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『氷の女王の末裔と雪姫の戯れ〜次は勝負と言うよりも 』
アリア・ジェラーティ8537

 肝心の勝敗は――引き分け。

 雪姫の住まいである雪山からスタートし、一山越えた先の山の麓にあると言う温泉をゴールと設定した滑走勝負。氷雪の加護を受けし乙女二人の能力を以ってのその勝負の判定――芸術点審査は雪妖さん達に委ねられていたのだが、ゴール到着後、肝心の雪妖さん達に確かめてもあーだこーだと侃々諤々決まらない。
 つまり氷雪の加護を受けし乙女二人ことアリア・ジェラーティ(8537)と雪姫の華麗なる滑りっぷりはその位に甲乙付け難かったと言う訳で――結果として引き分けでいいやと言う事になった。



 そんな訳で。
 取り敢えず温泉の方を楽しもう、と意識が行く。

 の、だが。

 ……その前に、ちょっと引っかかった。

「あ」
「ん? どうした?」
「雪姫ちゃんは……熱いの、大丈夫?」

 温泉。

 良く良く考えるまでもなく、雪姫は雪女郎である。温泉と言えば程度の差はあるだろうが文字通り温かい泉である。お湯である。場合によっては即熱湯である。

「アリアは……人間の血が混じってるから……」
 大丈夫だけど、と続けると。
 何だそんな事か、とあっさり返って来た。
「?」
「問題無い。と言うよりな。我が近くに来た時点で温泉の方が勝手に温く適温になるでな。寧ろうぬには温くなり過ぎるかもしれん」
 つまり時間制限ありだ。我が浸かって長くなるとその内温泉どころか冷水の泉と化す。
 我が離れればまた徐々に戻るがな。
「……おお」
「元々然程熱い源泉じゃないからな。……ひょっとすると我が近くの山に居るからかも知れんが」

 まぁ、何にしろ我とうぬなら不都合は無かろう。



 かぽーん。

 と、「らしい」音がする訳でも無いが、何かそんな気分で温泉に浸かってみる事にする。

 滑走勝負の末、二人(と雪妖さん達)が着いた温泉は多少人里に近い穏やかさが残る場所だった。勿論雪景色ではあるが積もり過ぎと言う程の事も無く、近くには葉の残る木や草の茂みもある。
 実際のお湯に手を入れて確かめてみれば言われた通りに雪で調節するまでもなく温めの適温で、そのまま入るのに特に不都合は無い。となると、準備をするのはお湯以外。なのでさくっと休憩用かまくらを作る(所要時間一分)と、自分達の長い髪を纏め直したり雪妖さん達に持って来て貰っていたタオルを用意の上、服をぽぽいと脱いで、ざぶーん。

 と、実際の行動としてはそれ程はしゃいでいた訳では無いが、気持ちとしてはそんな感じで、いざ温泉。

「む、まだちと熱めか」
「え……そう?」
「アリアはそうでもないか」
「うん。どっちかって言うと温めだと思う……雪姫ちゃん、やっぱり、熱いの苦手なんだ……?」
「悪いか」
「ううん。えっと、熱いんだったら私も温くするお手伝いしようかなって」
「そんな事をしたら即冷水になりかねんが」
「そこは……何とかいい具合になる様に頑張る」
 折角気持ちいいお湯なんだし。
 言うが早いか、アリアは能力を発動。自分には温め……と感じられるこのお湯を、冷水にならない程度に加減して頑張って更に温くしてみる。雪姫ちゃんでもちょうどいい様に――ってそもそもそれってどの位だろう。
 思っていたら、やり過ぎた。

 浸かっている温泉ごとぴきーんと凍りつき、俄かに生まれるは氷の世界。
 ……取り敢えず動けない。



 取り急ぎ解凍して、暫し待ったら元と同じ位の温さにまで温泉の熱が戻って来た。

「言わんこっちゃない」
 まぁ、我としては確かに少し涼めたが。
「む。……出来ると思ったんだけどなあ」
「ふむ。……考えてみればこういった繊細な作業での勝負はした事が無かった気がするな」
「する?」
 勝負。
「……いや、これでは勝敗を何処で付けた物かわからんし、ちまちました地味な作業はどうもな」
 好かん。
「それよりもっとどかーんと派手にやる方が面白かろうに。先程の滑空勝負や雪だるま勝負の様にな」
「……アイス勝負は悔しかった」
「それを言うなら我の方だ。雪だるま勝負では抜かったわ」
「取り敢えず……今日は一勝一敗一分け……だね」
「以前の雪合戦を含めれば我の方が一つ負けが多い事になるがな。さて、何処で取り返した物か」



