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『儚く散りはしないと 』
金鹿ka5959)&キヅカ・リクka0038

 昼間の呼吸するだけでも気力体力が削がれる熱は鳴りを潜め、金鹿(ka5959)の髪をぬるいそよ風が揺らして頬を擽った。頭上を仰げば空は一面の藍色をしている。暗闇と呼ぶにはまだ少し明るい宵の頃。蝉の代わりのように、鈴虫の鳴き声が何処かから聴こえていた。音といえばそれと手元でパチパチと爆ぜる線香花火くらいだ。一分も持たず途切れてしまうけれど。
 浴衣について感想を言い合ったのは待ち合わせをしてすぐで、線香花火の思い出話は袋を開封して最初に火をつけた時に少し話した。笑い合った後に横たわる沈黙に、鼓動が早まるのを自覚する。隣を歩く際に手を繋ぎたいと思いつつも勇気がなく躊躇している内に彼の方から伸ばされた手の温もり。五年もの月日を戦い抜いてきたその手のひらは繰り返し傷付いて厚みを増した力強いものだけれど、今この時だけは恋人である自分だけのものだった。僅か数時間前の出来事は既に幾度もなぞったかのように焼き付いている。今は悪戯っぽい言動に羞恥を煽られるのも込みの胸の高鳴りとは違う感覚があった。占術を用いた訳ではなく単なる直感に過ぎないが。手に取るように分かるというには唯一無二の関係になってまだ日が浅い。
「そういえば前からマリに聞いてみたかったんだけど、一つだけ……聞いていい?」
 それはふと思い出したかのようにすぐ隣で呟かれる。金鹿の事を本名である小毬に因んで鞠ちゃんと呼ぶ友人もいるが、キヅカ・リク(ka0038)が紡ぐたった二音の響きは何度聞いてもこの心を甘くぐらつかせた。とはいえ横を向いても火球が落ちた線香花火をバケツに突っ込もうと屈んだ彼の顔色は窺い知れないが。声音に緊張が感じ取れて、金鹿は目を閉じる。
「どうぞご遠慮せず。今なら何にでもお答え致しますわよ」
 と応じてみれせば、
「おっ、言ったね?」
 と軽い調子で彼が微かに笑う気配がする。それから軽くスッと息を吸う音。
「僕をどうして好きになったのか――ちょっと聞いてみたいなって」
「……あら、言っていいんですの?」
 口を開くまでの隙間にリクが冗談だと誤魔化そうとして、しゃがんだまま、にこやかな顔をこちらに向けてきたが、先んじて挟んだ言葉にその表情は呆気に取られたものに変わる。特別な間柄に変わってからというもの、二人きりで顔を合わせるたびに臆面もなく可愛いを連呼する彼に金鹿は揶揄われっぱなしで――それが本心だという事も承知しているが――おおよそその時と同じ反応を返されると思って、飲み込んでしまおうとしたのだろう。確かに金鹿は初心もいいところで彼の側にいる機会が増えようと、未だに恥ずかしい気持ちは拭えない。しかし自らの想いを告げた時と同様、肝心な時に臆する程弱くないつもりだ。質問にまず茶化すような言葉を入れて隙を作ると、金鹿は線香花火を持っていない方の手を胸の高さに上げてみせた。
「いつだって真剣なところと、自分のお気持ちに正直なところ。大言壮語にも思えることをやり遂げてしまう頼もしさと、そこに至る見えない努力、胸に秘めた熱さ。――かと思えば今みたいに本当はちょっぴり自信をお持ちでない部分だったり。それからそう、誰にでも優しくて。けれど……」
 指折り数えて折り返し、リクの物に遅れて火球が黒くなってきたのに気付くと金鹿も浴衣の裾が汚れないように押さえつつ隣に腰を下ろす。そこでようやく合った目は先程口にした通りに僅かばかり不安に揺れて見えた。背後の縁側から抜ける光が危うげに明滅する。重ねた視線を逸らす事なく、一旦切った言葉を口に上らせる。
「……それでも、私が特別なんだってちゃんと感じさせてくださるところ」
 じゅっと音を立て線香花火が水の中に沈む。リクが手放した物と二つが縁で滑って並ぶところを金鹿は口を噤んで見つめる。言い切った途端に置き去りだった照れが追いついてきて、流石にこのまま彼を真っ直ぐ見返せなかった。頬が赤く染まっている事は見えずとも分かりきっていて、薄暗さに紛れないだろうかと思わず現実逃避をしてしまう。
「そっか……うん、そっかぁ……」
 独り言のように呟く声は思いの外柔らかい。もう一度見ればリクの瞳にあった微かな憂いの色は光に溶け、その黒目に映った自らの顔はやはり紅潮しているような気がする。彼の表情は面白がる時の意地悪な笑みでも心底楽しそうな朗らかなものでもなく少し唇の端が上がる程度の微笑だったが、それを見られるのは多分自分だけで。
(――まったくもう。何度お伝えすれば分かってくださるのかしら?)
