イラストコンバート第二弾 ハイブリッドヘブン スタート!

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『変わらないもの 』
狐杜aa4909)&朱華aa4909hero002)&aa4909hero001



 遠くの方で、蝉時雨が聴こえる。けれど狐杜(aa4909)の自宅の周囲は静かで、そして比較的涼しくもあった。
「コト、コト」
「おや、どうしたんだい?」
 ててて……とやってきた朱華(aa4909hero002)に、狐杜が淡く微笑みながら首を傾げる。確か先ほどまでラジオを熱心に聞いていたと思ったのだが。
「ほたるが、みたいですわ」
「蛍?」
「はい」
 こくりと頷いた朱華が言い募る。ラジオで蛍の話をしていたこと。それが気になって仕方ないこと。
「蛍、か」
 狐杜の隣でその話を聞いていた蒼(aa4909hero001)は腕組みをした。彼女の突発的な発言も、そして気の移り変わりもいつものこと。ならば、その気が変わらない内にどこかへ見に行った方がいいだろう。今、蛍が沢山見られる時期の場所が望ましい。
 それは狐杜も同じことを思ったのだろう。ふむ、と小さく考え込み、しかしすぐに顔を上げた。
「丁度いい場所があるのだよ。わたしの故郷だ」
「──、」
 その言葉に、蒼は思わず狐杜へ振り向く。狐杜はいつもと変わらない表情を浮かべていた。
 だが知っている。変わり果てた彼の故郷を。
 そして覚えている。故郷の姿に立ち尽くし──呆然としていた狐杜の姿を。
(琴理も忘れたわけではないだろう)
 ならば、何か考えがあってのことか。
「……アオイ?」
 はっと我に返れば、狐杜と朱華が揃って蒼を見つめていた。調子でも悪いのか、という狐杜の言葉に首を振る。
「少し、気がそぞろだっただけだ。……それで?」
「それなら良いのだけど」
 狐杜がそう呟き、代わりに朱華が蒼の元までやってくる。
「あした、ほたるをみにいくのは、どうかと」
 朱華の興味のある内。……とは言え、本日中は流石に気が急きすぎていることになったようだ。
「それなら弁当を作っておこう」
「幻想蝶に入れておけば、暑さも安心だね」
 蒼の言葉に狐杜が頷く。朱華はそんな2人を交互に見比べた。
 今日ではなく、明日。ほんの少し待つことになるけれど、初めていく場所と、美味しいお弁当と。そして蛍が待っている。
「おべんとうと、ほたると。あしたが、とてもたのしみですわ」
「そうだねぇ。それじゃあ、明日ちゃんと起きられるように、今夜は早めに寝るんだよ」
 はい、と朱華は返事をして踵を返す。狐杜は彼女の姿を見送ると首を巡らせ、夕暮れを迎えつつある外を見た。

 来るであろう夕暮れに、思い出すのは舞う光と妹の姿──。




 1歩進めばサク、と草の鳴る音がする。夏の木漏れ日の下、黙々と歩いていた3人はやがて広い場所へと出た。
「ハネズ、ちゃんと小まめに水分補給をするんだよ」
「わかりましたわ」
 こくりと頷いた朱華は、訪れた場所が気になるのかキョロキョロと辺りを見回して。
「ここかコトの、こきょうですの?」
「ああ、そうだよ。このあたいは端っこの方だったね」
 行こうか、という狐杜の言葉とともに3人は草原を歩き始めた。
 最後にここを訪れてから数年。里長の長男"八代琴理"として生を受けた場所は、燃やされ、砕かれ、埋められて──今となっては草木が伸び、ただ放置された広い場所と言うしかない。
 恐らく、ここに里があったのだと言っても疑われてしまうだろう。それくらいに里は跡形もなかった。
 けれど、狐杜は覚えている。目を閉じれば思い出せる。そう、里の入り口を入って──。
「あのあたいにはね、よく遊びに行った、おばあちゃんの家があったんだよ」
 背高のっぽの草が群生する場所を指差す。
 狐杜と妹が遊びに行くと、すぐ気がついて手を振ってくれて、小さな菓子をそれぞれにくれた。
「あそこには小さな店があったね」
「コト、ここには?」
「そこはね、友人の家があったんだ」
 適当な場所に立って問う朱華に1つ1つ答える狐杜。答え、話すごとに思い出が思い起こされる。
 狐杜と、妹と。そこの友人と、他にも何人か。決して人数は多くなかったが、少なくもなく。里のことを思い返せば、必然と彼らのことも思い出された。
 ふと、朱華が蒼を見上げた。
「……ハネズ?」
「あるくことに、あきてしまいましたわ、アオイ」
 おんぶをせがむように両腕を伸ばす朱華に、蒼は背を向けしゃがんでみせて。そして朱華を背負うと、大丈夫だと言うように狐杜へ頷いた。
「それじゃあ、行こうか。もう少しで川に着くからね」
 思い出の中と変わらないのなら。ここをまっすぐ進んだ先には、毎年小さな夏祭りを催していた川辺に着くのだ。

