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『雨龍くんによる雨龍くんと雨龍くんたちの戦い 』
坂本 雨龍la3077


 人里離れた秘境の地に暗雲が立ち込める。銀の三つ編みを赤き血に染め、坂本 雨龍(la3077)は乾いた大地に膝をついた。

「くっ、血が……」

 だが霞む瞳に闘志は消えていない。睨み付ける鋭い眼差しに、仮面の男は口角を上げて嘲笑った。

「威勢だけは良いが……そろそろ限界なんじゃないか?」
「うるさい、お前は、お前だけは許さない!」

 目の前のエルゴマンサーに大切なモノを奪ばわれた痛みが、雨龍の足に再び立ち上がる力を与える。俺の天使、命よりも大切な光をよくも――

「いいだろう、何度でもお前に絶望を与えてやる!」
「うおおお!」

 拳を振りかぶる。大鷲の鉤爪が獲物を引き裂かんと狙った。花弁を振り撒きながら舞い踊る雨龍を、だが仮面の男は余裕でいなしていく。それはまるで戯れに鼠を弄ぶ、悪戯な猫のように。

「あはは楽しいね!君の憎悪はとても心地良いよ!」
「黙れよ!」

 時折当たる攻撃さえも、男にとっては撫でられると同義。心底愉快だと高らかに哄笑しながら、数倍の威力をお返しとばかりに叩き込んだ。少女と見紛う線の細い身体が、岩だらけの荒野を跳ね転がる。

「とても楽しいんだけど――そろそろ、おしまいかな?」

 荒野に戻る静寂の中、朦朧とした意識の向こう、首筋に冷たい刃を感じた。殺気は感じられない、そう、殺意などない。仮面の男にとっては、ただ飽きた玩具を捨てるだけのこと。

「ぐっ、まだ……ぐああっ!」
「無理しない方が良いよ、内臓、何個かイッちゃってるでしょ?」

 黒一色の片刃の斧、その柄尻で鳩尾を抉られ血と悲鳴を吐く。嬲るような刺突は、あえて容赦なく急所を外して雨龍を苦しめていた。でも、それも、もうおしまい。

「――ばいばい」

 激痛に苛まれ、もうほとんど目も見えないのに、振り被られた刃の鋭さだけは何故か感じられて。雨龍はどこへともなく必死に手を伸ばす。嫌だ、まだ終われない、俺の天使を取り戻せていない――誰、か。

「なんだ!?」

 突然の光が暗雲を払う。空間を文字通り切り裂いて飛び出した炎の矢が、細い首にまさに振り下ろされんとしていたアックスを仮面の男の手から叩き落した。

「間一髪、間に合ったみたいだ、ねっ!」

 銀色の三つ編みを揺らし、時空の狭間から飛び出した影が仮面の男を蹴り飛ばす。華奢な身体から繰り出されたとは思えない程の重みに、仮面の男の顔が初めて歪んだ。唐突に遠ざかった死の気配、見えない瞳では闖入者が味方とはわからない――けれど、雨龍は心の奥底で感じ取っていた。

「お前は……僕?」
「そうだよ、僕」

 力強く返される言霊の主が守るように近くに立ったのを感じ、途轍もない安心感が雨龍を包む。恐れる事は何もない、だってその思考は手に取るよりも身近に感じられる。何故ならそう、彼は僕――もう一人の雨龍くん!

「僕はこの世界の僕を助けるために、並行世界からやってきたんだ。でも……助けにきたのは僕だけじゃない!」
「なっ!?」

 高らかな宣言と同時に、時空の裂け目からどんどんと影が飛び出してくる。

「僕はライセンサーとして戦い続け、ヒトの限界へと辿り着いためっちゃ強い雨龍!」

 最初に炎の矢でアックスを弾き飛ばした雨龍くん(以下『強雨龍くん』)が叫ぶと。

「僕はヒトの限界を超え、ヒトを捨て、ついにはヤベえことになった雨龍!」

 なんかちょっと浮いたり目からビーム出したりしてる雨龍くん(以下『超雨龍くん』)がポーズを決め。同時に、この世界の雨龍くん(以下『真雨龍くん』)の身体を温かいナニカが包む。