 と自らの内にあるこの気持ちが伝わりきらない焦ったさが半分、そういう他の人には見せない弱さを自分には晒してくれる嬉しさがもう半分。惚気を書き連ねた日記を仕込むなんて罠があったのも真新しい記憶だが、リクは普段ストレートに物事を伝えてくるタイプだ。それこそ褒め言葉などは可愛いの一言に留まらず、全て彼の本音だと知っているだけに居た堪れないが、その感情の発露に対していつもは素直になれなくて上手く伝えられない、自分だって彼に負けず劣らず抱いている気持ちをまるでお返しとばかりに伝える。こうして弱い部分を見せてくれている時にまで、言わずとも分かってくれる筈と有耶無耶にしてしまうのは嫌だった。
(私は護ってほしいがために貴方を好きになったのではありませんわ)
 一人でひたすら前を見据えて突き進むにはまだ、この足は頼りない。けれどそう強く願い過ぎる必要はないのではと近頃はそんなふうに思いもするのだ。だってそれこそ無茶をしては金鹿の肝を冷やすリクも隣に並べば同じ人だ。悩んで足掻いて苦しみ、笑ってふざけて甘やかそうとして。我が儘だから彼に幸せにしてもらうだけでは飽き足らない。感情も願望も膨らんで、自分の至らなさを噛み締める――けれどそれは決して悪い意味などではなくて。不思議と落ち着いた心音を聴きながらリクの浴衣の袖を手繰ろうとするよりも先に、彼の手が伸びてくるのが見えた。

 ◆◇◆

「……リクさん?」
 少しだけ困惑の色を乗せて、頬を撫でさする指に可愛い恋人が思わずといったふうに片目を閉じる。なぜ彼女はこうして手を差し伸べて欲しい時に、望んだ以上のものを返してくれるのだろうか。そんなに分かり易いのかと少しズレた事を自覚しながら、リクはふにふにと滑らかな感触に目を伏せる。いつまでも金鹿と一緒に居続けたい。それは甘い誘惑で、しかしその前には片付けなければならない問題が山積みだ。
「マリってほんと可愛いよね」
 最近は言い過ぎていい加減慣れてくるんじゃと思うのだが、最早口癖のようになるに至っても彼女は初々しく視線を泳がせて、その後恥ずかしげにこちらを見上げてくる。触れた手へと伝わる熱は温度を上げたが、果たしてどちらのせいだろうか。名残惜しさとキスしたい衝動を理性でねじ伏せて、リクは手を離すと、まだ十本くらいはありそうな線香花火の袋を取った。その内一本を金鹿に手渡して自分の分も取り、故郷の物と似た形状の着火道具で火を点けて立ち上がる。恋人と最高の休暇を過ごそうが抜けきらない疲労に身体の何処かしらが音を鳴らす。
「実はさっきの、初めて好きだって言ってくれた時に聞けなかった言葉なんだよね」
 何の気なしに話題を戻せば、「そうでしたの?」と金鹿は目を丸くする。恋人同士になった今だからこそ、言うには勇気の要る内容。しかし彼女は少しも詰まらず好きな理由を並べ連ねてくれたのだ、言うだけ言わせておいて話を打ち切るのは宜しくない。決戦を控えているからというのもある。先日砂浜で彼女を怒らせてしまったみたいに、順序立ては上手く出来ないかもしれないが、余さず想いを伝えようと思った。
「だから聞いておきたかったんだ。本当に僕なんかで良かったのか、って」
 否定しようとしたのだろう、口を開きかけた金鹿を視線で制する。手元では、雪の結晶のような花火が幾重にも枝分かれしては消えていった。守護者というごく限られた者だけが手に出来る強大な力を武器に戦いに明け暮れる日々を送っていれば、名前さえ知らない相手からまるで超人のように扱われたりするがリクとて誰もが抱えるようなありふれた不安を持つ時もある。
「僕は……マリなら隣に居てくれると思ったから、護ってくれるとか護ってあげなきゃとかじゃない。隣に居てほしいと、“想えたから”」
 結局のところ、護るのは自分が相手に一方的にしたい事で、護られるのはその逆。片想いなら切っ掛けとしてはいいのかもしれない、けれど両想いとなればそれはいつか均衡を崩し、致命的な決別へと繋がるような気がする。
「最初はさ……凄い美人で僕なんか、と思ってた」
 覚醒者としての能力を抜きにした自分にそれ程価値はないと思っていて。それにあの日からもう誰かに頼る事が堪らなく怖くなって、全速力で走る振りをして脇目も振らず進み、倒れてもまだ大丈夫と自分自身も誤魔化し続けた。知らず知らずの裡に五年もの歳月はリクの背に様々なものを負わせてきたのだ。これまで関わってきた誰が悪い訳でも勿論無く、自分だって意図して変わろうとしたよりいつの間にか変わってしまった事がずっと多い。
