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『決意の向こう側へ 』
メアリ・ロイドka6633


 私たちの生命は星々から見ればほんの瞬きほどの一瞬で。
 私たちの想いは星々から見ればほんの砂粒ほどの軽さで。
 私たちの願いは星々から見れば泡沫の夢みたいなものなのだろう。

 それでも私たちは生命を燃やし、想いを託し、願う事を辞めない。

 最後まで前を向き、最後まで戦い続ける。

 そして最期は笑って逝ってやるんだ。




 沢山のCAMでひしめく第85番整備倉庫前。
 そこから出てくる見知った顔……また、会えたらと思っていた顔を見つけたメアリ・ロイド(ka6633)は、ごった返す人混みをすり抜けて、目立つピンクの髪の後ろ姿を追う。
「ドロシーさん!」
「メアリ、さん」
 呼び止められ、振り返ったドロシー(kz0230)は驚いたような悲しいような複雑な表情でメアリを見た後、小首を傾げて微笑う。
「どしたの? こんなところで」
「それは、こっちの台詞……! 目が覚めたんですね、よかった」
 彼女達シチリア基地軍から回収された強化人間達はその数の多さもあり、覚醒者への書き換えが遅れていると噂で聞いていた。
 こうしてまたCAM工場で会えたと言う事は、彼女達はまた一緒に戦ってくれるのだとメアリは笑みを浮かべ……そして、彼女の微妙な表情に状況を察した。
「もしかして……」
 ドロシーが出てきた所は新品のダインスレイブが並べられた区画。
「ドロシーさんも、行くんですか」
 その言葉は、ドロシー以外の誰かを重ねて思わず零れ出た言葉だった。
「ちょっと、あっちでお話しましょう」
「え、あ、ちょっと……」
 有無を言わさぬ笑顔で、メアリはドロシーの腕を取ってグイグイと引っ張って、人々の喧噪から2人は外れていった。

 広い公園に出ると、木陰にあるベンチに2人は腰掛けた。
 初夏の風は木陰に入ると心地よい。2人は暫くその風を楽しみ、そして、メアリはその口火を切った。
「強化人間だった人たちの部隊が出来るって聞いたんです」
 それにドロシーは静かに頷いた。
「邪神までの道を切り拓く部隊の事だね。私たちは目覚めるのが遅かったから……まだ訓練中。でも、次の大きい戦いには出られるように整えるつもり」
「そう、なんですね……」
 ドロシーの瞳はあくまで静かで。その瞳の奥にある覚悟を察して、それは、自分の想い人が見せてくれたものと類似している事に気付く。
「ドロシーさんと、またこうして話せたのが奇跡のようです。……そうですよね、貴女達も覚悟の元戦場へ行くのですね。
 私の好きな人も元強化人間の軍人なので、覚悟の程は分っています。大事な友達ですが、だからこそ引き留めはしません」
 その言葉にドロシーは目を丸くして……それから微笑んだ。
「……アリガト。好きな人、かぁ。結局そういう“トクベツ”には縁がなかったなぁ」
 何かを言おうとしたメアリを遮って、ドロシーは話し始める。
「私ね、沢山兄弟がいたの。家はあんまり裕福じゃ無かったけど、広い畑があって、家族みんなで手伝って、助け合って生きてきた」
 風に遊ぶ髪を抑えながら、ドロシーは空を仰ぐ。
 それから語られたのはドロシーが病に倒れ、強化人間となり暴走するまでの記憶。