「これは……ヒール?」
「いいえ、ハイヒールよ」

 みるみる傷が治っていく真雨龍くんのクリアになった視界に、赤いリボンのついたハイヒール(履く方)が映る。視線を上げていった先、ミニスカオネェの雨龍くん(以下『姐雨龍くん』)がマスカラでばっさばさに盛ったまつ毛でウィンクを投げた。


 ――あとはそもそも最初からヒトじゃない雨龍くんとか生物ですらない雨龍くん(ちくわとか)とか雨龍くんじゃない雨龍くん(雨龍くんじゃなくない?)とか居たけど大人の事情により割愛――


 兎も角、荒野を埋め尽くすほどの雨龍くんズは仮面の男を取り囲み、一斉に総攻撃を仕掛け――るにはちょっとスペースがなかったのでジャンケンで順番を決めて攻撃する。

「これは殴られた僕(真雨龍くん)の分!」

 強雨龍くんの掌の魔導書が輝き、赤き炎の花が仮面の男(と周囲でびたんびたんしていたかしわ雨龍くん)を焼き焦がす。鼻をつく肉の焦げた匂いに、全員の胃が切ない音を立てた。

「くっ、よくも……これは焼かれた僕(かしわ雨龍くん)の分!」

 超雨龍くんの三つ編みが解け、銀糸の一本一本が鋭い鋼糸となって仮面の男(と周囲でごろごろ転がっていたはにわ雨龍くん)を切り裂く。全員の目が怒り(と砂礫)で赤く染まった。

「やってくれたわね……これは粉々にされたボク(はにわ雨龍くん)の分よ!」

 姐雨龍くんの魅惑の生脚が荒れ狂い、ヒール(刺さる方)が仮面の男(と周囲でにやにや笑っていたげせわ雨龍くんの息子)を貫く。全員(仮面の男も含む)が股間を抑えてぴょんぴょんジャンプした。

「なんて卑怯な……貴様には人の心がないのか!」
「フッ、僕のせいじゃない気が100%するけど戦いにおいて卑怯は褒め言葉だね!僕のせいじゃない気が100%するけど!」

 真雨龍くんの叫びに、ボロボロになりながらも虚勢を張る仮面の男。そうだね、たぶん君のせいじゃない。閑話休題、戦いは更に熾烈さを増し、一人、また一人と(主に雨龍くんの攻撃により)減っていく雨龍くんズ。そしてついに。

「僕は……僕たちは、一人じゃない!うおおお!!」

 (スペースが空いたため)総攻撃を仕掛ける雨龍くんズ。踊る拳が、輝く魔導書が、目からビームが、最終兵器ヒールが、あとなんかぬちゃっとしためかぶとか爆裂するシュークリームとか、が仮面の男を全方位から襲う!

「……やったか!?」

 お約束な台詞を吐いて濛々と立ち込める砂煙の向こうに目を凝らす真雨龍くん。蹲った人影はピクリとも動かない、だが擬態かもしれない。警戒を弱めないまま、じりじりと砂煙が晴れるのを待つ雨龍くんズ。やがて露になった視界の先、身を横たえた仮面の男の顔から――ゆっくりと、仮面が割れ落ちた。

「お前も……僕!?」
「そうだよ、僕」

 暴かれた仮面の下の相貌を見て、驚愕に騒めく雨龍くんズ。そう、仮面の男、エルゴマンサーの正体は、暗黒面に堕ちてしまった雨龍くん(以下『悪雨龍くん』)だったのだ。無数の並行世界に、無数の雨龍くんがいるのならば。なんやかんやあってエルゴマンサーになってしまう雨龍くんがいるのも、また必然。

「残念だよもう一人……いや沢山の内の一人の僕。やっと君の天使を奪ってやったのに……ここで終わりだなんて」

 咳き込みながらも余裕の態度を崩さない悪雨龍くんの言葉に、真雨龍くんは駆け寄って胸倉を掴む。そう、この男と戦った理由、傷付き命を落としかけながらもけして引けなかった理由――!

