど、兄はいつもミアの身に着けた鈴の音を頼りに迎えに来てくれていた。
 帰ろうかと、微笑んで向けてくれるその背に飛びつけば、しっかりと支えてくれた。全力で遊び続けたミアが疲れたと言えば、それからずっと、兄はおんぶで連れて帰ってくれた。体格はそう変わらない幼いころからずっと、繰り返された日常。
 自分は男だからミアよりも力持ちだ、なんて言っていた気もするけれど。次第にミアよりもずいぶんと背が高くなって、けれど変わらぬ微笑みを向けてくれる兄が、ミアは大好きだったのだ。
 彼岸花に彩られた道はその帰り道を思い起こさせる。目を閉じれば花の香りも強くなって、頬を撫でる風が今にも声を運んで来てくれそうだ。

 視界の端に映り込んだ水浅葱色を確かめようと、勢いよく振り返る。
 ミアの髪にも負けないほど長く、艶やかな髪がゆらり、揺れて。
 何度も見た、何度も夢見た、何度も諦めた筈の、黒地に紫丁香花柄が、見えて。
「なぁんだ兄さん、此処にいたの?」
 ミアの顔に笑みが広がる。かつて兄が褒めてくれた、太陽のような笑顔。
 気付けばミアの服もかつてのものに変わっている。動きやすいよう、丈も少し短めの浴衣。帯の結びは前よりもっと、娘らしい大人しいものになったけれど。
「それとも、迷っちゃった?」
 いつも一緒なのに、おかしいね。笑いながら近寄れば、当たり前の距離で迎え入れてもらえる。揃って首を傾げて、同じタイミングで顔をあげて。
「目印がないからかな」
 胸の彼岸花は服とともに行方知れず。けれど此処は狂い咲く彼岸花達の里。
「これじゃ迷っちゃうのも仕方ないから、魅朱が送ってあげるよ」
 おんぶは出来ないけど、そう言いながら差し出す。
「ほら、道導の蝋燭あるから……」
 きっと行きたい場所に連れて行ってくれる筈。
「兄さんが持ってて?」
 伸びてこない手を待つくらい、どうってことない。
「むしろ……そうだ。少しだけ、魅朱も遊びに行こうかな」
 久しぶりに髪を編みたいな、そう言って少しずつ言葉を鎖を紡ぐ。
「蝋燭なら、また灯せばいいでしょ?」
 だから大丈夫、笑顔を見せればゆっくりと手が伸びてくる。
 燭台にもう一つの手が重なるその瞬間、灯火は、消えた。

 猫の呼び声が細く長く、響いてくる。
 鈴の音が揺れたように鳴って、鳴き声の響きが変わる。
 それでも途切れずに続く声は少しずつ遠ざかって……
「たっだいまーニャス!」
 いつもと同じように見えるミアが、戻って来た。

●緋らいた世界の、どこか

 確かに自分の手蹟だと思いながら、二人に宛てられた文と、自身の元に届けられた文を見比べる。
「なれど、妾に然様な記憶は無いのじゃがのう?」
 ゆっくりと首を傾げるのは、大事だと思っていないからだ。黄泉還りと呼ばれた身であればこそ、何が起ころうと不思議ではないと、蜜鈴は万事に対して同じ構えだ。
 共に呼ばれた友は二人。揃って悪意の類を感じ取っていなかったようでもある。
 己の危機感と彼女達の本能を思えば悪いものと言いきれるものではない、というわけだ。
「……そろそろじゃな」
 尖晶石の砂時計が再び五分の経過を示す。これも燭台や地図と同様に、蜜鈴の元へと送られて来たもの。実際に尖晶石が置かれていると、そう証拠を示すためのものだろうとも思ったが。
「つくりも悪くなく……はて、より見通せぬものになりよるわ」
 先に奥へと向かった二人の背が見えるなんて期待はせずに、ゆっくりと蜜鈴は歩き出す。
 灯火に誘われるように集まった蝶が蜜鈴の身を護るように周囲を舞いはじめる。
 視界は遮らず、歩みは止めず、けれど覆うように纏うように。
 足を速めれば振りきれるのかもしれないが、煩わしさもなく、試す理由も特には思いつかない。
 鳥居をくぐれば、より蝶は増えた。

