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『医師と魔法少女 』
カール・フォルシアンka3702


 厳しい戦いの末、人類は邪神から世界を取り戻す事に成功した。
 クリムゾンウエストとリアルブルーは同盟を結び、各国の代表は互いの星を行き来する為の法整備に追われた。
 あれから、20年。
 あっという間に全ては過去になり、そんなこともあったねと思い出話の中で語られるだけになっていた。
 僕、カール・フォルシアン(ka3702)にとっても、それは例外では無かった。


 唐突に、大きな泣き声が聞こえて僕は詰所から顔を出した。
 見ればさっきまで仲良くアニメの登場人物になりきって遊んでいた子どもの1人が号泣している。
「何? どうしたの?」
 “あ、先生”“あのね”“俺悪くねぇもん”“うわぁあん”子ども達が口々に訴えてくるので、僕は現場に向かうとその場にしゃがんで目線を合わせる。
「つまり……魔法少女役のこの子を悪の幹部役の君が殴っちゃったってことだね……」
 “俺悪くねぇもん。すぐ泣く弱っちいのが悪いんだ。そんなんで正義のヒーロー名乗るなよ”そう言って少年はそっぽを向く。
「こらこら」
 ……以前から彼はどうもこの子をいじめる傾向にある……多分あれ。『好きな子ほどイジメタイ』とかいう複雑な少年心理。……僕には全く分からないけれど。
「じゃぁ、今度は君が正義のヒーローになって彼女と一緒に戦えばいいんじゃないかな?」
 そう僕が提案すれば、彼は“違う! そうじゃない! 悪役には悪役のビガクがあるんだ!”と頬を膨らませる。
 『悪役の美学』ね……一体どこでそんな言葉を覚えてくるんだか。
「でも、だとしたら悪役は必ずヒーローに倒されなくっちゃ行けないんだよ? それでもいいの?」
 “いいよ。全力で挑んできたら、全力で倒されてやらぁ”そんな少年の声は15時を告げる鐘の音と被った。
 “行こうぜ”と彼は他の子ども達を誘って部屋へと戻っていく。
 僕は頬を軽く掻いて、まだしゃっくりが止まらない少女を見る。
「さぁ、お部屋に行こう? おやつ、今日はパンケーキだって」
 そう僕が促せば、少女は小さく頷いてくれた。

 廊下を歩いていたらお世話になっている病理の医師が小走りで近付いて来た。
 先日の病理検査結果が出たとのことだったが、彼の暗い顔色を見て、その結果が芳しくないことを察する。
 ここは全国でも難病持ちの子ども達が集められたこども救急センター。
 一見元気そうに見える彼らもその体内は病魔に冒されていていつ急変してもおかしくない。
 僕は自分のパソコンを起動させ、送られてきたデータを見る。
「……これは……」
 先に出ていた血液データも確かに結果は良くなかった。だが、逆にこの結果でさえ維持していることが奇跡のような検査結果が並んでいる。
 僕は時計を見て、緊急カンファレンスの連絡を各部署に入れる。
 ――時は、一刻を争う。
 邪神との戦いが終わって、僕は医学の道に進んだ。
 そして、今は病院(ここ)が僕の選んだ戦場だ。

『立てばシャーリー、座ればボクシー、歩く姿はユリアンナ! 魔法乙女(マジカルレディ)、ここに推参!』
『ゲェッ! 魔法乙女!? 何故貴様がここに……!?』
 外来が終わって流しっぱなしのモニターからアニメの台詞が流れてくる。
 “先生、魔女っ娘作品実は大好きですね?”看護師にそう指摘されて、思わず画面に見入ってしまっていた僕は「ははは」と笑ってごまかす。
「……魔法少女は子ども達に愛と勇気と戦う大切さを教えてくれますからね」
 すると彼女も大いに同意してくれて、先日発売されたCTSのBlu-ray復刻版を買った事を笑いながら教えてくれた。
 CTSと聞いて、いつかの秋葉原での出逢いを思い出す。
 ピンクの髪の魔法少女、ドロシー(kz0230)。
 そう、君が教えてくれた。魔法少女の力を。笑顔の効果を。諦めない強さを。
 時計を見る。もう14時を回っている。早くお昼を食べて午後に備えなければ……そう思った時だった。
 病棟から緊急コールが入る。
 『悪役の美学』を語ったあの子が倒れた、という連絡だった。