「返せよ!僕の天使を――母さんを返せ!」

 全雨龍くんズが殺気立った。雨龍くんにとって母さんは(種族という意味ではなく)天使、いや控え目に言って女神。それはヒトの限界を超えようがヒトを止めようがちくわだろうが、どの世界の雨龍くんにとっても等しく絶対なる真理。それを、この悪雨龍くんは奪ったのだ――万死すらも生温い。

「フフッ……僕以外の存在が女神の庇護を受けるなんて耐え難い、そう思ってエルゴマンサーになったわけだけど」
「「「それはわかる」」」
「だろ?だろ?」

 全雨龍くんズが頷いた。誰だって女神を独り占めしたい、その気持ちはとても自然なモノ。だが身を乗り出して我が意を得たりと頷く悪雨龍くんは、一番大切な事を忘れている。そう。

「全ての僕から母さんを奪い独り占めする、その気持ちはわからなくはない。だがそれはやってはいけないことなんだ、何故なら――そう、女神が悲しむに決まってる!」
「!!!!」

 荒野に、一筋の雷が落ちた。悪雨龍くんは真っ青な顔で崩れ落ちる。そうだ、僕はなんてことを――後悔に震える手で、最期の力を振り絞って時空を裂いた。

「なにを――」
「これで終わったと思うな、もう一人の僕……この世に僕がいる限り、なんかエルゴマンサーとかになってしまう僕は、またいずれ現れるだろう……」
「な、待て、だから母さんを返せよ!!」

 爪先からゆっくりと風に溶けていく悪雨龍くんは、必死の形相で肩を揺すってくる真雨龍くんに時空の裂け目を示す。

「女神は僕の世界の僕の根城に居る……君達のおかげで、もうそこまで迎えに行く力も無いからね、自力で何とかしなよ」

 時空の裂け目を開けてあげただけ感謝してほしい、と笑う悪雨龍くんは、不意に真面目な表情を裂け目に向けた。

「この先は何が起こるかわからない、さっき言ったように、エルゴマンサーになってしまう僕とか魔王な僕とか破壊神な僕なんかも居るだろう……でも、それで女神を諦める僕じゃないだろう?」
「当たり前だ、地獄の最下層にだって行ってやる」

 親指を下に向ける真雨龍くんに、初めて見せる穏やかな笑みを浮かべ。

「フフッ、それでこそ僕だ……一足先に地獄で待っているぞ!フゥハハー!」

 悪雨龍くんは高笑いと共に完全に風に溶けていく。後に残るは荒れ果てた大地と虚しい勝利の余韻と、そして。

「……行くんだろう、僕?」
「勿論、僕達もついていくからね」

 親指を立てる強雨龍と超雨龍くん。女神のいる所ならどこへだって、諦めるなんて選択肢は雨龍くんズには無いのだ。周囲のその他雨龍くんズも頷く中、姐雨龍くんが優雅に髪をかき上げる。

「フフ、当然ね――でも、その前に」

 アイプチで作った二重瞼を物憂げに伏せ、視線を巡らせる。かつて荒野だった場所は戦闘の爪痕に見る影もない。切なく漏れた溜息に、真雨龍くんと強雨龍くんと超雨龍くんとその他雨龍くんズは頷き合うと。

「じゃあ……「「「いただきまーす!!」」」」

 食べ物を粗末にしてはいけません。あと戦闘ってお腹すくよね。
 一斉に散開し、戦場に充満する焼けたちくわとかめかぶとかなんかその辺りの美味しそうな匂いをさせる、かつて雨龍くんだったモノ達に飛び掛かると。貪るように腹ごしらえを始めたのだった――



 ここではないどこか、暗闇に沈む広い空間。辛うじて判別のつくシルエットは三つ。

「エルゴマンサーな雨龍(以下『悪雨龍くん』)がやられたか……」
「奴は四天王の中でも最弱な存在……」
「我ら『女神独り占めし隊』の面汚しよ……」

 そして落ちる静寂。互いに探り合う気配が暫し行き交い――誰かがしぶしぶと電気をつけた。明るくなった室内で三人は睨み合う。

「順当にいったら次は君だろ、人型だし」

 と邪龍な雨龍くん(以下『邪雨龍くん』)が鱗を磨きながら隣に視線を向け。

「僕はラスボスって決まってるんだよ、大体のゲームそうじゃん」

 どこから取り出したか携帯ゲーム機に没頭しながら、魔王な雨龍くん(以下『魔雨龍くん』)がつまらなそうに呟くと。

「動くにはちょっと制限があるんだよねー僕。だってほら神だし」

 手持ち無沙汰に透けたり溶けたりしながら破壊神な雨龍くん(以下『壊雨龍くん』)は欠伸をした。再び落ちる沈黙――そう、誰も戦いに行きたくないのである。だって女神ここにいるし。あわよくば自分以外の雨龍くんがいなくなればいいとか思ってるし。

