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『涼むどころの話では無いかもしれない 』
アリア・ジェラーティ8537)&デルタ・セレス(3611)

 2019年、夏。
 今年もまた訪れた、とある暑い暑い日の事である。

 その日のアリア・ジェラーティ(8537)は、デルタさんちの彫刻専門店を訪れていた。その気になれば辿り着けはするのだが、具体的に何処なのかと言われると何故か良くわからない何処かのアンティークショップの様な店。アリアにしてみれば、何だかんだと成り行きでお付き合いの出来ている三人の兄弟姉妹が経営しているお店、である。
 何をしに、かと言えば仕事――では無く、遊びに、である。……真面目に仕事なんぞやってられる暑さでは無い。それは確かにアイス屋さんとしてはこの暑さはかき入れ時である。とは言えぶっちゃけ、アリアのアイス屋としての基本的かつ具体的な行動は行商と言う性質上、炎天下の屋外で歩き回ると言う苦行になってしまうのだ。即ち、隙あらば冷房効いた屋内に避難したくなるのは人情である。

 と言う訳で、今。

 当の彫刻専門店で店番をしていた三人の兄弟姉妹の真ん中、お兄ちゃんにして弟くんことデルタ・セレス(3611)とぐったり駄弁っている事になるのである。

「……暑い……溶けそう……」
「うん、同感……」

 ぐったり。
 そろそろ毎年の様な気もするけれど、何だろうこの異常な暑さ。
 氷の女王の末裔謹製のアイスと言う必殺技が何度繰り出されても、最早アイスだけで乗り切れる気がしない。

「暑いね……」
「もっとちゃんと涼みたい……」

 それなりに冷房が効いていてすらこれである。と言うか今のこの状態は一時のささやかなオアシスに過ぎないのかもしれない。少し位の冷房が掛かっていても少し動き回れば即、熱を生み、汗ばんで来るレベル。況や冷房の無い場所ともなれば――熱中症の危険がそこら中にごろごろ転がっている。

「アリアさんのアイスだけでこの暑さを凌ぐのは辛いです……アリアさん、何処か涼しめる場所知りませんか」
 もういっそパッキーンと凍っちゃう位に涼しい所とか。
「ん……凍っちゃう位……」

 そう言えば。



 ……雪姫ちゃんの雪山に遊びに行った時、雪姫ちゃんをわざわざ倒しに来た人とか、勝負して負けた人とか凍らせて永久保存してる、って所があった様な……。

 と、アリアが何気無く言った途端。
 殆ど前のめりになって目をきらきらさせているセレスの貌が。

「な、何それ凄い気になります! 行ってみたい!」
「……えっと」

 ちょっとびっくり。
 それはセレスちゃんはこういうの好きだけど、でもいきなりここまで食い付かれるとは思わなかった。



 で。

 すぐ行こう今行こうと大騒ぎになった(その騒ぎ自体がもう暑いとも言う)結果、アリアの方が折れる事になり、セレスを連れて雪姫の所にまで赴く事になった。と言うかアリアの方でも、思い出したら行きたくなったとも言うが。……少なくとも、雪姫の傍に居れば暑い事は有り得ない。雪姫ちゃんの周りは常に冬である。いや冬どころか……並の者では即座に凍りかねないレベルの寒波が普通に渦巻いていると言っても過言では無い。

 となると、セレスちゃんがただ行くのは結構危ない可能性がある。セレスちゃんの場合、金化の能力がある事はあるけど封印されてるし、そもそも妖怪でも無い。となると耐性が相当怪しい――思い、アリアは氷の加護のアクセサリを用意してセレスちゃんに持たせる事にする。
 これで最低限の準備は良し。

 後は……雪姫ちゃんの御機嫌次第、かなぁ。



 氷の加護のアクセサリ。

 雪姫さん周りの事情を聞き、うっかり凍らない様に、との事でアリアさんからこれを貰ったはいいけれど――同時に何だか不穏な予感がした、気がした。
 ま、まぁ、このアクセサリを手放さなければ大丈夫なんだよね、と己に言い聞かせつつ、セレスは意気揚々とアリアに付いていく。意気揚々――そう、この怪しい予感さえ無ければ楽しみでしかない事なのだ。氷像見たいし涼みたい。両方が達成出来る夢の様な場所――。

 と言うか、行ってみたら涼しいどころか寒かった。それどころか極寒の雪山行軍だった。アリアさんが夏服のままだしと自分も夏のままの格好で来たのが間違いだった。これは冬支度をしてきて妥当。登山支度もあれば更にベター。けれどまぁ取り敢えず、何にしても「暑くは無くなった」事だけは確か。そして貰ったアクセサリの効果か、寒いは寒いけれどそれだけで済みそう、ではある。風邪ひきそうとか凍りそうとかは、多分大丈夫。