 僕が処置室に飛び込んだ時、少年は意識を取り戻したところだった。
 周囲が緊急手術の準備のため騒然としている中、彼は酸素マスク越しに僕を呼んだ。
「何?」
“……僕、全力で頑張るから……そうすればきっと、病気もやっつけられるよね……?”
「っ……! あぁ、もちろんだよ」
 あぁ、そうか。あの時、彼はあの子にも『全力で闘って欲しかったんだ』と分かる。
 何て不器用で、真っ直ぐ何だろうと僕は奥歯を噛み締めて笑みを作る。
「先生も全力で頑張るから……一緒に病気をやっつけよう」
 僕の言葉に彼は頷いて、その後は天井を睨み、口を一文字に結んで注射の針に耐えていた。
 何て強い子だろう。僕は彼との約束を守るために手術着に袖を通すと手術室へと入っていった。

 命は驚くほど脆くて、驚くほど強い。
 どれほど救いたいと願っても零れ落ちてしまう命もあれば、奇跡的に持ち直す命もある。
 少年は後者だった。
 あれから3度の手術を経て、全ての病巣を取り除く事に成功し、退院の目処まで立った。
「そういえば、今日から看護師の実習生が来るんでしたっけ?」
 退院に必要な書類をまとめる中、カレンダーの赤字の書き込みを見つけた僕が問うと、副院長の鋭い眼光が僕を射抜いた。
 いわく。“先生独身で優しいから、懐かれすぎないように気を付けて下さいね”とのこと。
 僕は苦笑しながら封筒に封をする。

 僕が詰所に入った頃、丁度その看護学生達が並んで最初の挨拶を行っているところだった。
「ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
 元気よく下げられた5つの頭がバラバラと顔を上げる。そのうちの一つに僕の目は釘付けとなった。
「……ドロシー……さん?」
 ピンクの髪。ハツラツとした輝く瞳。笑うと見える、八重歯とえくぼ。
「はい、ドロシー・ブランです。よろしくお願いします」
 思い出の中の彼女がそのまま少し大人になって現れた、この衝撃を誰か分かってくれる人は居るだろうか。
 その場で昏倒した僕は、『過労』の烙印を押されて丸一日休暇となったのだった。

 ドロシーさんはその後無事看護学校を卒業し、看護師としてこの病院に就職して来てくれた。
 そして今、僕達は屋上のベンチに座ってお茶なんかをしている。
「……懐かしいですねー」
 カラカラと笑う彼女に僕は「そうですね」と笑い返す。
「でも私、初めて先生にお会いしたとき、何て言うか……『やっと会えた』って感じがしたんです」
「……え?」
「こんなこと言うと変な子だって思われるかも知れないんですけど……私、遠い昔に誰かと“約束”をした気がするんです。どんな約束なのかも忘れちゃってるんですけど」
「うん」
「でも、その約束をしたのがカール先生で、私がここに来る事で、約束、守れたら良いなって思ったんです」

『Ci vediamo dopo』
 あの時、ドロシーさんが僕に掛けてくれた優しい“魔法”。

「……大丈夫、あなたの掛けてくれた“魔法”は叶いましたよ」
「え?」
 話しが見えず、キョトンとする彼女に僕は笑いかける。
「今日からはここが僕とドロシーさんの戦場です。これからよろしくお願いしますね」
 差し出した右手を見て、彼女は二、三回瞬いた後、微笑って僕の手を取った。
「はい、よろしくお願いします、カール先生」



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka3702/カール・フォルシアン/男/外見年齢13歳→33歳?/機導師→小児科医】
【kz0230/ドロシー/女/外見年齢13歳→20歳?/機導師→看護師(NPC)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。
 沢山ドロシーを気に掛けて頂いて本当に有り難うございます。
 大変遅くなってしまって申し訳ありません。
 またね、と約束した以上、どんな形であれ再会したいと願っておりましたので、この物語を書けて本当に良かったです。
 ……いや、しかし、ドロシーがナースなのは大丈夫なんだろうか……と一抹の不安を覚えないわけでは無かったのですが(笑)

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またファナティックブラッドの世界で、もしくはOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。
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2019年08月16日

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