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『こまりかい 』
鬼塚 小毬ka5959

 一番年長に見える女性は着物をベースにした武装に身を包んで、大人の色香をおしみなく放っている。
 最も幼く見える少女は学生服を身に纏い、どこかオロオロと落ち着かなげな様子で他2人の顔色を窺っている。
 しかし最も感情を露わにしているのは私服に身を包んだ、他二人の間の年齢らしき女子だった。一番普通と言っても過言ではない彼女は、とにかく二人に対して怒気を露わにしていた。
「お二人とも、覚悟はよろしくて?」
「えっ、どういうことですの!?」
「全く、何の事だか、わかりませんわ?」
「二人揃ってその余裕……ッ! わかりましたわ、こちらにも考えがありますわ!」
 少女は本気で首を傾げていたのだが、女性が含みを持たせて返答したことで女子の中では連帯責任扱いとなったらしい。いまだつり上がったままの眉は収まらず、女子は一枚の封筒を取り出した。
「なっ……どうしてそれがここにありますの!?」
 淡い色の紙風船が散りばめられた封筒の宛名は勿論、その筆跡にも少女は見覚えがありすぎる。丸みを帯びた文字はなるべく可愛らしくみせたいという想いの現れで、なによりその先を望んだからこその手紙で……そもそも、今は彼氏であるあの人に渡したものなのだから、ここに在るはずがないのだけれども、どうして!?
 パニックになりながらも女子に向かって掴みかかろうとするのだが、やはり年上だからだろうか、僅かな身長差と行動パターンを読まれているせいで全く取り返せる気がしない。
「確かこうでしたわね。“突然のお手紙で驚かれたことと思いますが、想いを抑えきれずこうしてお手紙をしたためさせていただきました……”この時点で告白しているも同然ですのに、どうして呼び出したところで終わったのか、全く意味が分かりませんわ!?」
「あぁぁどうして声に出して読んでしまいますのっ、そのお手紙はあの方だけが知っていればいい筈ですのに」
 ひどいひどいと言いながら女子の肩をぽかぽか叩く少女は、とにかく必死過ぎて周囲が見えていない。一応顔を殴るのは良くないと思ったようで加減した結果ではあるのだが、三人はそろって肩こりに悩む体型をしているので、マッサージにしかならないというのが実情である。誰もツッコむ役割が存在しないけれども。
「……それより、開きもせずに暗唱できるというところが気になりますわね、貴女、何方かに恋文をしたためたことがありますの?」
 それまで我関せずと眺めていた女性の一言に、手紙を中心にキャットファイトを繰り広げていた二人が揃ってぴたりと動きを止める。
「……」
 沈黙をどうとったのか、今度は女性と女子が声を合わせる。
「「ありますの?」」
「……ありませんけど、暗唱できるのが何か問題ですの!? 取り返そうとして来るのは想定内、効率よく証拠を挙げる為に覚えただけですわっ!?」
「隙ありですわっ」
 一気に真っ赤になった女子は手元がおろそかになっているので、少女がササッと手紙を奪う。
「あっ」
「暗唱しているのですから十分に手札に出来ているではありませんか」
「現物の有無は大きいですわっ! ……仕方ありませんが、作戦変更ですわ」
 改めて女子が取り出すのは何の変哲もないノートである。
「私のではありませんわ」
「それは当たり前ですわよ。貴女の物ではありませんし、まして私達の中の誰のものでもありませんわ」
 少女が首を傾げる横で、女子は微笑む。もう一人である女性はどうにかそ知らぬふりを続けようとしているが、僅かに耳が朱くなっている。
「このノートに一番出てくる単語が何かご存知かしら?」
 気になりません? そう尋ねる女子に少女は無邪気に頷く。
「そう勿体ぶられると余計に気になりますわ! 教えてくださいませ」
「では、特別に………………“僕のマリ”」
「〜〜〜〜〜ッ! それを、こちらに、お渡しなさいませ!」
 楽しそうなやり取りの間も必死に視線を逸らしていた女性は、やはり我慢が続かなかった!
 真っ赤な顔でノートを奪おうとする女性に女子は余裕の表情で交わしていく。逆上していなければ女性が有利の筈だけれど、どうしてもあと一歩のところで手が届かない。
