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『我、敵陣潜入に成功せり』
水嶋・琴美8036


 女の胸というのは、要するに脂肪の塊である。大きければ大きいほど、無様に垂れ下がってくるのが自然だ。
 ここまで張りのある丸みを保つには、並々ならぬ鍛錬が必要となる。
 水嶋琴美(8036)は、努力の人なのだ。
 筋力によって支えられた双丘が、純白のブラジャーを内側からちぎり飛ばしてしまいそうである。
 彼女の胸は、単なる脂肪の塊ではない。はちきれんばかりの活力そのものだ。
 対して、私の胸はどうか。
 小さい。
 その一言で片付いてしまう。いくらか少女趣味なランジェリーが、まあ似合ってはいる。
 この特務統合機動課で、琴美先輩と一緒に頑張って身体を鍛えた。ウエストを精一杯引き締めて、この頼りない胸の膨らみを少しでも際立たせようとする毎日である。果たして成功しているのか。
 琴美先輩のウエストは、綺麗にくびれていながらも強靭さを感じさせる。うっすらと美しく浮かんだ腹筋の線は、私にはないものだ。
 白いショーツをぴっちりと引き伸ばした尻は、やや育ち過ぎの白桃を思わせる安産型。瑞々しく膨らみながらも力強く引き締まった太股は、男の金的を潰す凶器ともなる。
 比べると、私は下半身もかなり頼りない。肥満してしないのが救いではあるが、尻にも太股にもあと少しボリュームがあって良いかな、とは思う。
 溜め息をつく私に、琴美先輩が微笑みかけてくれた。
「私と一緒の出撃……不安ですのね?」
 艶やかな黒髪がサラリと揺れ、鋭利な美貌がにっこりと和らぐ。
 私は、頬に熱さが昇って行くのを止められなかった。
「そそそそんな事ありません! 私そのあの……不安なのは、琴美先輩の足を引っ張る事でして」
 特務統合機動課の、女子更衣室。
 憧れの水嶋琴美先輩と、ペアを組んでの作戦行動である。私は、色々と舞い上がっていた。
「ふふっ、そんな事を考えては駄目。まずは少し落ち着きなさいな」
 舞い上がった私の心が、凍りついた。
 琴美先輩が、私にクナイを突き付けてきたからだ。
「え……? あの、先輩……」
「……落ち着きのないものが、ほら。外へ出ておりますわよ」
 いくらか大型の、斬撃用クナイ。その切っ先が、私の下腹部へと向けられている。
 私の下着から、ボロンと溢れ出して膨張したものに。
 恥ずかしさで、私の全身の血液が沸騰した。燃え上がるように全身が熱い。
「あ……あぁあああん、バレちゃいましたぁああああああ」
 熱く燃えたぎる全身が、膨れ上がって破裂した。
 少女趣味のランジェリーを、小さめの胸を、頑張って引き締めた胴体を、スリムな下半身を、全て内側から押しのけ引き裂きながら、巨大な肥満体が出現する。
 これが私の……俺の、本当の肉体なのだ。
「あああああ、もう少しだったんだがなぁーゲッへへへへへ」
 破裂した少女の破片が、あちこちにこびり付いた全身を、俺は笑いで揺らした。
 水嶋琴美に心酔する少女に成りきって、ここまで来たのが、台無しになってしまった。俺のこの巨体を、スリムな小娘の体内に押し込めるのは一苦労だったのだが。
「まぁーイイや。次はよぉ、おめえのそのたたたたまんねぇーカラダをもらう事にするぜぇえええ」
「その子……私、随分と目をかけておりましたのよ?」
 水嶋琴美の、俺に向けられる眼差しも声も冷ややかだ。
「辛く当たった事もありますわ。それでも、ついてきてくれた……私が直々に鍛え上げた子を貴方、殺して着込んで来られましたのね。なかなかのお腕前、感服いたしますわ」
「おおう。この嬢ちゃん、強かったぜぇー」
 あの素晴らしい戦いを、俺は思い出していた。
 いや。わざわざ思い出さずとも、あの快楽は全身に刻み込まれて消える事はない。
