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『指輪の意味は 』
ウェンディ・フローレンスaa4019)&ロザーリア・アレッサンドリaa4019hero001

 ロザーリア・アレッサンドリ(aa4019hero001)には、ある癖がある。
 それは彼女が前にいた世界から持ってきたアイテムの類いを、その辺に置いておくというものだ。意図的なのか、無意識なのかというと多分に後者で、ひょいひょいと置き忘れていくロザーリアの品々を、彼女の主であるウェンディ・フローレンス(aa4019)は苦笑交じりにそれを回収したりしている。
 それが今回の珍騒動に繋がるとは、思っても見なかっただろうけれど――。
 
 
 普段からロザーリアは自由気ままな存在で、幻想蝶の中からふらりと現れては、ぶらぶらしたり、あるいはウェンディと遊んだりしていたり、良好な関係を築いている。
 お互いを尊重し合えるそんであるふたりを知るものから見れば、そんな光景を微笑ましく眺めることもできるだろう。
 
 
 ――そんなある日のこと。
 ウェンディはひとり、買い物のために街を歩いていた。そんな時に、数人の男性グループにひゅっと声をかけられたのだ。
「ねえ、そこの綺麗なお姉さん。一人でお買い物してるんなら、俺たちと一緒に遊ばない?」
「そうそう、最近あっちのパンケーキ屋さんが評判でさぁ、お姉さんみたいな綺麗な人と一緒ならもっと美味しくなると思うじゃん? 一緒に行こうよー」
 そんな風に言葉をかけられて。相手の口調は典型的なナンパのそれだ。けれどウェンディにはそんな軽薄なナンパなんぞに興味を持つわけもないから、ちっとも興味がわかない。むしろ、しつこいまでに後ろからついて来るような男性もいて、ウェンディからしてみればうんざりしてしまう、というのが実際のトコロだ。
「あー、もういやになっちゃいますわ!」
「おや、ウェンディはずいぶんご機嫌斜めだね。何かあったのかな?」
 帰宅してからロザーリアにそれをぶつぶつと言うと、ロザーリアはちょっと小首をかしげてから、優しくウェンディの頭を軽くなでる。ウェンディは小さく頬を膨らませながらも、これこれこうだとことの顛末をロザーリアにぶちまけた。
「あんな軽薄な男ども、わたくしの相手になんかなるわけありませんわ」
 苛立ちを抑えられないという声でそう言いながらため息をつくと、ロザーリアはふと思いついたようにちょっとでかけてくる、と言って家から飛び出していった。
 