 やがて聞こえてきた川の音は涼しげで、流れは穏やかで。水辺だからか、昼間でも他の場所よりいくらか涼しい。蒼は辺りを見回し、地面の安定している場所へ荷物を降ろし始めた。
 狐杜も足を向けようとして、ふと朱華を見遣る。彼女は川に興味を示したようで、じっと流れを見つめていた。
 以前も川に行ったことがあるが、彼女の目から見ると何か違いがあるのかもしれない、
「わたしも手伝ってこよう。ハネズ、遠くへ行くと危ないから、あまい遠くへ行かないようにするんだよ」
「はい、わかりましたわ」
 狐杜は頷く朱華の元から、テントを張り始めた蒼の元へ。共にテントを張って朱華を呼ぶと、川の水で両手を濡らした彼女が戻ってきた。
「みずが、とてもつめたかったですわ」
「山から流れる水だからね」
 手拭いで朱華の手を拭いて、幻想蝶から弁当を取り出す。ひと口食べた朱華は顔を綻ばせた。
「とても、おいしいですわ」
 その言葉に蒼も小さく笑みを浮かべる。彼女に味付けは合わせてあるけれど、喜ばれるのはやはり嬉しいものだから。
 ふと視線を狐杜へ向ければ、彼は弁当に手をつけながらもテントの外を見つめていて。琴理、と蒼が声をかけるとはっとしたように視線が向けられた。
「ああ、すまないね」
 苦笑を浮かべ、けれど狐杜の視線はまた外へと向かう。
 夜が訪れるには、まだ早い時間だった。

 昼食を食べ、一休みして。「行こうか」という狐杜の言葉に3人は動き始めた。
 テントを張ったこの場所で見るわけではないのか、と視線を向ける朱華に、灯りを持って先導する狐杜が微笑みかける。
「もっと良い場所があるんだよ。こっそい抜け出して見に行ってた、穴場がね」
 さわさわと風で木々が揺れる。そう、昔もこんな風だった。妹とともに、川沿いを歩いて、歩いて。
「このあたいだね」
 立ち止まって周囲を見回す狐杜。けれど、まだ蛍はいないらしい。

 本当は、不安だった。故郷が変わり果て、この場所すらも変わって──蛍はもういないのではないかと。
 夜の帳が世界に降りていく、その様をじっと見つめながら狐杜は『その時』が来るようにと願わずにいられなかった。

「──コト」
 朱華の声に狐杜は視線を彼女へ向け、次いで彼女の見ている方向へ。
 嗚呼、とため息が漏れた。
「コト。あのひかりが、ほたるですの?」
「……うん、うん。あれが蛍だよ、ハネズ」
 肯定された朱華は川の上を舞う光をじっと見つめた。
 幻想的で、けれどどこか既視感を覚えるのは何故だろう。前の世界──朱華が元いた世界での光景だろうか、と考えるものの、その答えはない。
「コト、アオイ、もっとちかくで、みてみたいですわ」
「ああ、それじゃあ、ゆっくい近づいてみようか」
 狐杜と蒼に手を繋がれ、朱華は蛍の群れへと近づく。蛍たちは3人の姿に逃げていく様子を見せず、やがて狐杜たちは蛍の群れの中へと入っていった。
(……見事だな)
 蛍の群れを見上げながら、蒼は感嘆するようにほう、と小さく息を吐き出した。
 昨今は蛍を目にできる場所がまず少ない。ここまでの光景を見ようと思えば尚更だ。
 不意に手の温もりが離れ、朱華が1歩、2歩と前へ進む。その両手を椀のように形作って、蛍を囲う──が。
「にげられてしまいましたわ」
 ふぅわりと光が空へ舞う。追いかけ、手を伸ばし、逃げられて。そんなことを繰り返していた朱華は、ふと狐杜を見上げた。
 コト、と声をかければ視線が向けられる。不安定に揺れる瞳が。
「ほたるが、コトをかんげいしているようですわ。おかえりと、いっているように、わたくしにはみえますわ」
「おかえり、か」
 朱華の言葉に蒼は小さく呟き、蛍の光に目を細めた。
 蛍は死者の魂と呼ばれることもある。それは時期的なものもあるのだろうし、この儚げな光に人の命を重ね合わせたのかもしれない。
 琴理はどう見ているのか──振り向いた蒼の視界に移ったのは、涙を零す彼の姿だった。
「……琴理。里帰りはどうだ」
 そっと寄り添って問えば、暫しして嗚咽交じりに言葉が返ってくる。
 ──ここに帰ってこられて良かった、と。

 感傷はある。
 悔いも傷も、まだまだ残っている。
 それでも変わらぬこの場所に、迎えてくれた光に。

「──……ただいま」


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 お待たせ致しました。里帰りと蛍の話をお届け致します。
 OMC夏季休業期間により、奇しくも盆の時期にお届けすることとなりました。お気に召しましたら幸いです。
 気になる点などございましたら、お気軽にご連絡下さい。
 この度はご発注、ありがとうございました!
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2019年08月13日

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