「もうあいつら来るの待ってればいいんじゃないの?」

 今度は爪を磨き始めた邪雨龍くんの何気ない言葉に、魔雨龍くんと壊雨龍くんは『こいつナイワー』的な冷たい視線を向けた。

「馬鹿!お前ホント馬鹿!女神の近くで戦闘とかする気なの??」
「僕達が戦ってるとこ見たら女神だって不審がるだろ!せっかく異次元かくれんぼだよって言いくるめて連れてきたのに!」

 それでいいのか女神。だが全ての雨龍くんはそんな所も天然可愛くて尊い、って思っているから問題ないのかもしれない。ともかく二人から罵倒された邪雨龍くんはむっとして。

「だったらお前らが行けよ!僕はここで女神を守ってるからな」
「「は?」」

 ガタリ。誰かが椅子を蹴倒した音が響く。邪雨龍くんの口にブレス光が収束し、魔雨龍くんの左手に炎、右手に氷の魔力が集まり、壊雨龍くんのナニカが何かよくわからない感じにパチパチし始めた。高まる緊張に崩壊しかける部屋――まさに一触即発の空気はしかし、瞬時に霧散する。『どうかした?』とドア越しに問いかける、鈴の一声によって。ダーク雨龍くんズは刹那に視線を交わすと。

「何でもないよ母さん」
「ちょっと日課のバングラからのアイリッシュダンスコンボを皆でキメてたところだから」
「僕達は今日も素敵に仲良しさ」

 声を揃えて口々に仲良しアッピールをするダーク雨龍くんズ。ドアを開けられてもいいように笑顔で肩とか組んでる。背後に回した手でお尻つねったりしてるけど。納得したのか遠ざかる気配にホッと溜息を吐くと、すっごく嫌そうな顔で離れて服をはたいた。

「……とにかく僕は行かないからな、ちょっと虫歯が痛いし」
「あんなにシュークリームを食べるからだよ、しかもくしゃみの拍子にブレスで爆発させるし」
「そういうお前だってこないだ仰向けで結婚情報誌読んでて鼻の上に落としたろ。反射で消滅させるの止めろよな、上手な見合いの躱し方ってとこ読みたかったのに」

 そして始まる取っ組み合いの喧嘩は、やはり女神の鶴の一声で止まる。止まっては再開しの堂々巡りをこの数日繰り返している。何故って誰も戦いに行きたry。ともあれ、そうして結論の出ないままに時は過ぎ、刻一刻と雨龍くんズ――避けられない戦いは近付いてくる。それに気付かない、いやあえて気付かないフリをして、ダーク雨龍くんズは今日もコタツでまったりするのだった。


 おしまい。


 ――EDロール――

 真雨龍くん:坂本雨龍
 強雨龍くん:坂本雨龍
 超雨龍くん:坂本雨龍

「カーーットカットカット!誰だよ勝手に終わりにしようとしてるのは!?女神助けてないじゃん!グダグダなのはどうでもいいけど女神助けてないじゃん!!」

 姐雨龍くん:坂本雨龍?
 悪雨龍くん:坂本雨龍
 邪雨龍くん:坂本雨龍

「聞けよ!何普通にEDロール続け……えっ何だって?」

 魔雨龍くん:坂本雨龍
 壊雨龍くん:坂本雨龍
 ちくわ雨龍くん:愛知県豊橋市産

「『ここで引くと次回の予算取りやすい』?あーなるほどね、それはわかるけど、お前は大切なことを見落としている」

 かしわ雨龍くん:福島県伊達市産
 はにわ雨龍くん:前方後円墳出身
 げせわ雨龍くん:そっくりさん

「およそどの作品においても――『語り切れずに打ち切り』の可能性の方が高いってことを、ね」

 監督:坂本雨龍
 執筆:日方架音

 ―――――


 To be continued……?


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
たくさんの雨龍さんからのご縁を、有難うございます。
発注文を見て、思わず飲んでいたお茶を吹いたのは良い思い出です…フフフ。
こだわりの原作の実写化に、失敗していないと良いのですが…お楽しみ頂けましたら幸いです。
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2019年08月13日

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