 廃村となって久しければ、その記録も古びてしまうというもの。
 どれほど人の足が遠のいていたのか、人の暮らしを示すものは数えられるほど。
(朽ちた……にしては、異様じゃのう)
 建物朽ちる前、人の在った痕跡が少なすぎるように感じられた。
 長い年月を経れば確かにその形も崩れようが、骨の類が一欠片もないというのが気にかかる。
 見知らぬ誰かが埋葬したとして、墓標なり残骸があっても良いと思うのだが。
 白藤の言葉が脳裏をよぎる。凝った演出。そうとれば確かに頷けてしまうのだ。
「なれど、鍵も仕掛けも誰の手か……誰も、答えてくれぬのじゃろう」
 足を踏み入れてからずっと、視界の端を掠める影を視ないようにしながら零す。
 声を掛けるのは躊躇われた。そうすれば最後、何かが消えてしまいそうなほどに朧げで、けれど数は多かった。
 今の蜜鈴は地図を辿っているのか、騎士の幻影に誘われ追っているのか、影に徐々に追い込まれているのか、境目が分からなくなっていた。
 蝶は物言わず、遮らず、ただ追ってくる。
 朽ちた小屋ひとつひとつを眺めれば、もとの形が勝手に思い起こされる。
 それは蜜鈴にとって故郷の伝統に則ったつくりをしていた。
 目の前の廃墟は朽ちているから、専門家でもない限りその本来の姿を窺い知ることはできない。だから簡単に幻想を纏わせることができてしまう。
「懐かしい、と……思うのは妾か、それとも……」
 それこそこの場所がもたらす不思議か。
 答えは出ないと知っているからこそ、疑問がいくつも溢れ出る。
 廃墟の影にまた、おぼろげな影が重なる。

 何度も背に庇われてきた。
 剣筋を追うのは当たり前だった。
 逞しさを見続けてきた。
 鍛える時も傍で見守っていた。
 振り返ればいつも傍に居た。
 当たり前の距離を続けていた。
 いつも支えられてきた。
 居るだけで日常が繰り返せた。
 温もりを近くに感じていた。
 最期だけは、離れてしまった。
 離別から随分と時が経った今、どう呼んでいいのかも、わからない。
「……いつの間に……」
 騎士の背はとうに見失っている。
 かわりに見つけた黒瑪瑙は、彼が形を変えたものだろうか。

 護り石であればいい、かつてそうであったように、剣であり盾であり杖であり郷である騎士のように。そう願ったのか、それとも。
 蜜鈴が石に触れた途端、いくつもの影の気配が一斉に、揺らいだ。
 避けていたはずの視線を向けることしか選べなかった。慌てて振り返る蜜鈴の目には、来た道よりも濃い闇が広がっている。
 瑪瑙の黒が全てを闇に飲み込んだのだろうか、今にも呪いを吐きそうな影を、蜜鈴の中に在る様々な想いを、幻影の騎士をその要として。
 もう一度視たかったのかもしれない。再び呪いが降りかかろうとも向き合って、今を伝える機会かもしれないと気付いたから。
 けれどもう、蜜鈴の目には騎士の背も、数多の影ももう、映らない。
 灯火はいつの間にか、消えていた。

 蝶だけを頼りに、来た道を戻っていく。
 鳥居をくぐる蜜鈴の髪を向かい風が巻きあげて、目を開いた時には蝶もまた消えていた。
「……待たせたようじゃな」
 友に向ける微笑みは、自ずと浮かんだ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ka4009/蜜鈴=カメーリア・ルージュ/女/22歳/聖魔術師/視失いしは、誰の命の灯火か】
【ka3768/白藤/女/28歳/調猟撃士/灯した熱と、迷い乍ら】
【ka7035/ミア/女/22歳/舞格闘士/二又猫又、いつかまた】

蝶、石、赤、花、郷……挙がるものは多く、近いからこそ重なれば、奇跡に近づく。
望んだ形は、願った夢は、これからの為の根源や道標、あるいは追風になっていれば幸いです。
『海風のマーチ』
イベントノベル(パーティ) -
石田まきば クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年07月30日

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