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『繋がった気持ちから生まれる、無数の旋律は』
鞍馬 真ka5819

 両手に持つそれぞれの剣を振るうと、目の前でまた二体の敵が消失する。まだ周囲に敵は幾らでも居るが、視点を集中から俯瞰に切り替える僅かな時間と空間が生まれた。
「……位置を変えよう」
 鞍馬 真(ka5819)は一言、傍らで共に闘う伊佐美 透(kz0243)にそう言って、返事を待たずに足を踏み出す。
 透は何も言わずにそれに応じて、真が居た方へと移動した。交差し位置を入れ換える。
 そうしたのは、そちら側に新たにより多くの敵が近寄ってくるのが見えたからだ。先程より密度の高くなった敵集団の前で、真は剣を構え直す。
 ……相手によっては、侮辱とも取られかねない判断。少し前なら、躊躇ったかもしれない。が。
 力量差。立場の違い。認めてしまえば今はこれが妥当な戦法であることは間違いなかった。タイトな戦場を掻い潜り続けるのだ。確実性は少しでも高めるべき。確信して動けることを思えば──迷い、見つめた事にもきっと意味はあった。
「……すまない。けど、こっちは必ず抑える」
 彼自身もそれを認識して、受け入れて、その上ですべき事はきちんと果たしてくれるのだから。
 前方と左右の敵を迎え撃つ。左の一体から先行して牽制に放たれた熱線は避けない。片方の剣で弾いて動ける姿勢を保ち、前から触手を伸ばしてくる一体、その脇の空間に身体を捩じ込むように踏み込む。そいつと他三体が放ってきた触手と熱線がギリギリ避けられる隙間。そこから、縮めた両腕を伸ばす反動で二刀で周囲に張り巡る触手を引っ掛けて、相手のバランスを崩しながら位置と体勢を整え直した。
 見えていた訳ではないがとにかく超人的な挙動で凌いだのだろう事を感じ取って、透は思う──まあそりゃ、あんなの俺には無理だしいつか出来るようになる気もしない、それだけの話だよ、と。
「きみは、ハンターとしては特別じゃないかもしれない。でも、私にとっては特別で、唯一の存在なんだよ」
 そんな透の内心を読み取った……訳でもないのだろうが。真はふと背中合わせの状態から話しかけた。
「だから、誰が否定したって、私が肯定する。きみはこれで良いんだ」
 眼前の敵が動く。一度引いて距離を取り、歪な一つ目を並べて一斉にエネルギーを灯す。六体の敵が一度に熱衝撃派を放ち、狙ってきたのは真ではなくその足元だった。土砂が吹き上がり、地面が揺れてよろめく。
「……真!」
「大丈夫だよ、有難う」
 礼は心配だけに返したものではなかった。戦友の声で、喪失した方向感覚が一瞬で戻る。向き直り一歩踏み出す──なお吹き上がる土砂を越え、隙に包囲しようとする相手に先んじて狙った位置に出た。眼前の一体に両手の剣で斬りかかる。特定の軌跡を描きながら。
「足りない部分は私が埋める。絶対に守る。だから……──」
 魔導剣を突き出す。衝撃の渦が一直線に突き進んでいき、多数の敵を巻き込み引きちぎっていく。
「……だから、きみは真っ直ぐに自分の道を進んで」
 一気に倒してもまたすぐ周囲の敵が集まってくる。だがこの時、合わせて背後から鋭い気配が疾る。
「誰かに俺が輝いて見えるなら、それは、皆に作ってもらった輝きだよ」
 透が言うそれは卑下ではなく、彼の役者としての、支えてくれる周囲への認識の在り方だということは、かつて聞いたから分かっている。
「君も何度も俺を照らしてくれた光だ。迷って目の前が真っ暗になったとき、君の決意と覚悟が導いてくれた。……その為に、何度も苦しい思いを、させながら」
 近付く敵を、透の剣圧が押し止める。
「──君を信じる。君に応える。否定されても、君が肯定してくれるなら」
 敵の動きを制しながら、守りにも繋げる透の良く見せる剣閃。敵の動きが滞り集結する動きがそこで乱れる。僅かな時間稼ぎ……ではあるが。
 生まれた空隙に、二人の前にはっきりその存在を現した敵の首魁に、透は向き直った。
 ──ああ、そうだ。きみはきみのすべき事を。
 それは真には出来ないことだから。
 高らかに言葉を、想いをぶつける透の姿を……尊敬している。その気持ちは、力の差に悩む前から変わってなどいなかった。
 敵が二つの刃を生み出し、自在に操り透に襲いかかる。弧を描き挟撃してくるそれを、透はなんとか刀で弾き……なおも鋭い斬撃が彼の皮膚を切り裂いていく。
 真の唇から柔らかな歌声が紡がれた。空に吸い込まれて行くように響くそれは慈雨を思わせるオーラに変じて透に降り注ぎ、傷を癒していく。
 敵を牽制し、周囲の敵を蹴散らし、時に庇い。守るために闘いながら、言葉を続け敵の執着を惹き付ける透の、『その戦い』には口出ししない。
 それでいい。それを支えていられることが真には嬉しかった。全く異なることをしているようで、それでも今心は共に在るのだと実感出来たから──まるで一つの曲を奏で合うように。
 ……ずっと、そうだったんだ。これまでずっと、共に重ねてきた。
 そうやって紡いだ幾つもの旋律は。不安定な音色になることもあった、それらすべて。
 どちらが主旋律で、伴奏かなんてどうでも良かったんだ。それでも……互いに、互いの音を必要と出来るのだから。
 長い道程。
 沢山の葛藤を経て。
 ──漸く、辿り着いた。
 最後まで共に闘おう。
 戦場は違っても、私たちは同じ歌を歌ってるから。