「強くてイキがってる女をよぉ、ブッ倒してアレしてコレして、ささ最ッッッ高の愉しみだよなあああ! 俺、忍者やってて良かったとつくづく思うひと時だぜぇ嬢ちゃんよおおおお」
「殺した相手の屍に入り込んで、敵陣深くに潜入を果たす。禁断の、忍びの業の1つ……見せていただきましたわ」
 水嶋琴美が、勇ましくクナイを構える。
 その凜とした下着姿に、俺はもう我慢が出来なくなった。
「さあ、敵陣への突入には成功いたしましたわよ貴方。ここから何をなさいますの?」
「決まってんだろ、ここまで来たらヤる事ぁ1つしかねぇーに決まってんだろぉがあああああああああ!」
 鍛えながら肥満させた俺の肉体、女の刃物で断ち切れるものではない。徒手空拳のまま、俺は襲いかかった。
 そして、歪んだ。凹んだ。
 水嶋琴美は、刃物を使わなかった。クナイを手にしたまま、その清楚な下着姿を躍動させたのだ。
 凹凸のくっきりとしたボディラインが竜巻の如く捻転し、豊かな胸が純白のブラもろとも横殴りに揺れ、むっちりと瑞々しい太股が縦横無尽に跳ね上がる。
 膝蹴り、回し蹴り、後ろ回し蹴り、踵落とし……美脚の乱舞が、俺の全身を打ち据えたのだ。
 大量の脂肪が筋肉もろとも凹み、衝撃が臓物や骨にまで達した。快感にも等しい激痛で、俺は動けなくなっていた。
 仰向けに倒れ、だらしなく肥満体を広げた俺に、水嶋琴美は冷ややかな眼差しを注ぐ。それすら心地良い。
「……お着替えの、途中でしたわね」
 純白のランジェリーが、黒く覆われてゆく。
 漆黒のインナーとスパッツが、水嶋琴美の全身にぴっちりと貼り付いて、魅惑のボディラインを際立たせる。
 その上から、半袖の上衣がふわりと巻き付いてゆく。
 豊麗な桃の形にスパッツを膨張させた尻が、女子高生のようなプリーツスカートに覆われる。
 凶器とも言える美脚が、ロングブーツを装着する。
「……ご苦労だなぁ嬢ちゃん、ありがとうよ……脱がす愉しみ、増やしてくれてよぉおおおお」
 俺はぬるりと立ち上がり、腹肉の襞に隠し持っていた武器を取り出し、振るった。
 鎖鎌。分銅が、銃弾の速度で水嶋琴美を襲う。
 そして、あらぬ方向へ飛んで更衣室の壁にめり込んだ。
 鎖が、切断されていた。
 一閃したクナイの動きを、俺の動体視力は辛うじて捉えたが、それよりも俺は水嶋琴美の、斬撃に合わせて荒々しく瑞々しく揺れる胸の膨らみに見入っていた。
 あの胸は、何としても揉まなければならない。
 そんな事を考えている間、俺の眉間に深々とクナイが突き刺さっていた。
 女の刃物で、俺は死ぬ事になった。
「クソが……ふざけんなよ、てめえ……」
 先程よりも無様に倒れ伏しながら、俺は呻いた。
「女の胸、ってのは……男に揉ませる、ためにあるもんだろうが……女のカラダってのぁ、男を愉しませるためにあるモンだろうがよォ……それをテメエ、女が力で拒否するなんてのが……許されると、思ってんのかぁあああ……」
「殿方と女の戦いである以前に、これは忍びと忍びの戦い」
 水嶋琴美は、もはや俺を見てもいない。
「それならば、私が遅れを取る事などあり得ませんわ」
 俺は、もはや声を発する事も出来なくなっていた。
 今の俺よりも無様な姿を、この女に晒させる。それが出来る者は、この世にいないのか。
 この女を、敗北させる。蹂躙する。それが出来る者、この世にいないとなれば、魔界や地獄から連れて来る事は可能か。俺の雇い主たる『虚無の境界』であれば、あるいは。
(誰か……この、女を……)
 それが俺の、最後の思念であった。
東京怪談ノベル(シングル) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年08月21日

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