「……こんなこと言うと、怒られちゃうかもだけど、実は私、そんなに強化人間になった事、後悔してないの。
 操られて、沢山の人を殺しちゃったって教えて貰ったけど……そのことも、殆ど覚えてないし……」
 音楽が聞こえた。人類は悪だと星を救えと声が聞こえた。
 ……それからの記憶は霧の向こうだ。
 気がつけば覚醒者として書き換えられていた。
「だから、私が戦いに行くのは別に贖罪とかそういうんじゃなくて……
 どうせ短い命なんだから使ってしまおうとかそういうのでもなくて……
 リアルブルーが好きで、家族が好きで、メアリさんや強化人間になってから出逢ったみんなが好きだから。
 初めて来たクリムゾンウエストも好きになったから、護りたいなって。
 私は魔法少女は失格になっちゃったけど、まだ軍人なんだろうなとも思うから。
 こんな私でも出来る事があるなら、それを精一杯やりたいの」
 微笑うドロシーは年齢以上に大人びて見えた。
 それだけと言いながら、瞳の奥は語る以上の覚悟を決めてしまっている。
 だからこそ、メアリはこれ以上の追求をやめた。
「……約束をしてもいいですか。戦いの後生き残っていたら、または、いつか死後の世界ででもいい。
 秋葉原の時の様に楽しくお茶して話しましょうね。
 ロボットの話も魔法少女の話も、あと私、恋バナとかもできるようになったので」
 笑うメアリのその表情が初めて会った時より柔らかく美しいと、ドロシーは眩しい物を見るように目を細めた。
「ふふっ、楽しみね! よぉっし、張り切って、ハイクオリティな新作アニメが安心して作って見られる世界を取り戻そっ!」
 そう言って立ち上がったドロシーの顔はいつもの弾けるような笑顔。
 そして向き合うと右手を差し出した。
「私、諦めないわ。だから、メアリさんも幸せになることを諦めないでね?」

『僕は。貴女がこの先。その時の貴女にとってこれが最も幸せと言えるように在ってもらえることを、望みます』

 彼の、あの言葉を思い出してメアリの差し出し掛けた手がビクリと止まる。
「メアリさん?」
 怪訝そうな顔でメアリを見た後、「あぁ!」とドロシーは手を打った。
「右手は武器を握る手だから、他人には預けないとか、そういうハードボイルドな、アレ?
 流石メアリさん、カッコイイ!!」
「え、いや、今初めて聞いたんだけどそれ……」
 テンション高めなドロシーに戸惑いつつ、メアリは服の裾でこっそり手のひらを拭って差し出した。
「また会いましょう」
 応えるドロシーの手のひらは柔らかくてメアリより小さくて熱い。
 彼の手は大きくて……と思い返し、その後引き寄せられたことまで思い出してメアリは再び固まった。
(……これでは、あまりにドロシーに失礼じゃないか)
 慌てて頭の中の記憶を引き剥がし、目の前の少女に目を向ける。
 そして、改めてそのあどけない姿を眼に焼き付けて、柔らかく微笑ってみせた。
「会えて、本当に良かった」
「私も。それじゃ、そろそろ訓練の時間だから、行くね」
 そう言って離れた手のひらを、今度は胸の前で振って。ドロシーは駆けて行ってしまった。

 1人、その場に残されたメアリは離れた手のひらをじっと見る。
 小さな手。小さな背丈。まだ本当なら中学生ぐらいのはずだ。
 この2、3年で一気にそれ以上の経験と想いを積み上げてしまったのだろう。
 そして、思い至る。
 彼女は諦めないとは言ったが、“約束”や“また会いましょう”という言葉には明確な返事をしてくれなかったことを。
 もう魔法少女では無くなってしまったドロシーには、“魔法”はかけられない。
 ……そういう事なのだろう。
「……不器用なんだから」
 初夏の風がメアリの毛先を遊んで吹き抜けていく。

 ――嘘のつけない魔法少女の後ろ姿はもう見えなくなっていた。




 私たちの歌声は星々から見れば羽虫の羽ばたきよりも微かで。
 私たちの希望は星々から見れば触れたら破れるほどの儚さで。
 私たちの幸せは星々から見れば吹けば飛ぶ程度のつまらないものなんだろう。

 それでも私たちは歌声を絶やさず、希望を持ち続け、幸せを諦めない。

 最後まで足掻き続け、最後まで戦い続けてやる。

 そして最期はざまあみろと中指を立てて笑ってやろう。


 ――そして、彼らに胸を張って会いに行こう。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka6633/メアリ・ロイド/女/外見年齢24歳/機導師】
【kz0230/ドロシー/女/外見年齢13歳/機導師(NPC)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。

 ドロシーを気に掛けて下さって本当に有り難うございます。
 こうして最後の関わりのシーンを書かせて頂いて、とても嬉しいです。
 いや、個人的にメアリさんの恋路をハラハラと見守っていたので、最後のシーンは号泣しましたよね……
 (元)強化人間達はどうしてこうも真っ直ぐで不器用さんが多いんでしょうね……
 “約束”が出来ない子で本当に申し訳ありません。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またファナティックブラッドの世界で、もしくはOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。
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葉槻 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年08月15日

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