 ロザーリアが帰ってきたのは、それから数十分後のことだった。頬をバラ色に染めて、その姿はまさに『お姫様を助けに来た王子様』っぽく見える。彼女は実際、以前からそういう『とらわれのお姫様』のような女の子たちを助ける機会の多い人物だったらしい。
 そしてまたウェンディも、そんなお姫様の一人なのだ。
 ロザーリアは嬉しそうに鼻歌を歌いながら小さなジュエリーボックスを取り出すと、真新しい銀色に輝く細身の指輪を取り出し、それをウェンディの左手薬指に着けてやる。
「……? ええと、これは」
「うん? ああ、男の子もこれを見たら寄ってこないだろうと思ってね。まあ、ウェンディはあたしのお嫁さんみたいなものだし」
 そんな軽口を叩きながら、ウェンディの指にはめられた指輪を眺める。銀色の指輪には小さな碧い輝石がはめられ、細かい模様が彫り込まれていて、ウェンディによく似合っていた。
「ふぅん?」
 けれどウェンディはちょっとばかり調子のいいことを言っているロザーリアをいじめてやろうと言う軽いいたずら心を出してしまい、ロザーリアが以前置き忘れていた写真をそっととってくる。そしてそれらをひょい、とロザーリアに見せた。
 大抵こう言うときのロザーリアは隙が多いから、ウェンディの取り出した写真を見ると、笑顔が凍り付く。
 ウェンディの写真はロザーリアと一緒に女の子が写り込んでいるものばかり。女の子は一人だったり複数だったり、更に特定の女性というわけでもなく、数多くの女性たちが笑顔を浮かべている。
 見目はさまざま、いかにもなお姫様っぽい少女もいれば、下町風の素朴な女性もいたりとバリエーションもさまざまだ。ただ共通しているのは、ロザーリアにずいぶんと懐いた様子の朗らかで明るい、いかにも嬉しそうな笑み。
 そしてこの女性たちの左手薬指には、みんな指輪を着けていた。
「それにしては、ずいぶんたくさんお嫁さんが居ますわね……?」
 ウェンディからじと、っとした目で見つめられ、ロザーリアは冷や汗だらだらになってしまう。
「ち、違うんだウェンディ。これはウェンディにあげたものとは違って、」
「へぇ、わたくしにあげたものとは違ってなんですの……?」
 しどろもどろになりながら釈明しようとするロザーリアに、それを遮るウェンディ。
 ――勿論、ウェンディはわかっている。ロザーリアが以前の少女たちに贈った指輪には、そんな特別な意味がないと言うことを。元々住んでいる世界の異なるロザーリアの世界で左手薬指の指輪というのは、婚約だのなんだのという意味合いではなく、感謝や憧れ、あるいは友情と言った気軽に着けることのできる指輪なのだ、と。
 だからこそ同性相手にも気軽に贈ることのできる、気安い指輪なのだと。
 ……何しろそのことで、騒動に発展したことがあるのだから。
 けれどロザーリアは突然のことに泡を食って、ウェンディがその「指輪の意味」を知っていることをどうやらスコーンと忘れてしまっているらしい。
 何しろ今までにも自分のうっかりで、単純に女の子が好きな人なのではないかと疑われるような言動をしばしばしてしまっている。今回もそれで気分を損ねてしまったのだろうかと慌ててしまって、言葉もしどろもどろになってしまう。
 そんなロザーリアの姿を見て、ウェンディは胸の内でクスリと笑う。別に彼女のことを嫌ったり、本気で責めたりしているわけではない。これはウェンディのちょっとしたいたずら、そして同時にロザーリアへの気持ちの確認。
「とっ、とにかく! ウェンディにあげた指輪とは全然意味も違うし、元の世界の風習とか、そういう奴だから! ウェンディへの気持ちは特別だし……!」
 とはいえロザーリアのほうはそんなことに気づいていないから、冷や汗だらだらのまま、何とか誤解を解こうと必死になっていて、その姿すらもどこか可愛らしく見えてしまう。それもウェンディの欲目という奴なのだろうか。
 くすくす、思わず笑みが言葉としてこぼれた。
「……知ってますわよ」
「え、え?」
 ウェンディの突然の笑みと言葉に、ロザーリアは一瞬目をぱちくりさせて。
「だから、指輪のことは知ってますわよ。以前にもそれで色々あったでしょう? もう、うっかりさんですわね」
 ウェンディの言葉に、またロザーリアはぽかんと口を開け。そして頬を真っ赤に染めながら、
「な、なんだよー……! それならそうと早く言ってよ! 焦ったじゃないか!」
 照れくさそうにほんのりそっぽを向いて、そう言ってみせた。
 そんなパートナーの百面相を眺めながら、ウェンディはつい嬉しくなってしまう。
「大丈夫ですわよ。そんなロザリーだから、わたくしのパートナーでいてほしいんですわ」
 ウェンディは微笑みながら、そう言って自分の指にはめられた指輪を眺め、そして
「改めて、これからも宜しくお願いいたしますわ」
 もう一度、ロザーリアに向き直って頷いたのだった。
 
━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
遅くなって申し訳ございません。
とはいえ、再度のご指名ありがとうございます。
二人の仲のよい関係をどう表現していいのか悩んでしまったのですが、
そこは明確にするでなく、少しふんわりとさせてもらいました。
楽しんでもらえれば幸いです。
またご縁あれば宜しくお願いいたします。
では今回はありがとうございました。
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2019年08月20日

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