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『幸せの夢 』
cloverla0874

 ヴァルキュリアの青年clover(la0874)は、窓際のイスに座って微睡んでいた。
 彼は眠りに落ち、夢を見る。幸せの夢を。


 ヴァルキュリアの少女が一面に広がるシロツメクサの花畑の中に座っていた。
 周囲はぼんやりと霞んでおり、近くにあるシロツメクサや、少女の目の前にいる「誰か」の姿すら曖昧だ。

 曖昧なのは少女自身も。
 ヴァルキュリアとして目覚めたばかりの彼女には、まだ名前すらない。
 どうしてここにいるのかも分からなかった。

 目の前にいる「誰か」は俯いて何かをしており、少女はその手元を覗きこもうとした。
 少女の肩まで伸びた美しい髪が頬にかかる。

 それでも何をしているのか分からなかったので、少女は周囲のシロツメクサに視線を移す。
 三葉の緑の絨毯から、白い花がいくつもいくつも伸びている。

 シロツメクサを見るともなく見ながら、少女は思った。
 未来にはきっと楽しいことが待っていると。
 根拠は何もなかったが、少女はそう信じていた。

「君はこれから、ある家の子供として生活する事になるんだ」

 「誰か」が不意に告げる。俯いて手元を見、何かを行いながら。

「私に家族が?」

 花が咲いたように少女は笑顔になった。

「家族。どんな人なんだろう」

 未来への希望に満ちていた少女の微笑みは、しかし、急速に萎れていく。

「どうかしたのかい?」

 「誰か」が問う。

「私、家族の期待に応える事が出来るかしら」

 少女は不安に襲われていた。
 自分を望んでくれた家族を喜ばせたい。好かれたい。だって家族の一員になるのだから。
 しかし、ヴァルキュリアとして覚醒したばかりの自分に何ができるだろう。
 家族の一人として自分に何ができるのか、相応しい振る舞いができるのか、少女は自信が持てなかった。

「……できたよ」

 「誰か」はそう言うと、手元で作っていたものを少女に見せる。
 その手に掲げられているのはシロツメクサの花冠。

「綺麗」

 少女は目を奪われる。
 地面に咲いているシロツメクサも美しいが、この人が作り上げた花冠はもっと素晴らしいものに見えた。

 器用に編みこまれた白と緑の花冠が、「誰か」の手により少女の頭にちょこんと載せられる。
 鏡がないので頭上は見えないが、それでも少女は嬉しくてたまらなかった。

「ありがとう」

 少女が満面の笑みで礼を述べる。

「贈り物はもう一つあるんだ」

 「誰か」が少女に差し出したのは四葉のクローバー。
 少女はそっと受け取ると、葉っぱが四つあるのを数えて微笑んだ。

「“四葉”、これが君の名前だよ。幸運の四葉のクローバーと同じだ」

 少女はぱっと顔を上げる。
 驚いたように「誰か」を見て、何度か瞬き、心底嬉しそうに笑った。

「素敵! それならきっと私は出会う人を幸せにする事が出来るのね!」

 四葉のクローバーは幸運をもたらす。
 それと同じ名前を得た自分なら、家族のことを幸せにできる。
 家族の一員として受け入れてもらえて、家族みんなで幸せに暮らせる。

 これからの生活を夢想し、ふわりと微笑む。

「嬉しいな、どんな世界が見れるのかな」

 少女改め四葉は立ち上がると、喜びを体で表現するように小さく跳ねる。
 上を見上げると、眩しい光が見えた。


 cloverが目を開けると、ぎらぎら輝く太陽が見えた。
 うたた寝をしている間に太陽が動き、直射日光が当たるようになってしまったようだ。
 その眩しさと暑さで目が覚めたのだろう。

 日陰に避難しながら、cloverは首をかしげる。何か夢を見ていたような。
 しかしどんな夢だったのか思い出せない。

 特に理由もなく、cloverは自分の手のひらを見てみた。その手を自分の頭頂にやる。
 当然ながら、手の中にも頭の上にも何もなかった。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 幸せを夢見る純粋な少女、というイメージで書かせてもらいました。
 四葉さん、とても可愛かったです。
 ご発注ありがとうございました。
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錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年08月22日

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