 思いながらひたすらアリアさんに付いていくと、やがて丈の短い着物を来た十歳位の白い子供が前方に不意に現れた。子供と言っても、何と言うか貫録めいた物があってあまり子供らしくない。着物もただ丈が短いだけじゃなくて、ミニスカートみたいに誂えてある上に帯とか長いし装飾的だし、そもそも全体の印象が人間じゃなさそう……とか思っていたら、それが当の雪姫さんだって事だった。

「……何だ。遊びに来た訳では無いのか」
「うん……セレスちゃんが、氷像、見たいって」
「え、えっと、デルタ・セレスです。どうぞお願いします雪姫さん!」
「部外者に見せる為の物では無いのだがな」
「そ、そこを何とか!」
「ふむ。ま、奴らを解放する為に来たとか無粋な輩で無いなら構わんか。好きにせい」
「有難う御座います!」



 セレスが案内された先は、山の中にある洞窟だった。

「ここだ。中は結構深いが……まぁ危険は無かろう。要所要所に明かりもあるしな」
「ここですか……ってわ、す、凄いですこれ……っ!」

 入って早々、氷像の御出迎え。入り口近くに並べられていたのは今にも逃げようとしている姿や、腰が抜けてへたり込んでいる姿の氷像。風体からして狩人とか何処かの兵士とか、あと何だか一般人では無さそうな……宗教的な能力者か何かかもと思しき姿もある。姿勢自体は様々あるが、恐怖に満ちた表情である事だけは共通かもしれない。いや、無念に満ちた表情の氷像もあるか。
 そんな感じの、躍動感あるポーズのまま凍りついている氷像が、示された中にずらりと並んでいる。
 雪姫としては大して面白い物でもないのだが、セレスの方としてはもう、その時点で齧り付きだった。完全に目が奪われている。

「うわうわ……えと、中に入って見て来てもいいですか……?」
「だから好きにせいと言っておるだろう。我に中の案内までさせる気か?」
「……あの、雪姫ちゃんには、折角だからアイス御馳走しようかって……思ってたんだけど」
 御土産がてら。
「おお、アリアのアイスか。悪くない……セレスと言ったか、うぬの方は気が済んだら声を掛けろ」
 我とアリアは外に居るでな。
「あっ、はい。じゃあ、御言葉に甘えて……!」

 じっくり鑑賞させて貰いますっ。



 感嘆の声しか出ない。

 数多の氷像がこれでもかとばかりに並べられた洞窟内。入口付近は……何と言うか威嚇的な出来の物が多かったが、奥に来れば来る程、絶対それだけでは無いだろう、と思しき出来の氷像が混ざっている。例えば氷像にされた当人の合意が無ければこんなポーズになる訳無いよねと言う物やら、服や飾りが凝っている物が結構あるのだ。人物的にも少年少女……にしか見えない姿やら、相当年季入ってるんじゃないかなぁと思える時代がかった姿の物まで。気にするなら「こうなった経緯」の方も気になりそうな所である。
 が、セレスとしては――こうなった経緯より、今ここにある造形の方が気になってしょうがない。

 凄いなあ綺麗だなぁ僕もこういうの作ってみたいなぁ。
 それこそ目をきらきらと輝かせつつ、セレスはそれら氷像に見入っている。氷像として切り取るには絶妙な曲線。ポーズの取り方。気になった所を背伸びして上から覗き込み、屈んで下から覗き込む。色々な角度からじっくりと鑑賞した後、次の氷像へと移動する――移動しようとして。
 何故か足が動かない事に気が付いた。あれ? と思う――いや。良く考えてみれば、大分前から足の感覚が殆ど無かった様な気がする。どうしたのかと足を見る――さっきからこういうのじっくり見ていた様な気がする。氷像の足。でもその造形が、もっと見慣れた自分の足と靴……って、ええっ!?

 自分の足が、凍り付いている。

 え、何で、と思う。だって、僕はアリアちゃんから氷の加護のアクセサリを貰って付けているから凍らない筈で……ってあれ? アクセサリが無い。そう気付いた時点で、さーっと血の気が引く。え、何処か落としちゃったのかな、何処でだろう。探さなきゃ、でも足が動かなくて……探しに行けない。
 なら助けを呼ばなきゃ――って。え、声を出そうとしただけで喉の奥が寒いと言うより痛い。反射的に思い止まる。息を吸っただけ冷気を取り込み、吐いただけ熱が出て行く。浅く一呼吸するだけでも自分の身体が冷えて行くのがわかる。アクセサリがあったさっきまでの比じゃなく寒くなっている。
 寒くて鈍くなって行く自分の動きとは逆に、笑っちゃう位にガタガタと震えても、なけなしの震えじゃ役に立たない。熱を生まない。温まれる要素が無い。手の感覚も無くなる。多分凄く冷たくなっているんだろうけど、もうそれもはっきりしない。動かすのも億劫で、と言うより、多分もう動かせない。じんわりと固まって行く感覚――少しずつ、ゆっくりと、でも確実に凍り付いて行く感覚。やだ、どうしよう、助けて、アリアさん、雪姫さん、誰か――。
 一呼吸、一拍動。本来熱を生み出す為の筈のそれらが、熱を奪う行動になる。その位、辺りが寒過ぎて――やがて、身体の芯まで凍り付いてしまう事になる。