「……うぬのアイスが恋しくなって来た気がするな」
「雪姫ちゃん……やっぱり熱そう」
「ここでどちらがより長く浸かってられるかの勝負とか言うでないぞ。我が負けるのは自明の理だ」
「それは……言わない」
 そこを勝負にするのは氷の女王の末裔と雪女郎の「勝負」としてはあまり相応しくない気がするし。
「でも……御客様の御要望があるなら、アイスは、作る」
「? アイス勝負の時にアイスの素も尽きたと言っておらなんだか?」
「言った。でも……大丈夫」
 言いつつアリアは温泉に浸かったまま、空を見上げ、そのまま、じー。暫しそうしていたかと思うと、何かおみやげとして持って来た保冷バッグと同じ様な荷物(耐衝撃・防水梱包済)が何処からともなく降って来て、ちょうど温泉の中アリアのすぐ前辺りにばっしゃーんと落下した。……当然、派手に温泉飛沫が上がる。
「っ、何事だ無粋者の敵襲かっ!」
「違う……アイスの素、持って来て貰っただけ」
「な、何?」
 雪姫の声が反射的に裏返る。が、そんな雪姫の様子を余所に、アリアはてきぱきとアイスの素だと言う荷物を開けつつ、実際に当たり前の様に能力を以ってアイスを作り始めた。そしてこれまた当たり前の様に、口調と態度の方もアイス屋さん営業中モードにシフトする。
「フレーバーは如何致しますか?」
「……またか。何か久々に見たなそれ」
「御不快でしょうか、でしたら――」
「いや、不快と言う訳では無いがどうも調子が狂う……って、おい」
「一括食べ放題コースとさせて頂きますので、フレーバーはこちらの溶けない氷のお盆の上に一通り御用意致しました。どうぞ御自由にお選び下さい――……
 ……――後は……雪姫ちゃんが食べたいの、取ってくれればいいから」
「……それでうぬは元に戻るのか」
「うん。……おみやげ分はさっきの勝負で全部消費しちゃったから、後はお仕事の分で」
「……そうか。まぁ構わんが」



 温泉の湯面に、溶けない氷のお盆がゆらゆらと浮いている。そのお盆の上には営業中アリアが作ったアイスが載せられており、雪見酒ならぬ雪見アイスで氷雪の加護を受けし二人の乙女は温泉を満喫中。因みに雪姫の方はちょっと湯から上がって涼んでもいた。しゃくりとアイスを齧りつつ。

「にしてもまだまだ子供よのう」
「?」
「いや、言っても詮無いが。未成熟な体だと言うただけだ」
「……」
 つまり?

 女の子同士のお風呂時にあるあるな話、である。

「雪姫ちゃんこそ……」
「何だ。我は本性の姿を現したなら「ないすばでぃ」な大人の女だぞ」
「でも……今はぺったんこだよね」
「ふん、十の子供に何を求める」
「私だって……十三だし、まだまだこれから……!」
「なら我も今の姿から三つ程歳を重ねた姿に変わってみようか? それで比べたなら公平だろう」
「それなら……!」
「何だ、勝てるとでも思うておるのか? ああ、そう言えばうぬは氷で作ったファッションショーとかやりたいとも言うておったな、それでどちらのスタイルが上か勝負とでも行こうではないか」
「望む所……!」

 ごごごご、と地響きめいた効果音が背後に流れそうな応酬。
 スタイルなんて言われたらそれこそ、負けられない戦い、になる。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 氷の女王の末裔様にはいつも御世話になっております&いつも御手紙まで有難う御座います。
 今回も発注有難う御座いました。
 そして今回もまた大変お待たせしております。

 内容ですが……はい。雪女郎が温泉大丈夫なのかの件は突っ込まれると思っておりました。そしてその辺りについてはこんな流れになりました。雪姫の能力は居る場所を冬にしてしまうと言う位しか公式設定が無い為、当方で後付けした結果がこんな感じになっております。
 と言う訳で、お湯は茹だる程の熱さではない感じになりました。なので氷の世界とかについての流れはちょっと違う感じに。

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 と言う訳で、ひとまず次はおまけノベルの方をどうぞ。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年08月22日

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