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『ぎゅっと詰め込みバケーション! 』
ミアka7035)&白藤ka3768)&ロベリア・李ka4206

 日焼け対策すらも貫通しそうな陽射し、一面の青色に絵の具で塗り込めたような入道雲が厚く垂れ込める。とはいえ、この旅行の保護者である白亜(kz0237)やロベリア・李(ka4206)が憂慮していたような天気の急変はなさそうだった。そして、そんな快晴の下で弾ける水飛沫。ニャははと大きく口を開けて笑うのはミア(ka7035)で、掬っては前方に勢いよくブチまけられる海水にいよいよ反撃の一手を繰り出すのは黒亜(kz0238)だ。膝下までしか浸かっていない分、かかった時の冷たさが心地いい。ふと振り返ればロベリアとシュヴァルツ(kz0266)が連れ立ち沖合から戻ろうとしているのが見えた。
「せっかく来たんだから思いっきり泳ぎましょ。身体を動かないと鈍っちゃうし」
 先に着替えを済ませた男性陣と合流し、海を見るなり飛び込もうとしたミアとそれにつられた白藤(ka3768)の首根っこ――水着の上に着ていたミアは橙色のにゃんこ、白藤は女豹をイメージした耳付きパーカーの背の部分――を掴んで準備運動を厳命したロベリアがそう言ったのは結構前だった筈である。同じ保護者気質でも基本ノリのいいシュヴァルツも軍医としてその辺はしっかり釘を刺してきた。歳的にどうこうと言いつつ昔馴染みとその弟を意味深に見てから乗ったところは気にならないでもない。
「さっきまであんな息ピッタリやったのになぁ」
 にんまりした表情を浮かべた白藤に背中を叩かれた黒亜がジト目を向け鬱陶しげに身体を捩るが彼女は何処吹く風だ。姉猫の笑顔の意味は掴めないまでもミアもその言葉に頷く。
「うニャ。さすがクロちゃん、華麗なアタックだったニャスね!」
 グッと親指を立ててみせるがいつものむっつりとした顔のまま、小さく一言が返ってくるに留まる。しかし旅行の発案者であるミアとしては来てくれただけで嬉しいので機嫌は浮上するばかりだ。
 夏を満喫する為海に旅行したいと思い立って、そして都合がつき、誘いに乗ってくれたこの六人ではるばる訪れた。白亜と黒亜の妹も一緒に誘ったが、ミアと白藤の悪友とお泊まりデートするとか何とか。残念無念な気持ちは土産話の楽しみに置いておき、今日一日楽しむつもりだ。
 若干崩れたオールバックを掻き上げる仕草に、白亜と話していた白藤が大きく顔を逸らす。理由に気付かない白亜は見守るような微笑みで彼女を見た。それから皆の様子を鑑み、休憩を兼ねて食事の提案をする彼に、浜辺に軒を連ねる海の家へと視線を向け白藤が列に並ぶのを申し出るが白亜はそれを断った。代わりに弟に声をかけて、ついでにまだ少し遠くにいるシュヴァルツに手振りでそれを伝えて先に行く。すれ違い際に柘榴石色の瞳と目が合った。
「しーちゃん、どうするニャス? ロベリアちゃんと三人で遊ぶニャスか?」
「ん? あぁ、そやな。白亜たちから見える場所で待っとこ――」
 我に返った様子で歩み寄ってきた白藤の言葉が途中で途切れる。見知らぬ男性に声を掛けられたからだ。時々ぶつかりかける程近くで遊んでいた若い男性のグループ。兄弟の背を横目に側までやってくると所謂ナンパの常套句を言い連ねてくる。その目線は顔より少し下、即物的な欲望も露わな笑みに白藤の眉根が寄り、口を開いて――。
「悪いんだけどその子たち、相手に困ってないのよね」
 割り込んだ声はロベリアのものだ。「お母ちゃーん」とミアが抱きつけば彼らは困惑顔で彼女を見返す。背中に回る手が大丈夫と言うように優しく触れた。
「……この意味が解らない、ってことはないでしょ?」