 辺りに並ぶ氷像と、同様に。



「そう言えばセレスちゃん……まだ戻って来ないね?」
「ふむ。そこまで見応えがある物があったとも思わんが……」

 仕方ない、様子を見に行くか?



 氷像並ぶ洞窟内。

「……あー……」
「……凍っとるな」

 セレスを見付けた二人の第一声が、これ。どうやらアリアの渡したアクセサリを落としたらしく、いつの間にか凍ってしまっていた、らしい。助けてと今にも声を上げそうな必死の表情に口許、胸元で頼りなく手を戦慄かせている様な、か弱さを感じさせるさりげない仕草。足許も覚束無くなっている様な、やや内股気味に今にも崩れ落ちそうな――頼りなさげな佇まい。そんな少女の様な小柄な姿に、ぴょーんと伸びたあほ毛がアクセントになっている。……何と言うか、それだけでそこはかと無く間抜けさが強調され、悲壮感や緊張感を削ぐ。
 そんな姿がそのまま、絶妙に切り取られて氷像と化している――まるっきり周囲の氷像群の仲間入りである。

「死んじゃって……ないよね?」
「ああ。そこは問題無かろう。ひょっとすると意識もあるかもしれんぞ」
「そう……なら良かった」
「ふむ、良かったか」
「?」
「ならばこやつの解放権を賭け、一勝負せぬか」
「解放権……一勝負?」
「ここの冷気で凍った氷像は我の力でしか溶かせぬからな。ここで凍ってしまった以上、このセレスとやらも我の思うままと言う事だ」

 つまり、幾ら類縁種である氷の女王の末裔だとは言え、アリアの力ではこのセレスを戻せない。

「……む」
「フ、むくれるな。うぬが勝てばいいだけの話であろう」
「……わかった……やる」
「それでこそうぬよ。ならばさて、何をしようか……そこらの氷像でカーリングなりチェスでもしてみるか」
「ルール……わかるの?」
 カーリングにしろチェスにしろ。
「いや、はっきりわからん。だが折角だからな。そこらの氷像を滑らせたり並べて動かしたりするのも一興かと思ってな」
「……。じゃあ……まず、ルール、作ろう」
「ま、それが無難か」

 二人にとっては、いつもの事。



 死んじゃってない。意識はある。
 うん、確かにそうなんだろう。……今僕がこう思っている事自体が幻覚か何かで無い限り。

 氷像状態のセレスはアリアと雪姫のやりとりを聞きつつ、取り敢えずその事に軽い安堵を覚える。……いや、戻れる目はあるって事だから、多分きっと大丈夫……って考えてる間にも寒くて寒くて堪らないって言うか寧ろもう眠い気がする。寒くなると眠くなるってあれかな、でもそれ寝たら死ぬぞって続く訳だから……でも僕もう凍ってるから今から凍死とか関係無いんじゃ……あれ、何だか頭が働かなくなって来たかもしれない……?

 うん……何でもいいけど、僕、いつ解放して貰えるんだろう……。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 氷の女王の末裔様にはいつも御世話になっております。
 デルタ・セレス様には初めまして。

 今回は御二方での発注有難う御座いました。
 そして今回もまた大変お待たせしております。セレス様には初めましてからお待たせしてしまっている事になりますが、当方毎度の如くこんな感じでお時間頂いてしまう所がある輩でして、もしそれでもお許し頂ける様でしたら、今後共どうぞ宜しくお願い致します(と言うか同PL様かもしれませんが)

 内容ですが、書き始めた時点で……夏の格好のままであの雪山に行ったのだろうか? とか細かい所が気になり始めてしまいまして、こんな纏め方になりました。出来るだけ詳しくと御指定あった件も上手く反映出来ているかどうか。
 それと別話とキャラ情景が掛け離れてるかも等はお気になさらず。意外と何とかなります(なってますよね?/汗)
 また、初めましてなデルタ・セレス様。アリア様の方もですが、性格や口調等、読み違えてなければ良いのですけれど。

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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2019年08月01日

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