 ……そうして。

 敵が消え去った辺りを、透は暫く見つめていた。
「……やっぱりさ、君の存在を強く思い知る度に……俺は相当運が良いんだよな、って思うんだよ」
 そうして、ポツリ、呟いた。
「多くを望むっていうのは……やっぱり、大した力が無い人間には難しい事なんだ」
 願いを持つということは。『叶わなかった時に受けるダメージを覚悟する』、ということでもあるのだから。
「本当は、分かってるんだ。信じ、祈るなんて……君たちがやろうとしていることに比べて、本当にちっぽけなことで……大した力になんてならないってことは。だけど……」
 望めば望むほど大きくなる反動。取れる手段の少なさはそのまま、不安を軽減する方法の少なさでもある。
 だから、普通の人はある程度のところで諦め、妥協するのだ。唯一の、結果を待つ時間の恐怖への確実な防衛手段として。
 そこまで分かっていてなお……
「──……どうか、未来を君と共に」
 その願いは、消せずに残った。
 この事を、時を見つけて祈り続けるだろう。
 透の言葉に、真は。
「私の気持ちはさっき言った通りだよ──『足りない部分は、私が埋める』」
 そう言うと、透は泣きそうな笑みを浮かべて頷いた。
「……俺は本当に幸運な奴だよな」
「それでもきみが、運だけですべてをどうにかしてきたわけじゃないって、分かってるからだよ?」
 真はふっと、透明な笑みを浮かべて言った。
「……それに、さっきのことなら私の望みでもあるんだから」
 口に出して。
 真は今また、心からそれを望めていることを……改めてその想いが間違いの無いものであると認めることが出来た。
 ──透には、願いがあっても力が足りなくて。
 ──真には、力があっても望めるものがなかった。
 どちらかが一方的に与えたわけじゃない。互いに足りなかったものを補いあって、今、同じ未来を描いているのだ。
 だから。
「君を信じるよ。邪神を倒して……生きて戻ってきてくれるって」
「私も、きみを信じてるよ。この世界を守りながら……生きて待っててくれるって」
 互いに言うと、二人同時、自然と拳を掲げて。
 コツンと、それを合わせた。

 ──……そして。
 世界は決着の時を、迎える。






━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注有難うございます。
今回はリプレイの補完という形ででしてね。私といたしましては、鞍馬さんの台詞以外は
「思い浮かびはしてたけど字数考えたら無理だなこりゃ」って思ってたところを書いただけですので比較的楽でした。
ちなみにリプレイ本文にすると「中型狂気の支援も受けた狂気の群れと共に襲い掛かる敵の攻撃は、簡単には攻め落とせず、防ぎきれないものだ」のたった一行で終わってる部分ですというと中々にじわじわ来るものがあります。
とか冗談言ってますけど実のところその……。
まあ……書いてて……こう、色々……込み上げるものは、ありましたね……。
色々……色々あって……そうして……こうなったなあって……。
すいません、ちょっと言葉にならないですね。
じっくり練りたい気持ちもありましたが、書けた以上これは決戦の結果が出る前にお出ししたいなーと。
はい! 鞍馬さんが生きてるかどうかこの時点では凪池も知りません! 震えて待ちます!(
そんなわけで本文のみ先に失礼。おまけはこれからネタを考えますのでもう少しお待ちください。
改めまして、ご発注有難うございました。
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凪池 シリル クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年08月15日

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