「マリに心配ばっかさせるような生き方して、そんな日々の中でマリは一緒に戦場で支えてくれたし、僕も支える事が有ったから、だから、たとえ死ぬことになっても覚えてて貰いたかったんだ。そう思い始めたのがマリを好きになった……始まりだった。だから結局、告白する日も誤魔化したんだ」
 戦いも恋愛も紆余曲折、散々迷った挙句に立ち止まっては振り返りたくなる。死ぬ、という単語に金鹿は眉をひそめたが何も言わなかった。
「愛してくれなんて贅沢は言わない。そう言って誤魔化した僕を見抜いて、それでも好きだと言ってくれた。その時きっとこの人しかもう居ないだろうなって思ったんだ」
 そんな意図はなくてもまた怒らせたり、あるいは泣かせてしまう時もあるのかもしれない。儚くも線香花火は徐々に勢いを失くして、火球が間際に膨らんで落ちた。先に火を点けた筈の金鹿の線香花火はまだ弱々しくも花を咲かせている。
「――だからもう一度だけ、“君との今”を」
 生きたい。決戦で死ぬ可能性ではなく、今を道の先まで広げていき、それで。言葉とそれに込めた想いは、薄く開かれた唇に吸い込まれていく。触れたのはたった一瞬だけ。至近距離で髪よりも少し濃く、茶色に近い睫毛が瞼と一緒に上がり、真っ赤な瞳が炎のように煌めいた。爪先立ちになっていたのが元の立ち方に戻ったので顔は遠ざかるが、距離は近いまま。リクの浴衣の袖を引いていた手が少し下がって、手の甲に金鹿の小さな、けれど決してか弱くはない手が重ねられる。
「私のことだけではなくて、貴方自身のことも私に話して下されば良いのですわ。弱音でも何でも、私は必ずや受け止めてみせます。代わりにどうかリクさんも私を支えて下さいましね。……私には同じ戦地へと赴く力はありません。ですけれど、隣に在りたいと願うのは同じですもの。心は常に貴方の隣に。そうして支え合って歩いていくのが伴侶というものなのですわ、きっと」
 堂々とした振る舞いもまた金鹿を形作る一つ。告白を思わせる大胆な言葉は甘い毒だ。
(マリ無しじゃ生きられないなんて、今に始まった話じゃないけど)
 一生付きまとう後悔と慚愧をこれまで繋いできた縁が和らげてくれる。そしてその象徴と呼べるのは自らに与えた名を体現しようとひたむきに歩く彼女に他ならないのだ。あの時と同じように手を握った。力は入れ過ぎずに、ただそうしている事が当たり前のような力加減で。恋人になってからまだ三ヶ月弱。知らない事もまだ一杯あって、それを知る事が出来るのは互いだけだ。つくづく想いを交わし合う奇跡に鼓動が早鐘を打つ。日本と東方とで共通する文化は多々あれども、二つの世界で挙式するのは中々大変そうだ――とそんなことを考えていると、自然とリクの頬は緩んだ。
「それじゃあ早速、我が儘言ってもいい?」
 何でしょう、と首を傾げる彼女の物と一緒に線香花火を水に投げ入れ、自らの唇をつつきリクはおねだりしてみせる。瞬間沸騰するように愛しい恋人の顔が真っ赤に染まって、悔し紛れのようにぶんぶんと腕を振り回され。リクの我が儘が通ったのは約二分後の事だった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
アドリブがやり過ぎになっていないか心配しつつも、
終始ニヤニヤと楽しい気持ちで書かせていただきました。
数回ご縁をいただいただけの人間が何を言っているのか、
という話ではありますが……交流はすごく広いんですが
昔のトラウマとか戦いに全力投入な日々だったりとかで
リクさんに特別な相手が出来るイメージがそんなになく、
ですが見たり書いたりしていると違うところは噛み合い、
根っこの部分や見ている方向は同じなのかな、と感じる
金鹿さんとの関係は自然で素敵で、こうやって
関わる機会がいただけたことが嬉しかったです!
今回も本当にありがとうございました!
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2019年08月05日

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