 あくまで穏当に、しかしその声音には有無を言わせない迫力も含まれている。にこりと笑みを浮かべたままに訪れる沈黙。白藤が目も合わせず口を噤んでいるのを見て、無視が効くのだろうとミアも理解する。人違いでした、と声を掛けてきた男性が引き下がるのを仲間がどやしているが、そこにシュヴァルツが肩を抱いて、耳元に何かを吹き込むと諦めたらしかった。ウインク一つ寄越して、兄弟と合流しに三人の脇を通り抜ける。
「出る幕がなかったって感じやな?」
「悪い虫を追い払えたならあいつでもよかったけどね」
 と白藤の言葉にロベリアが笑いながら言って肩を竦めてみせる。ミアはじっと二人を見た。ミアと白藤はお揃いの水着で、白い生地にミアは赤、白藤は黒の紐がクロスラインになったビキニ。ミアの首元には大きな鈴がついていて、腰に巻いたパレオは人魚をモチーフにしたものだ。ロベリアもツーピースだが色はシックな黒でハイネックかつノースリーブと露出は控えめとなっている。ちなみに男性陣は花が描かれた水着で、白亜は白狼、黒亜は黒山羊イメージのパーカーもある。
「ミア?」
「どうかしたん?」
 二人して心配そうに見てくるのに気付いて、ミアは我に返るとぶんぶん首を振る。
「ニャんか、こう……ミアたち、親子みたいニャスな? しーちゃんとミアは姉妹、ロベリアちゃんはお母ちゃん。じゃあお父さんは……シュヴァルツちゃん?」
 考えつつの発言に白藤が吹き出し、ロベリアが咳込む。しかしすぐ気を取り直し、
「って誰がお母さんよ! まったくもう」
 と苦笑いを浮かべてツッコミを入れてきた。白藤はミアとは逆側の彼女の腕に抱きついて顔を覗き込むと、上目遣いに笑いながら言った。
「ぴったりやない? ええやん♪」
「えへへ、ミアは二人が“両親”でも大歓迎ニャスよ♪」
「あんたたちねぇ……」
 その声は心底呆れたようで、ないないと言いつつ赤らむ頬は満更じゃなさそうな。単に先程の咳のせいかもしれない。ミアが黒亜とやった時より豪快に海水が跳ね上がって笑みが零れる。くっついたまま暫く海遊びに興じ、ふと男性陣が行列に並んでいるのを思い出す。
「あの三人も逆ナンされそうニャスなぁ」
 クールなクロちゃんはあしらい方上手そうだけど、ダディが心配ニャスなぁ。しーちゃんが騎士になってくれるかニャ? と考えたところで視線が長身の二人の後ろにいる黒亜に辿り着いて、「あっ」と声が漏れる。美男なのは無論だが、兄弟は近寄り難い雰囲気があるからそうそう猛者はいないだろう――思い直した途端に三人組の女性が声をかけるのが見えた。ロベリアが姉妹猫の腕を解くより早く白藤が彼らの方に向かうので、顔を見合わせてから後を追った。
「あらお嬢さん、堪忍なぁ……うちのツレやねん」
 言って間に割り込み、ずずいと女性へと詰め寄る。見えた横顔は満面の笑みだったが、先程のロベリアの比ではない威圧感を覚える。今だけはミアより白藤の方が鬼に違いない。尤もそれも、どっと疲れたように息をついた白亜に礼を言われるまでの間だった。

 ◆◇◆

 昼食後にも泳いだり、ボート型の浮き輪でうたた寝をしていると危うく流されそうになったり。そんなこんなで遊び倒した後、とっぷりと日が暮れた旅館前で隣にいるミアが勢いよく腕を振り上げる。黒地に白の彼岸花が描かれた浴衣の袖が揺れた。
「待ちに待った肝試しの時間ニャスよ〜」
 と大盛り上がりのミアに比べると男性陣も合わせてくれるが若干クールダウンした感はあった。男組と女組の二組に分かれることになったせいだろう。正直ロベリア的にも意外に感じる。白藤は白亜、ミアは黒亜を気にかけている節があって、ミアならば男女三組で推し進めるのも有り得ると思ったのだ。そうなるとロベリアはシュヴァルツとペアになるわけだが、『処方箋』とでもいうべき彼といる時の空気は居心地がいいので歓迎だ。けれど、と目を向ける先、平気な素振りで動きがぎこちなくなっている白藤の前に白亜がやってくると、勘付いているらしく小さく微笑んで案じる言葉を掛ける。