「これを手に取っていいんですの? 勝手に日記を見るのはいけないと、そう言われたのではありませんの?」
 そうやって女子が煽ってくるから、そのあと少しを届かせることができない。
「わかっておりますわ! ですが、だからといって貴女が持っていていい理由にもなりませんわ!」
「あら、ではその後のお仕置き目当てですの? これをあの方にお返ししたら、ほぼ間違いなく揶揄われたうえしっかりと悪戯されますわよね? やらしいですわっ、破廉恥ですわっ」
「……それの何がいけませんのっ!? 恋人なのですからそれくらいの戯れ、おかしくはありませんわ……!」
「まぁ……認めましたわね? 私より大人だというのに、認めさせましたわ!」
 高らかに笑い声をあげる女子と、恥ずかしさで唇をかみしめて睨みつける女性。勝敗は決したように見られた……が!
「彼氏が居ないのに、どんなお仕置きかご存知ですの?」
 少女の呟きが、女子を絶望に突き落とした!
「……………」
「流石に今のは言ってはいけなかったと思うのですわ」
 しっかりノートを確保した女性が少女を嗜める。しかしもう言ってしまったことではあるので、どうにも状況を変えることはできない。
「ですが、私だってさっき好き勝手に揶揄われましたし、助けてもいただきましたから、そのお返しですわ!」
 二重の意味で。
「……そうですわね、私達をあれだけ取り乱させかき回したのですから、当然の報いですわね……」
「っうるさいうるさいうるさいですわ!」
「「っ?」」
「二人は恋人がいるから余裕をもっていられるのですわ、大学生にもなりましたのに、未だに男性に上手く声を掛けられない私にはどうせっ……彼氏なんて……恋人、なんて……」
「えっ、ブロマイドとか、いい値で売れているって言われておりましたわよね?」
「ご友人に紹介していただいたのではありませんの?」
「ブロマイド買うような男は大体が極端な草食系か変態思考の持ち主ですので出会う以前の問題でしたわ! 紹介、が……私、非運命的な出会いは望んでおりませんもの……」
 激昂の勢いでまくしたてたかと思えば、そっと頬に手を当ててイヤイヤする女子。そ詩て曽於様子をじっと見つめる二人。
「「……そうでしたわね、それは仕方がありませんわ」」
 お互いがお互いの趣味嗜好をしっかり把握しているわけであるからして、それ以上の問答は不要になった。
「ところで先日肉じゃがのレシピを習得したのですが、何かオススメはありますの? 対価は着物の着付け方法でよろしければ……」
「浴衣デートしたいですわ! それならお弁当で喜んでもらえたベスト3の中から唐揚げのバリエーションと玉子焼きと……」
「それなら私だって独り暮らしで鍛えた時短テクニックを教えられますわ! そのかわり、男性との接し方のご教授お願いしたいですわ……」

 ……Zzz

 これ以上ないくらいゆっくりと瞼を開けた金鹿(ka5959)は、そこが見慣れた天井であることに心底安堵する。
「あれは何の暗示だったのでしょうか……」
 見覚えのある、けれど自分が持っているはずのないノートがそこに在りはしないかと、恐る恐る枕の下に手を差し入れる。
「……大丈夫、ちゃんと、夢でしたわ」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【ka5959/金鹿/女/19歳/玉符術師/戯れに作ったまじない符が出てきたのは見なかったことにする】

このノベルはおまかせ発注にて執筆させていただいたものになります。
小毬による小毬の為の困り事や個マリ事を全てひっくるめて議論する会、開催。
女三人寄ると恋話が始まるのは、必然だと思います。
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石田まきば クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年08月19日

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