「ぜんっぜん怖ないから心配せんでええって。ほらはよ行かんと」
 目でも合流するよう促す白藤に彼は少し困ったような顔をして、さらっと王子様っぽい発言を残し去っていく。先に出発するのは男組だ。冗談で勧めたてるてる坊主柄の浴衣を着たシュヴァルツが振り返り手を振るので、軽く振り返しておく。黒亜も何だかんだミアを大切な友人と思ってくれているのに感謝の想いで一杯だ。
 白藤と付き合いの長いロベリアから見ても、白亜とはお似合いに見える。しかし弟妹や昔馴染み以外では一番心を許しつつもどこかで迷ったり、線を引いているようにも感じた。
「……あのメンバーじゃ悲鳴一つ上げなさそうニャスな」
 何やかんやでスタートを切った男組の背中を見つめて、ミアが呟く。でしょうね、とロベリアも同意し、光に乏しい中でも浮き上がる白地に赤い蝶の模様を纏う肩に腕を回してみせる。一瞬ビクっと肩が跳ね、髪より少し薄い色の瞳がこちらを向いた。
「白亜のお陰で気も紛れたんじゃない?」
「な……! そ、そんなんちゃうし……」
 反論を募ろうとするが、関係の長さ深さから否定は通らないと承知のようだ。唇を尖らせる子供じみた仕草が微笑ましく笑いそうになるのを堪える。不思議がるミアには何でもないと誤魔化した。怖いのが苦手という意外な弱点が露呈するのはもうすぐのような気もするが。
 情緒重視と懐中電灯ではなく、提灯を手に雑談すること十分程。揃いの水着はサーカスのショーで着たものでと思い出話に花を咲かせていると時間が来たので女組も出発することにした。行き先は近場にある廃神社、出ると噂がある御誂え向きの場所だ。
(ホラー映画が好きだって言ってたわね)
 とミアの家に泊まった時を思い出した。あの時も平気と言いつつバレないようにジャージの裾を握られていた。
 ずんだかずんだかとピクニックに行くような陽気ささえ感じる勢いで進むのはミアだ。白藤も彼女に悟られまいとついていっているが、風で草むらが音を立てる度にびくついているのが判る。
 肝試しを行なうと聞き考えていたことがある。白藤のことは妹のように思っているし、関係を変える一歩を踏み出すのにも思い悩む姿を隣で見ていて、好ましい変化だと感じている。幸せを掴んでほしいと応援する気持ちしかない。ミアのことも白藤の次に気にかけている大切な友人で、白亜とシュヴァルツがいない今自分が保護者として世話を焼くのが常ではあるが――。悪戯心が湧いた。元々後方を歩いていたが速度を落とし、距離を取ったところでスッと息を吸い込んで、
「わっ!」
 と何の捻りもないが、幽霊が見えただの何だのと騒ぐのは流石に良心が咎め、ありきたりだが軽く驚かせるに留める。ただし腹から声を出したので想定したよりも大声になった。
 ミアとその半歩後ろを歩いていた白藤が全く同タイミングで足を止めて、ピンと背筋が伸びる。ミアがいつものパーカーを着ていたら尻尾が伸びていたことだろう。とはいえど、
「びっくりしたニャス」
 目を丸くして振り返ったミアに対して、近付いて覗き込んだ白藤は、
「も、もう……何してるん、ロベリア!」
 頼りない明かりの側でも涙目になっているのが見える。ごめんごめんと背中をさすりながら言うと恨めしげな視線が返ってくるが、本気で怒っていなさそうなので胸を撫で下ろした。
「怖いニャスか?」
「怖いっちゅーか……吃驚するんや……」
 はぁと溜め息をついて肩を落とす白藤にミアは考え込む仕草をして、何か思いついたらしくニッと歯を見せて笑った。黒い袖から出た白い手が白藤の眼前へと差し出される。
「しーちゃん、お手々繋ぐニャス? “今”だけ、ミアがしーちゃんの王子様になってあげるニャスよ」
 言って、にししと悪戯っぽく笑ってみせる。縋るように伸びた手は躊躇に止まり、五秒も経たぬ間に重ねられる。まさしく王子様が求婚するような芝居じみた仕草。
(ほんと仲良しね)
 その様子を横で見ていて笑みが零れた。良かったと思うのは本当だ。でも一抹の寂しさもある。
 二人の両手が塞がった分、何か起きたら自分が守らないとと思ったが男組も含め、心霊現象に遭わないままに肝試しは幕を閉じた。

 ◆◇◆

 旅行のラストを彩るのは海辺でやる花火だ。後片付けすれば大丈夫という話なので他に同じ発想の人がいてごった返しているのではと思ったのだが、意外にも静まり返っている。怖い要素もないので少し気が緩むのを自覚しながら、白藤が選んだのは手持ち花火――故郷でも非常に馴染み深かった線香花火だ。流石に手順も覚えていて、簡単に火を点けてみせる。
「火傷、せんようにな?」
 一応心配になって声を掛ければミアは真面目な顔で頷いた。自分が世話を焼くよりか黒亜に助けを求める方が美味しいのでは。逆に何の問題もないだろうロベリアは面白がるシュヴァルツに種類を解説している。紺地に華紋と唐草模様の浴衣を銀の帯で締めたザ・大人の女性といった雰囲気のロベリアに対し、人柄を表すような謎の浴衣のシュヴァルツ。似合いだと思うが、白藤としては重度の医者嫌いなので基本近付きたいと思わないし、性格的に苦手なのもある。線香花火の淡い光に真紅の帯が照らされ、子供っぽいか気になりつつ、ふと白亜に視線が向く。
(どないしたら、落ちてくれるやろうか……なんて、な)
 生半可な想いで踏み入ってはならない、がそんなつもりもない。恋愛経験はそれなり、恋人の浮気という修羅場も経験済みだ。しかし感情が強過ぎるあまりか無意識下に躊躇いがあるからか。遅々として進まないのが正直なところ。だからのめり込むのか――と考えていると不意に黒亜と話していた彼がこちらを向き、心臓が高鳴った。見透かすような意地の悪い笑みが浮かぶ。変な顔じゃなかったか急に不安になったが、これだけ暗いなら見え辛いだろうと思い直す。
(――こういうのも惚れた弱みっていうんやろうか?)
 どうやったって彼には勝てそうもない。時に狡く感じるくらい切り込んでくる彼には。
「ニャんか、虹色の綿菓子がパチパチ弾けてるみたいニャスネ。……美味しそうニャス」
 キランとミアの瞳が輝く。本気な気がして白藤は声を挟んだ。
「だからって食わんといてな?」
「ちゃんと分かってるニャス!」
 ぷんすこ頬を膨らませるミアが可愛い。いつの間にか線香花火が燃え落ちていて、
「ほら、ここに入れときなさい」
 とロベリアが水入りのバケツを差し出してくれる。有難く入れて二本目に手を出した。暫し誰もが喋ることを忘れて、波と花火の弾ける音以外ない静寂が訪れる。
「みんなといると楽しいニャぁ。……“家族”みたいニャス」
 内から滲み出すような柔らかい声音でミアが呟く。それにロベリアと視線を交わして、同時に「そうやなぁ」「そうね」と頷き返せば花火に照らされるミアが笑った。細くなる眼が弧を描く。願わくば白亜たちも同じ気持ちでいてほしいと妹猫を想い、胸中で我儘を呟く。
 永遠はないが現在は未来へと続いている。時に立ち止まっても行き先を幸せに出来ればいいと、闇夜に浮かぶ頼りない光に願った。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
メタ的にもタイトルにかかってしまったくらい、
書きたい場面が一杯あったのに尺の都合で駆け足に
なってしまって非常に無念です。が楽しかったです!
今まで話題に出すだけだったNPCのお三方との
絡みをふわっとですが書けたのがとても新鮮でした。
誰てめ感が強かったら申し訳ないです。
今回も本当にありがとうございました!
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2019年08月14日

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